探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜   作:Haganed

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※3月18日 1部編集


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 翌日の朝、営業開始すぐのタイミングで天然堅物とナベさんが事務所にやって来た。朝早くから何事かと訊けば、三上英一と接触したとの報告が。昨日のこともあって頭を悩ませてたってのに、更に面倒なことが起きたときたもんだ。

 

 1度事務所の中へと迎え入れ、話を聞くことにした。林仁太が出るところを見張っていたところ、4つのカメラの内1つの映像が暗闇に変わり、慌ててそのカメラのある場所に向かうと黒ずくめの男が佇んでいたという。フェンスに囲われた公園に追い詰めたものの、正しく暗闇に逃げたとのこと。地面を掘って逃げた形跡も無かったらしい。

 

 面倒になってきたなこれは……。

 

 

「警察としちゃ、このまま三上英一の捜索と林仁太の保護を続けると見て良いんだな?」

 

「多分、そうなるだろうね。とはいえ監視体制が強化される訳でもないよ、何せ人手不足だし」

 

「お喋りが過ぎますよ警部」

 

 

 ま、それもそうか。現時点で失踪状態の湯本浩一のみ、林仁太に被害は無く昨夜はただ現れて逃げただけ。そして相手は異能持ち、対策を取らないと二の舞になる。

 

 だが俺としては、“対策を取って捕らえました”となるのは都合が悪い。何せ、せっかく新たな手掛り、それも黒幕の所業、ひいては彼の異能が変化した理由を裏付ける証拠になり得る可能性がある。その為には彼が捕まる前に情報をそろえないといけないが────

 

 

「今日はやけに疲れてるね、何かあった?」

 

「いえ、特に何も」

 

「そう? 相談はいつでも受け付けてるから、気が向いたら話しても良いからね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 警察相手に捜査を一旦止めてほしい、とか言える訳ないだろ。こればかりは彼が捕まらないよう祈っておくか。

 

 報告を済ませた2人は職務に戻り、俺は時間を置いて地下に向かった。地下ではモニターの前に腰かけている疫病神が、カップラーメンを啜っている。しょうゆベースのスープが漂う中、疫病神は俺に気付いて食事を中断した。

 

 

「おー、話は済んダ?」

 

「ひとまずは、だな。あの2人が英一さんらしき人物と接触したそうだ」

 

「そりゃまた面倒ナ。時間と勝負したくないのニ」

 

「いつだって時間との勝負しかないだろ。それより、彼女の方はどうなってる?」

 

「今は原宿で遊んでるみたイ。満喫してるようで何よリ」

 

 

 今東京に居るのか。だとしても今日は無理だな、用事で山梨に行かないと。そこで手がかりを探して、この一件の因果関係を解明するまでは。しっかし、彼女の方をどうにかしないといけないのは変わらないんだよな。

 

 

「どうしたもんか」

 

「もう拉致ったほうが早いんじゃなイ?」

 

「最終手段だバーカ」

 

 

 不味い、コイツと暮らしすぎて思考まで似てきてやがる。確かに拉致った方が早いが、それをして面倒になるのは結局俺だ。可能な限り向こうに話を聞いてもらえるようにしないと駄目だ。

 

 そう結論を出してこの話題を終えて、俺は携帯で英里さんに電話をかけ、今日の都合を訊ねる。報告と調査を兼ねて家に向かうことを伝えると、今すぐ帰宅して待っていると返答が来て電話を切って向かった。

 

 2時間以上を要する道を走りきり、三上家に到着し玄関のチャイムを鳴らす。待っていた英里さんに促されるがまま居間に座り、お茶を持ってきた彼女が前に座ったタイミングで、英一さんらしき人物を東京で目撃されたことを伝えた。

 

 東京に居ることが分かった為か安堵した彼女に対して、これ以上は伝えない方が良いと悟って英一さんの部屋の調査に思考を移させる。そうして2人共々部屋の中に入って間もなく、彼女が俺を呼んだ。

 

 

「あの、探偵さん」

 

「はい」

 

「兄は何故、東京に居るんでしょうか

 

「と、仰っしゃいますと?」

 

「兄にとって、東京は良い思い出のない場所です。5年前の1件以来、異能を持っているからと非難されて、辛い記憶しかないのに、どうして……」

 

 

 そこで彼女の言葉が途切れた。何か、考え始めている。とはいえ、そこまでの時間は必要無いだろう。少し考えれば、誰にだって見えてくるものだから。

 

 

「調査を開始します」

 

 

 言葉に詰まる彼女を視界から外し、先ず俺は目の前にある学習机へと視線を移す。あの時、最初に机の下を調べた際に違和感を覚えた。何も見つからなかったため、気のせいかと思ったが……。

 

 いいや、気の所為では無い。今の俺には、あの時持っていなかった情報を手に入れていた筈だ。それは────湯本浩一の存在。

 

 あの時、ナベさんは図解を書いて見せながら言っていた。湯本浩一は“仰向けになって姿を消した”と。それと同時に、あの天然堅物は“地中レーダーを使っても異変は無かった”とも言っていた。こんな事が出来そうなのは、三上英一だけだろう。

 

 だが、これには決定的な齟齬がある。それは、英里さんが言った異能の説明と、事を起こした相手の行動に差異が確認されているのだ。

 

 英里さんが説明した異能の内容に対して、仮に彼女が嘘ないし隠し事をしていたとする。だが彼女にメリット等は無い上に、家族の情で隠す必要が無い訳ではないが、少なくともその線は否定して良い。

 

 ではなぜ説明された異能の内容と差異があるのか。襲いに来た相手が三上英一では無かったから? 一理ある。何なら普通はそう考えるのが当たり前だ。その説を覆す証拠が出ない限りは。その辺りは()()の調べがついて、そこで出るかどうかなる。

 

 本題に戻ろう(閑話休題)。湯本浩一の指の1件で、俺はある可能性を持ってここに来た。それを証明するために、1度カーテンを閉じ部屋の電気を消す。そして学習机の移動棚の背面に手を伸ばし触って感触を確かめて……あった。

 

 木の固い感触とは別のものを感じ、迷わずそこに手を突っ込み手探りで探す。もう少し奥かと腕を突っ込み満遍なく探し続け、中指が何かに当たった感触を覚える。迷うことなく当たったそれを掴んで一気に引き上げてみれば、俺の手の中に一冊のノートがあった。

 

 

「あの、探偵さん、何かあったんですか?」

 

「まさかと思って探りを入れたんですが、見事に当たってましてね、コレです」

 

 

 彼女にノートを見せる。何の変哲もないそれであったが、取り出した場所について言及すると、彼女から要領を得ない反応が出る。

 

 

「このノートは、この棚の背面に出来た影の中にありました」

 

「待ってください! 影の中にって...兄が影に持ち込めるのは、 身に付けている物だけです! 自分の手から離れた物を影の中に収められません!」

 

「では一度内容を確認しましょう。筆跡に憶えがあれば、誰の物か定かになるでしょうし」

 

 

 彼女にも見えるようにして、ノートの表紙を開ける。日付と天気、出来事に対する感想が記されているため、 これは日記であると見て良い。俺が1番気になっているのは、英里さんの反応なのだが。

 

 

「この筆跡に、心当たりはありますか?」

 

「……………兄のものです。見間違えようもありません」

 

 

 ひとまず第三者の物でなくて良かった。こんな所に誰とも知らない奴の筆跡のノートがあるとか、完全に別の事件発生してる状態とか、冗談でも笑えん。考え事をしながらページをめくっていくと、ある記述に目が止まった。

 

 

6/22  雨

最寄りのバス停に乗って病院に行って、診察を受けていた時、先生にとある集会に来ないか? と誘われた。 なんでも、心に傷を負った異能者達の交流会らしい。 興味が湧いてきたので、行くことを決めた。どんな人達が居るのだろう。

 

〜〜〜

 

6/25 雨

今日も雨、昨日も雨。水不足には困らなさそうだが、出かけるには億劫に感じる日だった。

そんな日だったが、先生の言っていた異能者達の交流会に参加してみて、自分と同じような境遇が集まっていた。5年前の人災によって、仕事を辞めさせられ、犯罪者などとありもしない事を吹聴され、心に傷を負った人達だった。

彼らが一体何をしたというのだろう。僕らが何をしたというのだろう。ただ異能者であるからという理由で糾弾され、言葉の暴力を振るわれて。こんな理不尽を許している奴等が憎い。

 

6/26 雨

病院で薬を貰った。向精神薬とは別の物だ。先生曰く、異能の成長を促す薬らしい。まだ試薬の段階らしく、調整の為に被験者を探していたのだそう。普通こういった物は、きちんとした手続きを踏むのが当然と思ったのだが、先生が言うには僕みたいな人にしか頼めないと判断してとのこと。

怪しいとは思うものの、お世話になった先生への恩しと考えて被験者になった。

 

 

〜〜〜

 

 

7/3  晴

出来た。

 

 

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