名探偵プリキュア! 〜そよ風が幸福を運ぶ〜   作:ゆぐゆぐ

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#03 一旦天才ってことにしておこう

 

「ここがわたしの家」

 

 あんながそう指差したのは、高層マンションの一角。

 立地がかなり広く、マンション自体も何十階もあるような裕福層が基本的に住まう建物。その観点から、やはり他のマンションや建物とは抜きん出ている。

 あんなはそこに住んでいるというので、みくるも祥太も困惑していた。

 

 いや、困惑しているのはそこではなく──

 

「街ごと無いんだけど!?」

 

 指差したその場所が、草一つもない更地だったことだ。

 手前にある看板には「マコトミライタウン」と書かれた、完成図が貼ってある看板。

 まだ建てられていない。それどころか、整地こそされているもののその後の建築作業が着手された形跡がどこにも見当たらないのだ。

 

「彼女は名探偵じゃないんですか、先生!?」

 

「今日初めて会った。じゃなかったらさっきみたいに自己紹介しないだろ」

 

 あんなの住む家がどこにもなく、また先ほどの祥太とあんなの会話を思い出して、みくるはあんなが未来人という話に嘘偽りない事に頭を抱えた。

 

「誕生日パーティーがあるから早く帰らないと! 名探偵でしょ助けてー!」

 

「無茶苦茶言わないでー!」

 

 にわかに信じ難いが、あんなは2027年のまことみらい市──もとい、マコトミライタウンに住んでいる。

 タイムスリップ、怪奇現象──そんな非現実的なことは頑なに信じない祥太だが、この慌てようからあんなの話が真実であると納得するしかなかった。

 ハァ、と嘆息して頭を掻きながら、仕方ないと言った面持ちで1つ提案する。

 

「……ジェット君に聞いてみるか?」

 

「「ジェット君?」」

 

 

 こうして、みくるとあんなを招いてキュアット探偵事務所へと戻って来た。

 

「ここに名探偵プリキュアがいます」

 

「え!? 他にも名探偵プリキュアが──」

 

「シーッ! プリキュアが居ることは秘密だそうです!」

 

 あんなの発言を制止するみくるが一番うるさい、とでも言いたげに祥太は深いため息をこぼし、鍵を開錠して扉を開ける。

 

 時刻は15時頃。

 徐々に冷えていく廊下を渡って、僅かながら日光に照らされた大部屋に移動する。

 事務所全体は静寂に包まれており、人の足音と時計の針が進む音だけが響き渡る。

 

「留守、ですかね……?」

 

「まさか、そんなはずはない」

 

 何せ、ジェットは自ら外出するような性質ではない。

 1日中アイテムの発明に明け暮れているような者が、こんな時間に留守にするとは到底思えないと辺りを見回していると──

 

「祥太。依頼人をここに招くなって忠告したのお前だよな?」

 

 何処からともなく少年の声が聞こえて来たと同時に、机の上に飛び乗ってくる。

 ──そんな一目で分からないところでコソコソやっていたのか。

 

「自分で入れてどうするんだよ」

 

「子供……あーあの、私達依頼人じゃなくて、名探偵プリキュアなんです!」

 

「プリキュア? お前たちが?」

 

「あり得ない話だろうが、残念ながら事実だ。その子の身に着けてるペンダントが、その証拠」

 

 あんなの胸元にあるペンダントに注目させようと指を差す。

 

「っ、そいつは!」

 

 身に覚えのあるジェットは慌てて注目しようとするも、不意にバランスを崩して転落した。

 

「痛てて……」

 

「妖精?」

 

 この黄色いキツネに似た妖精は、ジェットが嫌う姿。

 そういえば、彼女達が連れていた不思議な生き物も妖精に似ていたが、ジェットと何か関係があるのだろうか。

 人間の姿に瞬時に戻り、自分が不利な場面になったことに機嫌を悪くしながら、少年は話を聞いてやることにした。

 

「これでプリキュアに変身しただと?」

 

 ルーペを持ち込み、あんなが持っていたペンダントについて注意深く観察し始める。

 あんなはグレープ味、みくるはストロベリー味と、祥太に手渡された飴を口に咥え、祥太も抹茶ラテ味の飴を口に放り込んだ。

 あんなもみくるも、ペンダントではなくジェットに興味を持っているようで、じっと見つめている。

 

「妖精が人間になるなんてね」

 

「貴方、プリキュアのおとも妖精?」

 

「いいや、ボクは天才発明家ジェット! 探偵道具を発明するのがボクの仕事だ」

 

「へぇ、まだ小さいのに凄いね」

 

 威厳のある自己紹介も、その容姿では意味を成さない。

 あんなの反応も感心の1つも持っておらず、まるで年下の子供に返すかのように優しく答えてあげている。

 その光景に思わず顔を俯いて吹き出すのを堪える祥太を見て、ジェットは眉をひそめた。

 

「小さい? お前は何歳だ?」

 

「私14歳だよ」

 

「えっ!? 私ももうすぐ14歳!」

 

「そうなの? はなまるびっくり!」

 

「フン、ボクが年上だな。ボクは222歳だ!」

 

「同い年なら敬語は無し! 『あんな』でいいよー!」

 

「じゃあ、私もみくるでー!」

 

 年齢の話題になると急に2人だけで勝手に盛り上がってしまい、祥太とジェットは完全に置いていかれている。

 

「完全に女子トークになったな」

 

「これだから子供は……で、お前ら何処でこのペンダントを手に入れた?」

 

「ずっと前にお婆ちゃんに貰ったの。でも、詳しい事は分からなくて」

 

「私はね、自分の机の上にペンダントが置いてあって。そしたら『ポチタン』が現れたの」

 

「ポチタンってあれか? お前達が連れてた──」

 

 その時──事務所内に事態が起こる。

 事務所内に侵入者が現れたことを知らせるサイレンが響き渡る。

 

「研究室か──!」

 

 咄嗟に全員が席から立ち、ジェットを先頭にサイレンが鳴る大元の部屋へと駆け込んだ。

 

「──あっ、ボクのおやつ!」

 

 研究室の扉を開けた先は、天井から落下し山と化した大量のお菓子の袋。

 

「なっ、これだけ買い込んでいたなんて聞いてないぞ!」

 

「発明で頭を使うからエネルギーが必要なんだよ!」

 

「ンなことは知ってる! けど、こいつら全部俺の経費だろ。何で俺に断りを入れなかった」

 

「だって祥太、無駄な出費とか言ってダメって言うじゃんか……」

 

「当たり前だ! 賞味期限とか考えて最低限にしておけっていつも言ってるだろ!」

 

「「お父さん……」」

 

 侵入者の出現そっちのけで口論を繰り広げるジェットと祥太を親子の口喧嘩と思っていると、お菓子の山頂が不自然に崩れ、今しがた話題に挙げた例の妖精が飛び出した。

 

「ポチタン!」

 

「アレは……時空の妖精!?」

 

「時空の妖精?」

 

「時間と空間をワープするとっても珍しい妖精だ。そうか、タイムスリップの原因はお前か」

 

 ということは、この妖精の力を使うことであんなを元の時代に戻すことが出来るかもしれない。

 ただ、ジェットにとって1つだけ不可解な事象があった。

 

「待て。そもそも赤ちゃんじゃなかっただろ?」

 

「うん、ポチタン普通に喋ってた」

 

「タイムスリップで力を使い切ったんだ。元の姿に戻らないと、タイムスリップは出来ないだろう」

 

 珍しい妖精、と言っていたのだから、過去に前例がなく推察の域だろう。

 であれば、可能性は低くても短期的な解決策もあるかもしれないと考え、祥太は提案する。

 

「マコトジュエルはどうだ? 真実の力が秘められたアイツなら上手く行くんじゃないか?」

 

「だが、アレを見つけるのは難しい……」

 

「これのことですよね?」

 

 あんながポケットから取り出して見せたのは、誰かの大切な想いが宿る結晶。

 正真正銘、本物のマコトジュエル。

 

「──持ってるのー!?」

 

「さっき怪盗団ファントムとの戦闘で取り返したヤツだ」

 

 これで元に戻るぞ!、と実践に意気込むジェット。

 性能が衰えるほど力を使い切ったのに、マコトジュエル1つで解決できるほど簡単なことなのだろうか、と祥太だけは疑いの目を持っていた。

 

「ポチタン!」

 

 マコトジュエルをポチタンに近付けると、首元のハートのリボンが光って反応する。

 手段は一応合っているらしく、マコトジュエルも光を放って消え去った。

 

「ポポポポ、ポチー!」

 

 ポチタンの掛け声が、皆の期待を膨らませる。

 

 ──ポンッ!!

 

「「「……え?」」」

 

 軽快な音と共に、何故かハート型の哺乳瓶が現れた。

 その哺乳瓶を、疲れからあんなの胸に蹲るポチタンに飲ませる。

 

「……アレみたいだな。コイツみたいな生き物を育てる卵の形をしたゲーム。まだ流行ってるのか?」

 

「あーはい、まだまだ現役ですし友達もみんなやってます──って、今そんな悠長なこと言ってないで! 全然戻ってないじゃないですか!!」

 

「もっとマコトジュエルが必要なのか」

 

 祥太の疑いは間違っておらず、現実は甘くなかった。

 ただ手段は合っていて、より多くのマコトジュエルを摂取する必要があるようだ。

 

「じゃあ、探そう!」

 

「ええ! きっと見つかる。プリキュアの先輩の力を借りればね!」

 

「……祥太、まだ話してなかったのか?」

 

 みくるの言葉を聞いて、ジェットは眉間に皺を寄せた顔で祥太に問い詰める。

 

「名探偵でもなかった奴に公にするつもりはなかったからな……小林」

 

 出来れば、前々から期待していたことを壊すような真似はしたくなかったのだが。

 祥太はみくるに視線を向け、事実を告げる。

 

「名探偵プリキュアは──もういないよ」

 

 あんなとみくるは硬直する。

 案の定、こうなった。

 みくるは何故、と言いたげな不安な表情を祥太に向ける。

 

「ほんの数ヶ月前の話だがな。突如として姿を消した」

 

「どうして?」

 

「原因は不明。まあ、知っていたとしてもお前達に話すつもりはない。ここも直にジェット君と閉めるしな」

 

「あぁ。ボクは事務所を閉める為、ロンドンのキュアット探偵事務所から来たんだ」

 

「じゃあ、事務所はなくなるの……?」

 

「まあな。ボクがここに訪れた時点で既に祥太しかいなかったし、コイツも賛同してくれてる」

 

「あくまで俺のは探偵代理という裏仕事で、本業は中学教師だからな。それに、人を招かない事務所などただの空き家に過ぎん」

 

 名探偵になることを夢見た少女相手にこんなことを言うのは心が痛くなる。それでも現実を見せなければならない時はあると、祥太ははっきり言ってみせた。

 

「ここでプリキュアの先輩と調査するのが夢だったのに……」

 

 俯くみくるに、これ以上は何も言えない。

 そんな空気の中、あんなは立ち上がった。

 

「いるよ、私達が居る! やろうよ、ここで名探偵! ねっ、みくる!」

 

「でも、あんなは自分の時代に──」

 

「勝手に決めるなよ」

 

 希望ある展開を容赦なく断ったのは、不満そうな表情のジェット。

 

「ボクはお前達がプリキュアだって認めてない。祥太が見ていたとしても、ボクはこの目で見たものしか信じないからな!」

 

「むう! だったらプリキュアだって証拠見せてあげ──」

 

 コーン、コーン。

 大時計の鐘の音が事務所中に響き渡る。

 時刻は17時。街中の夕焼けの音楽と同じタイミングで、時計は夕方を知らせてくれた。

 

「──と思ったけど帰る! 学校の寮、門限だから」

 

 証拠は明日見せてあげるから、と不満そうな表情を浮かべてスタスタと部屋を出ていく──かと思えば、扉から顔だけを出してひょっこりと戻ってきた。

 

「あんな達のこと、泊めてあげてください!」

 

「わーってるよ」

 

 あんなの帰る場所がないと判明した以上、元よりここで宿を取ってもらうつもりだった。

 だがまあ、個人の部屋がないのでソファーを寝床にしてもらうが……。

 

 

 

 

 

 風の無い、静かな夜だ。

 時刻は11時。静寂に包まれた真夜中の時間帯。

 窓越しに見る町は、垣間見える月の明かりだけを寄る辺にした、暗い海の底のように思えた。

 

「いくら時空の妖精でも、28年もの時間を越えるなんてな」

 

「それ、言葉にすると凄ぇな」

 

 数字で見れば、あんなは四半世紀以上の世界から来た未来人ということ。

 それが不可思議な現象であることは、そうしたタイムスリップの能力を持つ妖精でも幼児退行という代償を受けるほどの大規模さが物語っていた。

 ポチタンだけでなく、プラスアルファでペンダントの力も影響しているのか、とジェットは考察する。

 

「それにしても祥太、お前よくあいつらがプリキュアだってこと受け入れたな」

 

「まあ事実、この目で見たからな」

 

「そうだとしても、簡単に認めない質だと思ってた」

 

 ──別に認めたわけじゃない。

 怪盗団ファントムが生み出した怪物、ハンニンダーを浄化できるのはプリキュアしかいない。

 頼みの綱として、受け入れるしかないのだ。

 

「……変にこっちの事情に介入される前に事が済めば良いが」

 

 あんなは遥か未来からタイムスリップした少女で、この時代に生まれていない。

 非現実的な発想だが、過去の時代で事態が大事になれば、所謂歴史改変という形になり、最悪彼女は元の時代にいない存在となる可能性もある。

 そうなる前に、早いこと元の時代に帰してあげたい。いや、帰ってもらう。

 プリキュアになって、本人の意識が変わり出されては困るからだ。

 

「みくる……やったね……」

 

「夢の中でもアイツの心配かよ……」

 

 そう呟くと、眠気で妖精の姿に変わったジェットは扉を開け、部屋を後にする。

 恥と思う姿に変わっていることに気付いていない辺り、今日はとても疲労しているのだろう。

 後を追うように、祥太もこの部屋を後にしようとする。

 

「お母さん……」

 

 二言目の寝言。

 穏やかな寝顔でスヤスヤと眠る彼女の、元いた時代の母を呼ぶ微かな声。

 

「……帰りたいなんて当たり前だ。まだ中学生だぞ」

 

 冷めつつあるコーヒーを片手に、祥太は部屋を出た。

 夜明け前まで、月明りが少女を見守ってくれていた。

 

 

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