探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
「ナーベさーん、話しませんか?」
「当たり障りのないことしか言えないよ」
「まだ何も言ってません」
「皆まで言わなくても分かるって。大方、先週と先々週の事件についてだらう?」
チッ、流石に無理か。協力を申し込みたいが、今は切羽詰まってる状況じゃないからな。ならこっちも、当たり障りのない会話をしてみるとしようか。
「バレますか」
「流石に想像つくよ」
「じゃあバレた上で訊きますけど、犯人はなんで2人を選んで殺したんですかね?」
「というと?」
「変な話、犯人の狙いが誰でも良かったと考えた場合、女性に絞る方がやりやすいですし。わざわざ男を殺す必要性が薄いんですよ」
「それはそうだ」
「ましてや、報道では惨殺されていたんでしょう? そこまでする人間が、反撃されやすい男を相手に選んだ理由が分からない。だから何を基準にして選んだのかと疑問に思いまして」
「ふーむ」
色々と隠しながら言ってみたが、さてどう出るか?
「確かに、マコト君の言うように、なぜその2人を選んだのかという疑問は尤もだ。なら君は犯人がどんな基準で2人を殺害したと思う?」
「それを訊いてるのは俺なんすよ」
「まーまーま、予想で良いから」
狸じじいめ。思いついてる事を吐かせようってか?“狸警部”のあだ名は伊達じゃないな、本当。
「さてね。突拍子もない事をほざくなら、何かしら共通点でもあったとかじゃないですか?」
「共通点か」
「じゃなきゃ、犯人だって身の安全が保障されやすい相手を選ぶでしょう」
「それは確かに」
今回の件の核心にはギリギリ触れない程度を探りながら言ってみる。ナべさんは苦笑しながら肯定した。もう少し攻めてみるのも1手か。
「あともう1つ疑問なんすけど」
「まだあるんだ」
「なんで犯人は殺害場所を別にしたんですかね?」
「......それはまた、どうしてそう思ったんだい?」
ちょっと溜めたな。運試しの時間になりそうだ。
「報道では発見現場とだけありました」
「まさか、それだけ?」
「んな訳。もし仮に、この現場で惨殺するとしましょう。バレる可能性を低くするために、深夜ぐらいに殺したとしましょう。でも、そうなると残される証拠は必ず発生する。血の付着した物体や場所が、今立っている場所から程近い場所にもあるかもしれない。ましてや深夜とはいえ、ここまで開放的だと人の目を介入させてしまう可能性がある。そういったリスクを回避するには、殺害現場は別で行われたと考えて良い。なるべく人の少ない場所か、遮蔽性が高く人が殆ど立ち入らない場所とか。そういった所で殺す方が、バレる確率はほぼ無いと言っていい。以上が、殺害現場が別だと考えた理由です」
つかれた。喋りすぎて喉乾いて仕方ない、口ん中もカッサカサじゃねぇかこれ。
「──思うんだけどさ」
「はい?」
「君の事が時々怖くなる」
「何故に!?」
「だって、ねぇ?」
「何が!?」
流石にそれはナベさん相手でも看過できませんが!? 別におかしく……どっかおかしいのか? いやでも、よく分からん。もしさっきの説明のことを言ってるのなら、
「まーそれは良いや。貴重な意見ありがとね、僕はこれで失礼するよ」
「ちょっ、聞くだけ聞いて帰るつもりなんすか!? お返しとかなんかないんですか!?」
「そんなの、一言も言ってないじゃないの」
「あー! 結局これ狙いかよ狸ジジイ!」
「君が勝手に喋ってくれたんだよなぁ」
「ぬううゔゔん゙ん゙ん゙!!」
くそァ! 発狂してないとやってられねぇ! いやナベさんの事だから何となく想像はできてたけども! ……全部俺が墓穴掘っただけじゃねぇか! 人のせいにしたいのに俺の顔しか浮かんでこねぇ!
「ハッハッハッ。あぁそうだ、最後に」
「はい?」
「これは独り言なんだけど、犯人は多分レネゲイドと予想されてる」
ヒートアップしていた感情がスンと鎮まり、俺の耳はナベさんの言葉に傾いていた。
「山中と川への死体遺棄。これが非異能者によるものだと仮定した場合、足跡痕等が見つかる事が普通なんだが、今もまだ発見されていない。つまり」
「異能による運搬を可能とする人物が関わっていると?」
「正しく。そして、とりわけ足跡を残さない念動力系統の異能者だと推測していたり」
念動力か。確かにそれなら、あの傾斜のある山でも難なく遺体を置くことは出来る。だか、念動力使いが刃物を使った惨殺死体を作った?
「それと、遺体に残されていた傷跡から見て、犯人は複数の刃物を持っているものと思われている。
「脇差?」
「僕が言えるのはここまで。あとは頑張れ、名探偵さん」
去り際にそう言い残したナべさんが去っていく後ろ姿を見て、 俺も車に戻った。後部座席を占領するように寝そべっていた疫病神が起き上がり、訊ねる。
「収穫はあっタ?」
「大分な」
車を走らせ、先程手に入れた情報を疫病神に共有した。
「ふ一ん、脇差ネェ」
「ニュアンスとしちゃ、それぐらいの刃渡りのある刃物って事なんだろうが。だが正直、疑問はある」
「たとえバ?」
「犯人のことだ。念動力使いだと警察は見てるが、それだけと思えない。惨殺するにしろ単的に殺害するにせよ、念動力と考えると、操作した対象が刃物だけってのは少し変だ」
「あー、確かニ。刃物を用意するより、高速で石とか何やらを当てれば良いシ。わざわざ切創を作って偽装したとすると、かなり用心深いけド」
「なら死体の捨て場所は海か山の中だ。わざわざ見つかりやすい場所に捨ておく事は無い」
そう、普通死体をバレないように捨てるとなると、場所は大分限られてくる。効果的なのは重りをつけて被害者を海の底に沈めること。もっとバレにくくするなら、ガスの逃げ道を作るために死体に穴を開けたり、遠洋に捨てたりとか。
そんな情報を知らない状態で捨てる場所となると、山に行って地面を掘ってその中へ入れて、また土を被せて隠すだろう。もっと残忍な方法が無いわけじゃないが、基本その手の隠蔽方法はバレやすい傾向にあるので除外。基本は海か山のどちらかと考えて良い。
そうなると、やはり変だ。なぜ見つかりにくい場所ではなく、敢えて人の目が付きやすそうな場所にしたのか。その場所でなくてはならない理由でもあったのだろうか。何かが引っ掛かる……。
その疑問が晴れることが無いまま、俺たちは事務所に戻り夜が更けるまで時間を潰したのだった。