探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜   作:Haganed

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 車を走らせ協会に到着した矢先、エントランスに入ると晴々青年が待ち構えていたが、それは一旦どうでも良い。俺は迷うことなく彼のもとへと向かい、訊ねた。

 

 

「晴々さん、電話の内容は本当にそう言ってたんですね?」

 

「ええ、確かに上司はそう言って」

 

 

 クソッタレ、こんな馬鹿を選ぶなんて。

 

 

「晴々さん、その上司は今どこに?」

 

「協会本部に居ますが・・・・・・あの、なにを?」

 

「決まってるでしょう。直談判しに行くんですよ」

 

「あの、せめてアポを取ってから」

 

「────アポ?」

 

「ひっ!?」

 

 

 晴々青年が一瞬怯えたが、それもどうでも良い。

 

 

「部屋まで案内お願いします、晴々さん。今回のことは流石に無視できないので」

 

「いや、あの、アポが無いと」

 

「あ゙?」

 

「ひいっ!? そ、そう言われましても……」

 

 

 彼の怯える表情を見て、頭の中でカウントが始まった。特に考えた訳でもなく、頭の中で1の数字が俺の声で再生され、それから続くようにカウントを進める。同時に、ゆだった頭が段階的に冷えていく。

 

 途端に自分のしていた事への羞恥心が湧き上がり始めた。ここで晴々さんに怒りをぶつけて、何かが解決する訳じゃないだろう。

 

 頭の中にあった熱を口から空気と共に吐き出し、冷静さを取り戻した。

 

 

「────大変お見苦しい所を見せてしまいました。晴々さん、申し訳ありません」

 

「は、はぁ」

 

「ですが、今回の件に関してあのような判断が下された事に納得がいきません。現に、レネゲイドという脅威が本来頼り知らぬ情報を知っていた。共犯者を探さなければ、また同様の事が起きかねません。それは晴々さんもよく分かっているでしょう」

 

「それは勿論、分かってます。でも、聞き入れてもらえるか」

 

「では、このまま依頼を完了させて終わりにしても良いんですか? 彼を、彼の家族をまた、危険に晒すつもりですか?」

 

「それは…………」

 

「俺は、このまま依頼を進めたくありません。打てる手があるのに何もせず、ただ黙って終わらせたくありません。じゃないと、きっと後悔の苦い後味だけが残り続ける」

 

 

 そこから、晴々青年は押し黙った。実際に流れた時間よりも長く感じた間を身をもって体験したあと、真っ直ぐな視線が俺に向かい、覚悟を決めたように言う。

 

 

「分かりました。少々お待ちください」

 

 

 すぐに晴々青年は電話をかけ、ほんの数秒程度で通話を終えた。

 

 

「行きましょう、探偵さん」

 

 

 首肯で応じて、彼の案内に付いて行く。エレベーターで協会の18階まで昇り、シックな造りの木製ドアを青年がノックする。

 

 

「どうぞ」

 

 

 許可が出たので扉を開けてもらって室内へ。部屋の主らしき白髪初毛のスーツ姿の男性が、入室した青年と俺に視線が向けられた。

 

 

「勝手に部外者を立ち入らせるとは、何の真似だ?」

 

「部外者ではありません大内管理官。彼は、今回の護衛依頼を請け負った探偵の方です」

 

「探偵…………そうか。だが事前連絡も無しに勝手に入れさせるな。 まさか社会人としての基本を忘れたわけでは「御託は良い」

 

 

 このままうやむやにされて帰らされる訳にもいかないので、 口の悪さはそのままで割って入る。

 

 

「要件を簡潔に伝える。1つ、警察と情報を共有してレネゲイドの逮捕に協力しろ。2つ、同じく警察と協力して協会内部に居る共犯者を洗い出せ。このまま何もせずにいると、護衛対象とその周辺人物の身が危うくなる」

 

 

 俺の言葉に返って来たのは、ほんの僅かな溜め息と、男が椅子を引いて立ち上がる姿だった。男は俺から視線を逸らし、わざとらしく言う。

 

 

「探偵さん、報告で聞きました。無事レネゲイドからブレイバ一である彼を守りきったそうじゃありませんか。これから残りの5日間もその調子で」

 

「話をはぐらかすなクソジジイ」

 

 

 こいつ、話を全力で聞かなかった事にしようとしている……!

 

 

「テメェ、人命より優先して然るべき物があるとでも言いてぇつもりか? このまま依頼を終わらせたとしても、件のレネゲイドや共犯者が捕まるとは限らないんだぜ。その危険性を承知の上で話を終わらせてぇってんなら、俺にも考えがある」

 

「何をされるのかは見当もつきませんが、どのような事を?」

 

「危険を取り除きやすくする、とだけ言っておこうか。あとは自分で考えろ」

 

 

 ともかく、今俺の優先順位は少年の安全だ。この反応から察するに最早協会が警察に手を貸す事は無いのは火を見るより明らか、となるとこちらから知り得た情報をナベさんに教えた方が安全になりやすい。

 

 俺の発言のあと、ほんの僅かな間が流れる。部屋の静けさが聞こえ始めようとした辺りで、対面する男は面倒そうな息遣いをしながら俺に向けて言った。

 

 

「探偵さん、具体的に何を為さるのかお聞きしても?」

 

 

 自分の眉間の皺が深まったのを理解する。

 

 

「警察と協力する。今日の依頼、事が事だ。探偵1人でどうこうできる範囲を越えてしまっている。それ以上の最善策は「探偵さん」

 

 

 男は俺の発言に割り込んで、話を中断させる。2度目の呼びかけは、 打って変わって低く聞こえた。

 

 

「そこの晴々から聞いているでしょうが、我々協会は今回の件に関して警察との情報共有を差し控えるとお答えしました」

 

「そう判断した理由は?」

 

「協議の結果、不要であると判断が下されました」

 

「話にならねえな。その協議とやらで、どんな理由になってその判断に至ったんだ?」

 

「それに尽きましては、機密のためお教えする事は出来ません」

 

 

 拳に入る力が強くなるのを知覚した。もうこの話に意味は無いと切り捨てるその態度に、俺の心に悍ましく醜い()が現れかけたタイミングで、電話が鳴り意識が逸れる。

 

 その発信源は俺の携帯で、相手はいつもの疫病神。無言で男を見て、返ってきたのは差し出すような形で出された手だった。 そこで俺は電話に出る。

 

 

「何の用だ? 今取り込み中で」

 

『そのお取り込み中の事で電話したんだヨ』

 

「あ?」

 

『どーせキミのことだかラ? 協会の役員の判断にキレそうになって、話を無理くり通そうとでも考えてたんじゃなイ?』

 

「────────」

 

『ハイその反応からもう大体分かっタ。もー、一体何年探偵やってんのサ? そーいう人間と何度も会って来たんだから、キミの正論を受け入れるより、今損したくない奴に正面から対応する事ないノ』

 

 

 …………くそっ、ぐぅの音も出ない。血の昇りやすさはあの人からもよく言われてたが、コイツに言われるとなんか腹立つ。

 

 

『だからさ、ここはボクに任せてみなイ?』

 

「切っても良いな、よし」

 

『あ一待って待っテ! 切らないてよ判断が早イ!』

 

「お前に頼るとロクな事にならねえんだよバカタレ」

 

『もー、困ってるんだから素直に頼りなってバ! 5年近く一緒に過ごしてるんだから、少しは信頼してヨ!』

 

「オメーには負の信頼しかねえんだよ。何やったか自分で思い

出しやがれ」

 

『ごめン。ボクそこまで記憶力良くないノ』

 

「ならもうテメーで言った事も忘れてるな。切るぞ」

 

『待って待ってパート2(ツー)! じゃあキミは、今この状況で相手からYESを引き出せるノ?』

 

 

「…………出来『できないよネ? というかクズ相手にはめちゃくちゃ強気に出て情報収集失敗するパターンあったよネ? ハイこれ返せる言い訳あるならどーゾ』

 

 

 考えるまでもなく、俺はこの類の相手から情報を集めるのは向いていない。それで何度も途方に暮れ、なんとか依頼を達成できたものの、かなり窮屈な思いをしたのは確かだ。そして合理的に考えれば協力態勢を築くのが良いわけで。

 

 心の内にあった()はいつのまにかナリを潜め、色々と思う所を全て飲み込んで、大きく溜め息を吐く。

 

 

「妙な真似だけはするなよ」

 

『分かってるヨ。誠実に、そして丁寧にやるからサ』

 

「信用できねえ……」

 

 

 だが、もうここはコイツに賭けるしかない。仕方なく、俺は電話を男に差し出す。当たり前だが、意図を量りかねてるようだ。

 

 

「これは?」

 

「アンタみたいなのに用意した交渉人だ。俺じゃ手に余るから、勝手に出張ってきたんだよ」

 

 

 有無を言わせる事なく、俺は男の手に携帯を握らせる。呆れた様子で渋々男は疫病神に応対した。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

 男がマコトから無理矢理渡された電話に出る。しかし電話の相手が何を言おうと、判断は変わらない。無意味な努力を嘲笑う用意は整っていた。

 

 

やぁ、こんにちは。協会役員さん

 

 

 これから待ち受ける地獄の事など、露知らず。

 

 

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