探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜   作:Haganed

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 レネゲイド。異能持ちの犯罪者を意味するその言葉だ。それらと対峙するためにブレイバーという役職が生まれたが、その辺は今関係ないので割愛。

 

 話を戻して、この疫病神が言った“9割9分9里レネゲイドになっている”という発言は、あながち間違いと言えない。異能持ちの行方不明者捜索依頼は過去に幾度もあったが、その全てにおいて捜索対象はレネゲイドになっていた。力を持つ自分と力を持たない他人を比較し、その差異による全能感で同じ異能持ち以外の話を受け付けないなんてこともあった。結局ぶん殴って止めなければ事態が悪化する相手ばかりだった気がする……。

 

 兎に角、異能持ちの行方不明者はほぼ確実にレネゲイドになっている事実があるのだ。それを知らない探偵はほぼ居ないため、受けようとする奴が居ない。無知な奴か、依頼人に応えたいという真っ当な奴が割りを食うのもあって、正しく厄介事だとこの業界では悪い意味で有名だ。

 

 そして今この事務所に居る彼女は、異能持ちの行方不明者である兄を探して欲しいと何件も回ったことだろう。何度も空振りに終わり、やっとの事でこの事務所を見つけた。そういう経緯があるのだろう。

 

 

「でもそっかそっか、レネゲイド化したお兄さんを君は助けたくないのカ。それならボクらも関係無いし、もう帰ってヴッ!?」

 

 

 疫病神の鳩尾めがけて1発与え沈め、所長席まで動かしてパーテーションで隠す。もう今更感はあるが、せめてコイツが苦痛に喘いでる声でも聞いてもらって少しでも落ち着いてもらおう。

 

 そう思った矢先、依頼人の彼女から短く太い息遣いが聞こえ、その次に呻くような声が事務所の中をこだました。

 

 

「なんで……なんでなんですか。私は、兄を捜してほしいだけなのに……!」

 

 

 ────何度も聞きなれた台詞だ。確かに、行方不明の異能持ちはほぼ確実にレネゲイドになるなんて事実を、依頼人が知っている訳じゃない。それを聞いてふざけるなと言いたいのは、依頼人の方なのだ。分かるが、俺は同情できる立場でもない。

 

 扉の前でうずくまる彼女の姿が目に映り、俺は1つ溜め息をついて事務所の床に胡座をかく。嗚咽混じりの彼女の言い分は続けられた。

 

 

「兄が、何か悪いことをしたんですか!? 何も分かってないのに、分かりきったようなこと、言わないでくださいよ! 皆して兄を悪者のように!」

 

 

 行方不明となった異能持ちの親族から、この台詞はよく出る。何度も直面したことのある場面だ。自分の家族が、あの優しかった人が、そんなことをするはずが無いと信じている。

 

 そしてそれが、単なる自分の願いだということに、理解が及びにくいことも俺は知っている。

 

 

「異能持ちというだけで、なんで嫌な顔をされなきゃいけないんですか!? 家族を、捜してほしいだけなのに……! 居なくなった家族を、心配しちゃいけないんですか!?」

 

「──異能持ちの行方不明者捜索依頼で、命を落とした探偵達がいます」

 

 

 俺のこの台詞も、おそらく前に1度は聞いているのだろう。ただこれに対する返答も予想がついてしまって、疫病神を恨みつつ依頼の話しを無かったことにしようとしていた。

 

 

「兄が人殺しなんてする訳ない!」

 

「貴女はお兄さんの全てを知っているとでも?」

 

 

 だからこそ、俺のこの発言に対し驚いたような様子でこちらへと振り向いた時、俺の口は自然と動いていた。

 

 

「誰も彼も、自分の腹の底は自分以外知りようがありません。どんな経験を積み重ね、どんな感情を抱き、どんな心境の変化があったのかなんて、家族でさえ分かりません。そんな当たり前の前提を踏まえた上で、それでもなお、お兄さんが人殺しをする訳が無いと言えますか?」

 

 

 彼女はゆっくりと視線を戻し、また俺に背を向ける。それから数分の間があって、先程とは打って変わって絞り出すような声が、俺にだけ届く。

 

 

「兄は…………優しいんです。私に辛いことがあった時、何も聞かず傍にいてくれました。私が話すまで時間をかけて、私が言いたいことをちゃんと整理して言えるようになるまで、ずっと。でも、自分のことをちゃんと話す事は確かに無くて……思えば、兄が自身のことを言う時も、どこかはぐらかしたような答えが多かったです」

 

「そう、ですか」

 

「確かに私は、兄の全てを知っている訳じゃありません。兄が何を思って家を出たのか、それさえ分かってない。でも────」

 

 

 依頼人が俺と目を合わせ、頭を下げた。必死の思い……か、以前の依頼人たちも、同じことをしていたな。

 

 ()()()()()なのだ。

 

 

「お願いします、兄を探してください! もし兄が危ない事をしているというのなら、私は家族として止めたいんです!」

 

 

 頭を下げて懇願する彼女を前に、俺は立ち上がって所長席のデスク棚から見積書1枚とボールペンを取り出し、また彼女のもとへと向かい、しゃがんで声をかけた。

 

 

「三上英里さん、顔を上げてください」

 

 

 俺の言葉通りに彼女が頭を上げたタイミングで、彼女の目の前に、テンプレートが掲載されているだけのそれを見せる。

 

 

「金銭のお話をしましょう。まずは、ソファへ」

 

 

 彼女は2回ほど頷き肯定の意思を見せた。立ち上がろうとする彼女を支えソファへの誘導を終わらせたあと、対面するように座り直しテーブルにその見積書を置く。

 

 

「金銭の話をする前に、謝罪します。先程は我々の不適切かつ不快な発言、誠に申し訳ございませんでした。ただ同時に、目を背けたくなる事実がある事もご理解いただきたい。世の探偵にとって行方不明の異能者捜索依頼というのは、命を差し出す事と同意義と思うほどに死亡者が多く、故に安請け合いは出来ないのです。依頼人が本気にならない限りは」

 

「それは一体……?」

 

 

 この様子だと他の事務所じゃ見積予想されずに依頼拒否したみたいだな。気持ちは分からんでもないが、それはやるべき事を放棄していることと同じだぞ。

 

 俺はペン先で彼女にとある項目に注目させた。そこに書かれているのは、危険予想手当という記述。

 

 

「捜索対象が異能持ちであり、調査に対する危険性が予測される場合、まずこの危険予想手当というものが発生します。事務所の規模によって値段は変わりますが、ウチの場合ですと一律20万の先払いとなります」

 

「20万……」

 

 

 危険が伴うと、高くなるのは当たり前だ。だがまだ続くぞ、これからもっと面倒になる。

 

 次に俺は、すぐ下の項目にペン先を向けて注目させた。

 

 

「次に、今回の捜索依頼で捜索対象からの加害行為を受けた場合に発生する被害手当。ウチの場合ですと、15万〜50万の間を前後する形で変動します。変動基準として、こちらの被害状況を鑑みて値段が動きます」

 

「もし、怪我が無い場合は?」

 

「……あくまで()()が無ければ、この危険手当を払う必要はありません。ただし、怪我が無くとも被害を受けた場合は、支払いの可能性が含まれることをご留意ください」

 

 

 そこまで言って、彼女の視線が見積書へと集中する。まだ注意事項の段階だ、ここで緊張されたりするのは困るんだがな。

 

 ここから更に、捜索対象に関する情報を聞き出し、調査期間の相談と調査方法の提示。それらを元に着手金と成功報酬の額を精査。そうして算出された見積額は────危険手当を除き、総額にして92万円という巨額であった。

 

 

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