探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
「ゴブォッ!?」
ノータイムで突き刺した蹴りをくらい、黒ポンチョの男は後ろに3歩ほど退いて倒れる。よし、時間は稼げた。
「な、なな、何してるんですかいきなり!?」
「少年!」
俺が目の前で起こした現状から意識を逸らすために、声を大にして彼を呼ぶ。俺の切羽詰まった声で、ただならぬ事だと何となく察した少年がこちらを見た。よし、これなら。
「少年、今すぐ俺の言う通りに動け。親御さんを連れて、玄関以外から外に出て、警察に連絡しろ。今すぐ」
「探偵さんは、どうするんですか?」
「逃げる時間を稼ぐ。さあ、早く」
「待ってください、何であの人を蹴る必要が!?」
「君の自宅前を見上げて佇む黒ポンチョの男、顔は見せず態度も高圧的。正直、それだけでも怪しくて蹴ってたよ」
「物騒すぎる!」
「でも1番は、君がブレイバーであることを知っていた事を喋ったから。もしかしたら、どこからか君の情報が漏れている」
「ッ!?」
倒れた男が身じろぎ、立ち上がろうとしている。
「早く行け!」
背中を押して少年を家の方に送り込む。少年は1度俺を心配そうに見たものの、すぐに家へと入っていった。
で、だ。黒ポンチョの男がフラつきながら立ち上がっている。先程の一撃でノックアウトできれば満足だったが、痛手を与えただけでも御の字か。そう考えながら眼鏡の電源を着け、相手の姿を録画しながら疫病神に連絡する。
「て、んめぇ……! いきなりケリ入れてんじゃねぇよ、このタコ!」
「タコを罵倒に使ってんじゃねえよゴミクズ。お前より賢い動物なんだぞ」
「なにが言いてえ!?」
「さっき言っただろ、知恵遅れって。脳みそ多孔質か?」
返事が来た。あと3分もすれば警察は到着するようなので、 それまで足止めと。ならさっさと終わらせて、あとは休憩タイムだ。
「低知能のお前にも分かり易く言うが、あと3分も経てば警官が此処に来る! それまで大人しく待ってな、悪足掻きはみっともないぜ!」
「だれがテメェの言うこと聞くかよバカが!」
そう言って男は両手を真っ直ぐ伸ばし、腕で斬りかかるように襲って来る。捌き切れるノロさだったが、敢えてその攻撃を受け止めた。
「バカが!」
直後、男が腕を引いて行退する。刃物が僅かにめり込んだ感覚、これは腕を剣に……いや切断効果を腕に発生させているとみるべきか。
「ひゃはは────はっ?」
「どうした? 有り得ないもんでも見た顔をしてよ」
相手の言動や性格、先程の行動から察するに、俺が血を流して苦痛の表情を浮かべていない事に、理解が追いついていない様子。そりゃそうだ、何せ俺が着てるのはただの衣服じゃない。
異能持ち相手に真正面から対抗するために、ステンレス、ケブラー、蜘蛛糸を紡ぎ合わせた特殊軽量戦闘服だ。これより性能の良いヤツもあるが、大抵の相手ならこれで十分やり合える。
「どうなってやがる……なんで切れてねぇ!?」
「そんなナマクラで斬れるかよ、ボンクラ!」
距離を詰めて、もう一度前蹴りを放つ。男は咄嗟にガードしたものの、受けきれずにまたゴロゴロと地面を転がった。コイツ、本人の戦闘能力はそんなに無いと見ていいな。動きも見えるし、避けやすいし、攻撃を当てやすい。弱設定のNPCを相手にしているみたいだ。
こんな奴が、ブレイバーを攫って、いたぶって殺した。どう考えても無理がある、ここまで挑発に乗りやすい上に、まともな戦闘能力を持ってない奴が、ブレイバーを攫えるわけが無い。
やっぱり、共犯者の存在が関わってるみたいだな。
「おい脳みそ多孔質、俺の質問に答えろ。誰から少年の情報を聞いた?」
「あ゙あ゙?」
さっきよりかはスムーズに立ち上がっているが、防御に使った腕が痛むのか少し震えている。正直こっちも蹴った際に靴底に切れ目が入ってそうだから、あまり蹴りを多用するのは控えたい。
「死ねや!!」
質問への返答はなく、殺害宣言と切断攻撃が返ってきた。上段からの大振りの攻撃が起きる前に、最接近して相手の二の腕を支え発生を止めたあと、即座に腹部へと肘を打ち込む。
男が後退すると同時に、手が切れた感覚を覚えた。即座にまた前蹴りを放ち、距離を空けて自分の左手を見てみる。人差し指の付け根付近に、真っ直ぐ赤い線が生まれていた。なるほど。
「お前の異能、自分の肘から手の先までに切断効果を発生させるんだろ。だからさっき二の腕を抑えた時、俺の手は切れなかった」
「テメェ、なんでオレの異能を!?」
「あんだけ確認してたら分かるわ。良いから質問に答えろ低知能、誰から少年の情報を聞いた?」
警察へ通報してから30秒経過。ここで時間を喰われて何も聞き出せず、お縄しについたとしても、俺の依頼は達成されるだろう。だが、それで根本的な解決になるかといえば、否だ。真相が暴かれないと、また似たような事が起こるかもしれない。
だからさっさと吐いてもらいたいんだが、仕方ない。一旦
「なるほどお前、元勇者の集いの職員とかだったろ」
「────はあっ?」
「道理でブレイバーの情報を知ってるわけだ。まさかとは思っていたが、お前元ブレイバーだったんだな?」
「んな訳ねぇだろ! ブレイバーになるぐらいなら、アニキやオトウトと一緒に暴れてた方がよっぽど楽しかったわ!」
兄弟が居るのか、コイツ。でも今は1人、さっきの話の内容からしてコイツは単独での犯行より、複数での犯行を優先的に選ぶタイプか。思いがけない情報だ。
「へぇ、じゃあなんでストーカーしてブレイバーの家の前に居た? えっ、まさか……そのナリでファン!?」
「んなわけあるかボケェ! アニキとオトウトを
「捕まえた?」
怨恨による犯行、少年に向けてか。そして少年が捕まえた2人のレネゲイド、男が言った兄貴と弟という発言。この情報を警察と共有すれば、すぐさま捜索網は強固になるだろう。潜んでる拠点の場所も分かるかもしれない。
「ああムカつく! くそムカつくぜ! ゴエーをやとったって話は聞いたが、ここまで強いなんざ聞いてねえ!」
────そうか。こいつ、有り得るとは思っていたが。
「もういい。これ以上訊くこともない、さっさとくたばってお縄に
「ヒャアアアアアア!?」
女性の叫び声のした場所、男の背後を見ると、この光景を見て悲鳴を挙げた本人が腰を抜かしている。なんて間の悪い!
「チャンス!」
「ッ、待て!」
俺の静止の声は届かず、男は女性の首に腕を回し、右手を真っ直ぐ伸ばして手先を彼女の首に向ける。あの異能、意識的に発動できる箇所を決められるのか。って、こんな事考えてる場合じゃない!
「動くなよテメェ! そこから1歩でも動いたら」
「ひぃいいいッ!」
だーくそ、こうなるとか今日はツいてねぇ。本格的にお祓い考えとく必要があるわ。
目の前の女性は、若干パニックになりかけている。下手に動けば確かにアイツの手が彼女の首に差し込まれて死、見逃すにしてもせめて人質を確保しておきたいが、流石にこうなると手出しできない。何か方法、方法は…………おっ、あれは。
なら、まだ可能性はある。こっから俺は、全力で時間稼ぎを行う!