探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
「おー、お帰リー。なに買ってきたノ?」
「ひ〜辛チキン。ほれ」
「おおっト。うっひゃあ、匂いからして辛ソ〜」
地下へと向かう階段を降りながら、モニター前に座る疫病神めがけて買ってきた物を投げ渡す。そいつを買ったせいで移動中、こっちまで涎が湧き始めたぐらいの辛さを誇示する匂いだった。あとで消臭しとかねぇと。
疫病神が早速ホットスナックを食べ、その辛さに悶絶している様子を背景に、近くにあったキャスター付きの椅子を疫病神と対面になる位置まで動かし、そこに座る。しかし涎が溢れ出てくるせいで、飲み物買ってきた方が良かったわこれ。
3分ぐらいかけてそのホットスナックを食べきった疫病神が、背後にあるキーボードを見ずにエンターキーを2回押し、画面に調査結果らしき情報を映し、本題の情報共有を開始した。
「さて、情報共有としよっカ。彼女からは何ヲ?」
「遺体の状態と推移、発見場所、時刻。2つの遺体に共通点がある事ぐらいだ。身分とかは分かっていない」
「ほほウ。遺体の共通点っテ?」
「遺体の状態の推移だ。最初に足の腱を斬って動きを封じたあと、痛め付けるように切り刻み、最後に首を一閃しているとの話だ」
「つまりは快楽殺人をしてる輩が居るって事ネ。はっはー、ちょっとずつカオスチックになってきてルゥ!」
「さっさと話進めろ。そっちはどうなんだ?」
「んもー、少しはゆっくりしてヨー」
「お前が迂遠すぎるんだよ疫病神。調査結果を報告しろ」
「はぁイ。まずは……ここ最近で活動休止したブレイバーについテ。2人居たよ、ちょうど惨殺死体の数と同ジ」
両手でピースをして指を開閉する疫病神。俺はさっさとしろと顎を突き出して話を催促すると、わずかに諦めと呆れの混じった表情で、モニターにあるサイトの画面を映した。
「まず1人目、ブレイバー名はエレガント・スプリンター。今画面に映ってる1つは彼の事務所のホームページなんだけど、1番最近のお知らせでそのブレイバーの活動休止を通知してル」
「エレガント・スプリンター……どっかでその名前を聞いた事があるような」
「そりゃあるでしょ、テレビ出演してるんだからサ。ほら、この顔見覚えあるよネ?」
そう言って疫病神が出した画像を見て、見覚えのある顔だと気付いた。確かコイツ、短時間ではあるが壁や天井を重力無視して走れる異能を持ってたはず。しっかし──
「ゴツイな。結構鍛えてやがる」
「“エレガントとは即ち、美しさの求道である”ってのが、このブレイバーのポリシーなんだとサ。因みにさっきのはサイトにデカデカと掲載されてるのを引用しタ」
「取り敢えず、かなりストイックな奴ってのは何となく理解した」
世の中の男が羨ましがりそうな筋肉してるなぁ、という俺の感想はさておき。ここまで鍛えているのなら、正直襲われたところで並大抵の相手なら返り討ちにできそうだ。ましてや、曲がりなりにもレネゲイドの捕縛を専門にしてるブレイバーなら、レネゲイド相手でも上手く立ち回れるだろう。
そう考えている間に、モニターには別のサイトと画像が表示されていた。今度は女の方か。
「次、2人メ。ブレイバー名はミスティック・レディ。彼女の所属事務所も、お知らせで彼女の活動休止を通知していル。彼女は主に美容品のCM出演が専らで、ブレイバーとしての活動はあんまリ。ま、売名目的でブレイバーになったタイプだネ」
「ほーん」
たまに何処かの広告で見た事あるような、無いような。その思考は一旦よそへ置き、仮にこの2人が殺されたと考えて。どうやって下手人は殺すまでに至ったんだろうか。女の方はともかくとして、男の方は正直1人で相手するにはかなりキツイだろうに。
ましてや、この2人はブレイバー。基本、年齢や身長以外の個人情報は伏せられている。活動の事前告知を調べたとしても、単独での追跡には限界があるのは経験上分かっている。単独では難しい……単独での犯行では無かった? 或いは────
いや、これ以上考え過ぎるのはよそう。まだこの2人が被害者だと確定したわけじゃない。遺棄された現場に行って、少し考えてみよう。あわよくば警察、は基本ナベさんしか無理か。 記者なり何なりから話も聞けたら御の字だな。所属事務所から話を聞くのは難しいだろうし。
それに、あくまで俺に課せられた依頼は警護。襲撃者の存在が示唆されているとはいえ、どういう相手なのか予想できるだけでラッキーなのだ。依頼開始日までには、犯人像を絞り込めれば十分だ。
「念の為聞くが、この2人の本名は?」
「調べてはいるけど、今はまダ。色々と地道に探っていくしないネ」
「そうか。なら良い 」
「事務所に潜入してPCにこれ接続すれば分かるんだけド」
「俺はやらんぞ」
疫病神がUSB-typeA端子のついた物を見せびらかしながら言う。あれはPCに差し込めば遠隔での操作を可能にする代物で、ハック元のPCに使用履歴が残らず、データの送信先を分からなくする機能付き。直接差し込まないと使えないし、使うにしても色々と条件があるんだが。
疫神を無視して俺は部屋の奥にあるエレベーターに向かう。
「どこ行くノ?」
「発見現場。ちょっくら行って所感を得てくる」
「あー待って待っテ。昼ご飯食べたいからボクも行ク」
「さっき食ったばっかだろーがテメェよ」
「ホットスナック1個じゃお腹ふくれませーン」
お前食事すら要らねえだろ。
「自分の分は金出せ」
「オッケー今日ボク中華食べたーイ! 天津ハーン!」
中華じゃなくて国華じゃねぇかよ。
道中で中華を食べ、目的地の1つに到着する。2週間前に男の遺体が発見されたO市の森林近くだ。2週間も経っていると、 警察の姿は見えず、木々の隙間から規制線が見えるぐらいだ。 おそらく何も残っていないだろう。
「どうすんノ? 何も無さそうだけド」
「……ひとまず地形でも確認するか。ドローン出せ」
「あいあいサー」
疫病神が背負ったバッグから後ろ手で、液晶ディスプレイ付きの大きめのコントローラーを取り出す。電源を入れて操作を始めると、バッグの1部が分離して飛び出した。空気抵抗の少ない形状をしたドローンが、突き詰めた静音性を発揮して現場へと接近する。
眼鏡の電源を付け、ドローンに搭載したカメラと接続。ドローン前方に取り付けた第1カメラの映像を確認する。
「規制線の周りをゆっくり水平移動、第1カメラ固定で」
「あいヨー」
映像が動く。地面と木ぐらいしか見るものが無いが、案外傾斜があるな。運ぶにしても異能を使わずにとなると、かなり難しい地形だ。この規制線を見るに遺体がここにあっただろうから、俺でも一苦労するだろう。有り得そうなのは上から下へ落とすようにしてあの位置で止まったとかだが……いや木に引っ掛かってとかならまだしも、何もない場所で止まる確率は早々無いな。
「十分だ、次行くぞ」
「はーイ」
眼鏡の電源を切って地面に視線を向ける。2週間経っていると地面から推察できるものは無さそうだ。近くにタイヤ痕があるかと思ったが、流石にか。
次に向かったのはA市H。川沿い近くを走らせて現場に到着すると、川を眺めて佇む1人の男性らしき後ろ姿が見えた。しかもこの前見たぞ。
「ナーベさーん」
「? あれま、奇遇」
やっぱりナベさんだ。ってことは、前回と今回の事件について何か知っているかもしれない。そう考えて俺はナベさんから話を聞くことを試みた。