探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
「わーったよ、言う通りにしてやっから。望むなら手を挙げても良い」
「おー、そうだそうだ。そうやって何も出来ねぇブザマなスガタをさらしてやがれ、好き勝手ケリやがって」
ゆっくりとマコトの手が上がる。何も出来ないし、動けない。そんな姿を見て黒ポンチョの男は嘲笑した。自身の危険を悟っている女性も、先程の叫び声を挙げた時とは裏腹にとても静かになっていた。
その命綱は、マコトが不動となることを条件とした細いもの。あまりに頼りなく、今にもぷつと切れそうな、あってないような物であった。
それを理解しているマコトであったが、ここで表情の消えた顔のまま男に語りかける選択肢を選ぶ。
「なぁ不審者、いやレネゲイドさんよ。女性を人質に取って何処へ逃げるつもりだ?」
「ぁあ? 遠くに決まってんだろバカが」
「そういう意味じゃねぇ。言ったろ、もうすぐ警察が来るってよ。人質を抱えたままじゃ、警察の追跡を振り切れられねぇぞ」
「は?」
マコトが眼鏡のスクリーンに映る時間を確認する。警察が来るまで残り1分を切っていた。
「人質を抱えたままじゃ、移動するにも一苦労だ。まさかずっとその体勢のまま逃げる気か? ならやめとけ、ここら一帯を封鎖して逃げ場を無くしたあと、ブレイバーに鎮圧されるか最悪殺されるしかない。アンタもレネゲイドなら、その辺りよーく知ってんだろ」
「コロす? ……テメェ、やっぱバカなんだな!」
嘲笑を含みながら言い切った黒ポンチョの男は、マコトの発言内容の全てを否定し始める。
「オレが今まで出くわしたブレイバーはな、コロすなんて全く考えてなかったんだぜ? コロす気で来いつっても、捕まえる事しか考えてないタマナシだったわ! アイツらに、オレをコロすなんてマネ、出来るワケねぇんだよなぁ!」
「……へぇ。お前、運が良かったな」
「は?」
「お前が出会したブレイバー、考えられる可能性として民間所属のブレイバーばかりだったんだな。だが官公庁所属のブレイバー、とりわけ警察組織に所属してるブレイバーは違う」
警察到着まで残り、30秒。
冷徹な視線を突きつけながら、マコトは告げた。
「民間所属のブレイバーは、あくまで一般人。組織だっての訓練とか何一つ積んでない場合が殆どだ。だが警察組織のブレイバーは違う。きちんと対レネゲイドの鎮圧訓練をして何時でも対応できるようにしてんだわ。
ましてや5年前の1件で、レネゲイドへの対応は厳格化してるんだぜ。お前が聞く耳持たずで好き勝手暴れようとした途端、電撃銃弾異能その他諸々で死ぬ一歩手前で捕まるか、そのまま死ぬかの2択しか用意されてねぇんだわ」
マコトの視線に、呆れと哀れみが同乗した。これを聞いていた黒ポンチョの男はというと────
「はぁ? 頭オカしくなったかテメェ?」
その言葉の意味を、全くと言って良いほど理解していなかった。深い溜め息が、マコトの口から漏れ出る。
「まさか、ここまで頭お花畑とは思わなかったな」
「あ゙?」
「まぁ、良い。時間は稼げた」
「は? ────い゙っ゙!?」
マコトの発言の直後、黒ポンチョの男が大きめの声を挙げた。 男は痛みの発信源である自身の脚を見るためにズボンを上げると、そこには1匹の蜘蛛が噛みついている光景が。
「ク、クモ゙ォ゙!?」
男が蜘蛛に気を取られたタイミングで、マコトが接近し男の顔面を左フックで攻撃。拘束が緩んだ事を即座に察知し人質を救出したあと、追撃で蹴り飛ばす。勢いよく倒れた男は後頭部を抱えながら静かに呻くだけになって、ようやく事態は鎮静化した。
そしてここで、遠くからサイレンの音が僅かに聞こえ始める。 やっとか、と安堵の溜め息を吐いたマコトは抱えている彼女に話しかけようとして、体を強く押された。
直後、マコトの体が呆気なく倒れる。
そしてあろうことか、下り坂でもないのに、勢いよく滑り始めた!
「なぁあああああッ!?」
エアホッケーのパックみたく、勢いよく滑っていくマコトの視界にパトカーが映ったのとほぼ同時に、彼の背中が焼けるように熱くなる。咄嗟に足でふんばったものの、姿勢が前のめりになり、倒れるのを防ぐ為に飛び上がってしまった。
そして、落下地点にパトカーが。
(マズッ!?)
あとは火を見るより明らかな結果だった。パトカーのボンネット部分に落下し、車両は凹みで済んだものの、マコトは鈍い痛みを味わう事となる。
「なにが、どうなって……」
意識が朦朧する中、マコトはそう呟きながら、警察の手で介抱されるのであった。
「ハイじゃあ、痛み止め処方しときますね。絆創膏は暫く剥がさないように」
「ありがとうございます」
酷い目にあった。人質を助けたと思ったら、その人質に突き飛ばされ、挙げ句にはレネゲイドも逃がしてしまうとは。お一痛。
受付で病院代を支払い、近場の薬局に行こうと外に出ると、出入口付近にますさんが待ち構えていた。処方箋を貰ったあと、ナベさんの車に乗って警視庁へと向かう。
「しっかし、災難だったねマコト君」
「本当っすよ。似たような事はありましたけど、パトカーにダイブは初めてですよ」
「何度もある方がびっくりするよ、普通」
痛みがまだ体に響き、背もたれに体を預けて窓の外を見る。
ふと、少年のことを思い出した。
「そういやナベさん、親子を保護したとかって連絡は来てますか?」
「あー、親子が保護を求めに来たってのは知ってるよ。あと子どもの方から、探偵さんを助けてくださいって話もしてたね」
「は一、良かった。ひとまず安心だ」
「また厄介事に首突っ込んでるとは思ってたけど、今度は何してるのさ?」
「それについては依頼側に許可もらってから話しますよ」
一先ず、保護されて良かった。だが、正直状況はあまりよくない。ただでさえレネゲイドを逃がしてしまった挙げ句、怨恨の動機で動いているため少年がまた狙われるのは確実だ。このまま依頼を完遂させたとしても、危機が去っていない事に変わりない。
ここまで動いたのであれば、やらない理由もないしな。
警視庁に到着してすぐ、ナべさんを庁内に行かせて俺は電話をかける。相手は、晴々光青年だ。
『はい、こちら晴々です』
「晴々さん、ソウマ探偵事務所です。喫緊で報告しなければなない事があります」
『あの、一体何があったんですか?』
「心して聞いてください。1つは依頼時間終了直後にレネゲイドと遭遇し交戦、これを撃退したものの思わぬ妨害にあって捕まえられませんでした」
『レネゲイドと交戦って、魁星君と探偵さんは無事なんですか!?』
「岩田少年の方は先に逃がすようにして、特に何事もなく警察に保護されました。こちらの方は色々とありましたが、なに五体満足で生きてますよ。何ぶん、体は丈夫なもので」
いや本当、昔から鍛えといて良かった。親父と一緒に体作りしたり、あのバカ重スーツ着るために鍛えまくってたかいあったわ。
『そ、そうでしたか』
「えぇまぁ。それともう1つ、件のレネゲイドは岩田少年の事をブレイバーであると知っていました」
『ッ!? 本当なんですか、それ』
「はい。そして、岩田少年の家の詳細な位置を知っている様子でもありました」
『────それ、は。冗談じゃ』
「報告に冗談を混ぜるのは趣味じゃないんですがね」
あの時の発言で確証は持てた。それが意味することは、たった一つしかない。
「協会内部に、内通者が居ます」
通話の向こうに居る青年の、声にならない悲鳴が聞こえた気がした。
4月分の投稿はこれで終わりです。
次の投稿は来月5月の半ば辺りになります。
ここまでの読了、ありがとうございました。