探偵と疫病神 〜異能蔓延る世界にて、されど探偵は悪と踊る〜 作:Haganed
さて、先ずは真正面にある勉強机から見ていこう。机は鍵のかかっているであろう棚が1つと、鍵の無い棚が4つの計5つ。机下の奥のスペースにも何か隠せそうだが、この辺りに何かあったか英里さんに聞いてみるか。
「英里さん。お聞きしたいのですが、この机の下には何かありましたか?」
「机の下……目立った物は特に無かったかと」
「では、以前ここに何か物が収納されていたりとかは?」
「えーっと…………あ、昔はそこに通信教材の付録本、があったと思います。でも最初に家を出た時、全部捨ててしまったので特に関係は無いかと」
「なるほど」
取り敢えずライトを当てて見てみるが、特に何もなし。本当に何も無さそうだと確認してライトを消して────違和感に気付いてライトでもう一度照らしてみるが、何も無い。これは一体?
「あの、何がありましたか?」
「いえ、まだ」
「そう、ですか」
少し落胆したような様子を見せる彼女。取り敢えず全部を見て回らないと何も始まらん、次だ次。
机の引き出し。中には年季の入った短い鉛筆や、使いかけの消しゴム、ノートなどが収められている。ノートの中身は学生時代の板書ばかりで、特にめぼしい情報は無かった。
鍵のかかった引き出しの方は、聞けば警察も鍵が無かったとして開けなかったとの談。用意したキーピックを使って開けてみると、そこには薬袋が入っている。中を改めれば、服用していないものが数粒ほど残されていた。
「えっ?」
英里さんから咄嗟に出る驚いた反応。基本薬は処方された分必ず服用しないとならないが、ふむ……確かに残されている状態は少しおかしいように見えるが、英一さんが服用を勝手に止めた可能性もある。もう大丈夫と考えて勝手に止めるのは全くオススメしないが。
「お兄さん、服用を止めていたようですね。その辺りでしたら」
「いえ、違うんです」
「……違う、というのは?」
「
「それは、処方された薬を服用していた。という認識でよろしいですか?」
「はい。病院から処方されたものを飲んでいました」
毎日服用していた? だとすると、想定が変わってくる。つまりはこれ以外の処方箋を医者から処方されていたことになる。本来こうして数日分処方される場合は、必ず服用しきることを前提に処方するものだ。ましてや向精神薬だぞ? 回復したと判断しても服用を続ける必要性があるものを?
何故ここに飲みかけの薬をしまっていた?
嫌な想像だけが思考の坩堝に引きずり込もうとしてくる。だが、その前にまだ、他の場所も調べないと駄目だ。一旦そのことは後回しにして、本棚に移ろう。
本棚は本が収納されているが、基本左側に詰め込まれた状態で保管されており、右側を見れば所々空きがあったり、そもそも本が無かったりという状態だ。また本の背丈もバラバラで、背の低い文庫本と、背の高い雑誌などが一緒くたになっている。勉強机との位置関係から、取りやすいように左側に寄っていると見ていい。
中には昔使っていただろう辞書もあったため中身とカバーを確認するが、何も無し。隠し場所という点では良いと思ったのだが。そこで本棚の確認を終えて、勉強机と本棚の間にあるテーブルを退けて隙間を覗いてみるが、何も無かったので元に戻した。
押し入れへと移る。ドアノブに手をかけ、少し押すがこれ以上は動かないと暗に示され、次いで引いてみれば難なく扉は開いた。中は衣類用品が所狭しに収められており、調べがいがありそうだと気合を入れて全部みたが、何も無し。1着1着取り出してポケットの中も隅々見て、物が入ってないか服を触ったりしてみたが成果0。
最後にベッド。下の空間にある収納ケースを取り出し、中を見てみれば、えらく懐かしいものを見た。
「あの、何かありましたか?」
「失礼、個人的に懐かしく思った物があったので」
俺が見つけたのは特撮作品【仮面戦士】シリーズ84作品目の変身アイテム、その玩具。腰に巻いて手順を踏めば、搭載された音声が鳴り、音声に合わせて光る。昔、親父がこのシリーズをよく好んで見ていたし、何なら買ってもいたことを思い出し感傷に浸りかけて、自分の仕事を思い出した。切り替えて全ての収納ケースの中を調べてみるが、時期外れの服であったり、見つけた玩具ぐらいしか無く。服や玩具に何か入ってないか探りもしたが、何も無し。
ベッドの方も調べてみるが、ひっくり返しても枕の中に手を突っ込んでみても布団の中を探ってみてもマットレスを押し込んでみても、何も見つからず。
最後に残されたパソコンを調べるために電源を入れるが、予想に反してロック機能を解除することなく開くことが出来た。そして初期設定を行う画面に移行したことで、このパソコンには何も残されていないことが証明された。
結局この部屋で分かったのは、英一さんは薬を毎日服用していたにも関わらず、部屋に飲みかけの薬がある事だけが判明した。1つ気になる違和感はあったが、その違和感を解決できる情報が見つかっていないので保留。英里さんに許可を取って薬を1錠貰い、幾らかの写真を撮って事務所に戻って調べてもらうことにした。
車に戻りエンジンをかけカーナビと携帯がBluetooth接続を完了したのを確認し、疫病神に電話を掛けてすぐに彼が通院していた精神科【みやづメンタルクリニック】へと向けて発車する。電話の相手は2コール目に入る前に出た。
『はいはーい、ご要件はなんでござまショ?』
「途中報告だ。分かったことを吐け」
『んもー当たり強いッテ。そんなんじゃ喋りたくなくなりまース』
「良いからさっさと吐け、何もかも全部」
『警察の尋問でももうちょい理知的だヨ?』
うるせぇ知るか。疫病神相手にはこのぐらいの対応で良いんだよ。
『まぁいいヤ。取り敢えず何から聞きたイ?』
「レネゲイドが関与していそうな犯罪で、該当していそうなものはあったか?」
『いーまのところ発生してないみたいだネ。対象の異能が異能だから、夜に起きた事件とか、影の多い場所で起きた犯行を指定された範囲で探してみたけど、空振リ。それらしいのは無かったネ』
「無い、か。なら次、英一さんが勤めていた会社の情報出せ」
『金属加工部品の専門商社だネ。規模もそこそこ。ただSNSの反応を見た限り、会社の人間関係で不満タラタラな人も居るみたイ』
「宜しくない人間性の奴が居るみたいだな、そこ」
『あとどうも、そんな身内ノリな空気を常態化させてるみたいな事も呟かれてたヨ。新規雇用の定着率も悪い上、会社利益も悪くなってル。このままだと後3年も経てば終わるね、このカイシャ』
「そうか」
『すっごい淡白な反応ダー』
「興味無いからな、その辺の事情なんぞ」
『それもそうだネ。んじゃあ最後、彼が通っていた精神科なんだけど、そこのお医者さんは一見して怪しい所はナシ。クリニックにも異常は無い。悪さ出来る要素は一見して感じられないヨ』
「この目で色々と見るまで確かめるしかない、か」
『そーいうことになるね、ボクからはおしまイ。そっちは何か手がかりあっタ?』
「彼が服用していた薬を許可取って貰ってきた、あとで解析頼む。あと英里さんの証言で、元々1週間分処方されていた薬を中断して、別の薬を服用していた可能性が浮かび上がってきている」
『へェ? そりゃ何とも「っと、ここか。切るぞ」えー』
通話終了ボタンを押して、駐車スペースが設けられている目的地の敷地内へと入ろうとするが、全スペース埋まっていたため近いコインパーキングに駐車して徒歩でクリニックへと向かって行った。