探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
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電話の向こうで、時々青年の呼気が震えているのが聞こえてくる。信じられないのも無理はないし、荒唐無稽に考えてしまうのも当然のことだ。
自分たちの所属する組織【勇者の集い】の中に、まさか裏切り者が居ると想像なんで出来る筈もない。ましてや職員に元ブレイバ一が在籍する協会でだ。
晴々青年が、僅かに声を震わせつつも訊ねた。
『…………本当、なんですか? 何か証拠もあるんですか?』
「レネゲイドと交戦開始直後に撮った映像があります。そこで依頼について把握していた発言が出ていました」
弱々しい溜め息が耳に届く。申し訳ないのは承知の上だが、 俺は彼に今後の対応について話をした。
「内通者の存在がある以上、警察にもこの情報を伝えて協力態勢を取る必要があります。晴々さん、上司の方にこの事を伝えて情報共有と共同警護の許可をいただきたい」。
『…………分かりました。また折り返し連絡いたします』
「ご協力、感謝いたします」
通話を終えて、庁内へと入る。待っていたナべさんと同行して、もう行き慣れた聴取部屋に向かう道すがら、ナベさんがいつものお調子気分で喋った。
「まーいつもみたく、話せる事だけ話してね。君ももう疲れてるだろうし、依頼の事もあるしさ」
「そうさせてもらいますよ。あ、水買うんでちょっとお待ちを」
「あいよー」
自販機で水を購入し、そのまま聴取室へ。一先ずは俺も言える事だけを言って終了し、ナべさんの運転で事務所まで帰還。 ナべさんが去って行ったのを見届けてから、俺は地下へと向かった。
地下に降りてふと、なぜか疫病神の笑い声が聞こえてきた。 妙に嫌な予感がするので、可能な限り早く降りていくと、俺の声とゲラゲラ笑う疫病神が待ち受けていた。
「ウヒャヒャヒャヒャッ! あ、おかえりー。今日は災難だったネー」
そう話す間も俺の声、人質に突き飛ばされた時の音声と映像が、ループ状態でモニターから流れていた。
迷うことなく疫病神のもとへ歩み寄り、思いきり頭に挙骨を落とす。
「ブッ!!」
「人の痴態で笑ってんじゃねぇ、ブチのめすぞ」
「もうされてるんだよナァ」
わざとらしく痛そうなつりをしている疫病神の反応をよそに、椅子に座って疫病神と向き合う。
「ひとまずさっさとそのループを止めろ、会議するぞ。どうせ何度も見て話すネタはあるんだろ」
「オフコース! こっちも聞きたい事あるからさ、早速始めよう!」
「その前に」
「おン?」
「音量を消せ。じゃなきゃ顔面陥没どころの話で済まなくしてやる」
「やーん、容赦ないナー。んもー、仕方ないカ」
消音状態となり、映像が録画開始時点の面に戻されて、ようやく話し合いを開始した。まずは、これまでの事で分かった事から確認していこう。
「ひとまず分かった事だが、あのレネゲイドは協会の内通者の手によって情報を得ていた。あの時の依頼話も聞かれていたみたいだ」
「秘密にしたいから人の通りが少なそうな部屋を選んだのに、全部バレてちゃ意味ないよネ。機密保持はどうなってんのサ? 機密保持ハ」
「お前が言うと説得力無いわ。で、他に分かった事といえば、レネゲイドが腕に切断効果を発生させる異能であったこと。それとそのレネゲイドには兄と弟が居たって事か」
「ほーん、兄弟ネ」
「発言内容的に、多分3人で悪事を働いてたって感じだな。過去のレネゲイド案件を調べれば、正体にも繋がるかもしれない」
「それやるより、魁星クンから話聞けば分かるかモ」
「の、方が確実か」
あとで少年から話を聞くとしよう。
今のところ確実に分かっているのはこんな所か。じゃあ次に、おそらくそうかもしれない考えに目を向けていく。
「あのレネゲイドが切断系の異能ってことは多分、2週間前と1週間前に起きた死体遺棄に関わってそうだな。遺体には切り刻まれた痕があるって話だったし」
「関わってそう、じゃなくてほぼ間違いなく関わってると見ても良いんじゃなイ?」
「まだ暫定そうとしか言えねぇだろ。それに肝心の共犯者が分かってない」
「確か、念動力系の異能って警察は見てるんだっケ。今のところ、そんな異能持ちを見た記憶は無いけド」
「そんな奴が居たら、とっくに思い出してるんだがな。それと内通者なんだが、思い当たる節が1つある」
「へぇ? そりゃ誰なノ?」
「あのレネゲイドは護衛が雇われた情報も知っていた。だとするなら最有力容疑者候補として、俺たちが部屋を出る時に見かけたあの女性が挙げられる」
「あぁ、あの丸眼鏡ノ」
「とはいっても、顔はきちんと見えなかったし。あの時は晴々青年もまだ部屋の中に居たから、捜索は難航しそうだがな」
そうかもしれない事については、こんな所で良いだろう。
んでだ、最後。未だに分かっていない事について纏めていくとするか。
「正直、色々と考えてはみたが、あのレネゲイドが暫定死体遺棄事件の主犯と仮定して、何が動機なのかさっぱり分からねぇ。少年に関しては兎も角として」
「動機ネェ。ふっつーに捕まった腹いせじゃなイ?」
「あの時のレネゲイドは、兄と弟を捕まえた
「なるほド。確かに、なぜ他のブレイバーを殺す必要があったのかについては分からないネ」
うんうん、と頷く疫病神であったが、「でもネ」と言ったあとモニターの画面に向き合い、シークバーを動かして、ある時点で止める。人質とあのレネゲイドが映っていた。
「ボクはそれ以上に、これが不可思議でならなイ。なんで人質を呆気なく手放したのサ?」
映像が再生される。蜘蛛の噛み付きで注意が逸れたレネゲイドから、 人質の女性を救うシーン。だがそのすぐ後、女性に突き飛ばされて……あとは言わずもがな、だ。
「言い訳になるかもしれないが、俺はそもそも手放したつもりはない。寧ろ、俺の方がびっくりしてるわ。急に突き飛ばされたし」
「ふーむ、一応嘘は言ってなさソ」
「こんな時に嘘つく間抜けになるかよバカタレ。俺も確かに彼女を掴んでた確信はあったんだが」
自分の手を見ながら、もう1度あの時の出来事を振り返る。俺は確かにレネゲイドから人質を保護したが、あろうことかその人質である彼女に突き飛ばされ、それから滑るように地面を移動していって、最終的に止まるために踏ん張ったせいで跳び上がり、パトカーの上に落ちた。
そういや、あの時なんで途中から地面を擦ったんだろうか? 俺はてっきり、そのまま滑って止まらないのかと思ってたんだが……。
「滑って、擦って──い゙い゙い゙」
やっべ、痛みがぶり返してきた。今日の分の鎮痛薬飲んどかねぇと。
「流石に今日はここまで、かナ。一旦話はここで止めよっカ」
「そうするわ。おーいって」
鎮痛薬を服用し諸々の準備を済ませて床に就く。色々と謎は残っているが、今考えを巡らせても何か出来るわけじゃない。明日の自分に任せる事にして、俺は意識を深い眠りの底へと落とした。
そして翌日、いつもの如くバーズで朝食を食べていた時、1 本の電話が掛かってくる。相手は晴々青年で、昨日頼んでおいた事の報告の電話であった。
内容を聞いた俺は、手早く朝食を済ませて協会へと向かうのだった。