TS転生お姉さんは悩めるバンド少女たちを導きたい 作:ヒナまつり
昔から俺は、主人公よりもその主人公達が挫けそうになった時に導く天才のお姉さんや元最強のおじさんが大好きだった。
いつの日かそんな人になりたい、そう思いながらも自分の才能が見つからなくてただただ色んなものに触れて自分の才能を探していた。
けれど、これだっ!という圧倒的な才能を見つける前にあっさり俺は死んだ。
本当に、あっさり。きっと誰も俺が死んだなんて気づかないんじゃないって思うぐらいに。
だから、あるかもしれない次に俺はこう願った。
「めっちゃ美人の儚い系お姉さんで才能マシマシでお願いします!」
うん、まぁバカだよね。死ぬ前の言葉がこれだからね?
でも、その甲斐あってか俺は記憶を持ったままくそ美人で天才の女になった。
けれど言い忘れていたんだ…ファンタジーの世界ってことを…っ!
そう、俺が転生したのはバンドが前世よりもめっちゃ流行っているだけの一般的な現代だったんだ…!
だから、俺は必死にやったこともないギターやキーボード、ベースなど諸々の練習と作詞作曲の経験を積みまくった。
そして、生まれてからはや18年。俺は、世界的に有名な仮面バンドとしてメジャーデビューを果たした。
たった一人で…っ!
あぁ─何処で間違ったっ!?俺は誰かを導いて活躍してるのを後ろで見たかっただけなのにっ!
そんな後悔を抱え、もう何もしなくても生きていける程稼いだ時、雨の降り続ける夜中に泣きながら走る少女を見つけて天命が降りてきた。
そうだ…!バンドで何か問題を抱えている少女達の悩みを解決してバンドを復活させてメジャーデビューさせようって!
そこから、俺は直ぐ様、ラストライブをしていい感じに古い家を買いライブハウスを作った。
名前はLodestar。北極星や導きの星という安直な名前だがそれでも夢の一つが叶った気がした。
だけど、問題があったんだ…!それは、そこまでボロボロのバンドはそんなにないってこととあったとしても悩んでいる事を伝えて貰える程好感度を稼がないといけないってこと!
だから、俺は種を蒔くように様々なバンドに声を掛け、たまに身分をかくして色んな所でライブをしていた。
そして、ある日の夜…テラスで暇潰しにピアノを弾いていた時に俺はやっと憧れの言葉を悩む少女達に掛けれたのだった…!
「やぁ、若き少女達。なにか、悩みごとかい?」
「…凄い」
予餞会で呼ばれたたった一人のバンド。私はそれにあんまり期待していなかった。顔を隠しているし、一人だし。
でも、鳴り響く声と彼女が紡ぐ言葉は透き通るように綺麗で、それでいて切なくて。まるで、何も出来ない私のことを歌ってくれているみたいで。
ただただ、その眩しさに当てられた私の口からは感嘆の声だけが漏れた。
そして、その熱に煽られるように私は知り合いとバンドを組んだ。
練習だって必死にやって、皆の空気も合ってきて…これなら
、私達ならあの人みたいに、いや…あの人を越えるバンドになれるって、そう信じていた。
だから、だから…誰一人も興味を持ってくれなかったライブで心が折れてしまった。
そもそも、人気なバンドの直前の出番だったし台風のせいで来ていた人たちはそのバンドの熱狂的な人しか居なかったのは知っている。
でも、それでも私達ならそんなこと関係なく私達の曲に引きずり込めるってそう、思っていたから。
だから、一人…また一人会場から興味無さそうに出ていく現実に打ちのめされた。
皆も、きっと同じ思いをしていて私の段々小さくなる声とずれていく音だけが私達の初ライブの思い出となった。
「ごめん…ごめん…私のせいで…」
もう真っ暗になった帰り道で溢れる涙と震える体を抱き締めながら私は皆に振り返って謝った。
「ううん、奏のせいじゃない。これは…運が悪かった。それだけ、だから」
音羽ちゃんは泣きながらも私を慰めるように頭を撫でてくれて…でもその優しさが私の胸を切り裂いて、雨のように私の涙は止まらなかった。
「うん、音羽ちゃんの言う通りだよ…。私達は全力で頑張ったんだから!それで、いいんだよ…!また次…頑張ろう?」
だから、心乃音ちゃんも私を気遣って空元気で慰めようとしてくれた。
でも、今日のライブは私達の成果を心乃音ちゃんのお父さんに見せるためのもので…結果次第で心乃音ちゃんはバンドを辞めないといけなくて。
きっと、この結果じゃダメなのに。彼女は、まだ次を見てくれていて…嬉しさと悔しさが入り交じって私は口を閉ざした。
「でも…こんな結果じゃ心乃音はバンド続けれないでしょ…?そんなの、絶対イヤ!」
けれど、心乃音ちゃんを誘った杏ちゃんは、きっと心乃音ちゃんのお父さんが許可してくれないことを知っているから、杏ちゃんは泣きじゃくって心乃音ちゃんに抱きついていて、心乃音ちゃんは困りながら杏ちゃんを落ち着かせようと頭を撫でてもその声は止まらなかった。
「…一緒にずっとやるって、言った。このは…うそつかない。説得なら一緒にやる…だから、次…考えよ」
由莉ちゃんはそんなことを杏ちゃんに伝えるけど杏ちゃんはその無神経な言葉に怒って睨み付けた。
「あの人が…許すわけないの!何も知らないくせに口を挟まないでよっ!」
─ダメだ、私が…下手だったせいで。全部、壊れちゃう。
そう思っているのに、言葉を口にすることも手を伸ばすことも出来なくてただただ涙だけが溢れて…でも、そんな時…私達をバンドへ引き込んだあの音が聞こえた─。
「これ、あの人の…!」
そう気が付いた時には私は走り出していた。
なんでかは、分からない。でも、あの音なら全部救ってくれるような気がして必死に走り出していたんだ。
後ろから追いかける皆の声を聞きながら、私はやっと音の発生源にたどり着いた。
そこは、有名なバンドがライブをするぐらい有名なライブハウスで。
いつか、私達もここでライブをしようと話していた場所だった。
そして、そこのテラスで白銀の髪を輝かせ妖精のような彼女はまだ音を刻んでいて、息切れながら着いた皆もその音に夢中になっていた。
でも、気が付いたらその音は止まっていて…その音を奏でていた彼女は私達を青い、青いその瞳で興味深そうに見て鈴のような声で私達に問いかけた。
「やぁ、若き少女達。なにか、悩みごとかい?」
まるで、私達が何に悩んでいるのか見透かすように彼女は微笑む。
妖精のように見えていた姿は、雲に隠れた月で途端に悪魔のように見えて…でも私は手を伸ばしてしまった。
「はい…助けて、くれますか」
「…ふむ、取り敢えず中に入ろうか。大丈夫、取って食ったりはしないさ。ただ、君の力になりたい…それだけさ。ほら、君達も来なよ」
たどたどしく漏れた言葉に彼女は笑ったりもせず私の伸ばした手を取ってライブハウスへと歩きだす。
でも、私以外がまだ立ち止まってるのを見て不思議そうに振り返っておいでと促す。
皆はやっとそこで、この人が作った世界から抜け出してゆっくりと着いてきた。
軋む音を立てながら開く扉の奥には、まるで廃れてしまったようなライブハウスがあって。
そこの窓際の席に私達を座らして、彼女は私達の正面に座って私達の顔をしっかり眺めた。
「ふむ、心乃音ちゃん以外とは仮面なしだと初めましてだね?それで、悩みは…アイツのことかな?心乃音ちゃん」
優しく甘い声で問い彼女は心乃音ちゃんの目を見つめた。
─心乃音ちゃん、知り合いだったんだ…。いいなぁ…。いや、違う。そんなこと今関係ない!助けてくれるって、そう言ってくれたんだよ…?変なこと考えないで…!
すっと、現れた黒い霧を振り払って私は心乃音ちゃんを見る。
「はい…。でも、しょうがないんです…。お父さんはバンド反対してて…私達は結果を残せなかったんです。だから、月乃さんの力を借りるわけには…」
「ふーん?まだ、アイツそんなこと言っていたんだ。ま、それは別にいいや。それに、若者は大人に力を借りるものだよ?私だってそうやって生きてきたからね。あぁ─それで、君は…君達はバンド、やりたいの?それとも、もう諦める?」
私達の眼を宝石のような瞳で真剣に見つめて、確かめるように私達に問う。
まるで、そんなこと問題ないって言うみたいに。
「…っ!諦めないわよ!でも…もう、諦めるしか…ないのよ…!」
「そう、なら君達の音を今聞かせてくれないかい?そこにある楽器使っていいからさ」
その言葉で私の頭は真っ白になった。だって私にとって月乃さんは憧れの人で…そんな人の前で私なんかの声を聞かせたくなかったから。
「…でも、私は─下手で、貴方に聞いて貰う価値なんて」
「下手だって?そう。それは誰が言ったんだい?…君がそう思い込んでるだけなんじゃないか?─大丈夫、自分を信じて。俺は、そうやって来て今ここに立ってる。それでも、自分を信じれないなら、俺を信じろ。君になら、歌える筈だよ。皆もね、それとも私には聞かせれないかい?悲しいなぁ…?」
でも、そんな私の震える手を取って月乃さんは聞いたこともない私の声に期待を乗せた。
─初めてだった、誰かに期待されることなんて今まで一度もなくて。でも、月乃さんは私を信じてくれてる。真剣に、全力で。
だから、私は震える身体を抑えて皆の手を取って踏み出した。
「奏…。ふぅ…よし。皆、示そう。私達の音楽をっ!」
驚くように私を眺めてから音羽ちゃんは、年季の入ったドラムに座って声を掛ける。
皆もそれによってそれぞれの武器を手に持ち、前を向いた。
そして、月乃さん以外居ないステージで音羽ちゃんのスティックの音で私達のライブが始まった。
きっと、月乃さんと比べたらちっぽけな音楽。
でも、彼女は楽しそうに、嬉しそうに私の顔を見てくれた。
それだけで、私の暗闇に落ちた心は照らされて…気が付いたら、私達のライブは終わっていた。
─ちゃんと、歌えてた…?夢中で、何も分からなかった…。
熱い身体と、朦朧とする意識の中…パチパチと響く音によって私は目が覚めた。
そして、やっとピントのあった私の目に写ったのは…涙を流しながらただ拍手をする月乃さんの姿だった。
「月乃…さん?」
思わず漏れた私の言葉に、月乃さんははっとしてこほんと息を吐いてから言葉を掛けてくれた。
「あぁ、ごめんね…感動して。なんだ、やっぱり出来るじゃないか。奏ちゃんそれに皆も。じゃあ、後は私に任せて休憩してね?最悪泊まったっていいから。あ…そうだ、今さっきのライブ録画しといたから後で自分達の目で見なよ。…本当に、最高だったから。それじゃ、またね」
ゆっくりと涙を拭って月乃さんは、外へと歩きだす。その背中は今さっきより近いように見えて…顔が緩んでしまうのが分かった。
「奏…っ!凄かった、本当に…本当にっ!」
「うん!私達…すっごいよ!これなら、お父さんも説得出来るかも─」
「ううん、心乃音…!出来るかもじゃない、出来るわよ!だって、私達…あの月乃を泣かせたのよ!?というか、由莉!あんた、なんでそんなに上手くなってるのよ!」
「…あの人の、聞いたから。出来る気がした。それに、皆が…凄かったから。…うん、楽しかった─」
今度は振り返って見えたのは皆の清々しい顔で…私達は涙と共に笑顔を浮かべた。
この光景だけで、バンドをやって良かった。そう思えて…この機会をくれた月乃さんに対する心の中に灯る言葉はどんどんと膨れ上がる。
でも、そんな中…心乃音のスマホがなった。
「─お父さん…」
ぱっと、点いていた炎が消えるように震える心乃音ちゃんの手を杏ちゃんは握ってゆっくりと通話をスピーカーで開始した。
「心乃音…。─すまなかった」
「…えっ?」
「月乃さんから、聞いた。お前の…お前達のバンドが月乃さんを越えれるレベルだってことも…私が、お前に苦労を掛けてしまっていたことも。…だから、すまなかった。私はお前のことを見れてなかったみたいだ。…星のようだな、そこは。─もう、私はお前のバンドに口を挟まない。だが、学業だけはしっかりするように。以上だ」
ボソボソと呟く心乃音ちゃんのお父さんは、きっと泣いていたんだろう。今の心乃音ちゃんのように。月乃さんが送った私達のバンドのライブを聞いて。
─あぁ、やっぱりあの人は…。私にとっての─。
今の溢れてくる涙はきっと悲しみではなく、喜びで…私達はステージの上で泣き続けた。
そして、私は心に決めたんだ。
きっと、これからも幾つもの壁がある筈だけど、あの人に助けて貰ったのだから止まらないって。
いつか、あの人の立つ…月の下に行くまで…二度と諦めないと─。
ちなみに私は某物語シリーズの忍○メメが大好きです…!