探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
居た。
居た。
居た居た居た居夕居夕いたいタいタイタ。
居た。
あの不気味な雰囲気を漂わせていた警官が
遮二無二にゴミ箱を漁っていた。
その瞳に、およそ人らしき感情が映されることはなく、ただひたすらに目の前のものに執着している。
「きゃあああ!!」
それに対する恐怖を抑えきれなくなるのも、必然の事であった。その叫び声で警官の動きは止まり、眼球が彼女を捉える。
「あぁ、貴女でしたか。ちょうどいいので、お聞きしたいのですが」
警官は緩慢とした動きで彼女に小さなゴミ袋を見せた。片手で結び目を解き、それ逆さに向けて中身を落とすと、カラカラと鳴って地面に落ちていく。
落ちた中身の1つが地面を転がって彼女の足下に来る。彼女の視線がそれに向けられた瞬間、全身を悪寒で拘束されるような不快感が彼女を襲った。
「ひぃッ!」
「不思議ですねェ。なぜ、貴女の捨てたゴミ袋から、この違法薬物が出てきたのでショウ?」
幽鬼みたく立ち上がった警官は、機械じみた動きで顔を向ける。
「ねえ」
警官の足先が彼女へと向けられた。
「ねェ」
警官が1歩、前へと踏み出す。
「ネェ」
光さえ届くことのない闇が彼女を見据えた。
「ね、ェ」
ゴキリ、と警官の首が鳴って首が曲がる。そしてまた1歩、警官の足が踏み出された。彼女の思考に逃走の2文字が思い浮かんだが、恐怖によって動くことがままならない状態にあり、結果恐怖は助長する。
「ネ、エ゙ッ!」
大きく警官の足が踏み出され、彼女へと迫る。
恐怖による諦めから目を閉じた彼女に向かって凶手が伸ばされ、喉元へとそれが喰らいつく────ことはなく、直後に聞こえたのは何かが砕ける音。次いで、硬い何かとぶつかった時の鈍い音が、彼女の耳に入る。
恐る恐る目を開けた先で待ち構えていたのは、傍に立つ見知らぬ人物と、倒れ伏す警官の姿だった。
「怪我は?」
男が尋ねる。咄嗟に首を横に振って否定し、それを見た男は視線を倒れている警官へと戻した。警官の方はというと、口をおさえて自身を攻撃した男に敵意の眼差しを向けている。その視線を覗いてしまった彼女は、咄嗟に男の後ろに隠れ服を掴んだ。
「まだやるか? 今度はタダじゃ済まさんぞ」
男の煽りを聞いた警官は少しの間彼を睨み付けていたが、力無く立ち上がったあと全速力で逃走を行い姿を消した。
男は1つ息を吐いて、服を掴んでいる彼女に視線を向ける。視線が交わされ彼女が礼を言おうとしたが、男は地面に落ちている錠剤の1つを手に取って観察を始めた。
「あ、あの! 助けてくれて、本当に」
「礼は結構。此方からも幾つかお伺いしたい事がありますので」
そう言って男はケースから名刺を取り出して彼女に渡す。手渡された“ソウマ探偵事務所”の名刺を見て、 彼女に緊張が走るが、男は特に意に介さず口を開いた。
「依頼で調査をしていたところ貴女に辿り着いたのですが、周辺で妙な動きがあった為、少し探っていました。案の定、行動に移したので介入しましたが、どうやらあの警官も私と同じ事を聞きに来たようで」
「それって……」
「察しの通りですよ」
男が錠剤を見せつける。
「貴女が所持するこの薬。これを処方した医者が、とある犯罪に関与していると情報を得ました。これを貰った経緯について、詳しくお話ししてくれますか?」
男の要望に、彼女はふんぎりの付かない様子を見せる。
「もし話をしてくだされば、貴女の事は目を瞑ります」
そこで男は、このような発言を行った。
「えっ?」
「貴方は何も関与していない。貴方は警官に偽装した何者かの執拗な調査によって安全を侵害された被害者であり、私は偶然そこに介入した第三者である。これでその話はおしまい、そうしましょう」
問を置いて、彼女は首を縦に振った。散らばった等を回収し、2人はその場を離れ別の場所へと向かったのだった。
自動ドアが開き、外気を浴びる。若干肌寒さを感じる夜の中を歩いて、駐車場に停めてある車へと乗り込んだ。
運転席に着いて一息入れた所で、バックミラーに映っている笑みを浮かべている警官を見る。先程、骨が折れるぐらいの威力で殴ったというのに、何事も無かったかのようにピンピンしていた。
警官は自分の顔を両手で覆い隠す。黒いもやが発生し、それを拭うようにして両手を外すと、見慣れてしまった疫病神の顔が登場した。ぶん殴りたくなる笑みのまま、運転席の角に顎を置き、ダル絡みを開始する。
「ねーねーどうだっタ? 良い情報手に入っタ? 入ってるよネェ! だってボクの考えた作戦なら100%成こブッ」
顔面に肘鉄をくらわせて物理的に黙らせる。
「そうだな。手に入ったから、ぶん殴らせろ」
「
疫病神が自身の鼻をつまんで引っ張り、顔を戻す。本当にギャグみたいな生態してんなコイツ。
「で、真面目に聞くけどさ、情報は手に入っタ?」
「運悪くな」
「んふー、それは良かっタ。で、その情報を手に入れた君はどうするつもリ?」
「詳しくは決めてねぇ。それに、今は英一さんを見つけ出すのが先だ」
彼女から貰い受けた数粒の錠剤が入った袋を投げ渡す。
「おっト。おー、これが“異能を消す薬”カー」
「そっちも解析やれよ、急ぎで」
「無茶ぶリー。でもオッケー!」
エンジンをかけ、車を走らせて事務所への帰路につく。彼女からの情報であの医者が真っ黒なのは裏が取れたが、依頼内容はあくまで三上英一の捜索だ。肝心の居場所が突き止められなきゃ依頼達成とはならない。
そう。先程やってた事は依頼とは全く関係無い、俺個人の為の調査でしかないのだ。もちろん依頼を疎かにするつもりは毛頭無いが、居場所探しはケイに任せてある以上、俺がやっても時間の無駄だしな。
東京に到着し、高速道路を降りて信号待ちで停まったところで、フロントガラスにポトッと蜘蛛が落ちてきた。適当な路肩に停めて窓を開けると、蜘蛛は車内に侵入しダッシュボードに到達し動きを止めた。
「どうやら突き止めたみたいだネ」
「みたいだな。気は乗らんが、このままケイの所に行くぞ」
「はいはーイ」
気乗りしないものの、この疫病神を連れてケイのもとまで直行する。前に停めた所とは別の駐車場に停め、雑居ビルのスチールドア前で、いつもの合言葉を告げて地下へと進んでいく。
「旦那様、おかえりやす」
「おっじゃましまース!」
「ただいま。早速で悪いが」
「ええ、どうぞこちらに」
奥の部屋へと案内され、襖が閉められる。「いテッ」アイツは間に合わなかったらしい。もう一度襖が開き、疫病神が入室した。
「ねーちょっと、ボクだけ扱い酷くなイ?」
「灯りは着いとんのやけどなぁ」
「うーわ、こワー」
相変わらず、ケイの疫病神嫌いは健在らしい。昔世話になったからといっても、それはそれでこれはこれのようだ。俺も同じ扱いをしてるので、ケイについては何も言うまい。
地図を持って机の上に広げ、ケイはとある地点を指をさす。
「件の御人はこの場所にいはります」
「
「どれどレー? ……あぁここネ。確か老人ホームの施設がある所だヨ。今じゃ廃墟になってるけド」
「えぇ。ただ1つ問題が」
「なんだ?」
「その御人以外に4人、計5名のレネゲイドが
「5人か。他4人の異能の詳細は分かるか?」
「すんまへん、そこまでは」
「そうか。ありがとうな」
そのレネゲイド達も宮津幸長の手引き、いや思考誘導か。それによって集められた者たちなのだろう。しかも異能持ち、英一さん以外どんな異能を持ってるか分からないせいで、こちらも対処のしようがない。とするとここはいつもの「ぶっ壊しタイム行っちゃうー!?」
「うるせぇぞ疫病神。まだその時じゃねぇ」
「エー! つまんなーイ! ボクは早く悪党が無様に絶望するの楽しみにしてるのニー!」
「この場合はいつものプランで行くんだよ。我慢しろっていつも言ってんだろ早漏野郎」
疫病神は不満タラタラでブーイングをするが無視無視、いつものヤツをして捜索対象だけと対峙する方向性で行く。
「ケイ、その5人の口から襲撃計画云々の話は出てたか?」
「喋ってはりましたよ。こちらにメモも用意しとります」
「助かる。えーっと、先ずは」
ケイから受け取ったメモを見つつ、5人の襲撃場所を確認し作戦に備えていく。事を起こすタイミングは……3日後、その日に勝負に出るとしようか。