探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜   作:Haganed

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7/3  晴

出来た。

 

出来たできたできたやった!

 

先生の薬は本物だった! 異能を使う度に、異能の性質がどんどん強化されている! おかげで影の中に自分以外の物を入れられるようになった! それだけじゃない、 影の中に潜れる時間も長くなった! 30秒から、5分もの時間を!

先生曰く、あの薬は異能を成長させやすくする効果があるとのことだ。僕にこんな可能性があっただなんて! 今日は興奮して眠れなくなりそうだ!

 

7/4 晴

結局昨日は興奮のあまり眠れなかった。流石に反省。 病院に行き、先生からある提掌を持ちかけられた。追害される異能者を救うための活動に興味はないか、と。何をするのか聞くと、話相手になってほしいのだそう。

迷うことなく、行くと決めた。

 

〜〜〜

 

7/10 曇

ふざけるな。僕がお前達に何をした。

あの人がお前達に何をした。

彼女がお前達に何をした。

悪いのは、アンゴルモアだけだろう。

こんな世界で、なんで僕達が悪者だとさげすまれなきゃいけないんだ。

だったら、僕は━━━━

 

 

 これ以降、彼の記述は途断えている。あの医者、 本当にとんでもない物を作りやがって。異能の成長を 促進させる薬だと? 道理で色々と噛み合わなかった訳だ。

 

 っと、それよりもだ。一緒に読んでいた英里さんの手首を掴んだ途端、後ろへグイと引っ張られたが、 1歩も動くことなく彼女の動きが止まる。

 

 

「探偵さん、難してください」

 

「クリニックの院長に聞いても、何も答えてはくれませんよ」

 

「やってみないと分からないでしょう!?」

 

 

 だろうと思った。

 

 

「仮に、クリニックの院長と話す事が出来たとして、 相手が素直に全部吐くと思ってます?」

 

「じゃあこのままあのヤブ医者を放置しろっていうんですか!?」

 

「英里さん」

 

 

 なるべく強めに声を発し、その後数秒程の間を空ける。思う気持ちが分からない訳じゃないが、今の彼女には落ち着いてもらわないと困るんだ。

 

 

「逸る気持ちが分からない訳ではありません。ですが、 今あなたが行った所で、あの医者は当然の如く真相を隠してハイおしまい、とするでしょう。そして我々を嘲笑うかのように真相を掴ませないように動く。ですのでどうか今は、耐えていただきたい。英一さんを見つけ出すために」

 

「…………わかりました」

 

 

 苦虫を噛み潰したような表情のままだが、思いとどまってくれた様子。ここで制止してなかったらどうなってたんだろうか、ハードモード突入か?

 

 

「それに、です。ここだけの話、知り合いに腕の良い情報屋が居るんですよ。東京に居る可能性が高いなら、そいつに任せておけば必ず見つかります」

 

「信じて、いいんですよね?」

 

「もちろん」

 

 

 ここまでくればもう大丈夫だろう、さっさと次の新しい手掛かりを捜す動きにシフトするか。

 

 棚の違和感を覚えて調べた結果、影と呼べる場所から物体を引きずり出す事に成功した。つまり影と呼べる場所を造らなければ、新たな証拠を見つけ出すことは出来ないことを示す。更に物品によっては影が生まれない箇所も出来るため、完全な暗闇で作業する他ない。

 

 ここからは……押し入れの中で作業した方が良いな。

 

 押し入れの中の物を取り出して空いたスペースを作り、その中で本棚にあった本すべてを闇の中で触りながら確認していく。本の内容を読む必要は無いため、いつもより短く済むだろうが、2〜3時間は確実にかかるだろうと考えながら調査を行った。

 

 時間の流れが朧気になってきた辺りで、ある本のページの中にするりと手が入った。そのまま手探りで中の物を引っ張り出し、押し入れから出て確認すると、その手には1つの携帯が握られていた。もしやと思ったのも束の間、この携帯の所有者を英里さんが当てる。

 

 

「これ、兄の携帯です!」

 

「電池残量が無いみたいですね、電源が入らない。充電器を」

 

「今持ってきます!」

 

 

 早いな。改めて思うが、この人行動に移すまでが早いわ。ここまで早いの、初めて見たかもしれん。

 

 コンセント、持ってきてくれた充電器、携帯を繋げて充電を開始。充電を待つ間、物々しい気配を隠さずにいた彼女に、俺はふとこんな質問を投げた。

 

 

「実を申しますと、1度あなたの口から聞いてみたかった事がありまして」

 

「何ですか、突然」

 

「特に問題が無ければ答えていただきたいのですが、 なぜ御両親は英一さんの捜索に消極的なのでしょう?」

 

「探偵さんなら、色々分かっているんじゃないですか?」

 

「まさか。私の頭の中にあるのは精々、集めた事実や証拠をもとにした推測です。分かっているように見えるのは、推測が事実にとても近かったからそう見えるだけで」

 

「なんか、ちょっと嘘っぽく聞こえます」

 

「なんで?」

 

 

 なんで? 嘘付く所でもないでしょうに。

 

 英里さんは俺の反応のあと、堪えきれずに少しだけ笑った。そんなに可笑しいか? と納得のいかない視線を向けると、彼女は自身の弁護に回る。

 

 

「いや、だって。探偵さんってこう……色んなことを見透かしてそうで。同じ人とは思えないぐらいなのに、さっきの反応は普通の人っぽくて」

 

「え、俺人外だと思われてます?」

 

「そうじゃなくて!」

 

 

 また笑った。今度は先程よりも大きめの声量で。失礼だな、俺だって何でも見透せるわけじゃないんですが? 今も分からない事あって絶賛お悩み中だが?

 

 ひとしきり笑ったあと、英里さんは少し哀しげな目をして、ポツリポツリと静かに語り始めた。

 

 

「5年前に起きた、アンゴルモアの事件があったじゃないですか。あれ以来、両親は兄を見る目が変わったんです。昔は異能を持っていようが持ってなかろうが、自分の子どもだから愛してるって考えだったんですけど……いつの間にか、兄は恐怖の対象として避けられるようになってしまった」

 

 

 ANP(アンプ)、異能恐怖症のそれだな。多分。とはいえ無理もない、あの日は間違いなく異能に対する恐怖心を植付けられた。あの2人にとって三上英一は、何時爆発するかも分からない不発弾のように見えてただろう。

 

 彼女の両親のようになった人を多く見てきた立場からすると、仕方がないと思うと同時にその程度の愛しか持てないのかと2つの意見が思い浮かぶ。言っても何かが変わるわけでもないのだろうが。

 

 

「家族って、異能を持ってるだけで、意味を為さなくなるんでしょうか?」

 

 

 寂しそうだった。

 

 本来あった筈の物が残骸となって風化していく様を見ているようで、俺は心の内で謝罪した。謝ることしか出来なかったともいえる。

 

 気分を変えようと笑一さんの携帯の充電量を確認する。8%と表示された画面が現れた。この充電量なら一応出来なくはないか。そう考えてポーチから目当てのUSBと変換アダプタを取り出し接続、充電中のスマホの電源を付ける。

 

 1、2分ほどして画面が点灯し、パスワード入力待ちの状態に入ったところで、コードを抜いて取り出したものを挿した。

 

 

「あの、これは一体……」

 

「ちょっとした()というヤツです。このことはご内密に」

 

「はぁ」

 

 

 少ししてパスワード画面のキーが14106の数字を自動的に打ち込み、ロックを解除する。すぐに充電しようと思ったのだが、映しだされた画像を目にして手を止めてしまった。だがこれは……そう考えて真っ先に電話帳やメールを確認し、とある確証を得た。

 

 正直、彼を見つけ出せたところで説得材料がほぼ無い状態だからどうしようかと思いもしたが、これはその説得材料になりうる。

 

 

「すみません、英里さん。この携帯、暫くお借りしてもいいですか?」

 

「それは、構いませんが」

 

「ありがとうございます。それと、もう1つお願いが」

 

「お願いですか?」

 

「ええ。────英一さんの目を覚ます為の助力を」

 

 

 彼女の気が引き締まっていくのを感じ取った。

 

 

「やります」

 

 

 力強く言ってのけた彼女に、俺は安堵する。これなら、彼をこちらに引き戻せると確信したために。

 

 

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