探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜   作:Haganed

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「では次に、依頼料についてのお話しです」

 

 

 ゴクリ、と目の前に座る青年が固唾を飲んだ。ウチに依頼してきたという事は、ウチ特有の高額な依頼料を承知の上で依頼してきたということ。レネゲイド案件にせよ、そうでなくとも、命を賭けなければならない場合は料金を吊り上げないと公平性に欠ける。

 

 まぁ、探偵の命1つが100万前後で借りられると考えれば、これほど安い話もないだろうか。

 

 で、依頼料についてだが。危険予想手当で20万、緊急の依頼かつ機材の使用を加味しても俺と疫病神の2人体制だから1時間で1万2000円になって、仮に1日8時間で1週間とすると計87万2000円。一旦、この依頼料金表を記載した紙とさっきの見抜例を書いたメモを渡す。

 

 覚悟していたとはいえ、いざ料金を見た途端、青年が全体的にこわばった。

 

 

「け、結構かかりますね……」

 

「あくまで身辺警護のみの支払い例となります。私邸警護や調査依頼が追加されると、そうですね。ざっと200万は軽く越えたりしますので、慎重にお考えください」

 

「で、では、えーっと」

 

「ゆっくり考えてください。後悔の無い選択を」

 

「──上司と掛け合ってみるので少し席を外します。こちら、お借りしても?」

 

「どうぞ」

 

 

 俺の返事に後押しされるように青年は料金表を持って部屋を出る。本当ならこの場で決めてほしいし、何なら料金表を持って退出とか炎上を仕かけられても可笑しくないんだが、さっきのやり取りからして、その心配も無いだろう。じゃなきゃ、あの時の質問に対して“いいえ”と答えてただろうし。

 

 さて、今この場には俺と疫病神、そして岩田魁星少年の3人だけ。警護するにしても、俺を警戒されても困るので、色々と聞いていくとしよう。

 

 

「岩田魁星君、だったね」

 

「はい。なんですか?」

 

「通学ルートとか移動手段とかを教えてほしいんだ。監視カメラにも限りがあるし、なるべく死角を消しておきたくてね」

 

「はぁ。まぁ、良いですけど」

 

 

 なんだ? 何か不思議そうな目で、俺を見てくる。

 

 

「何か気になる事でもあるのかい?」

 

「えっ?」

 

「俺を不思議そうに見てたから、気になって」

 

「あぁいえ、大した事じゃないんですけど、口調がよく変わってるなーって」

 

 

 なんだ、それか。

 

 

「使い分けてるだけだよ。探偵は客商売だし、与える印象に気を付けて話していないと、評判に響いて仕事が来なくなるから」

 

「さっきボク殴られたの見せたから説得力ないと思いまース」

 

「もう1発ぶん殴るから喋んな」

 

「ひえー、暴力はんたーイ」

 

「あ、あの! 先に通学ルートの事とかから!」

 

 

 それもそうだ。と、心の内の黒いものを鎮める。子どもに話を戻してもらうとか、大人として恥ずかしくないの? 情けないと思ってるよこっちだって。

 

 青年が帰ってくるまでの間、俺と岩田少年、疫病神はよく使用するルートや移動手段に関する話をして、監視カメラを設置する場所を吟味する。ある程度の場所は決まったところで、青年が部屋に戻ってきた。

 

 

「お待たせしました」

 

「それほど待っていませんよ。では依頼内容について改めてお話ししましょう」

 

「はい」

 

 

 座席に座り、持って行った料金表を返してもらったあと話は進む。依頼内容は平日の身辺警護のみ、8時〜18時。およそ10時間かつ緊急の依頼なので、12万円。これを1週間続けるのと、危険予想手当込みで計算すると、計104万円の支払い額となった。

 

 結構かかるなぁ、という呟きには触れず、依頼の準備をふまえて明後日から開始。岩田少年に渡す機材は今晩に晴々青年に渡すという約束をして、俺と疫病神は部屋を出て、ゴンッという鈍い音を聞いて扉の向こう側を覗く。

 

 どうやら、偶然やって来た職員とぶつかってしまったようだ。考える前に体が彼女のもとへと動く。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「ッ〜……だ、大丈夫、です。ぅぅ──」

 

「申し訳ありません。こちらの不注意でこのような事に」

 

「だ、大丈夫なので」

 

 

 そう言うや否や、彼女は立ち上がり掛けていた丸眼鏡の位置を直して、俺たちから離れるように急ぎ足でその場を離れていった。かなり疲れていたな、あの人。

 

 そんなアクシデントがありながらも、俺たち2人は協会を去った。一先ず機材と蜘蛛を用意して、監視に怪しまれない場所も探してと。

 

 

「ねー、ちょっと良イ?」

 

 

 車へと向かう道の途中で疫病神が俺を呼ぶ。

 

 

「なんだ?用件は終わったし、早く準備もしたいんだが」

 

「それよりさ、気にならない?」

 

「何が」

 

「一応噂って体だけど、プレイバーが殺られてるのに、なんで身辺警護だけなんだろーっテ」

 

「それは…………ん?」

 

 

 待て、よくよく考えたら確かにおかしい。なぜ身辺警護だけにしたんだ? あくまで噂として処理したい? 噂として過ぎるのを待ってる? いや、それ以前に、なぜ調査依頼を含めなかった?

 

 噂という形に押し留めることで、協会側は何かを隠そうとしている? 何を?

 

 

「ったく、面倒な事になってきやがった」

 

「ほうほう。それデ? 所長は一体どうするおつもりデ?」

 

「ひとまず準備と平行して調査だ。 働き損なのは否めないが」

 

「じゃあ何か分かったら、あとでタカろう。色々とむしり取ってやるのサ!」

 

「そうならないと良いんだが」

 

 

 そう、できれば杞憂であってほしい。ただの考え過ぎとして終わるのなら、それに越した事はない。どうか当たってくれるなよ。

 

 

「疫病神。戻ったら先にここ最近で起きた事件と被害者、それと活動休止を発表したブレイバーをリストアップしろ。俺はお前を降ろしたらケイの所に行く」

 

「あいあいサー! 面白くなってきたネェ!」

 

「縁起でもない事を抜かすな」

 

「疫病神だから良いもーン」

 

「ガキか。いや、餓鬼っぽいわ」

 

「なんか格下げされてル!?」

 

 

 疫病神の不服申し立てを却下して、事務所で疫病神を降ろし、そのままケイの所へ向かう。いつもの場所でいつもの合言葉を告げ、地下へと向かう階段を降りると、そこで奥の座敷を背にして、ケイが待って出迎えてくれた。

 

 

「旦那様、ようお越しやす。さ、奥に」

 

 

 ケイの誘いに首肯し、そのまま奥の座敷へと踏み入り、いつものように座った。

 

 

「して旦那様、今日は何をお求めに?」

 

「監視用の蜘蛛を今日の夜までに8、それとここ最近で何か気になる事件が起きていないか?」

 

「蜘蛛は承知しました。事件についてやと……あぁ、あったわ。共通点を持っとる2つの事件が」

 

「共通点?」

 

「はい。まず始めに、2人の被害者は見るも無惨な姿で切り刻まれとったそうどす」

 

「穏やかじゃないな。聞くからに他殺の状況だ」

 

「はい。ただ警察の方々から話を聞くに、怨恨の殺しとは違うらしいんよ」

 

「怨恨じゃない?」

 

 

 怨恨以外で、切り刻まれる……。

 

 

「快楽殺人か?」

 

「警察はそう見てはるみたい。どうも犯人は、先に足の腱を斬って、それから痛め付けるように斬りはった痕があったらしいどす。そして最後に首を一閃」

 

「その共通点を持つ事件が2度、起きているのか」

 

 

 偶然、と片付けるのは無理だな。同一犯、被害者相手への執着、そして切り刻まれていた遺体。刃物類の凶器を使用したとしても、そんな悠長な事を可能にするには相手が油断しきってる場合ぐらいなもんだ。

 

 

「それともう1つ、2人の被害者は別の場所で殺られたあと、発見現場に移されたみたいどす」

 

 

 別の場所で殺されたあと、現場に遺棄された。死体の運搬を考えると、車が方法として妥当か。

 

 

「遺体の発見場所と時刻は?」

 

「1人は2週間前の午前9時、男性の遺体がO市の森の中で。もう1人は1週間前の午前5時にA市Hの川中で女性の遺体が見つかったそうどす」

 

「身元は分かるか?」

 

「すんまへん、流石にそこまでは。身分証になる物が無かったんよ」

 

「いや充分だ、あとはこっちで調べてみる」

 

「承知しました。蜘蛛については、今晩にでもお渡しできるよう、準備しときます」

 

「頼んだ。依頼が終わったらデートでもどうだ?」

 

「はい!喜んで!!」

 

「元気な返事だ。またな」

 

 

 ケイへのお礼として額に軽く口づけをしたあと、地上に戻って駐車場に向かいがてら、疫病神に電話をかける。1コールが始まってすぐ、疫病神が電話に出た。

 

 

『ヘーいマコッちゃーン! そろそろ来ると思ってたヨ!』

 

「テンションが喧しい。その言い方だと、お前の方も調査は済んだみたいだな」

 

『もちのロンヨ! 良い具合に謎度が高まってきてるんだかラ!』

 

「なんだ、その謎度とかいう造語は?」

 

『後ろ暗い事に対しての真っ黒度合のこト』

 

「明度だろーがそれはもう。ともかく、事務所に戻ったら情報共有だ。準備しとけよ疫病神」

 

『あいヨー。あ、コンビニでホットスナック買ってきテ』

 

「やなこっ……切れたし」

 

 

 絶対に買ってこないの面倒になるヤツだ。溜め息が漏れるのを自覚しながら、俺は車に乗り込んだ。

 

 

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