探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
「探偵さんの仰る通り、依頼をした理由はある事件が連続して起きたからと考えたからです」
「その事件とは」
「ブレイバーの殺害です」
殺人、か。少年が警護対象であることを加味すると、ブレイバーが殺されたって話になるが……俺はここ直近でブレイバーの殺人事件なんか聞いた事ないんだが。顎に手をやった俺の様子を察してか、彼が話を続ける。
「ここ直近でブレイバーの死亡を聞いた事が無いのは無理もありません。自分も噂程度ではありますが、ブレイバーであることを秘匿されたと耳にした事が」
「情報の秘匿?」
「協会ならそんな事しそうだナー」
「あ、あくまで噂です! 噂!」
必死に噂だと言い張るが、逆にそれが真実味を帯びさせているのは分からないのだろうか? まぁ、確定事項では無いから噂だとも言えるのか。こほん、と咳払いをして話の流れを戻す。
「自分も、あくまで噂程度にしか把握しきれてないんです。殺人というのも、そのブレイバーの担当者が本人と連絡が付かない事を又聞きした噂程度の話だったんです。ですがその後、上司から彼の警備を行うようにと伝えられて」
ほぼ確で殺されてんじゃねぇか。もはや噂としての体裁どこにもねぇじゃん。
「しつもーン。何で探偵のボクらに依頼したノ? 確か協会は警備会社とも提携してるよネ。5、6人ぐらいパッと雇えるんじゃなイ?」
「複数人での警護は個人情報の流出に繋がりかねないと、上司から言われまして。自分も危険性を下げるために進言したのですが、聞き入れて貰えず。結果、限られた人数での警護をしなければならない状態になってしまって……」
本当に守る気あんのかそいつ。
「ホントに守る気あるのそのヒト?」
俺が言おうとはしなかった事を言われた彼の表情が苦々しい物に変わっていく。コイツ本当に……。
「んんッ。それで、配備可能な人数が極小数であったため、私共が選ばれたという事でしょうか」
「はい。ただでさえ警護に不向きな人数でと頭を悩ませていた所、レネゲイド案件を幾つも解決しているソウマ探偵事務所の事を知りまして。正直、断られても可笑しくない依頼だと思いました」
「んふー、ウチの所長は案外お人好しだしネ。感謝しなヨー?」
「どの目線で言ってんだテメェ」
しっかし、上の連中も何考えてんだか。命の危機があるってのに警察に通報するでもなく、業務提携している会社に頼るでもなく、俺みたいな探偵に頼まざるを得ない状況にするとか。
それに、命に関わる以上異能者が襲撃してくる可能性も高い。いや
で、ブレイバーの殺害云々については一旦この辺りで切り上げた方が良いか。警護対象について、知りうる限りのことを話してもらおう。
「そちらの事情については理解しました。では次に、その隣の彼について教えてください」
「はい。こちらの彼、探偵さんが仰ってた通りブレイバーです。彼は」
「初めまして。『
ザ・マイティ……あっ!
「若き天才ブレイバー!」
「うっわ、よくテレビに出てる子じゃン。こりゃ情報流出気にするわけダ」
「えっとまぁ、はい。そうです」
少年が気恥しそうに肯定した。成程、確かに彼に対して複数人を配備させて守れとか、正直今後の生活とブレイバー活動に支障が出そうなのも無理ないな。ニュースで16歳という年齢の情報も出てたし、尚のこと気を使うわ。
だがそれでも、いやそれだったら尚更ブレイバー殺害の件を警察に言って警備を要請すれば良い。幾ら警察と協会がいがみ合ってるとはいえ……あーでも、協会のお偉いさんの方針がってのはあるかぁ。んなこと気にして命を粗末にしたら本末転倒だろとも思うが。
「晴々さん。依頼をお受けすると言った手前ですが、この件を警察に伝えたりは」
「していません。出来なかったというのが正しいんですが」
「1度は進言したと?」
「はい。でも、上の判断は変わらず。警察の協力はなるべく受けないようにと釘を刺されて」
「協会は協会で警察を目の敵にしてるしネ」
「余計な一言が多いんだよっ」
「グエー」
遠慮なく拳を疫病神の後頭部に落とせば、当の本人は奇声を挙げて横に倒れる。そのまま床に落ちて鈍い音をたて、目の前に居る2人が心配と驚愕の様子で疫病神を介抱しようとしていた。
まぁ、コイツに心配とか糞ほど意味無い。その証拠に何事も無かったかのように立ち上がって、当たり前のように椅子に座って、何かありました? みたいな表情で見てくるからな。さっき殴った所のたんこぶとか、ギャグ漫画みたいにスっと押して元に戻してるし。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ンー? あぁこレ? いやぁ、所長がボクのことすきすきーだからバッ」
今度は思い切り頬を殴って勢いよくはっ倒す。鳴ってはいけない音も鳴ったが気にしない、俺と疫病神を交互に見る2人を本題に戻す。
「気にしなくて良いです。いつもの事なので」
「いやいやいや! 結構かなりいきましたよね!? というか、いつもの事って何なんですか!? いつもやってるんですか!?」
「んもー、照れ隠しで殴んないでヨー」
「わぁ生き返った!?」
「殺さないデ?」
殺しても死なねぇだろテメェは。
「ふざけたこと抜かしてねぇで、ちょっと黙ってろ」
「ボク真面目だヨ?」
「余計に質悪いわ。良いから口を閉じろ疫病神」
「はーイ」
見えないファスナーを閉めるような動作のあと、俺は目の前の2人に向かって頭を下げる。今のやり取りを無視して話をする、なんて事を目の前の2人が出来るとは思わない。ここはまず謝罪から入るのが普通だ。
「お見苦しいやり取りを見せてしまい、申し訳ございません。助手、もとい疫病神はこの通り何事も無いのでご安心ください。お二方が心配されるような事ではありませんので」
「いやあの、それパワハラとかじゃ」
「コイツを雇って早5年、今まで1度たりとも余計な一言を発さなかった日はありません。何を言っても無駄で、何をやっても無駄な相手なんですよ」
「いえース! 一応合意のもとに行われてるから、安心して見てて良いヨ!」
俺に注がれる視線が哀れみのものへと変わった。いやほんと、申し訳ない。色々説明しようにも、説明できるような事じゃないせいで。
ともかく、色々と脱線しすぎたので話を戻そう。
「諸々の事情は理解しました。こちらも可能な限り最善を尽くす形で警護にあたります。ただ少人数となる以上、機材等を使った形になりますが、構いませんか?」
「機材というと、具体的には何を?」
「GPSであったり、生活に使用する道のりを見る監視カメラであったり、あとはこういった物であったり」
いつも使ってる眼鏡を手渡す。最初こそ不思議そうに見ていたが、説明を受けて理解を示してくれた。
「依頼で使用する眼鏡になります。映像録画機能と音声録音機能を搭載しており、リアルタイムで映像と音声の送信を行える優れものです」
「おお」
「今回彼に渡す物はこれではありませんが、身に付けていても誰も気にしない物を用意します。また、今回の依頼で知り得た情報等については、私共から口外ないし共有しないことをお約束いたします。ご理解いただけましたらご確認の上、こちらの書類にサインをお願いします」
青年が差し出した書類を確認し、サインを書く。さて、本題はここからだが、耐えてくれよ。じゃないと受けると言った手前、断らないとならんからな。