探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜   作:Haganed

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『続いてのニュースです。今日午前6時頃、東京都H市で通行人から、人の指らしきものを発見したと110番通報がありました。警視庁によりますと、指は川沿いの遊歩道で発見され、地面に血痕があったことから事件として調査する方針です。次は────』

 

 

 翌日。ラジオから流れるニュースをBGMにして、俺は朝食以外の朝支度をしていた。朝から気になる内容ではあるのだが、今は依頼に集中しなければならない時だ。

 

 しかし、指か。指だけなのか? 他にも何かあったのでは? って違う違う、今は考える時間じゃない。少し時間的にも余裕があるから“バーズ”に行って朝食摂るんだよ。要らんだろうが、ついでに疫病神も誘わないと。そうしないとアイツから不満を聞き続ける1日になるだろうし。

 

 疫病神にメッセージを送信し、諸々の支度を済ませて外へ。ほんのり寒く感じる風を浴びながら、目的地へと辿り着く。レンガ造り風の壁に2つのアーチ状の窓、ドア横の壁にbaarsの順で並べられている文字看板の店へと入り、ドアベルは来客を店主に伝えた。出迎えたのは、白髪の似合うダンディーな男。名を『森崎(もりさき) 順一郎(じゅんいちろう)』という。

 

 

「いらっしゃい、お連れさんはもう来てるよ」

 

「こっちだよン」

 

 

 手招きする疫病神に従ってる絵面になるからやなこった、という言葉の呑みこんで隣に座り、いつものを頼んで待っている間、疫病神が俺の顔を覗きこみながら訊いてくる。

 

 

「もう聞いてるだろうけどさ、今日のニュース怪しくなイ?」

 

他人(ヒト)が居るのにその話を出すな。気にはなったがな」

 

「今はマスターとボクらだけだからモーマンタイ。でさ、テレビで観たけど、現場が今日君が行く所の近くだったんだヨ。偶然にしては出来すぎじゃなイ?」

 

 

 偶々だ、と切り捨てるには確かに気になる点だ。ニュースで言っていた川浴いの遊歩道、その現場付近にあるのが、かつて英一さんが勤めていた会社。確かに気になるが、その点同士を結びつけるには現状物足りない。都合の良い妄想が精々だろう。

 

 ただ英一さんが鬱病等を発症した原因は会社での人間関係のトラブルによるものだ。多かれ少なかれ、英一さんに関係のある人物が被害者なら、結果的に彼の行方にも繋がる。 不謹慎にも程があるな、この考え。

 

 

「はい、お待ちどうさま」

 

「おっほー! キタキタ! 早速、いただきまース!」

 

 

 提供されたトーストプレートのトーストをノータイムで食べ始める疫病神。俺も思考の海から抜け出して、フォークを取ってサラダから食べ始める。

 

 テレビから流れるニュースは当たり障りのない物ばかりで、あの日から5年という月日が経過したのに、人の営みは変わり映えしていないようで。けれど、あの日のことは世界に大きな傷跡をつけたのも確かなようで。レネゲイドの異能犯罪に対するインタビューで、人が抱く恐怖の片鱗をテレビ越しに感じる事はあった。

 

 

「ねーえ、そっちのコーヒーゼリー食べて良イ?」

 

「やらんぞ。自分のだけで満足してろ」

 

「ケチー」

 

「単品で頼むかね?」

 

「おっきいんだよね、単品だト。小鉢ぐらいのがちょうどいい キブン」

 

「今日はそういう感じと。分かる」

 

「良いから月刊紙でも読んでろ疫病神」

 

 

 ニュースの内容には我関せず、既に食べ終えた疫病神が暇を持て余し始めた。食事は趣味の癖に食べるスピードだけは速いのなんなんだ本当に。

 

 時間を確認してみるが、予定の時刻までまだ余裕はある。が、この駄々こね疫病神が暇を持て余して、俺の飯を横取りしてくるのを事前に阻止するには、ささっと食うに限る。スパゲティとトーストを少し早目のペースで食べ終え、マスターに代金を払って疫病神を連れて外へと出て行く。

 

 

「マコト君、もう行くのかい?」

 

「すんません、依頼もあるのでバタバタしてて。あぁ、 今度はもう少し落ち着いた時にお邪魔します。ご馳走様でした」

 

「ごちそーさまでしター。またネー」

 

 

 一礼して店を出て事務所へと向かい、疫病神は地下で待機しつつ調査。俺はこのまま車で会社、ついでにあの指が落ちていた現場に向かった。

 

 近場の駐車場を検索し、ナビゲートで目的地に到着。 歩いてまず現場へと足を運んでみたが、未だに規制線は張られたままで直接は見れず。仕方なく目的地に向かい、入口前で一台のパトカーが停車しているのを発見した。近場であるために誰か聴取に来たのだろうなと想像しつつも、会社の敷地内へと踏み入れ社内へと入っていく。

 

 階段で受け付けのある2階まで上りきった所で、見知った後ろ姿を2つ、この目に捉えた。目立つ小肥りな体型と、姿勢の良いポニテ。その2人は軽くお辞儀をしたあと、此方の方へと振り向く。

 

 

「げぇッ」

 

「む」

 

「ありゃまあ」

 

 

 知り合いに似てるなーとか思ってたら、ガチの知り合いだったわ。しかもめんどくせぇ奴も居るし。んな事考えてたら小肥りな方の男性警官が、俺の元へと歩み寄って気安い感じで小突いてきた。

 

 

「なーによいきなり嫌な物見たって反応は? 幾らおじさんから加齢臭がするからってさぁ」

 

「いやいや、ナベさんに言ったわけじゃないですから」

 

 

 ナベさん。本名は『真鍋(まなべ) 達也(たつや)』。警視庁で警部をしているベテランで、俺が個人事務所を構える前からの長い付き合いのある気安いおっちゃんである。そして隣に居るのは……

 

 

「では私に向けた物と受け取っていいんだな?」

 

「他に誰が居るんだよ天然堅物」

 

 

 『笹識(ささしき) 伊織(いおり)』。ナベさんと同じく警視庁で警部の階級に在籍する元ブレイバー。早い話が異能者だ。

 

 5年前のあの日から1ヶ月後、警視庁直属のブレイバー部隊を電撃引退をしてお茶の間をにぎわせたかと思えば、刑事として働くときたもんだ。しかもお互い顔を合わせたが最後、俺の依頼とコイツの追う事件が必ず結び付くという、妙ちきりんなジンクスを意識しなければならない相手を、誰がどうして良い顔をするというのか。

 

 

「本当に無礼を隠さないな、探偵。お前ぐらいだぞ」

 

「なら良かったじゃねぇか。面と向かって愚痴を言われりゃ、精神力鍛えられるぞ」

 

「そうだな。幾度となく助けられているのだから、強ち間違いでも無い。ありがとう」

 

「そういう所だぞ天然堅物」

 

 

 コイツ本当に建前を考えもしねぇな!

 

 

「相変わらず仲良いね2人とも」

 

「どこ見て言ってんすかナベさん?」

 

「はい、仲は良い方です」

 

「お前はちょっと黙ってろ」

 

「ははは。あ、でもこれから口には気を付けた方が良いよマコト君。何せ彼女、今は警視だし」

 

「はぁ゙ッ!?」

 

 

 え、いつの間に!? 去年警部に昇進したって聞いたばかりだぞ!? そして徐に堅物が警察手帳を見せて──マジじゃん。

 

 

「嘘だろ信じらんねえ……」

 

「本当なんだよね、これが。もう僕の立場を追い越しちゃったのよ。いやぁ、これで楽ができるって思うと嬉しいやら、ほっとしたやら」

 

「教官も隠しませんね」

 

「それが僕だからね。でも教官呼びはよしてよ。確かに色々教えたけど、今は僕より君の方が階級が上なんだからさ」

 

「それでも、私にとっては恩ある教官に変わりありません」

 

「嬉しいことを言ってくれるねぇ。あ、そうそうところでさ。何でマコト君がここに?」

 

「依頼ですよ、人探しでここに来ました。そういうナベさん達は今朝の指の件ですか?」

 

「正解。指の詳細が分かったから、ここに来たの」

 

「指の詳細? この会社の誰かのものなんですか?」

 

「そ。あ、何か事件に関係ありそうな情報なら、後で教えてよ」

 

「一応守秘義務あるんですけど」

 

「事件解決には情報の共有は必要不可欠だよ。じゃあ、僕らはこれで」

 

「失礼する」

 

 

 それだけ言って2人は階段を降りて姿を消した。早々事件が繋がる事なんて無いと思いながら、俺は会社の受け付けに向かう。

 

 

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