探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
あれから30分が経過してようやく3人を落ち着かせることに成功し、ひとまず今回来た目的の話をしようとしたが、俺の話を遮るようにして息ぴったりにご両親が言い放った。
「「帰ってくれ」ください」
「2人ともいい加減にしてよ! 私が頼んだんだから帰ってだなんて言うこと聞くわけないでしょ!」
うーん、この。まぁ、高い金払って人探しさせるよりタダ働きできる警察の方が良いわな……なんて、冗談じみた考えはよそう。とはいえ決して間違ってるとも思えない。
警察でさえも未だに見つかってないのに、ましてやただの探偵が2週間の調査期間で見つけられるはずがないという懸念もあるのだろう。そしてその調査期間の短さで70万近く払わなきゃいけないんだから、それを知った身内の反応なんてこういうのが当たり前だ。
とはいえ、俺もこの依頼を棄権するわけにはいかない。報酬の美味さを考えてない訳じゃないが、それを抜きにしてもあんな目をした人間を裏切るような真似をしたくない。あの場で断りでもしたら、寝覚めも悪くなるしな。
「再度申し上げますが、依頼人以外の方が依頼を撤回することは原則として出来ないようになっています。ですので」
「そんな事は知らん、無かったことにして帰ってくれ」
「本当にいい加減にしてお父さん! この依頼は2人に迷惑がかからないように自分の貯金から出すって言ってるじゃん! 何がそんなに気に入らないの!?」
「何処の馬の骨とも分からん奴に金を払ってまで頼る方がおかしいだろう! 少なくとも、公的機関に属してる組織の方が信用できる!」
取り付く島もないな本当。ここまで拒否されることが無かった訳じゃないが、だとしても依頼人の両親という関係でしか無い相手の言い分を現段階で聞く必要も無い。
「その公的機関の警察でさえまだ見つけられていないのに、一介の探偵がたった2週間で見つけられるはずがない。というお考えをお持ちである事は理解できますし、その為に高額な金銭を娘さんが支払うことに拒否感を示すのも理解はできます。ただ、本当に息子さんが早く見つかって欲しいのであれば、可能な限りの範疇で多くを頼ろうとしている娘さんの判断は間違っていません。────ですが、どうやら英里さん以外、英一さんが生きてようが死んでようが、どうでも良いらしいですね」
「なんだと!?」
あの疫病神の真似をすることになったのは癪だが、少なくともこれで多少なりと本心を出しやすい心境にはさせられた。父親の方は怒りを顕著に出して、母親の方は俺の発言に信じられないものを見たような表情してる。まぁ客商売に有るまじき発言だものな、その反応は正しい。
んで、そうだな……あと1歩か2歩ぐらい踏み込むか。
「英一さんが見つかってほしいというのでしたら、ご自分たちで何か行動された事はあるのですか? 息子さんの行方に関する情報を、似顔絵を書いたポスターなどを配ったりするなど、少しでも自分たちで集めようと行動したのですか?」
「それは……」
母親から漏れ出た言葉を考慮すると、全くしてないなこれ。楽観的すぎて阿呆らし。まぁ、こういう人間と話すのも初めてじゃない。これ以上口を挟まないように釘を刺す程度に終わらせよう。
「その御様子ですと、警察に頼ってそれで何とかなるって思っているみたいですね。かなり楽観的でお花畑なお考えでいらっしゃる」
「何だと?!」
「私個人を嫌うのは勝手にしてください」
今まで話していたより少し大きめの声で、そして今までより侮蔑するような視線を向けながら、俺は言い放つ。
「一介の探偵を信じられないのも別に構いません。私の存在そのものを否定する言葉を出すのも別に構いません。────でも、依頼人の頼みを邪魔するのだけはやめてもらおうか」
別に他人から人格否定される言葉とか、もう散々浴びてきたんだわ。“お前の仕事はぼったくることか?!”とか、浮気調査の依頼人がヤバくて拒否したら“お前も犯罪者!”とか、それはもう散々言われてきたわ。なんで罵詈雑言は正味どうでも良い。
だが絶対に依頼遂行の邪魔だけは許さん。人が俺を頼りに動き、金を払ってまでやって欲しいと、本気で願った人の邪魔だけは絶対に許さん。
それは、依頼人の願いを否定することになる。
「英里さんは、どのような経緯であれ私を頼りにして事務所に来て依頼をしてきた。大切な家族のために、自分の幸せを削ってまで調査を依頼しに来たんです。依頼の邪魔をすることが、彼女の願いを否定することに未だ気付かないのですか?」
2人が視線を逸らす。ようやく押し黙ったようだ。全く、依頼前に疲れるのは流石に慣れたもんじゃない。そのまま彼女と視線を合わせたあと立ち上がり、そのあとに立ち上がり先導する彼女に付いて行き、リビングを後にする。
2階へと続く階段を上り、廊下を進んで左側にある部屋の前まで来ると、彼女が立ち止まり俺と視線を合わせた。窓から差し込む陽の光が入らない暗がりの中で、申し訳なさそうな表情をしているのが見えた。
「すみません。折角来てもらったのに、あんな失礼な態度で」
「失礼な事をしてしまったのはこちらも同じです。その報いが来たのでしょう、謝らないで下さい」
暴力振るってこないだけマシだしな。暴力沙汰に発展して結果的に調査が出来なくなる事もあったが、大抵人の話聞かない奴ばかり。その点、まだあの2人は甘さを突き付けられてもグッと堪えてる辺り、人としての常識はある方だ。
中にはマジで人としての常識も良識も欠けた奴が居るからな。主にレネゲイドに多かった気がする。
返答として一礼した彼女は、目の前の部屋のドアノブに手をかけた。
「ここが、兄の部屋になります。1度警察にパソコンを調べてもらったんですが、何も出ず空振りに終わってます」
何も無かった、ね。さて、何かしらの手がかりが見つかれば良いんだが。そう思いながら彼女の手でドアが開き、英一さんが居なくなった部屋へと案内される。
そこで見た部屋の中は、かつての学生時代を思い出させるような雰囲気にあるが、全体的に暗く少々陰鬱な印象を受けた。真正面には学生時代に使っていたであろう棚付きの勉強机とキャスター付きの椅子、そして机の上に置かれたパソコンが1台。部屋の右側には、机と並行するように本が敷き詰められた背の低い本棚と、壁と一体化した押し入れがあり、左側には綺麗に整頓されたベッドがあった。
窓は勉強机のところに1箇所のみ。先に英里さんが部屋の中へと入り、灯りをつけて全体を照らしてらった後、足を踏み入れる。ざっと見た感じだと、探すのは机の棚、収納棚、本棚、ベッド周りに……っと、勉強机と本棚の間に足の畳まれた低い脚のテーブルがあるな。この隙間も確認しておこう。
部屋についてから英里さんから手付金を受け取ったあと、俺は調査を開始した。