名探偵プリキュア! 〜そよ風が幸福を運ぶ〜   作:ゆぐゆぐ

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#04 ようこそキュアット探偵事務所

 

 次の日。

 祥太は朝早くからスーパーに買い出しに出かけ、眠たい目を擦りながらキュアット探偵事務所まで歩いて戻っていた。

 

「何だあれ」

 

 すると偶然、事務所にいたはずのあんながポチタンに引っ張り出され、それを追いかけるみくるとジェットの姿を目撃する。

 総動員で騒いでいるところを見過ごせず、祥太も渋々ついて行くことにする。

 

 彼女らの騒ぎに住人が困惑する中──何も動じずその場を歩く、緑の着物にお団子頭の老婆を横目にして。

 

「朝っぱらからどうした」

 

「ポチタンが急に飛び出して行っちゃって……もう、ポチタンどうしたのー?」

 

「……って、ここケーキ屋さんだ」

 

『パティスリーチュチュ』

 そんな名前の看板が立てられたケーキ屋に、何故か訪れた。

 こんな事件性の無い場所に何故と、あんなとみくるは首を傾げる。

 

 一方、ポチタンは店のテラスをじっと見つめている。

 エプロン姿の男性と、一人の少女。

 そわそわと落ち着きなく、周囲を見回している。

 

「たちゅけて……」

 

 ポチタンが小さく呟くと、あんなとみくるは顔を見合わせて同時に頷き、2人の元に歩いた。

 

「どうしたんですか?」

 

 少女は困ったように眉を下げる。

 

「ペンがないの。店長さんにも探してもらってるけど……」

 

「エリザちゃん、作家なんだ。この前推理小説の賞を取ってね」

 

「コンクールの時に貰った大切なペンなのに……」

 

「嗚呼……」

 

 祥太は思わず声を漏らす。

 エリザという名前に通りで聞き覚えがあると思ったが、17歳にして推理小説のコンクールで賞を取った、などと雑誌に大きく載っていたのを思い出した。

 

 それはそれとして、そんなエリザの困り顔を見て、みくるは颯爽とメモ帳とペンを手に取る。あんなはエリザの前に向き合った。

 

「探すの手伝います!」

 

「無くなった時の事を教えて下さい!」

 

「あ、えと……ついさっき、おばあさんが話しかけてきて。気づいたらいなくなって、ペンもなくなってたの」

 

「お婆さん?」

 

 祥太は数分前の記憶を辿る。

 老婆なんて周りを見回せばどこにでもいるが、疑いのアンテナを張るならば──。

 

「これが事件なら、犯人はお婆さんの可能性が──」

 

「えぇっ、お婆さんが!?」

 

「「あ」」

 

 みくるの話し声は見事に筒抜けになっており、その言葉でエリザは慌てて携帯電話を取って警察を呼ぼうとする。

 

「おまわりさん……!」

 

「いや、まだ可能性ってだけで……」

 

「……うん?繋がらない?」

 

 通信が繋がらない携帯電話の画面を見て、エリザは困惑する。

 直後、店の扉から店員が顔を出すと共に、祥太は不意に下ろしていた髪を結ぶ。

 

「通信障害みたいです」

 

「帆羽さん、それってどういうこと?」

 

「電波が繋がず、携帯電話が使えないって今、ニュースで……」

 

 あまりにも悪いタイミングだ。

 であれば店の固定電話で、と男性店員が提案するが、ここで立ち止まっても時間が惜しい。

 祥太は口元をマフラーで埋め、自らの足で探すことを提案する。

 

「まあ何にせよ、疑いの種は潰す。そいつが犯人とは限らんが、怪しげな婆さんならさっきすれ違った」

 

 祥太は周囲に背を向けて足を運び始める。

 ──腰に手を置いてヨチヨチ歩いてたんだ、まだそう遠くへは行っていないはず。

 

「ジェット君、プリキットボイスメモよこせ」

 

「よこせって、それが人に物頼む態度か!」

 

 ジェットは自身の妖精姿を模した機械を渡す。

 通信障害で携帯電話を使用できない今、無線機の役割を持つこのアイテムなら連絡はできる。

 祥太だけでなく、あんなとみくるにもそれを渡した。

 

「先生、それなら私も行きます。二手に分かれて探しませんか?」

 

「……分かった。それらしき人物がいたら早急に連絡すること、良いな?」

 

 はい、とあんなは力強く頷いて答えた。

 

「じゃあ、私はこのまま聞き込みをするね」

 

「うん、みくるお願い!」

 

 祥太が一番に動き、後を追ってあんなも飛び出した。

 

「──久遠先生?」

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 道中、祥太はあんなと二手に分かれて走り出す。

 プリキットボイスメモからはみくるの声が聞こえており、エリザから収集した情報を知らせてくれている。

 

 エリザはあのテラスで原稿を書き進めていたところ、老婆が近寄ってきて貴女のファンですと握手を求められた。

 新人であった故、初めてのことで舞い上がっていたようで、握手に加えてサインと旺盛にファンサービスの提供を試みた。

 しかし、サインをしようとしたらペンがなくなっていた。おまけにその老婆も姿を消した。

 

『そのおばあさんの特徴は?』

 

『緑の着物を着てて、髪型はおだんごで……』

 

「……あ」

 

 証言を聞いて、祥太は思わず声を漏らす。

 祥太の見た老婆が犯人だと確定したわけではないが、と疑ってきたが、どうやら決まったようだ。

 その老婆を祥太は見かけていて──たった今、見つけた。

 ボイスメモの録音ボタンを押し、声をかける。

 

「すみません、ちょっとお聞きしたいことが」

 

「うん?」

 

『──っ、先生!もしかしたらお婆さんは……!』

 

「分かってるよ……盗んだペン、返してもらえますか?」

 

 威圧的に、老婆の至近距離まで接近する。

 

「──怪盗、ニジー」

 

 これに辿り着くまで、そう難しいことではなかった。

 あれだけ見通しの良い場所なのに突然、人も物も姿を消すなんてことがあまりに現実的ではないと思い、思考を辿った。

 非現実的なことをやってのける奴を犯人としたのは正解だったようだ。

 

「いた、先生!」

 

「フッ……バイバイ、ベイビー!」

 

 良いタイミングで、あんなと合流。

 同時に、老婆に化けたニジーは自分を言い当てられ、不敵に笑みを浮かべると颯爽と走り去って行く。

 

「はやっ!」

 

 腰に手を回す老婆の姿で、驚くほどの爆走を魅せる。

 まるで常人の速力を越えていて、真っ向からはとても追いつかない。

 

「ババァのコスプレとはいえ、何て速さだ……! 靴にターボでもついてんのかよ!」

 

『あんな達、今どこ!?』

 

「おばあさんが公園に入っていく! 待って~!」

 

 恐ろしきスピードを相手に、どうにか公園まで辿り着く。

 だが、何故か姿がない。

 

「あんな、先生!」

 

 同タイミングでみくる、ジェットと合流する。

 

「みくる! お婆さん見なかった?」

 

「見てないよ!」

 

「そんな……」

 

「僕らはあっちから来た!」

 

「私達はこっち!」

 

「出入口は2ヶ所なのに、お婆さんに会ってない……!?」

 

 偶然の挟み撃ちは失敗。

 ならば、どこかに隠れているか、或いはまた別の誰かに変装しているか。

 

 今、ここにいる枠は大きく3つある。

 1つ、ベンチに腰掛けて大きな欠伸をする会社員。

 2つ、こんな人気のない公園で仲良くいちゃつくカップルの2人組。

 3つ、携帯電話を使って誰かと電話をする派手な容姿の女子高生。

 

「あ、変わったスマホ!」

 

「スマホ? 携帯電話ね」

 

 女子高生は歩きながら通話を続け、やがて公園を去ろうとする。

 一方、会社員も携帯電話を手に取って使っていると、何かを思い出したようにがっくりと肩を落とす。

 ──青髪の女性店員が話していた通信障害の件は、まだ復旧していないようだな。

 

「「……あ!」」

 

 あんなとみくる、2人は同時に声を上げ、互いに目を合わせた。

 

「「見えた! これが答えだ!」」

 

 点と点が繋がり、早速犯人と断定した人物に声をかける。

 

「ちょっといいですか?」

 

「ん?あぁ無理、今電話してんだけど」

 

「だからこそです」

 

「「ペンを盗んだ犯人ファントムは、貴女です!」」

 

「はぁ!?」

 

「今電話を使えるはずがない。通信障害だから」

 

 女子高生の瞳が揺れ動く。

 世間で騒ぎを起こしている通信障害こそが、決定的証拠だ。

 

「貴女は逃げてたから気付かなかったんだ」

 

「電話をする女子高生の変装は完璧だった。だからこそ失敗に繋がった」

 

 女子高校生は観念したのか、拍手であんな達を讃える。

 

「お見事。いかにもボクがニジーさ、ベイビー!」

 

 装っていた衣類を脱ぎ、怪盗ニジーを露わにした。

 完璧な変装を見破られた割には余裕の表情。寧ろ自らの正体を暴いてくれたことに高揚感を漂わせている。

 

「ボクの変装を2度も見破るなんて。ご褒美をあげよう」

 

 エリザから盗んだガラスのペンを使い、以前と同じ方法で怪物を喚び出そうとする。

 

「嘘よ覆え! いでよ、ハンニンダー!」

 

 ペンに宿るマコトジュエルが闇のエネルギーに支配され、怪物ハンニンダーと変貌を遂げた。

 

「待て! 何だコイツは?」

 

「こいつが俺をボコしに来たんだよ。あん時はミスっただけだが」

 

 だがこれで、ジェットに2人がプリキュア に変身できることを証明できる。

 2人はジュエルキュアウォッチを手に取り、変身の準備をする。

 

「「オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

「「プリキュア! ウェイクアップタイム!」」

 

「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」

 

「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

「わたしの答え、見せてあげます!」

 

「いけ、ハンニンダー!」

 

 ニジーの指示で先手を仕掛けるハンニンダー。

 振るう拳を難なく躱し、アンサーとミスティックは蹴りを同時に繰り出す。

 後退るハンニンダー。それだけでも名探偵プリキュアが優位に立っていることが分かる。

 

 ただ、世の中には『油断大敵』という言葉がある──。

 

「ハンニンダー!」

 

「「ッ!」」

 

 ハンニンダーは頭のペン先から、黒のインクを飛ばした遠距離攻撃を仕掛けた。

 咄嗟の判断が出来なかったアンサーを押し倒すように、ミスティックは回避する。

 

「強力なマコトジュエルを嘘で覆えば、誰にも止められない強大な力になるんだよ」

 

「エリザさんのペンで何てことを!」

 

「違うよ。もうボクのペンさ」

 

 今度はそちら側が優位に立ったからか、ニジーはそう言ってプリキュアを嗤う。

 

「ファンと偽り近付きゲッチュ。嘘を使えば容易いものさ」

 

「お前の物は嘘を使えば俺の物。とんだガキ大将集団だな、お前ら」

 

 祥太が皮肉を込めて発言する間にも、ハンニンダーはペン先を花のように開花させ、無数の棘でプリキュアを追い詰める。

 

「ボクらファントムは! 嘘で溢れ覆われた、素晴らしい世界を作る! その為にはマコトジュエルが必要なのサ!」

 

「嘘の世界なんて、全然素晴らしくない!」

 

「そうかな? キミ達名探偵を倒すこんな力があるのに?」

 

「好き勝手言ってくれるじゃんか」

 

 今まで大人しく見ているだけだったジェットが口を開く。

 

「ボクもひとつ教えてやる。キュアット探偵事務所の使命は、嘘を暴いて止める。ファントム! お前達からマコトジュエルを守る事だ!」

 

「随分と威勢のいいベイビーだ。キュアット探偵事務所。無論、キミ達の使命は心得ているよ」

 

「この嘘、ハンニンダーをどう止める?」 

 

「プリキュアがいる! 歴史上数人しかいなかったという名探偵プリキュアが、今2人もいる!」

 

 ニジーは肩をすくませて呆れている。

 諦めさせるのも無駄と思ったのか、指先でハンニンダーに殴るよう指示を飛ばす。

 

「ッ!」

 

 ハンニンダーの拳が迫る。猛烈に襲い掛かる間を、アンサーとミスティックは受け止めた。

 

「嘘を吐かれてペンを盗られたエリザさんは悲しんでる」

 

「人を悲しませる嘘なんて」

 

「「プリキュアが嘘を終わらせる!」」

 

 ハンニンダーの攻撃を跳ね退けた2人はジュエルキュアウォッチを翳し、エネルギーを充填する。

 

「「これが、わたし達のアンサーだ‼︎」」 

 

 地面を蹴り、2人のエネルギーがひとつになってハンニンダーに襲いかかる。

 そのまま貫き、ハンニンダーはマコトジュエル、ガラスのペンと分離し浄化していく。

 

「「キュアット解決!」」

 

 浄化されたマコトジュエルを回収し、それをポチタンに渡して取り込ませて、事件は解決となった。

 

「参ったね。今日のところはこれで幕引きとしようか」

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 ペンをエリザに渡した一同は、キュアット探偵事務所に戻る。

 ジェットは引き出しから2冊の本を持ってあんなとみくるに手渡す。

 

「ん、もういいのか。頑固者の君のことだから、まだ認めないもんだと」

 

「これ以上、何を疑えばいいんだよ」

 

「ジェットさん、これ何?」

 

「プリキットブック。2人が名探偵プリキュアとして認められた、その証だ」

 

「──っ! やったねみくる!」

 

 ジェットの簡潔な説明で理解できた2人は、共に喜びを分かち合う。

 

「ええ! これで、私達で困った人達を助ける。マコトジュエルを守って、ポチタンを元に戻して。そしたらあんなも元の時代に!」

 

「うん、でも私決めちゃったんだ。みーんなを助けるって!」

 

「っ」

 

「嘘で覆われた世界なんて嫌だから。私みくると一緒に、名探偵プリキュア頑張る! 戻るのはその後!」

 

 あんなの言葉に、祥太の瞳は瞬時に見開いて反応する。

 ──別段、おかしなことは言っていない。

 ただ、名探偵プリキュアとして困っている人々を助ける。みんなを助けてから元いた場所へと帰る。

 困っている人を放っておけない優しい少女の前向きな言葉とすれば、違和感はない。

 皆が賛同する。みくるに関しては多少不安も残るような複雑な表情を見せたが、あんなの気持ちを汲み取って賛同した。その中で、祥太だけが違う反応を見せた。

 

「よしお前ら、名探偵プリキュアとしての証をプリキットブックに書け」

 

 本のページをめくり、トゥインクルライトペンで名前という証を書き込む。

 

「よし、じゃあ改めて」

 

 ジェットは一度咳払いをして、改めて2人に向き合う。

 

「ようこそ、キュアット探偵事務所へ。名探偵プリキュア」

 

「よろしくね。ジェットさん、久遠先生」

 

「ジェット『さん』? もっと先輩らしい呼び方があるだろ?」

 

「え?」

 

 あんなとみくるは視線を合わせる。

 他人行儀な言い回しに不満があるようだ。

 ジェットのその後の言葉で、みくるは閃く。

 

「なら、先輩!」

 

「ジェット先輩、よろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしくな……祥太、何ボーッとしてんだよ」

 

「……別にしてねぇよ」

 

 素っ気ない態度で答える。

 会話は確かに耳にしており、その状態で思考を巡らせていたのだ。

 

「……久遠祥太だ。よろしくね」

 

 ジェットに指摘されてからもその態度は変わらず、ついにはこの大部屋を出て行ってしまった。

 

「急にどうしたんだよ、アイツ……」

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 2人が正式に名探偵プリキュアとして認められ、目的に向かって前を向いて進もうとする一方、久遠祥太は事務所を出て外の空気を吸っていた。

 

 ──今の君らじゃあ、名探偵にはなれないよ。

 

 彼が見る限り、現状では目立った問題もない。プリキュアの力を存分に発揮し、順当に怪盗団からマコトジュエルを取り返している。

 まだ2回しか変身していないものの、ハンニンダーという怪物を浄化する力を、十分使いこなせている。そもそも、変身後間もなく怪物に臆さなくなったのは大した根性だ。

 もっとも、この点においては利点であると同時に、祥太にとって懸念点とも言える。

 

 ──自分のことよりも、困っている人達を助ける、ねぇ……。

 

 祥太は探偵代理、またジャック・スパイダーとしてそれなりに長い。

 こうした活動を行っている以上、怪盗団ファントムとの対峙を始めとした事件には、何度も遭遇している。

 その中でも、良くも悪くも色々な人間に出会った。

 

 ジャック・スパイダーは当然のことだが、名探偵プリキュアは探偵の役割の他に、ヒーローとしての役割も持つ。

 嘘で覆われた世界を企む魔の手から救い、人々の安全を守るヒーロー。

 それと同時に、彼女らの心の平穏を保つのも仕事の一つ。

 だからこそ、必ず還るべき場所に還らなければならない。自らの犠牲で人々の心に痛みを残すことなど許されない。

 

「だから、名探偵になれる逸材に成長できるか、見極めてやる」

 

 鋭い眼光で、探偵事務所の壁越しに明智あんな、小林みくるを見つめる。

 祥太とジェットが出迎えた新入り達。

 彼女らがどうか、立派な夢を叶い、元気な姿で元いた場所に還れるように。

 

 

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