名探偵プリキュア! 〜そよ風が幸福を運ぶ〜   作:ゆぐゆぐ

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#02 名探偵、誕生!

 

 この事件の謎を解き明かしたみくるとあんなは、祥太と共に関係者達を再度招集する。

 

 祥太はちらりと周囲に目をやる。

 宇津見将太、藤井ともか──服装、装飾、手荷物など先ほどと差異は見られない。見た目だけでは何かを偽っているような違和感はなかった。

 

 幸野さちよ、想田まり──こちらも違和感は見られなかった。後者に限っては依頼者である以上、白と見ていい。それが罠となることもあるが、今回はそれで大方問題ない。

 

「犯人が分かりました」

 

 そして、小林みくる、明智あんな──この推理ショーの主役となる2人。同時に目を合わせ、迷いのない表情で犯人を指差す。

 

「「犯人は、貴方です!」」

 

 ──藤井ともか。

 彼女こそがこの事件の犯人であると、2人は主張した。

 

「やだなぁ。ティアラはポーチに入らなかったでしょう? 外に持ち出せないよ」

 

「いいえ。ティアラはまだこの部屋の中にあるんです。貴女は自分にブーケを投げて欲しいってまりさんに頼んで、ティアラをブーケの中に入れた」

 

「そして、まりさんからブーケを受け取った後、ティアラを抜き取るつもりだったんです!」

 

 祥太はブーケの中に手を突っ込み、中身を弄る。

 指先の硬い感触によりソレを取り出すと、幸野が見せた写真とそっくりの銀のティアラが出てきた。

 

 ともかは目を伏せる。

 観念したのか、と周囲が思う中、1人だけまだ終わりではないと悟る者がいた。

 

「推理は俺のと合致したし、ティアラの行方も見つかった。よくやったよ。だが、ここまで見破れたら100点満点中の120点だったな」

 

 顔を俯かせながらマフラーを僅かに緩める。

 その瞬間──

 

「きゃっ──」

 

 突如、マフラーの先端は生き物のように作動し、ともかの腕を縛って引っ張り上げた。

 やがてともかの身体は祥太の目の前まで引っ張られ、祥太はそんな彼女を顔を掴んでじっと瞳を凝視する。

 

「……アンタ、ともかさんじゃないだろ」

 

「え……?」

 

「疑わしきは罰せず、なんて言うが、俺は逆に罰したい質でね。疑いの種は潰すに限る。まりさんを恨んでいたから、高価なティアラに目が眩んだから。色々仮説を立ててみたが、ともかさんがまりさんを嫌う要素は見られなかったし、他人の物を盗むほど金に困ってそうでもなかった」

 

 ともかの腕を縛る力が強くなる。

 祥太にとって、逃してはならない瞬間──。

 

「そうだろ──怪盗」

 

 怪盗。

 この言葉を聞いたともかは静止。しばらくすると口角を上げ、体を震わせた。

 

「……やっぱりキミには敵わないなぁ。でも、ちょっと甘いよ」

 

 そう言うと、縛られた腕をするりと解き、軽い足取りで祥太から身体を遠ざける。

 周囲の戸惑いの様子に見向きもせず、指先一つで身包みを剥ぐ。

 ともかだったヒトは、一瞬にして違う人物へと切り替わった。

 

「ご名答! ボクはニジー! 怪盗団ファントムの怪盗さ。惚れ惚れする変装だっただろ?」

 

「怪盗団……ファントム!?」

 

「痛みで逃げられないよう脈の部分を縛ったつもりだったんだがなぁ……お前、もしかして骨ない?イカとかタコと同類なの?」

 

「軟体動物にまで変装は流石に出来ないヨ。嘘偽りない、立派な人間さ」

 

 不機嫌そうにぼやく祥太に呆れた声で返し、隙を見せずに今度は自ら距離を詰めていく。

 

「それを言うなら、キミはクモだろ? 『ジャック・スパイダー』」

 

 耳元で皮肉を囁く声と共に、祥太が持っていたティアラを奪い取った。

 

「こいつ……!」

 

 ──相変わらず素早い。

 怪盗の名に劣らず手馴れた動きで、怪盗ニジーは部屋の窓から一足で外へと飛び出した。

 

「今度こそ逃がさん!」

 

 同じようにして、祥太も窓から身を投げ出し、着地の隙も出さず走り出す。

 いくら怪盗と言えども、まだそう遠くまで行っていないはずだ。

 

 自然一杯の林道を走る。

 ニジーの姿は捉えられていることから、決して距離は離れていない。

 なにしろこの道はしばらく直線だ。

 彼奴が林の中に突っ込みさえしない限り、追いかけることは容易い。

 

「そんな走りにくい格好で、良くもまあ速く走れるな!」

 

「それはこっちのセリフだよ! 相変わらず窮屈そうだね、そのマフラー!」

 

「ま、まてえええ!!」

 

「「あ……?」」

 

 互いに皮肉を込めていがみ合っていると、背後から少女の大きな声が近づいてくる。

 その声は、まるで飛行機の離陸のように徐々に上空へ響き渡っていく。

 

「わああああ!!」

 

 ──いや、『まるで』じゃない。

 正真正銘、見知った少女2人が宙を舞って飛んできている。

 あんなとみくる、2人は得体の知れない小さな生き物に引っ張られ、やがてニジーの前に立ち塞がるよう追いついて回り込んだ。

 

 追いついた場所は、この林道の中でぽっかりと空いた大きな空き地。広場や公園というわけではなく、人気どころか遊具も何もない、林に囲まれたただの広場だ。

 

「困ったベイビー達だね。大人としてちゃんと指導してあげなきゃダメじゃないか、スパイダー」

 

「……お前ら何で」

 

「だって、ティアラ盗まれちゃったし……ねぇ、ティアラを返して!」

 

「出来ない相談だよ。このティアラには『マコトジュエル』が宿っているんだもの」

 

「マコトジュエル?」

 

「花嫁がティアラを大切にする想いが、マコトジュエルを引き寄せたのサ」

 

 ニジーはティアラに手を翳し、小さなボトルを生み出す。

 ボトルというより、宝石に近い。その名の通り、アレがマコトジュエルだ。

 

「実物じゃなく、あくまでその中から取り出したマコトジュエルが狙いなんだもんな。まったく、趣味が悪いったらありゃしねぇ」

 

「それがボク達の目的だからね」

 

 ならば、取り返すまで──。

 祥太は腕と首の骨を鳴らし、跳躍して身体を動かす。

 

「折角の観客もいるんだ。スパイダー! ボクとキミでとっておきのスペシャルショーを披露しようじゃないカッ!」

 

 スペシャルショーとは何なのか、困惑するみくるとあんななど知らず、ニジーは楽しげに笑みを浮かべた。

 

「ウソよ覆え! 出でよ、ハンニンダー!」

 

 取り出した赤い薔薇をティアラに投げると、マコトジュエルが黒く染まっていく。

 邪悪な力により、ティアラの姿形が変貌する。

 四肢が生え、更にはシルクハットとマントを身に着けた二足の怪物と化した。

 

『ハンニンダァー!』

 

「ファントムが新たに開発したハンニンダーさ」

 

「また気味悪い化け物を生み出しやがって……」

 

 ちらりとあんな達の方に視線を送る。

 身体を震わせ、信じられないモノを見る目でハンニンダーを見つめている。嫌に激しく鳴る心臓の鼓動がこちらまで聞こえてくるようだ。

 当然ながら、多感な中学生が遭遇していい現場ではない。

 

「……下がってろ」

 

 祥太はみくるとあんなの前に立ち、指示を下す。

 纏っていた異様に長いマフラーは、既に緩められている。どこから手を取れば解けるのか分からない程、布の先端が散在しており、その姿はまるで『蜘蛛』のよう。

 

「下がってろって……先生、まさか」

 

 みくるの閃きが嫌な形で的中する。

 ジャック・スパイダーと呼ばれた男は、とうに戦闘態勢に入っていた。

 

「良いから下がってろ。出来るだけ遠くだ」

 

「そんな! 無茶ですよ! 待っててください、今お巡りさんを呼びに行って──」

 

「警察なんか呼んでどうする。アレは現状、俺にしか対処できない相手だ」

 

「でも、いくらなんでも1人でなんて……!」

 

 あんなが悲痛な叫びで訴える。

 無理もない。相手は巨躯な怪物で、こっちは生身の人間。

 身体と身体のぶつかり合いでは、天と地ほどの差がある。故に、彼が戦うのは無謀と言っていい。

 だが、そんな不利な状況など意に介さず、確かな足取りで進む。

 

「安心しろ、俺が何とかする。お前達に危害は絶対に加えない」

 

 この程度の困難、容易に乗り越えてみせると、背中で語って見せる。

 

「それにな──こう見えて先生は強いよ」

 

 そう残し、久遠祥太──ジャック・スパイダーはハンニンダー目掛けて疾走する。

 手を伸ばして止めようとしても、止める間も無かった。

 瞬く間に怪物に近づき、欠片の恐れも見せずに正面から突っ込んでいく。

 

「さぁ、ハンニンダーとジャック・スパイダーのスペシャルショーの始まりだ!」

 

 ハンニンダーの頭上で跳び蹴りを繰り出すスパイダーと、カウンターを喰らわせようと拳を振るうハンニンダーの激突により、ショーは開演を告げた。

 

「……っ!」

 

 空気が震え、相殺する感覚が離れた地点にいるみくる達にまで伝わって来る。

 岩塊そのものと言えるハンニンダーの体勢を、スパイダーの蹴りで崩した。

 

「くっ──」

 

 空中で口元を歪めるスパイダー。

 脚力増強とはいえ、アレを蹴り飛ばした反動からは逃れられない。

 それでもなお、帯状の布を操って怪物の身体を捕縛し、二打目の跳び蹴りを喰らわせる。

 

 動きを縛ったことによる必中。

 ざざざざ、という轟音。

 まともに攻撃を喰らったハンニンダーは、捕縛の解除と同時に背中から倒れて後方へ引きずられていく。

 

『ハンニン……ダァァー!』

 

 着地した瞬間、スパイダーの姿勢が崩れる。

 その間、体勢を立て直し反撃する異形の怪物。

 異形は自慢の巨体を捻らせ、回転して突撃する。

 

 避ける暇もなくポーチから予備の布を取り出し、投げて受け止める。

 蜘蛛の糸のように投げられたソレで縛って回転を抑え込むが、完全には止まってくれない。

 こうなれば、意地でも全身で受け止めて防ぎきるしかない。

 

 不運にも、スパイダーは受けに回ってしまった。

 この場合の勝機は、ハンニンダーの猛攻に活路を見出すこと。

 だがそれも、怪物に隙があればの話。

 

 今の異形は、それこそ嵐が突撃したかのようだった。

 あれほどの巨体で突っ込んで来ている。

 それを以ってして、ハンニンダーの速度は全くもって馬鹿に出来ない。

 

「──らぁっ!」

 

 辛うじて弱まりを見せた回転速度を突いて、唯一振り上げられる右脚で精一杯蹴り上げる。

 まともに命中し後退るも、すぐに二撃目の回転攻撃が迫って来る。

 結局、圧倒的な力と速度があるのなら、どれだけふざけた攻撃だろうと通用する。

 

『ハンニンダァァー!!』

 

「──が、あぁっ!?」

 

 つまり、生身の人間相手では、異形の怪物の弱点を突くことなど不可能に近い。

 スパイダー側のこの対面は、不利に等しい。

 

「──逃げて」

 

 茂みの中。

 凍り付いた身体で、みくるはただ呟いた。

 最初は怪物相手に凄いなんて呆気に取られていたけれど、その思いはいつしか反転した。

 このままでは先生がボロボロに、最悪──殺される。

 だから先生は今からでも逃げて欲しい。いや、逃げるべきだ。先生なら簡単に逃げられるはずだ。

 ティアラは取り返すことは出来ないけれど、命を失うよりかは遥かにマシだ──!

 

「あ──」

 

 今のはまずいと、流石に理解る。

 身体も心も完全に麻痺しているのに、こういう時だけ冷静に働く。

 絶え間なく繰り出される嵐の猛攻。

 捌き切れず距離を離そうとする先生に、今度こそ。

 防ぎきれない、終演の一撃が命中した。

 

 スパイダーの体が浮く。

 周囲が防ぎきれないと思ったハンニンダーの打撃を、複数の布の塊を盾にして防ぎきった。

 

 それは致命傷を避けるための行動だ。

 満足に踏み込めなかったため威力を殺しきれず、その衝撃でそのままスパイダーを吹き飛ばす。

 

「ぐぁっ……!」

 

 その衝撃波が、致命的だった。

 大きく弧を描いて落ちていき、衝撃に耐え切れず背中から地面に叩きつけられてしまった。

 

「ぅ、っ……!」

 

「もうそろそろ、ここまでかな」

 

 身体を叩きつけられたと同時に、地面に赤い血が付着する。

 スパイダーの口元と額に、細い線を描いて血が流れていた。

 だが、ハンニンダーはそんな彼の状態を意に介さず突進していく。

 

「つ、ぅ……!」

 

 苦し気に顔を上げるスパイダー。

 まだ戦わねばと立ち上がろうとするが、両手両足を地面に這いつくばることが限界で上手く立ち上がれないでいる。

 怪物の計り知れない打撃の威力によって、全身の強烈な痛みが蝕んでいるのだ。

 

 ──それでようやく、呪いをかけられたみたいに固まっていた身体が解けた。

 

「もう、逃げて先生──」

 

「トドメだ、ハンニンダー!」

 

『ハンニンダァァー!!』

 

 みくるの必至に叫ぼうとする声は、ニジーの声にかき消される。

 ニジーの視線の先は、スパイダーの頭上で跳躍するハンニンダー。

 身体の自由が利かなくなってしまっては、巨体の落下を受けるしかなかった。

 

 ハンニンダーの着地と同時に、砂塵が巻き上がる。

 その先に、落下の衝撃で出来た岩盤に身体を沈められ、怪物の下敷きとなっている青年の姿。

 誰が見ても、トドメの一撃を喰らったと思っていた。

 

 ──それでも、あの細い体のどこにそんな力があるのか。

 

 スパイダーは未だ抵抗する。

 唯一動く右手に布をグローブにして巻き、怪物の足を力一杯殴る。

 勝ち目なんて無いに等しい、そのまま戦いを続行すれば死ぬと判っているはずなのに抗おうとする彼の姿は、はっきり言って異常だ。

 

「そこまでしてあの子達を守り、このティアラを取り返したいのかい……まったく、キミはとんだクールガイだ」

 

 言葉だけでは褒める素振りを見せているものの、潰れかけのスパイダーを見るニジーの瞳は憧れを抱くものではなく、哀れむものだった。

 

「スパイダー、これ以上はやめた方がいい。キミがボク達に歯向かったことで、多くの人や物を失った。キミがここで潰れてしまったら、その悲しみは更に広がっていく」

 

「……る、せぇよ」

 

 ハンニンダーはマントの裾を掴む。

 恐らく、先程よりも強烈な技。

 ニジーの警告を無視するのであれば、確実に仕留めると言わんばかりの行為。

 

「なんとかしなくちゃ──」

 

「な、なんとかって……」

 

 みくるが答えている間に、あんなは茂みから身体を投げ出す。

 手段など皆無に等しい。ジャック・スパイダーでもやられてしまうほどの怪物に、無力な自分達がどうにか出来るはずもない。そもそも、アレを前に立ちはだかる勇気など微塵もない。

 

 今、無事でいられているのは運が良かったから。久遠祥太という頼りになる存在がいてくれたからだ。

 逆に、運という不確定な要素が、祥太が苦しむ結果を招いている。

 だからこそ、このような事態に何もできない。

 助けたい。何とかしなければ。みくるも願いは同じだ。だが、肉体がついてこない。

 仮に動いたところで、返り討ちに遭う未来はとうに見えている。

 

 だが、彼女は違った。

 みくるが出来ないと思っていたことを、懸命にやろうとしていた。

 

「もうやめて!先生死んじゃうよ!」

 

 みくるが届けられなかった必死の叫びを、今度はあんなが精一杯の声量で届ける。

 ニジーはそんな彼女の声を耳にするも、視線は先生と呼ばれた彼に向けたまま。

 

「ほら、彼女たちだって言っているじゃないか。ボクはね、キミにはヒーローを気取るのをやめて欲しいってだけで、何も死んで欲しいと思ってるんじゃ──」

 

「貴方に言ってるの!!」

 

 感情を剥き出しに言葉を遮られ、怪盗は呆れ混じりに嘆息する。

 ようやくその視線はあんなと、彼女の隣に立つみくるに向けた。

 

「探偵ごっこはとっくに終わってるんだよ。その娘の怯える瞳が全てを物語っている。そもそも君は探偵じゃない。探偵気取りの真っ赤な偽物だ」

 

「……っ」

 

 唇を震わせ、目に溜まる涙を堪える。

 偽物なんかじゃないと自ら否定したいのに、脳がソレを拒否する。

 否定をしようものならどれだけの仕打ちを課せられるか、目の前の恐怖が肌で感じさせている。

 

「逃げ、ろ……早く……」

 

 先生の声にならない訴えに反応し、咄嗟に一歩後退る。

 思わずこの場から逃げ出したくなる──

 

「『本物』だよ!」

 

 ──そんな恐怖を、払拭しようとしてくれる人がいた。

 

「助けたいって気持ちがあるから、みくるちゃんは本物の名探偵になるんだ!」

 

「強がっているけど、君も本当は怖いんだろ?」

 

 拳を握りしめたあんなの手は、震えている。恐怖が滲み出てしまっているのだ。

 だが、彼女はそれを否定しなかった。

 

「そうだよ。怖い……怖いけど、それはみくるちゃんも先生も皆同じ」

 

「……フッ、スパイダーが? ボク達と幾度となく戦ってきた彼が怖がるわけないだろ」

 

「確かに顔に出してなかったし、私はまだ先生のこと知らないけど、きっと怖いはずだよ。それでも私達を守ろうと必死になって戦ってくれてた」

 

 自分の思いを言葉にする内に、拳の震えは収まっていき、決意を固めるように強く握りしめる。

 

「そんな先生を、今度は私達が助けたい! 先生を助けて、ティアラも取り返したい! ううん、取り返すんだ!みくるちゃんと一緒に!!」

 

 ──無論、初めからこんなことを抱いているわけではなかった。

 

 この場において、明智あんな、小林みくるという存在はあまりにも矮小だ。

 頭の中で練り上げた策も、圧倒的な力の前では無為と化す。

 祥太は、そんな彼女達を守るために敢えて苦境に立ちはだかったのだから、ここで飛び出すのは彼に対する裏切りだ。

 窮地を覆す力など持っていない彼女達の出る幕はなく、出るべきでもない。

 

 それでも……そうだとしても、あんなは助けたいと決意する。

 

 明智あんなは──困っている人を見過ごすことはできない。今も倒れている彼を、見捨てることはできない。

 今まで、そうやって生きてきた。

 そして何より、自分達を守るために戦ってくれた先生をこれ以上、苦しませたくない──!

 

「みくるちゃん……!」

 

 その言葉を聞いて、みくるはあんなに向かって手を伸ばした。

 

「「一歩の勇気が、答えになる」」

 

 手を繋ぎ、決意を胸に強く抱く。

 ──そんな2人を見た上で、祥太はまだ訴えようとする。

 

 肉体の自由が利かない今でも、未だに闘志を失っていない。

 最も他者の助けを必要とする筈の彼が、まるでソレを拒否するかのように、彼女達を守ろうと必死に怪物の足を殴って抵抗する。

 互いに助ける思いを抱いたとて、実力が伴うわけではない。

 結局、この中で怪物に対抗できるのは祥太しかいないのだ。

 

「何……やって……早く……」

 

 掠れた声で、何度も訴える。

 その時──あんな達の胸元に2つのペンダントが現れた。

 

「私のと、同じ……?」

 

 2つのペンダントは2人を包み込むように強い光を放つ。

 輝きを増していき、祥太とニジーは目を細めた。

 

「眩しい! 一体何が……!?」

 

 ──アレは。

 あの光の正体に、祥太は見覚えがあった。

 

「ぷいきゅあー!」

 

「「オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

 それぞれのマコトジュエルをジュエルキュアウォッチにセットし、掛け声と共にペンダントの長針を回す。

 

「「プリキュア! ウェイクアップタイム!」」

 

 事あるごとに、非現実的な容姿に変化していく。

 紫色や桃色など、髪はそれぞれのカラーに、髪型もふんわりとしたボリュームのあるものへと変わっていった。

 

「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」

 

「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

「わたしの答え、見せてあげる!」

 

 ──名探偵プリキュア。

 その存在は祥太も良く知っている。

 はっきり言って、その存在は希少価値だ。2人が目の前で変身を遂げたことに、

 動揺を隠せない。

 

『ハンニンダー!』

 

 新たな邪魔者が出てきたと認識したのか。

 変身を遂げた2人にハンニンダーの拳が迫る。

 

「「ハァッ‼︎」」

 

 キュアアンサーとキュアミスティックの2人による蹴り技が、ハンニンダーの拳とぶつかり合う。

 ほんの僅かな相殺を、2人の馬鹿力で押し返した。

 ジャック・スパイダーが苦戦を強いられたハンニンダーを容易く吹っ飛ばしたのだ。

 

「先生ッ……!」

 

 2人は即座に岩盤に倒れ込んでいた祥太を抱え、安全な場所へ移動する。

 先の戦闘で見た通り、身体が酷くボロボロになっていることに驚愕する。

 

「ゴホッ、ガハッ……!!」

 

「酷い……大丈夫ですか?」

 

「……幸い、地面の形状が変わってくれた……からな。クッションが作れてどうにかなった……」

 

 地面の形状が変わった、というのはまさしく岩盤のこと。

 それにより地面に僅かな奥行きができ、祥太は左手に巻いた布の塊をクッション代わりにどうにか痛みを抑えられたと言う。常識を逸脱した匠の技のように思えるが、奇跡が重なったことで行えたことだ。

 

 とはいえ、心配なことに変わりはないことは、それでも肉体を圧迫された影響で上手く呼吸ができていないことが物語っている。

 

「それよりお前ら、名探偵プリキュア……って言ったな。本当なのか……?」

 

「え、はい……でも、プリキュア って?」

 

「名探偵! 私がなりたかった『名探偵プリキュア』!」

 

「えぇ、これが!? なんか思ってた名探偵と違うんだけど……?」

 

「……おい。また、来るぞ……」

 

 浮き足立つアンサーとミスティックに、祥太は戦いはまだ終わっていないことを指示する。

 指差すその先は、身体を回転させて特攻を仕掛けて来るハンニンダーの姿。

 

 すぐさま戦闘態勢に入り、怪物と激しく衝突する。

 やはり強力……2人は全体重を乗せて両手で受け止めるも、相手の力に後退る。

 だが、勢いを殺してしまえばこちらのもの。

 

『ンダ!?』

 

 渾身の力で止めて見せた2人は、息の合った後ろ回し蹴りを同時に叩き込み、反撃する。

 容易く吹っ飛ばされたハンニンダーだったが、タフな肉体では持ち堪えることも難しくない。

 だから、持ち堪えないよう確実に仕留める──!

 

「一歩の勇気が!」

 

「答えになる!」

 

 ジュエルキュアウォッチの長針を回転させ、2人のパワーを踏み込む足に込める。

 その脚力で同時に飛び出し、そのままハンニンダーに突撃する。

 

「「これがわたし達の、アンサーだあぁぁ!!」」

 

 込められた力で、ハンニンダーの胴体を貫いた。

 

「「キュアット解決!」」

 

 直後、ハンニンダーの身体は大爆発を起こす。

 柱を描いた光に包まれ、消滅と共にこの戦いは幕を下ろした。

 

 消滅したことで、ティアラは無事に元に戻り、マコトジュエルはアンサーの手に収まる。

 

「今日は幕を下ろしておこう!」

 

 敗北を告げられたニジーは煙幕を撒いて即座に撤退する。

 先ほどの激闘の雰囲気はどこか、怪盗が去ったことで一瞬にして静寂に包まれた。

 

 そんな中で、祥太は腕時計に目をやる。

 時計の針は、間もなく結婚式が始まる時間帯を指していた。

 

「……ティアラは取り返したな。ならすぐに渡しに行こう」

 

「せ、先生……? 大丈夫なんですか?」

 

 よろよろと立ち上がる祥太を心配するミスティック。

 

「さっきも言ったろ。身体は奇跡的にどうにかなったと──」

 

 ──そう言った瞬間、膝から力が抜けた。

 

「えぇ!? やっぱりダメなんじゃないですか!? 私が抱えますから無茶しないでください!」

 

「……すまん」

 

 倒れる身体をアンサーに支えられる。

 ここから式場まで、抱えられながら移動することとなった。

 大人が女子中学生に抱えられるなんて事態は、祥太にとってかなりの屈辱であった。

 

 

 

 

 

 ◯

 

 

 

 

 

 式場のベルが鳴り響く。

 花婿と花嫁を祝福する空気が会場全体に広がっていく。

 その光景を、探偵達は離れた屋根の上で見下ろしていた。

 

「式に間に合って良かったー!」

 

 ほっと胸を撫でおろすアンサーに、ミスティックは深々と頭を下げる。

 

「ありがとうございました!」

 

「私のお陰というか……あっ、怪盗!?」

 

「本物のともかさんですよ!」

 

 遅刻の常習犯というのは本当だったようだ。

 ともかは息を切らすまでに走り、花嫁を見届けている。

 花嫁が投げたブーケに導かれるように、ともかは手に取ることができた。

 馬鹿に運が良いのか、忙しい人だなと祥太はある意味感心した。

 

「あ、私帰らないと、誕生日パーティーが!」

 

 アンサーがふと、そんなことを口にする。

 ──それにしても、この2人がプリキュアになるとは。

 特に小林みくる。祥太からすれば大変世話を焼いた彼女が、名探偵になることを志して掴み取ったのだ。喜ばしいことではあるのだろうが、あまりの急変ぶりにしばらくは驚愕することしかできないでいた。

 

「ジェット君に報告しないとだなぁ……」

 

「あの! プリキュアになれたってことは、テスト合格ですよね!?」

 

「……あぁ、一旦待て。流石にこんな結果になるとは──」

 

「1999年4月! とうとう私もキュアット探偵事務所の名探偵になったんだ~!!」

 

「まだなってねぇよ。話進めんな」

 

 浮かれ過ぎているミスティックに、ストレートに反論する祥太。

 その隣で、何かに引っかかったのかアンサーが怪訝な表情をしていた。

 

「1999年? また訳の分からないことを……」

 

「いやいや、今日は1999年4月2日、春です!」

 

 そう言ってミスティックが指差した先は、満開に咲く桜の木々。

 間違っていない。今は桜の開花がピークの麗らかな春の季節だ。

 

「え、桜……? 私がいたのは2027年1月の冬……」

 

 ぶつぶつと呟く度に、段々アンサーの表情が強張っていく。

 

「私、昔にタイムスリップしちゃったのおおぉぉぉ──ー!!??」

 

 そうして絞り出した叫び声は、虚しくも空の彼方へと消えていった──。

 

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