探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
三上を静止させようとする必死な叫びとは裏腹に現実は虚しく、スレッジハンマーは林仁太の頭部目掛けて振りおろされていく。
次の瞬間、三上は背中に強い衝撃が走り、態勢が前のめりに崩れる。狗束された林仁太もろとも倒れ、殺害は中断された。またも痛みに悶えながら、三上はやって来た何かを見る。
「ッ、お前!?」
「よお、俺は言った筈だぜ。策はまだあるって」
「探偵さん!」
そこに居たのは、先程影に捕われていたマコトであった。脱出した彼は影に足を取られている彼女を引っぱり上げ、地上に戻した。
「どう、やって」
「答え合わせの時間だ」
三上の問いに、マコトはある物をポケットから取り出す。太めの棒で、なんの着色もされていないそれをマコトが折ると、またたく間に光り始めた。
「サイリウム……!」
「そうだ。影に落ちた時のために用意しておいた。これを靴裏の所で発光させて脱出したんだが、予想以上に勢いよく飛んだんで、そのまま蹴ったって訳だ」
「なぜだ? なぜお前が、影の性質を知っている!?」
その疑問に対し、マコトは人さし指で自身の側頭を軽く叩きながら答える。
「湯本浩一の現場にあった携帯」
「?」
「なんで携帯が残っていたのか疑問でな。で、それを推測するために湯本浩一の殺し方を考えていた。結論としてアンタは次の順序で殺したものと考えられる。
1.被害者の帰宅ルートに存在する影へ潜伏
2.携帯を見ながら歩いていた被害者が帰宅ルートを通る
3.影に踏み込んだ被害者を拘束し、自分ごと倒れる形で引きずりこむ
4.放置して窒息
おおかた、こんな手順と見ていい。で、だ」
叩くのを止め、マコトは指を鳴らす。
「ここで3の手順に注目する。拘束された被害者は、 危険から逃れるために脅威を排除しようとした。口か首か、そこはどっちでも良いが、拘束を外そうと試みたら、まず間違いなく携帯は手放す可能性が高い。落ちる場所も必然、影の近くだ。だがそうなった場合、携帯が影に沈むはず。実際にそうはならなかったがな。そうなった可能性として、携帯が光を発していたから影に沈まなかったと推測した。以上の事から、影は光を排除する性質を持っていると考えたのさ。ま、実際にこの目で見るまで確証はなかったがな」
推理のお披露目か終わった辺りで、空からある物がやって来た。それがマコトたちの頭上で静止すると、 途端に夜の闇が消え昼間のような明るさに変わった。
「詰みだぜ、アンタ」
「これも、用意した物か」
「正解。ドローンに20万ルーメンの光を発するライトを取り付けて待機させている。もう逃げ場はないぞ」
言い終わるや否や、マコトは三上のもとへと向かう。人質を取ろうとした三上だったが、呆気なく引き離され両手の親指を後ろで拘束された。
最早打つ手の尽きた彼は、力なく項垂れ鎮座する。同時に、マコトの口から大きな溜め息が出て、肩の力が抜けた。
「ったく、歳は取りたくねぇもんだな」
「やー、お疲レー」
間延びした声を出しながら、
「まだ来るタイミングじゃねえだろ、何しに来た?」
「ひっどォ。報告した方が良いと思って来たのニ」
「何を?」
シロクが携帯を操作し、あるニュースを見せる。映っている場所は東京都の菅生にある廃墟だった。
「菅生……そうか、捕まったのか」
「鎮圧部隊がぱぱーっとやったみたイ。ってな訳で」
やって来たシロクが三上の目の前に立ち、芝居がかった語り口で事実を伝える。
「やあ三上英一さン。ボクはトウミ シロク、そこに居る探偵の助手ダ。早達だけど、君が居場所だと思ってた所は、ブレイバーが消しちゃいまし夕! これで君は根無し草に逆戻りでース!」
マコトは頭を抱えた。それを聞いた三上は、項垂れた姿勢のまま黙っていたが、僅かに体を震わせ、うすら笑いの声をこぼす。
「何がおかしいノ?」
「……確かに今回は僕の負けだ。完敗だよ。でも、全てを諦めたわけじゃない! 必ず戻って、僕らを
「わぁオ。すっごい執念だネ」
「お兄ちゃん……!」
この捕まった状況になって尚、彼はそのように言ってのけた。シロクと英里の2人はそれぞれ感心と悔しさを見せるが、マコトは冷ややかな視線で彼を見たかと思えば、 彼と目を合わせたあと、その頬を強く叩く。
「いいかげんにしろよ、アンタ」
怒りのこもった声色が届いた。
「そんなに殺したいのなら、もう俺も止めねえ。勝手に殺し回って、悪党の汚名を被ってろ」
「どういう風の吹き回しだ?なら、そうさせてもらう」
「あぁ、勝手にしろ。英里さんの幸せを貪って、なんでもしやがれ」
マコトの言葉に、彼が疑問を抱いた。
「どういう意味だ? なんでそこでエリの話になる?」
「まだ分からねぇのか、このすっとこどっこい」
マコトが彼の胸ぐらを掴む。そのまに込められた思いを強く示すように。
「お前は今、英里さんの幸せを1番踏みにじってんだ」
「だから、どういう」
「今後彼女は、殺人犯の妹というレッテルを付けたまま社会を過ごさなきゃいけない。世間からの批判や、自称正義の人間からの罵詈雑言を受けながら生きてくしかないんだよ。少し考えれば、それがどれだけ地獄なのか分かる筈だ。同じ苦しみを受けたアンタなら」
秒針が10進んだ。そこでようやく、三上はマコトの言った事を理解する。彼の視線が自身の妹に向かうが、 それは更に自身の罪を自覚させるだけだった。
焦燥感に駆られた三上が、マコトに視線を向ける。 マコトは首を横に振って答えた。
「アンタの妹は、アンタが起こした事件のせいで苦しむ。もう少し早く気付いていたら、彼女は幸せで居られたんだ。家族であるアンタは、それを潰してしまったんだ」
「僕は……ぼく、は…………!」
三上英一は、自分の罪の重さを理解し、絶望した。 彼の異能を封じるために用意したライトは、無情にも彼の罪を明るみにしているようだった。
頭をステージの床に擦り付けて、自身を責めていた三上のもとに彼女が傍へとやって来た。彼の背中に手が添えられる。
「お兄ちゃん」
2人の目が合った。
「戻ろう。私、またお兄ちゃんの作ったご飯食べたい」
「うん……うん…………!」
頷いてい頷いて、彼は妹に支えられながら立ち上がる。マコトも立ち上がり、三上兄妹に目配せをした。
「これで依頼は終了しました。あとは、あなた方の判断にお任せします」
「探偵さん、ありがとうございます」
「よければ、近場の交番まで送りましょうか?」
「いえ、大丈夫です。今は、兄と2人で話したいので」
「分かりました。それと、英一さん」
マコトと三上の目が合う。
「今度は、間違えないでください」
「────はい」
たった一言。その重さは、伝わっていた。
三上兄妹はその場を去り、残されたマコトとシロクは明らかにライト1個分しか入りそうにない袋に、全てのライトを仕舞っていた。
「そーいやさ、アイツはどうするノ?」
「決まってる」
全てのライトを片付け、狗束していた林仁太も袋に入れて、マコトはただ静かに答える。
「悪を為す」