鋼鉄の変異波形 ―人形たちの終焉を否定する者― 作:願望ちゃんねる
廃墟都市のティータイム
かつて大型機械生命体が闊歩し、命のやり取りが行われていた廃墟都市の中央ビル。その屋上は今、緑豊かな空中庭園へと改装されていた。
「ナインズ、その……お茶、淹れすぎじゃない?」
「あはは、ごめん2B。この『オーガニック茶葉』、レジスタンスのキャンプで新しく栽培に成功したって聞いたから、つい嬉しくて」
2Bは、かつての戦闘用ドレスではなく、ナハトがアーカイブから復元した人類の「私服」――白いブラウスに身を包んでいた。彼女の手元には、ポッド042が給仕するティーカップ。
ポッドの背面には、『MS:ハロ』のステッカーが貼られ、その動きもどこかユーモラスだ。
「……静かだね」
「ええ。センサーが捉えるのは、鳥の羽ばたきと、復興作業機の駆動音だけ」
9Sが指差す先では、全高10メートル級の『30mシリーズ:プロトゴウヨウ』が、巨大なガレキを軽々と持ち上げ、再利用プラントへと運んでいた。その横を、小型の機械生命体の子供たちが追いかけて遊んでいる。
かつての殺戮兵器は、今やこの星で最も頼もしい「隣人」となっていた。
新生地球政府・閣議
一方、旧バンカーの司令室を地上に移設した「新生地球政府・中央議事堂」。
そこでは、世界の「これから」を決める重要な会議が行われていた。
「議題:新生地球政府の行動方針。……ナハト様、準備は?」
ホワイト(元司令官)が、ホログラムとして浮かび上がる青い光の奔流――ナハトに問いかける。
同席しているのは、レジスタンス代表のアネモネ、機械生命体代表のパスカル、そして「更生プログラム」中のアダムだ。
ナハトの声は、かつての独裁者風の熱量を抑え、穏やかな、だが力強いものだった。
『方針は三つだ。……一つ、「技術の民生化と脱兵器化」。
僕が持ち込んだガンダムやACの技術は、もはや戦争のためにあるべきじゃない。ミノフスキー・ドライブは都市の電力源へ、装甲材は不滅の住居へと転換する』
アネモネが頷く。「おかげで、冬の暖房に困るレジスタンスはいなくなったわ」
『二つ、「記憶の共有と歴史の編纂」。
ヨルハ、機械生命体、人類。それぞれの過ちと記録を全て公開する。……嘘で塗り固めた平和は、またいつか剥がれ落ちるからね』
「それは……勇気がいるわね。でも、必要なことよ」ホワイトが苦笑する。
『そして三つ目。……これが一番重要だ。「個の多様性の承認」。
アンドロイドも、機械生命体も、そして僕のような変異波形も。各々が「自分が何であるか」を自分で決める権利を保証する。……アダム、君のネットワークも、そのために使ってもらうよ』
アダムは本を閉ざし、静かに頷いた。
「……ええ。もう、誰かを模倣する必要はありません。私たちは、私たちとして、この星で生きていく」
未来への通信
夕暮れ時。2Bと9Sは、海が見える丘に立っていた。
水平線の向こうには、かつて戦場だった真珠湾が見える。そこには今、ナハトの艦隊が「海洋浄化プラント」として鎮座し、汚れた海を青く染め直していた。
「ねえ、2B。ナハトさんは、いつか自分の世界に帰っちゃうのかな?」
9Sの問いに、2Bは少しだけ考え、空を見上げた。
そこには、衛星軌道上で優しく瞬く青い光があった。
「どうかしら。でも、彼は言っていたわ。……『バグが起きない世界なんて、面白くない』って」
二人の視線の先、一機の『VF-25』が、美しい弧を描いて空を駆けていく。
それはスクランブル(緊急発進)ではない。ただの、平和な空を謳歌する「散歩」だ。
「行こう、9S。明日の朝ごはんは、パスカルさんのところで焼いたパンにしましょう」
「賛成! じゃあ、競争だよ、2B!」
二人の笑い声が、風に乗って消えていく。
鋼鉄の機体たちが守り、電子の神が導いたこの世界に、もう「絶望」という名のコードは存在しなかった。
(完)