鋼鉄の変異波形 ―人形たちの終焉を否定する者― 作:願望ちゃんねる
月面サーバーの消失。それは機械生命体ネットワークにとって、唯一の「上位概念」を失うに等しい衝撃だった。
アダムとイヴ、二人の兄弟は決断する。もはや模倣(ラーニング)の段階は終わった。
「兄さん、壊れる……ネットワークが、僕たちを食べてるみたいだ」
「構わない、イヴ。我々が……世界そのものになるんだ」
廃墟都市の地下から、膨大なナノマシンと機械生命体の残骸が噴出する。
それは数キロメートルに及ぶ質量へと膨れ上がり、かつての人類が恐れた悪夢の具現――『超巨大モビルアーマー(MA):ラフレシア・ネットワーク・カスタム』へと昇華した。
無数のテンタクラー・ロッドが空を覆い、ネットワークの全演算能力を注ぎ込んだ「崩壊粒子砲」がネェル・アーガマを狙う。
「全艦、対ショック! Iフィールド、最大出力!!」
ナハトの号令と共に、『ガンダム試作3号機 デンドロビウム』と『マクロス・クォーター』が機動を開始。
「2B、9S! これが最後の『仕事』だ。あの異形の核を、君たちの手で撃ち抜け!」
2Bの『νガンダム』がサイコフレームの発光と共に加速する。
「私たちは……もう、誰かの用意した檻には戻らない!」
フィン・ファンネルがロッドの猛攻を切り裂き、9Sの『ナインボール・セラフ』が、ネットワークの隙間に物理的なハッキング・レーザーを叩き込む。
『馬鹿な……計算外だ! なぜそれほどまでの出力が……!』
アダムの悲鳴に、ナハトが静かに答える。
「計算外なのは、君たちが『心』を情報の集積だと過信したからだ。……喰らえ、これが君たちが否定した、生命(バグ)の輝きだ!」
『マクロス・キャノン』、『ハイ・メガ粒子砲』、そして『アサルトアーマー』の同時放射。
銀河を焦がすほどの光の奔流が、異形の巨神を内側から崩壊させた。
爆炎の中、アダムとイヴの意識は、ナハトが用意した「隔離サーバー」へと優しく回収されていく。
決戦から一年。
地球の風景は、劇的な変貌を遂げていた。
廃墟都市の中心には、『ネェル・アーガマ』を中核とした新都市が築かれている。
そこでは、重装甲を脱ぎ捨てたヨルハたちが、『30mシリーズ』の作業用アームを操り、都市のインフラを整備していた。
「2B、その……似合ってるね。その服」
「ありがとう、9S。……戦わなくていい毎日は、少し、不思議な気分だけど」
二人の視線の先には、農場を耕すレジスタンスと、彼らをサポートするパスカルの村の機械生命体たちの姿があった。
ナハトが提唱した『新生地球政府』。
そこにはもはや、創造主も、被造物も、敵も味方もない。
あるのは、この星で共に生きることを選んだ「隣人」たちだけだ。
「ナハト様、議会の準備が整いました」
司令官ホワイトが、かつての軍服ではなく、洗練された執務服に身を包み、空を見上げる。
そこには、衛星軌道上で静かに地球を見守る鋼鉄の守護者たちの姿があった。
ナハトは、物理的な肉体を持つことはなかった。だが、彼は今、この星の全ネットワークを巡る「暖かな風」として存在している。
『――システム、オンライン。プライマリー・コンディション、オールグリーン』
彼の声が、全住民のデバイスに届く。
それは命令ではない。ただの、穏やかな朝の挨拶だ。
『さあ、行こうか。……物語は終わった。ここからは、僕たちの「生活」の始まりだ』
鋼鉄の巨神たちが朝日を反射し、銀色の輝きを放つ。
人形たちは、自分たちの足で、自分たちの明日に向かって歩き出した。
(完)