探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
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1度や2度、思春期の少年は妄想したことがあるだろう。
もしも学校に不審者が侵入してきたとして、その際自分がどう動くのかという、共感性羞恥を引き起こしそうな妄想をだ。
他にも、何気ない日常に突如として美人、または美男な転校生がやって来る。突然バケモノが学校を襲い、ヒーロー又はヒロインがやって来て退治する。時代が進んでも、こんな妄想をするのはままあることだ。
そして、そんな妄想のような出来事が、異能増加時代と呼ばれる今、俺の見ている先で起きている。
「これ以上無駄な抵抗は止めろ! 大人しく投降するんだ!」
「誰がテメーの言うことなんざ聞くかクソガキ!」
今から50年ほど前、インドのどこか辺鄙な村に“願えば水が湧き出てくる”という力を持った男の子が産まれた。それを境に、翌年にはアメリカで雷級の電撃を発生させる女の子が。その次に炎を操れる男の子が……このように異能を持って産まれてくる人間が月日が経つに連れて増えていき、2100年代の現時点での世界総人口から計算すると、割合にして大体3分の1が異能持ちとして産まれていることになる。
かつては異能持ちが産まれた家族に巨額の補助金が国から出されたりなど、まあ優遇されまくっていた。今ではその希少性もほとんど無くなったが、それでも異能優生思想とか異能排除思想なんて馬鹿げた考えを持つ奴の出現は留まることを知らない。そいつらを相手する身にもなれってもんだ。
「ぐっ、くそぉ!!」
「14時24分、レネゲイド確保!」
おっ、呆気なく終わった。道路の一部がレネゲイドの身体に巻きついて身動きが取れない状況にさせられたようだ。あのブレイバー、確かこの前テレビにも出てたな。16歳の若き正義のブレイバーってな見出しで。
っと、調査報告を聞きに依頼人が来る時間だし、そろそろ帰んないと。余裕はあるが、ちょっと急ぎめに行くか。はぁ……駐車場まで行くのだるっ。
「ありがとうございました。これで主人を訴えられます」
俺はその言葉に繕った笑みを浮かべて頷くだけに留める。
探偵業の面倒な所である。ここで安易に寄り添うような姿勢を取ってしまうと、依頼人は俺を完全な味方として見てしまう。俺はあくまで依頼を受けて仕事をしただけの人間として振る舞わなきゃならん。
依頼人の退室を見送り、事務所に戻って所長席にもたれかかった途端、俺の口から盛大な溜め息が吐き出る。探偵の仕事のほとんどが浮気調査ばかりなのはもう慣れたが、依頼人とのやり取りはホントに面倒臭い。仕事として色んなことを聞かなきゃならんけど、愚痴を聞きたい訳じゃねぇんだよなぁ。
さて、取り敢えず依頼も終わったし、報酬も貰ったし、これからやる事と言えば────スケジュールの確認と予算のやり繰りだ。えーっと予定だとこの後は……『行方不明者の捜索依頼相談』ね。このご時世、行方不明者の捜索となると厄介事が無い方が珍しいんだよなぁ。恙無く終われば、それに越したことはないんだが。
「あー……一旦片付けだけして、内容聞いたら報告書まとめて、それから」
「おっはヨー! 今日も良い朝だネ!」
めんどくせぇのが上がって来た。
「おっせぇわド寝坊助、もう3時すぎてんだろーが。ってか今来るな」
「ひっどいなぁ、ボクきみの助手なんだけドー」
「お前がここに居るとめんどくさい事になるんだよ。主にお前の発言のせいで」
「人を疫病神扱いしないでよ、まったくモー」
「俺の台詞だわ疫病神」
「そこは人扱いじゃないのネ」
くっそ、こんな時に限ってコイツが上がってくるとか本気で厄介なことになりかねん。なんか知らんがこの疫病神がやって来たら、必ずこのあと厄介な事が舞い込んでくるジンクスまで起きるし。
「良いから下に降りろ、これから依頼人が来るんだから」
「えーやダ。何で上がって来たばっかりなのに降りなきゃいけないのサ? それにボクにだって依頼内容を詳しく聞く必要はあるでしょ、行方不明者の捜索ともなればサー」
「お前の煽りのせいで幾つ仕事が消えたと思ってやがる。良いからとっとと戻って「あの」あ?」
玄関前に立つ疫病神に下へ戻るように促そうとした所で、聞き慣れない女性の声が届き俺とそいつは彼女へと視線を移す。この時間帯に来たってことは、間違いなく予約していた依頼人のはず。仕方なく通行の邪魔になっている疫病神を引っ張って部屋の奥へと移動させ、彼女を前に訊ねる。
「失礼、本日の午後3時半に相談予約された
「はい、そうです」
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
彼女を部屋へと案内し扉を閉めソファへと座らせたあと、疫病神にお茶の用意をさせ、俺は依頼人の前に座り、名刺を取り出して差し出した。
「改めまして
依頼人が名刺を受け取ったのを確認して、内心仕方ないと思いながら、あの疫病神の紹介に入る。
「で、今お茶汲みをしているのが」
「
お盆の上にあるのは暖かい緑茶、人によっては肌寒く感じる今の時期にはちょうどいい。依頼人は疫病神に向かって小さくお辞儀をするが、その疫病神は木製のパーテーションに隠れた所長席に向かい、所長席用のキャスター付きチェアに座りながら俺たち2人の前に現れた。ほんっとにコイツ……。
「すみません、コイツのことはあまりお気になさらず」
「はぁ……」
「では、早速ですが本題に入りましょう。今回、行方不明者の捜索との相談とお伺いしましたが、具体的な事について教えてください」
「はい」
目の前の依頼人の瞳に、心が宿る。真剣な眼差しの先には、俺に対する一抹の期待と多くの不安が入り交じっていたようだった。
「半年前に姿を消した、兄を捜してほしいんです」