探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
受付に来訪を伝えて少しすると別室に室内され、更にそこで待っていると2人の人物が入室してきた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、こちらもお時間をいただきありがとうございます」
立ち上がり、名刺を2枚取って先ず相手側の名刺と挨拶を待つ。
「丸日プレシジョン人事部の
「同じく、営業部長の
「ご丁寧にどうも。ソウマ探偵事務所、想間 実です」
名刺を受け取り、此方も名刺を差し出し、着席を促されたので座る。そうしてようやく本題へ。とはいかず、先に此方から話を仕掛ける。
「改めて、お時間いただきありがとうございます。警寧の聴取もございましたのに、お疲れ様です」
「何処でそれを?」
「いえ、ちょうど到着した時に入口でばったり会いまして」
「そうでしたか」
「ええ、凄い偶然でした。そんなお疲れのところ申し訳ありませんが、此方も要件をお伝えしても構いませんか?」
「ええ勿論。確か御要件が、自社の営業部に所属していた三上英一についてお聞きしたいと」
「その通りです。彼が嘗て、どのように勤めていたのかお訊ねしても?」
俺のこの問いかけに、答えたのは営業部長の南島さんであった。
「私は彼との直接的な関わりは多くありませんが、真面目で明るい人柄であった事は印象深かったです。取引先の会社からも好印象を抱かれる程、名も知れていました」
「至って優秀で、問題を起こすような人物には見えなかった?」
「ええ。ですが」
「何か、あったんですか?」
南島さん、緒方さんの両名共に苦虫を噛み漬したような表情を浮かべながらも、途切れた言葉を紡ぐ。
「5年前の1件以来、異能者に対する差別意識が強くなっている事は、御存じですか?」
「よく存じています」
「その波が社内にも広まりました。異能を持った社員を排する動きが強まり、結果として離職者を多く出してしまったんです。不当な扱いを続ける社員へ、厳重な注意と罰を行いました」
「でも、止まらなかった」
「はい」
だろうな。他人を差別する輩は、たとえ自身に罰が下っても、差別行為を止めることはない。そうすることで自身に快楽を得ているのだから、止めようが無いのだ。
「解雇や停職処分も考えました。しかし致命的な人手不足にある現状では、そうしてしまうと会社の労働力減少に繋がってしまう。どうすべきか頭を悩ませていた時、彼が過呼吸で倒れたことを知りました」
「そして英一さんは退職した」
「はい」
人事部の緒方さんが、俺の言葉に肯定して話を締めくくる。今の話を聞いて気になる事といえば────
「主に誰が、異能者の排除運動を扇動していましたか?」
「それは……」
「職務上知り得た情報は、守秘義務によって公にすることはありません。教えてはいただけませんか?」
シン、と静まり返る時間が流れた。相手2人は互いに目配せをし続けながら、言葉のない問いかけを続け、最初に意を決したのは南島からだった。緒方はそれに続くように、腹を括った。
「
「それには及びません。加害者の彼が英一さんの行の手がかりを知っている訳では」
……いや、待て。ちょっと待て。今日ナベさんは確か、指の詳細が分かったって言ってたな。
指の詳細
警察の聴取
加害者側主導の2人
居ない1人
「あの現場にあったのは、湯本浩一の指だった?」
自然と呟いた。その可能性が有り得ると感じた、予想の域を出ない妄想を。だが、その答え合わせは、彼らの驚愕の表情によって正解であると示した。
「何故、それを」
「単なる推測ですよ、ですが、当たっていたようで」
そう、この可能性の解は示された。そして、これから起きるであろう可能性も導き出された。このままだと犠牲者が増え続ける、そんな未来を。迷ってる時間は、 無い!
「すみません、今回はこれで終了させていただきます」
失礼であるのは承知の上で、俺は会社を足早に去り駐車場に向かうまでの道で、ナベさんに電話を掛けた。
「もしもし。ナべさん、今からバーズに集合できますか?」
『お、何か分かった?」
「単的に言うと、このままだと犠牲者が増えます」
『―――詳しく聞かせてもらうよ』
「うす」
即座に電話を切ったタイミングで駐車場に到着し、料金を支払って車を出す。法定速度の範囲内で急ぎつつ事務所に車を置いて、すぐその足でバーズへと向かった。
店内に入りマスターに一礼して、ナベさんと天然堅物が居る席の前に着席する。
「お待たせしました」
「そんなに待ってないよ。ほら、ちょうど来た」
「お待たせしました、アイスコーヒーとホットケーキです」
天然堅物の前にアイスコーヒーが、ナベさんの前にアイスコーヒーとホットケーキが提供された。まったくこの人は……アンタ血糖値マズイんじゃなかったの?
「マコト君はどうする?」
「レモネードを」
「はいレモネードね」
「マスター、今回も」
「私は何も聞いてないよ」
ホント、いつものことながら助かる。あんまり人が来ることも無いし、マスターも分かってるから秘密の話し合いにはピッタリなんだよな
「それで、マコト君の方は何を知ってるんだい?」
切り分けたバターの塗られたホットケーキを一口食べ、ナベさんが問いかけた。が、その前に1つ確認したいことがある。
「その前に1つ確認します。今朝の指の件、落ちていたのは丸日プレシジョン営業部所属の湯本浩一であってますか?」
「はっはっはっ、今日も灰色の脳細胞が冴え渡ってるね。その通りだ」
ナベさんがメモ用手帳を懐から取り出し、とあるページを開いて、内容を確認しながら俺に伝え始める。
「鑑識の結果から、現場にあった指の指紋と付近に落ちていた携帯が湯本浩一の物と判明してる。あと血の渇き具合から、事件発生は午前1時頃。しかも、今回は状況的に見て異能が関係していると結論づけてる」
「レネゲイドによる犯行、ということですか」
「そ。その証拠と言っちゃなんだけど」
ナベさんは開かれた手帳を見せ、俺の視点から分かるように図を描きながら話を続行した。
「現場の状況を考慮して、被害者は仰向きに倒れながら姿を消したんじゃないかって推測が建てられてる。こんな風にね」
手帳には地面を示す一本線の下に、被害者を表した腕を伸ばした棒人間が。線の上には伸ばされた腕の先端、つまり指が出ている事を表現しているのだろう。その右側にはケータイの文字が。この情報に付け加えるように天然堅物が話に入った。
「だがこの推測を裏付ける、最たる証拠が未だ見つかっていないのが現実だ」
「湯本浩一本人の姿を見つけられて無い、って事か」
「地中レーダーによる検査を行ったが、異物が混入している反応は無いと出た。だが状況証拠からは、仰向けに沈んで姿を消したという仮説が濃厚と出ている」
「そんな訳で、今回の事件は異能犯罪として処理される方針なのよ。で、マコト君は何を掴んでるんだい?」
今の話を聞いて、より確信に近付いた。英一さんはレネゲイド化し、自分を追い詰めた主犯達に対して復讐を始めたのだ。こうなると、被害をこれ以上増やさない方に舵を取らないとマズイ。依頼人には申し訳なくなるな……。
考えても仕方ない。助力を貰わなくてはならなくなったと、思考を切り替えて行くとしよう。
「────今回の指の件、犯人の目星は付きました」
「それは、誰だい?」
胸中が、不快な重さに見舞われる。何度体験しても、慣れないな。本当に。
「俺が今、捜している人物と考えられます」