探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜   作:Haganed

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※3月27日、展開の一部修正


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 俺はナベさんと天然堅物の2人に、今回受けている依頼について軽く説明し、今朝の事件の犯人が俺の捜索対象である可能性が浮上していることを伝えた。依頼人に断りも無しに伝えたのは探偵失格だが、緊急事態である以上そうも言ってられない。

 

 この話を聴いていた2人は、先ほど会社で逢った時よりも真剣な様子になっていた。

 

 

「成程ねえ。確かに動機も十分、彼の異能なら遺体の隠ぺいも可能だろう。でもそれは」

 

「はい。依頼人の発言と食い違う点があるんです。年齢と共に異能も成長するケースも考えられなくはないんですが、基本異能は使い続けて深化するのが常です。ですが異能の使用が制限されている現在、そのような鍛え方は専門機関に所属していないと出来ません」

 

「常態型の異能又は異形型(デミ)ではない事を考えると、彼の異能は後者のケースが当てはまるだろう。だがその三上英一が情報を握っているのは間違いない、すぐにでも捜査を」

 

「発言よろしいでしょうか、笹識警視」

 

 

 天然堅物の言動を遮るように、少々間伸びしたナベさんの声が店内に響く。此奴は前から突っ走る所があるから、誰かが止めないと必ずそう動いてしまうからな。毎度お疲れさまですナベさん。

 

 

「何でしょうか、真鍋警部」

 

「犯人候補として有力な彼をしらみ潰しに捜すよりも、 彼が狙っているであろう林仁太を尾行すれば、自然と接触できると思います。如何がでしょう?」

 

「それもそうですね」

 

 

 毎度のことながら、急に落ち着かれると温度差が酷いんだよな此奴。

 

 

「お待たせしました。レモネードです」

 

「あざっす」

 

 

 やって来たレモネード飲料の入ったグラスに、ストローをさして飲む。レモンと炭酸、2種類の爽やかさを味わい喉を潤わせた。

 

 

「じゃあ僕らは、林仁太を尾行して三上英一の確保としよう。マコト君はどうする?」

 

「俺も彼の確保に回ります。ただ幾つか準備をしておきたいので、ナべさん達は先に尾行をお願いします」

 

「はいよ。それじゃ笹識警視、先に向かうとしましょう」

 

「分かりました。では探偵、また」

 

 

 金銭を支払い、ドアベルの音が退店を告げる。残されたのは溶けた氷の入ったグラスと空の皿……いやナベさん食うの早っ、いつのまに全部食ったんだよ。

 

 それはさておき、自分のレモネードを出来る限り堪能したあと、店を出て車を取りに一度事務所へと向かう。

 

 車に乗って目指したのはケイの所。近場の駐車場に停めて急ぎ足で到着し、お決まりの合言葉を伝えて早足で階段を駆け下りた。

 

 

「あらまぁ旦那様、えらい()()()はってどうしたん?」

 

「追加の依頼だ。ケイ、頼めるか?」

 

「勿論。何をお求めで?」

 

「この男を探してくれ。所在が東京の可能性が出てきた」

 

 

 三上英一の写真を見せ、借りてきた彼の携帯を差し出す。携帯を受け取ったケイが手を3回叩いた途端、その音に誘われたかのように、この空間の至る所から蜘蛛が現れる。波と呼ぶに相応しい数が集まり、彼女の体に何百匹もの蜘蛛が覆っていくが、当の本人はそれを気にすることもなく、全ての蜘蛛に携帯に染み付いた臭いを覚えさせる。そして覚えさせたと判断したところで、またケイが手を3回叩く。

 

 

「みんな、お仕事の時間え。草の根掻き分けても見つけ出し」

 

 

 その一言を皮切りに空間に居た蜘蛛の全てが動き出した。そして何事も無かったかのように、俺とケイの2人だけが残される。

 

 不意にケイは何かを思い出したかのように1回だけ手を叩くと、彼女の右肩に3匹の大きめの蜘蛛が現れた。3匹の蜘蛛の背には小型のソーラーパネルが搭載されたカメラが載せられている。昨日頼んでいたヤツか。ケイはその蜘蛛達を1匹ずつ違う籠に入れて、俺に手渡す。

 

 

「どうぞ、旦那様」

 

「いつも助かる。本当なら金を払うべきなんだろうが」

 

「とんでもあらへん! うちが旦那様から金銭を貰い受けるなんて、そないな真似できひん! け、けんど旦那様のご厚意を無視するんもあかんし。烏滸がましいのは承知の上で、で、デートとか〜?」

 

「わかった。依頼の無い日を作っておく」

 

 

 もうケイが俺から金を取らない考えを崩さない以上、 俺に出来ることは可能な限りしないと、俺の方が申し訳なくなる。

 

 ま、こんな愛らしい京美人とデートとか、役得以外の何者でもないんだが。

 

 

「ほんまに!? そ、そやけど旦那様が嫌や言うたら違うことでも」

 

「ケイとのデートの方を優先するに決まってんだろ」

 

「ッ〜〜!! も、もう……ほんまにかなわんわぁ」

 

 

 もう5年の付き合いになるが、相変わらず歯の浮くような台詞で喜ぶよなケイは。っと、流石に急いだ方が良いか、名残惜しいが優先すべきことを優先しないと。

 

 

「また連絡する。ありがとな、ケイ」

 

「はい。ほな、また」

 

 

 階段を駆け上り、地上へ出て車で目的地へと向かう。 生後4時間か、何事も無ければ良いが。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 午後8時12分。

 東京都H市S町5丁目、丸日プレジション付近にて。

 

「本当、いやに涼しい世の中になったもんだ」

 

 コンビニから出て開口一番に、真鍋達也はひとりごちる。夕焼け小焼けの歌の情景が、そのまま投影されたような薄明かりに照らされた空模様の下で、彼はコンビニ袋を持って一台の車のもとへと向かった。

 

 その車の運転席側のドアを開け、乗り込む。助手序には笹識伊織が乗車しており、彼女はノートタイプ端末に映し出された4分割のカメラ映像を覗き込んで待機していた。

 

 

「お疲れ様です」

 

「はいこれ、お茶とおにぎり」

 

「ありがとうございます」

 

 

 笹識はそれらを受け取り、ペットボトルの蓋をあけて麦茶を飲む。真鍋も買ってきたパック牛乳にストローを刺して、それを飲んだ。

 

 

「何か動きはあった?」

 

「いえ、全く。この時間になっても出ていません」

 

「営業も大変だねぇ。って、大変なのはどこも同じか」

 

 

 かれこれ8時間以上、2人はこうして見張りを続けていた。腰や脚が疲れてきた時は、外へ出て近くのコンビニに向かうこと7度。暇に押し漬されかけたりもしたが、“待てば海路の日和あり”というように、林仁太を狙って三上英一は現れる。そんな予感が2人にはあった。

 

 

「しっかし、マコト君が来れなくなっちゃうなんてね。 来てくれたら多少楽になれたのに」

 

「今の発言は勤務怠慢に抵触するので、お気を付けてください」

 

「言っても良いと思った人にしか言わないからね。僕としては上司になったのに、あんまり咎めなてこない笹識警視に珍しさを感じるよ。異動したての頃はあんなに刺々しかったのに」

 

「何時の話をしているのですか!? もうあの時とは違いますから!」

 

「恥ずかしくなるとツッコミをする所は変わってないですな、警視殿」

 

 

 そのようなやり取りをしていると、不意に画面が僅かに揺れ始める。車の外からも風の音がびゅうびゅうと吹きすさんできていた。やがて右上のカメラ映像が左に90度回転した物になろうとして────黒に変わる。

 

 

「真鍋警部!」

 

「ん?……ッ!? すぐに行こう!」

 

 

 画面を覗き込んですぐに状況を把握した真鍋が、シフトレバーをDに合わせて車を発進させた。ヘッドライトに照らされた前方が見える全てに影を生み出しては消え、2人は丸日プレジションの正面入口前に到達した。

 

 そこに、黒ずくめの何者かが立っていた。2人は警戒しつつも車を降りて、佇むだけの何者かに対し真鍋は訊ねる。

 

 

「君! そこで一体何をして」

 

 

 全てを言い切る前に、黒ずくめの誰かは脱兎の如く逃げた。それに合わせて笹識が相手を追いかける。

 

 

「伊織君待て!」

 

 

 制止の声を振り切って彼女と黒ずくめの逃走劇が繰り広げられた。目と鼻の先にあった駐車スペースに侵入し、左へ曲がって突き進んだ先、現れたフェンスに囲われた公園へと黒ずくめが入って行き、笹識もまたその公園へと入った。

 

 絵面だけを見れば、不審者が囲いのある場所に追い込まれているようにしか見えず。だが彼女の頭に、そのような希望的観測は持ち合わせていない。冷静に、警戒することを怠ることなく彼女は背を向けている黒ずくめに問う。

 

 

「警視庁捜査一課、笹識伊織だ。なにゆえあの場に居たのか、詳しく聞かせてもらうぞ。三上英一」

 

 

 あの場に現れる理由を持っているであろう人物の名を呼んだ。黒ずくめはその言葉に反応することもなく、静かに闇の中へと沈む。黒ずくめが立っていた場所を、ケータイのライト機能で照らしてみても、人が通れるほどの穴は無い。

 

 

「闇に……いや、影に逃げたか」

 

 

 そこで彼女は、あれが三上英一であることを決定づけた。

 

 

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