TS転生お姉さんは悩めるバンド少女たちを導きたい   作:ヒナまつり

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迷い星と一等星

 

 「ふーんふーん♪よし、これでいいかな~?」

 

 鼻歌をしながら楽しそうに何処か見覚えがある磨耗して光と音を失ったギターに新しい弦をつけ、ピカピカに磨いている白い先輩を少し眺めてから私は喋り掛けた。

 

 「何か良いことでもあったんですか、先輩?」

 

 「んー?内緒~!─コホン、後輩…何が聞きたい?」

 

 先輩は綺麗になったギターを構えて、戯けながらも真剣な顔を向ける。─はぁ、こうなったら詳しくは聞けないか…。

 

 「先輩の曲なら何でも良いですよ。あぁ、でも先輩が推してるバンドの曲も聞いてみたいですね」

 

 「─うえぇー!?浮気か?!俺の曲以外普段聞かないじゃんか!泣くぞ!年甲斐もなく泣くぞ…!」

 

 綺麗な顔を幼い子供のようにコロコロと変える先輩を楽しみながら、先輩の近くの椅子に座る。

 

 「…ふふっ、冗談ですよ。でも、先輩が歌うなら私はどんな曲でも好きですよ?」

 

 「むー、優衣香ゆいかはやっぱり意地悪になったよね。まぁ、楽しめてるみたいだからいいけどさ~?」

 

 頬を膨らませてから、先輩は息を整えて繊細な音を響かせる。

 

 私はその音に耳を澄ませて、他の音を遮断して先輩の曲だけを聞く。

 

 ─あぁ、やっぱり先輩の曲は特別だ…。音楽を嫌いになった私でもこれだけは聞ける…いや、聞きたくなる。

 

 あの日、バンドを壊してしまったあの時から救ってくれた先輩の音でしか私の世界は動かない。

 

 だからこそ、先輩の音の変化も私は気が付いてしまって…酷い独占欲のような物が心の底から溢れだす。

 

 でも、先輩は何処までも自由で…色んな人に関わり平気で私の心を荒らしていく。

 

 沸々と沸き上がる怒りとそれなのに先輩から離れられない私は、また自分の身体を傷つけてようとして…それで先輩が傷つくことを知ってるから何も出来なくてただ痛む心を抱いた。

 

 けれど、先輩は特別で...そんな私の心に寄り添うように代わりに叫んでくれる。

 

 楽しそうに、されど痛みを抱えながら。

 

 だから私もその音に釣られて、喉の底から溢れた音を奏でる。

 

 私達の音は混ざり合い、お互いを強く引き立てる。

 

 熱が私達を包んで、気が付いたら汗が私の額を濡らしていた。

 

 「ふぅ…どう?元気出たかい?」

 

 「…はぁ、はぁ。えぇ、先輩のお陰で。相変わらず人の変化に敏感なんですね」

 

 「ふふっ、私の夢は傷ついた若者達の心を癒すことだからね~?だから、迷惑とか気にしなくていいんだよ。君は君の生きたい通りに進めばいい。間違いそうになったら教えるし、躓いたらその手を引っ張り上げてあげるから」

 

 何処までも真剣に、先輩は青空のような瞳と何処までも届く光を私に向ける。

 

 だから、私はまた歩こうと思える。きっとこれからも幾つもの間違いを抱えて傷が増えていくだろうけど…先輩はそんな私にも手を伸ばしてくれるだろうから。

 

 「…バンド、復活させようと思ってるんです。あの日、私達はすれ違って、傷つけ合いました。でも、あの場所は私にとって何よりも大事だったので」

 

 「そっか。なら丁度良かったのかもね?ふふっ、これが運命ってやつかな」

 

 そう言いながら、先輩は私の後ろにある店の入り口を指差した。

 

 振り向いた私の瞳に写ったのは、涙を流しながら私の方へ駆け出す失った筈の大切な友達の姿だった。

 

 ─そうだ、あのギターは…!

 

 「優衣香っ!ごめんなさい、ごめんなさい…!私、何も知らずに貴方を傷つけた…!それなのに、本当に貴方に言いたい言葉が出なくて…っ!でも、でも…もう、私は自分に嘘を付きたくないから…だから、言わせて…?」

 

 「またバンド、一緒にやろう…?今度は、今度こそは私達の言葉を奏でて…!」

 

 私を包み込む熱は、あの日すれ違って離れてしまった寒さを吹き飛ばして…塞いだと思っていた傷を開かせる。

 

 それは、涙として溢れだして…でももう後悔はしたくないから嗚咽しながらも私は言葉を紡いだ。

 

 「うん、うん─!やろう…!もう、何を言われたって…その手を離さないからっ!」

 

 やっと、やっと…言いたかったことを伝えられた。でも、バンドを復活させるにはまだ後三人…すれ違ったままで。

 

 だから、涙を拭って夕輝ゆうきの手を取って先輩に振り返った。

 

 「先輩、先輩ならきっと皆の場所…知ってますよね。教えてくれませんか…?もう、すれ違ったまま進みたくないんです。だから、お願いします…!」

 

 「私からも、お願いします…!月乃さん…!」

 

 先輩はそんな私達の目を見て、小さな紙をくれた。

 

 そこには、今日のライブをする予定のバンドの名前があって…先輩はそれをトントンと叩きながら言った。

 

 「これは、君の3人の友達が入ったバンドの予定。運のいいことに今日なんだ。そして、そのバンドには何故か私の名前があってね~?いや、困った困った…私はこれでもライブハウスの店長だから忙しいんだ。そこで、君達が私の代わりに入ってくれるなら助かるんだよね~」

 

 ─本当に、ズルい人だ。何処まで、何処まで予想していたんだろう…?でも、それだけ先輩が私達のことを見てくれていたんだ。

 

 もう、泣きじゃくるだけじゃ居られない。進むんだ、きっと涙の先に…私が望む世界はあるから。

 

 「…はい!お願いします…!」

 

 


 

 「月乃姉さん、これでお願い。バンドの名前は…Lost Starで」

 

 「…なるほど。君達の答えはそれか。いいよ、使われて上げよう」

 

 やっと一つのバンド…奏ちゃんのバンドに俺はたった一つの導きを施した次の日の早朝のこと、前々から気にかけていた壊れてしまったバンドのドラム…琴梨ことりちゃんに一緒にバンドをして欲しいと言われた。

 

 Lost Starか。それは、彼女たちが失った…ボーカルの優衣香のことと、まだ迷い続けている彼女達のことを表したいい名前だった。

 

 「…やっぱり月乃姉さんには、私達のやりたいこと分かっちゃう?」

 

 「うん、まぁ分かるね。…もう後悔は終わりかい?」

 

 「…うん。みんな…そろそろ、進みたい。だから、月乃姉さん。私達は示すの。あの子達にここにいるって」

 

 強い強い瞳で琴梨ちゃんは俺の目を見返した。そこには、確かな覚悟が宿っていて…俺は首を縦に振るしか出来なかった。

 

 だけど、少しだけ気に掛けていることがあって俺は一つだか許可を取った。

 

 「琴梨ちゃん、きっとこの時間は私忙しいと思うから…もし出れそうになかったら私が選んだ人に変わって貰ってもいいかな?」

 

 「む…分かった。でも、出来れば月乃姉さんに出て欲しい。優衣香と夕輝も、月乃姉さんの歌に弱いから」

 

 少しだけ残念そうにする琴梨ちゃんの頭を撫でながら俺は頭を必死に回す。

 

 きっと、優衣香ちゃんは俺が彼女たちとバンドをしたら苦しむ。なんで自分がそこに立ってないんだって。

 

 だから、どうにかそこに俺の代わりに立って貰う必要がある。

 

 そして、夕輝ちゃんにも。

 

 だから、帰って行く琴梨ちゃんを見送ってから夕輝ちゃんにメールを送った。

 

 『や、夕輝ちゃん。頼まれていたギターの弦の張り替えと清掃が今日終わるから朝取りに来て貰ってもいいかな?』

 

 『はい!丁度そちらに用事があったので向かいます!』

 

 『良かった。それじゃあ待っているね』

 

 よし、第一段階完了…!取り敢えずあの子のギターの最終調整をしようか。

 

 優衣香ちゃんは今日バイトが入っているし必ず来てくれるだろう。

 

 だから、どうにか彼女に変化を受け入れる準備をして貰わないと行けない。

 

 …まぁ、強い子だからそろそろあの子も進みたいと思っている筈。

 

 だから、発破を掛けて上げよう。例えば彼女の心を歌ってあげたりして。

 

 そうしたら、整理がつく筈だからね。

 

 やっと出てきた太陽に照らされて、傷を見せるギターを直しながらそんなことを考えていた。

 

 でも、一つだけ予想外なことは急になったスマホの通知のことだった。

 

 『月乃さん、朝早くすみません。奏です。その、今日お店で月乃さんがライブするかもって聞いたんですけど…本当ですか?』

 

 …おぉう、どうしてもう漏れてるんだ…?琴梨ちゃんはそんなこと漏らさないだろうし…美琴みことちゃんも俺が名前を出されるのは嫌だって分かる筈。

 

 じゃあ、あの子か…。はぁ、相変わらず自由な子なんだから。取り敢えず奏ちゃんには出ない可能性もあるって伝えといてと。

 

 SNSを開いて、俺は当たりをつけたその子が運営しているアカウントを開いた。

 

 すると、堂々と俺の名前とLost Starの名前が乗っていた。

 

 うん、やっぱりね…!はぁ、取り敢えず期待させ過ぎないように、ちゃんと代わりの人が出る可能性もあるって追記しておこう。

 

 …って、書いた瞬間、電話かかってきたし。

 

 「はい、はい~月乃だよ。どうかしたかい?雪乃ゆきのちゃん?」

 

 「どうか、じゃないの。月乃様は私と出てくれるんでしょ?月乃様の代わりなんて優衣香以外出来ないし、だからその米印消して」

 

 機嫌の悪い声で出てきたのは予想通りの子でため息が出そうなのを抑えてから返した。

 

 「いやー、何かあって出れないかもしれないからそれは無理だね。でも大丈夫。出れなかったとしてもちゃんと君達が納得する人を呼ぶからね。だから安心してね?」

 

 「そんな人いないって言ってるじゃん。月乃様は自分を卑下しすぎなの。だから消、し、て!」

 

 まぁ、やっぱり引き下がるよね。うん、予想通りだ。この子は自我が強くてメンタルはガラスのような難しい子だから。

 

 「雪乃ちゃんは、俺を信じれない?悲しいなぁ、信頼してくれてると思ってたんだけど…」

 

 「うぇ、そ…そういう訳じゃ…その、私は月乃様のことは信じてるわ…でも、こんな私と歌を奏でてくれるのは、月乃様か優衣香しかいないし…。弾いたとしてもきっと、嫌われちゃうわ…」

 

 「…大丈夫。俺を信じてね?ちゃんと君と一緒に出来る人を用意するから。だから、心を整えておいて。もし一緒に奏でれなくても、俺は君の音色を聞いているから」

 

 「…はい♡分かりましたわ─!あ…その、迷惑だったらあの投稿消しておくわ…」

 

 「あぁ、いやちゃんと私が書いた米印を編集で本文に入れておけばいいよ。私のファンの人ならそれで納得するだろうから。じゃ、またライブの時にね。バイバイ~」

 

 電話を切り、少ししたらSNSにアップされていた文は俺が言った通りに変わっていた。

 

 ふぅ、良かった。よしこれで準備は整ったね。後はセトリをちょっと弄っておこう。あの子たちは少し話し合わないとダメだからね。

 

 …よし、これでやっとギターを直せるよ。ま、後は天の神様の言う通りってことで…。

 

 皆に頑張って貰おう、バンドの問題は誰かに直して貰うだけじゃダメなんだからね。

 

 


 

 「はぁ、月乃姉さんは意地悪い。まさか、替えが優衣香って」

 

 琴梨ちゃんからため息が漏れる。でも、私だって同じ気持ちだ。だって今から優衣香ちゃんに歌って貰うのは私達3人が優衣香ちゃんと夕輝に向けた叫びだから。

 

 でも、きっと…月乃さんはこの歌を歌うのは優衣香ちゃんで有るべきだって思ったからどうにか導いてくれたんだろうから…後は私たちが音楽を通して伝えるしかない。

 

 「…ふぅ、でも月乃様らしいわ。その美琴、大丈夫?」

 

 「うん、大丈夫。まだ、手は震えてるけど…きっと伝えないといけないことだから。覚悟は…うん、出来てるよ」

 

 …夕輝ちゃんと、私は合わせる所がある。だけど、あの日私は夕輝ちゃんに酷いことを言ってしまった。勘違いだとしても言ってはいけないことを。

 

 だから、少し気まずい。でも、スマホに写った月乃さんのメッセージを見て、私は息を整えれた。

 

 『美琴ちゃん、あの子はもう既に君の言葉を自分の糧にした。あの子の指を見てあげて。そこに答えがあるから…期待してるよ?私は君達の初めてのファンだからね』

 

 ズルい、ズルいよ。あの人はいつも私達の心の闇を何事もないかのように振り払うから。

 

 だから、私は一つだけ皆へ伝えた。

 

 「私達は、きっと月乃さんに会えなきゃ壊れてた。でも、もう今からステージに立ったら月乃さんは居ない。でも、それでも輝けるんだってあの人にも伝えよう…。私達の叫びで…!」

 

 「うん。そだね…美琴、雪乃。がんばろ」

 

 「えぇ、少し恥ずかしいけれど。叫びましょ、あの子達と月乃様へ」

 

 やっと、私達は捻れた道の中で唯一繋がりあった。

 

 あの二人とも、きっと繋がれる。だから、叫ぼう。私達の心を。

 

 


 

 「琴梨ちゃん、美琴ちゃん、雪乃ちゃん…久しぶり。その…私は、また皆とバンドを組みたい…。多分また、私達は傷つけ合うだろうけど、それでも私にとって皆は大切で…大事な星々だから…もう離さない」

 

 「私も…同じだよ。私は…逃げてた。優衣香についていくだけしかしなくて…ギターの練習から。だけど、もうそんなことはしない。皆が大切だから、皆の音が大好きだから…だから信じて欲しい」

 

 ステージの裏、私と夕輝は喉の奥で詰まっていた言葉を漏らす。でも、その言葉を聞いても皆は否定なんかしなくて…ただ私の言葉に頷いて楽譜を渡してくれた。

 

 そこに書いていたのは、三人からの私と夕輝への言葉で…恥ずかしいぐらいに真っ直ぐな言葉だった。

 

 「時間、余りないの。練習しましょ、あの人は私達の最高の音を聞きたいんだから…だから、ほら行くわよ…夕輝、優衣香。覚悟は出来てる?あの日言った通り私は中途半端の音じゃ、満足しないわ」

 

 「うん、雪乃の言う通り。…あの時の、二人を責める言葉に私は後悔はしていない。でも、皆のことを見れてなかった。言い方も悪かった。だから…頑張る。言葉は、苦手だけど…一緒に居たいから」

 

 「…私も、自分に一杯一杯で皆のことを見ることが出来なかった。月乃さんに、導かれてやっと私はそれに気が付けて…だから、これからは皆を見るよ。私達はLost Star。迷い星で…でも何処から見ても見える一等星だから…!」

 

 皆の言葉が、思いが混ざり合う。そのお陰でやっと、私達は一つの星になれたみたいで…。

 

 練習で奏でた音は反発し合うようで、でも段々と調和して行き音楽へと変わっていった。

 

 そして、直ぐ訪れた本番…皆の震える手を見て、私はその手を全部取って、繋いだ。

 

 「…先輩へ、月乃さんへ、伝えよう─。私達の音を…!」

 

 その問いに帰ってきたのは皆の頼りになる声で…私達はあの人の見る夜の中へ立った。

 

 もう、言葉は必要ない。ただ、音を奏でよう…私達の想いを詰め込んだ想いを…!

 

 


 

 「…凄いじゃないか。あんなにバラバラだったのに...今じゃもう離れられない星座のようだよ」

 

 ブースの外、音響を弄りながら俺は心からの声を漏らした。

 

 …見たかったのはこれだ。いやぁ、昨日といい今日といい…幸せだね。

 

 憧れが叶うってのは…ここまで嬉しいものなのか…。

 

 あぁ、明るいなぁ…本当に─。

 

 スルリと、落ちていく涙を拭いながら俺は彼女達の音を頭へ刻む。

 

 だけど、感傷に浸っていた俺の視界の隅で零れた涙に俺は気がつけなかった。

 

 だから…これから始まるのは胡散臭い大人が幾つものの勘違いと導いてきた彼女達の覚悟に圧倒される話─。

 

 




現在の登場人物とバンドの役割の一覧です。

No Name

奏 かな  Vo
音羽 おとは Dr
心乃音 このね ker
由莉  ゆり Gt
杏  あん Ba


Lost Star

優衣香 ゆいか Vo
夕輝  ゆうき Gt
琴梨  ことり Dr
美琴  みこと Gt
雪乃  ゆきの Ba
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