本っ当に今更ですが、通常時は久遠祥太として、戦闘時はジャック・スパイダーとして名称を使い分けています。惑わせてしまったらすみませんが、同一人物です。
「ミルクも飲んでるし大丈夫だ」
未だ疲弊の表情ではあるが、ポチタンがいつもと変わらずミルクを口にしているところを見て、あんなとみくるはホッと胸を撫で下ろす。
「ほら、お前達も飲みな」
温かいココアが入った2つのマグカップをテーブルに置いて、ジェットがそう促す。
祥太もタオルを頭に乗せながら、同じくマグカップを持ってみくるの隣に腰を下ろした。
「ポチタンが光を出した時にこれも光ったか……」
「ごめん。みくるに渡そうとしたけど、渡せなかったの……」
何にせよ、このプリキットに何が起きたのか調べる必要はありそうだ。
ジェットは解析のため、この大部屋を後にした。
残された祥太達は、今後について思考する。
ポチタンの回復が第一ではあるが、その後のことも問題だ。ハンニンダーを浄化し、マコトジュエルとツバメの銅像を取り返すには何か対策を練る必要がある。
「みくる……?」
「マコトジュエルを取り返してくる」
「私も──」
「ポチタンについていてあげて」
あんなも同行したいと求めたが、振り払うようにしてみくるは探偵事務所を出て行った。
祥太はそれを無理に止めようとはしなかった。制止をしたところで今の彼女は聞き入れないと悟ったからだ。
「先生、やっぱり私も……」
「小林が言ったこと、もう忘れたのか? 君のやるべきはそれだ」
「でも……」
「また同じ目に遭いたいか?」
あんなに言葉に詰まり、静かにソファーに腰を下ろす。
祥太とて、好きで厳しい言葉をかけているわけではない。正気を取り戻せていない今のあんなに行って欲しくないと思っていてのものだ。
「分かってる、分かってるんです。みくる達に声をかけられなかった私が悪いって……」
祥太は何も言わず、ただあんなの瞳を静かに見つめている。
「みくる、友達と笑ってたんです。見たことない、知らないみくるで。だから、私の知らないみくるの世界があるんだって……」
ようやく聞くことのできた、あんなの本音。
「出会ったばかりだから知らなくて当然だよね。先生も何かあったらボイスメモで連絡してって言ってくれたけど、大事な仕事があるし、二人の邪魔しちゃいけないって思って、1人で事件を調査したら、あんなことになっちゃって……」
「うーん……あべこべだなぁ」
そこに、いつの間にか研究室から戻ってきていたジェットが頭を掻きながら割って入って来る。
「あんなとみくる、逆になったみたいだ。みくるのこと、色々考えたから動けなくなったんだろ? みくるみたいじゃないか」
「えっ──」
「みくるは1人で飛び出して行っちゃうし、それじゃまるであんなだ。つまりこれ、影響し合ってるってことだろ? 出会ったばかりにも関わらずびっくりするくらい」
本人達は気付かなかったかもしれないが、他者からでも──それこそ誰が見ても息がぴったり合っていると言える。彼女らの関係性は、行き着くところまで完成されていると言ってもいい。
「短い間だけど、ボクには分かる。二人は運命の……いや、奇跡の二人だ!」
「ジェット先輩……」
「奇跡の二人、ね。随分とロマンチックに例えたもんだ」
祥太はやや皮肉に言い放つと、あんなの目の前に移動する。
「ジェット君はああやって優しく言ってくれたけど、俺は違う。水を差すようで悪いが、はっきり話させてもらうぞ……
その場でしゃがみ込み、ゆっくりとあんなの顔を見上げる。
彼女はまだまだ精神的に子供だ。安心させてやりたいが、ここでの祥太の役目は自分の伝えたいことをはっきり伝えることだけであって、ソレは彼の役目ではない。
「君が1人で勝手に依頼を引き受けたその行動は、依頼人や事務所の面子、その他大勢の信頼を裏切る行動にも繋がる。自分でも言ってたように、これ自体は君の落ち度だ」
淡々とした声音で、だけれど厳しく棘のあるような言葉を容赦なくかけられ、あんなの表情は再度曇っていく。
はっきり話させてもらう、という言葉で覚悟はしたつもりでも、やはり心に突き刺さる思いなのだろう。
「そしてその責任は──君を1人にさせた俺達にある」
「えっ……?」
「……辛い思いさせて、悪かったな」
意外な発言にきょとんとするあんなに、祥太は謝罪した。
「だから、これからは明智も小林も俺が見ておく。真理子さんの依頼、解決できるよう相応の活躍をしよう。分かったか、あべこべコンビ」
そう言って、あんなに手を差し伸べる。
対して、彼女はその手を掴もうとするが、一抹の不安が過ったのか掴もうとした手を下ろして躊躇ってしまう。
「気休めを言う。俺達が掴み損ねた勝利は必ずしも絶望だったとは限らない」
あんなが受けた依頼とみくる達が受けた依頼、2つの点が交わったこと。
あんなの抱いていた思いを聞き出せたこと。
少なからずとも収穫はあり、名誉挽回の猶予は十分にある。
「前向いて行こう」
「っ、はい……!」
あんなは数秒だけ差し出された手を見つめていたが、やがて震える指先でそっと掴んだ。
祥太はようやく掴んでくれた彼女の手を強く引っ張ることもなく、ただ自然に立ち上がらせる。
「ポチぃ……」
ポチタンも目を覚ました。
本調子ではないものの想定よりも早く、意識は回復傾向にあるようだ。
「ポチタンは僕に任せろ。行けよ、みくるの所に」
ジェットの言葉に背中を押され、あんなはついにいつもの表情に戻った。
「うん! 行ってくる!」
そうして支度をしに、自室へと向かっていった。
あんなが戻って来る間、祥太はプリキットボイスメモを取り出しみくるとの連絡を試みる。
「小林、俺だ。いまどこにいる」
「浜辺に向かってます。 ニジーが来いって!」
「そんなに遠くないか。分かった、明智と二人でそっち行く」
「え、あの、ポチタンは!?」
「ジェット君に任せてる。お前もその方がいいだろ」
とにかく分かった。急いで向かう。と告げた後、ボイスメモを切ると丁度良くあんなも準備を終えたようで、祥太の次の行動を待ち侘びていた。
「急ぐぞ」
「はい!」
二人は探偵事務所を飛び出す。
どんよりとした雲が立ち込めるまことみらい市は、どこか不穏な静けさを纏っていた。
〇
場面は変わり、虹ケ浜──。
ニジーはこの浜辺でプリキュアが来るのを待つ。
その背後でその姿を眺めるのは、アルカナ・シャドウと呼ばれた少女とシャドウ・ヘルダーと名乗る奇形の人影。
「ちなみに今回はウソノワール様にはご覧頂かない、シークレットライブとする」
「……勝算は?」
「策はあるのだから、確実さ。プリキュアを倒し、マコトジュエルを2つ持ち帰ってサプライズしてみせる!」
そうは言っても、これまで結局はプリキュアに敗北を期すのがオチとなってしまっている。だが、ここまで意気込んでいるのであれば、危機的状況になるまで託してみる価値はありそうだ。
「……ウソノワールの機嫌が損なわぬよう、早急に終わらせてくださいね」
「言われなくてもそのつもりさ」
そう助言し、ヘルダーと少女はすんなりとこの場から手を引く。
海風がニジーの髪を撫でる。まるで決戦の時が訪れたかのように。
ザッ、ザッと砂を蹴る音の方向には、みくる達プリキュア陣営の姿が。
道中で合流したのか、だがニジーにとっては役者が揃ったと好都合のようだった。
手に持っていたバラを上空へ投げ、ツバメの姿に模した2体のハンニンダーが舞い降りる。
『ハンニンダー!!』
「待っていたよ、プリキュア」
「今度こそ、マコトジュエルを取り返す!」
次回は明日(7/1)の夜頃更新です。
エクレール編めちゃくちゃおもろいね。