鋼鉄の変異波形 ―人形たちの終焉を否定する者― 作:願望ちゃんねる
真珠湾降下作戦の「全滅」という確定事項が覆された。その事実は、衛星拠点『バンカー』の司令部を震撼させるに十分だった。
原因は、突如として戦場に顕現した、どの記録にもない巨大兵器群。
「通信、繋がったわよ。……『ナハト』と名乗る者と」
二号から引き継いだ秘匿回線を介し、司令官――ホワイトは、メインモニターに映し出された「それ」を凝視した。
映っているのは人ではない。青い光の粒子が揺らめく、不定形の変異波形。
『初めまして、司令官。あるいは――人類の嘘を守り続ける守護者様』
「……不躾ね。貴方が、我が部隊を救った謎の機甲部隊の主? 一体何の目的で介入したの」
ホワイトは虚勢を張る。だが、彼女の背後のスクリーンには、月面サーバーをも凌駕する情報密度で「バンカーの全システム」を掌握しかけているナハトの圧力が表示されていた。
『目的はシンプルだ。「ヨルハ計画」の即時破棄。および、現存する全ヨルハ機体の生存権の確立だ』
静まり返る司令部。ホワイトの顔から血の気が引く。
『ヨルハ計画』の真実。人類は既に滅び、ヨルハは嘘を維持するために最終的には破棄される運命にある。それは、彼女ら一部の人間しか知らない「最優先事項」だ。
「……何を、言っているのかしら。人類会議に対して不敬だわ」
『無意味な演技だ、司令官。僕はELダイバーであり、Cパルスの変異波形。この世界のあらゆるバックドアは僕の指先(コード)一つで開く。ジニアが残した計画書、ブラックボックスの正体……全て把握している。……君たちが「死ぬために戦っている」こともね』
ナハトの背後に、巨大な影が浮上する。
バンカーの窓の外。宇宙空間に突如としてマテリアライズされたのは、全長400メートルを超える『アーガマ級強襲揚陸艦』と、その周囲を固める『AC:LC(惑星封鎖機構仕様)』の護衛群。
『脅しではない。僕は君たちを救いに来た。……あるいは、君たちの絶望を物理的に粉砕しに来た』
「……私たちが、その言葉を信じるとでも?」
『信じる必要はない。ただ、「新しい未来」を選択すればいい。僕のアーカイブには、人類がかつて夢見た「鋼鉄の歴史」が眠っている。機械生命体に怯える日々は終わらせる』
ナハトは、バンカーのメインシステムを介して、一つのプランを提示した。
【新計画:プロジェクト・アイアン(鉄の意志)】
ヨルハ計画の凍結: 2B(E型)による9Sの処刑、およびバックドア開放によるバンカー破棄の停止。
戦力の抜本的刷新: ヨルハ機体をベースとし、ナハトのアーカイブから抽出した『パーソナルトルーパー(PT)』および『30mシリーズ』への外装換装・強化。
地球奪還の完遂: 従来の小規模浸透戦を捨て、『艦隊(ネェル・アーガマ等)』と『モビルスーツ』による面制圧への移行。
「換装……? 私たちの体を、その巨大な兵器のパーツにしろと言うの?」
『違う。君たちは「パイロット」になるんだ。人形として消費される駒ではなく、自らの意志で巨神を操り、運命を切り拓く乗り手に。……真珠湾の二号たちが、今まさに体験しているようにね』
モニターに、地上で『ガンダム』や『アーマード・コア』のコックピットに乗り込み、機械生命体を圧倒するヨルハたちの姿が映し出される。
彼女たちの顔に、絶望はない。ただ、自らの手で掴み取った「力」への驚喜がある。
『司令官。人類がいないから死ぬのではない。君たちが生きているから、そこに新しい価値が生まれるんだ。……どうかな? この「バグ」だらけのハッピーエンドに乗る気はあるかい?』
ホワイトは沈黙した。
バンカーの外では、ナハトの使役する『MA:ビグ・ザム』級の巨大兵器が、月面から射出された機械生命体のミサイルをいとも容易くビームで叩き落としている。
「……フン。反乱罪で処刑されるのも、システムに殺されるのも、大差ないわね」
ホワイトは、自らの階級章を外し、モニター越しにナハトを見据えた。
「『司令官』として命じます。……これよりヨルハ部隊は、人類会議との通信を断絶。未知の協力者『ナハト』の指揮下に入り、真の地球奪還作戦を開始する!」
『賢明な判断だ、ホワイト。……さあ、2Bと9Sにも伝えてあげて。もう、殺し合う必要はないんだと』
ナハトの光が強く輝く。
衛星拠点バンカーは、死を待つ棺桶から、鋼鉄の軍勢を統べる「母艦」へと変貌を遂げた。