TS転生お姉さんは悩めるバンド少女たちを導きたい   作:ヒナまつり

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輝いた星、落ちぶれた私 

 

 もしかしたらまた月乃さんの歌を聞けるかもと浮いた熱のまま行った明るいあのライブハウスと比べて雨で少し肌寒い暗い夜に、胸の鋭い痛みを忘れるために私は駆け出していた。

 

 でも、溢れていく涙は痛みは息が荒くなっても止まらなくて…疲れ果てた私は家の前で躓いて倒れた。

 

 「…痛い、痛いよ。なんで…なんで私だけを─」

 

 醜い言葉が溢れそうになって、でもそんな言葉を漏らすことなんて出来なくて飲み込んだ。

 

 けれど、余計に胸の痛みが酷くなってまだ止まらない涙を拭って家に入った。

 

 「…ただいま」

 

 弱々しい私の言葉にも誰の言葉も帰ってこない孤独を抱えながら、部屋へ入ってベッドにうつ伏せる。

 

 でも、閉じた目蓋には今さっき見た、他のバンドを見て月乃さんが感涙する姿が流れて…また、酷く私を傷つける。

 

 そして、雨音と共に頭の中に言葉が浮かんでいく。それは、私の隠している醜い私で、でも溢れるのを止めれない。

 

 『─嫌だ、嫌だ。私の月乃さんを取らないで…!』

 

 「違う、そもそも月乃さんは私のものじゃない」

 

 『─あの暖かい手を離したくない…!私だけを見る目を、私を鼓舞するあの声を…誰かに与えて欲しくない…!』

 

 「でも、優しいあの人は困ってる人がいたらきっと手を延ばす。だって、こんな私にも手を延ばしたんだから」

 

 『─やだやだやだ!見捨てないで、私だけを見て…!』

 

 「また、我が儘を言うの?そのせいで…皆を失ったのに?」

 

 黒い、黒い私が思い浮かんだ言葉を全て否定して…そして、思い出したくない過去を口にした。

 

 お母さん…お父さん─。そうだ、二人は私があの日我が儘を言ったから…死んじゃったんだ…。

 

 叔母様も、叔父様も…私の我が儘で一緒に暮らしてくれなくなったのに。

 

 だから、もう何も望まないって…良い子で居ようって、そう決めていたのに─。

 

 あの音が、私を動かして...私の止まった世界が動き始めたのに、あの人は私をもう見てなくて…違う人を見ていたんだ。

 

 きっと、捨てられる。嫌だ、そんなの嫌だ…なのに、私は何にも出来ない。

 

 痛いよ、痛いよ…なんで、誰も見つけてくれないの?なんで誰も助けてくれないの?

 

 月乃さん、月乃さん、月乃さん…!見つけてよ、また手を延ばしてよ…!それだけで、私は十分なのに...!

 

 ただ、それだけで…また音楽を奏でれるのに…。

 

 あぁ─貴方は、もうきっと私を見てくれないの。だから、また見てくれるまで歌わなきゃ…それしか、私には出来ないから。

 

 でも、今だけはこの…映像の中で私を見てくれる貴方だけを見させて。だって、誰だって幸せな夢の中で眠りたいから。

 

 


 

 「音羽ー?なんか今日、奏元気なくない?何かあったの?あ、もしかして喧嘩でもしたぁ?それならちゃんと謝んないとダメだぞ?私は二人と仲良くしたいんだからさー!」

 

 「はぁ、喧嘩はしてない。でも、うん。何かあったのかも…」

 

 騒がしい教室の中、普段私と奏と話している同級生のみゆはお茶らけながらそう聞いてくる。

 

 でも、確かに今日の奏は何時もより元気がない。どうしたんだろう?まさか、また誰かに絡まれたとか?─許せない、取り敢えず奏に話を聞いてみよう。

 

 「奏、どうした?…もしかしてまた、誰かに絡まれた?」

 

 「あ…音羽ちゃん。ううん、何でもないよ。そうだ、今日もバンドの練習するんだよね?─楽しみだなぁ」

 

 ぎこちなく笑いながら奏は私を見る。でも、私を見ている筈なのにその瞳には私が写ってなさそうで不安になった手で奏の手を触れた。

 

 その手は酷く冷たくて…その感触はあの日の、家族を失ってしまった奏の時のようで。思わず、私は言葉をかけた。

 

 「奏…今日の練習はやめとこう。今日は、きっとダメだから…」

 

 「え…?なんで…?嫌…嫌だよ。やろう?ライブだって、またあるから、やろうよ。お願い…音羽ちゃん─」

 

 虚ろな目で奏は繰り返し、バンドの練習を求める。まるで壊れたオルゴールのように。

 

 ─これは、ダメだ。また、奏が壊れていく。でも、なんで?だってあの日月乃さんのお陰でやれたライブのお陰で元気になってたのに…。

 

 どうすればと焦る私を尻目に奏はまだずっと練習しよと繰り返し続けていて、このままじゃ本当に壊れてしまいそうと思って私は折れてバンドの練習を許可してしまった。

 

 「…しょうがない。やろう、でも─」

 

 「…本当に?いいの、音羽ちゃん…?やった、ありがとう…!」

 

 すると、奏は私の言葉を遮って嬉しそうに私に抱きついた。でも、その笑顔は何処か歪で…震える身体を抑えることは出来なかった。

 

 なのに、奏は気が付かない。それはまるで、奏が私に興味がないみたいで嬉しい筈の暖かな熱は、私を焦がすように焼いていく。

 

 でも、奏が嬉しいなら…それでいい。そう思うことで、私はその痛みと違和感から目を逸らした…。

 

 それがどんな未来に向こうと、奏と一緒に居られるなら、奏の歌を側で聞けるならそれでいいと…そう思っていたから。

 

 あぁ、だけどそれは間違っていたようだ。

 

 こうなるなら…辞めておけば良かった。バンドの練習も、バンドすらも─。もう、傷つく奏なんて見たくなかったのに─。

 

 


 

 ノーネームの、音は。私達の音は、皆で歌っていた。だから綺麗で、意味を紡げていて楽しかった。その筈なのに…今日の音はバラバラで…そのまま離れていって、凄くつまらなかった。

 

 音羽は奏を見すぎてて、奏は上の空で何処も差してない声で…。これじゃ、練習の意味がない。音は集まらなきゃ歌にはなれないから。

 

 だから、思わず漏れた言葉とギターの音は間違っていないと思う。

 

 「…つまらない。これじゃ、意味ない…やめよ」

 

 「はぁ!?ちょ、由莉うるさい!もう、なんなのよ…由莉も奏も音羽も!やっと、あの人から許可取れたんだから本気でやりなさいよ!」

 

 「わ、杏ちゃん…落ち着いて?由莉ちゃんもね?…それで、奏ちゃん、音羽ちゃん?今日、どうしたの?音がズレちゃってるよ?」

 

 このの聞く声を無視して奏はまた歌おうとする。でも、その声は杏の問いただす声に止められた。

 

 「はぁ?奏、心乃音が聞いてるでしょ!?なに無視して歌おうとしてんの?ねぇ、聞いてる?」

 

 「聞こえてるよ?でも…練習しないと。ライブあるんだから、ね?」

 

 「えっと、あの…皆落ち着いて?喧嘩は良くないから…」

 

 でも、奏には周りの誰の声も聞こえてなさそう。─今の奏は、人形みたい。ただ歌うことだけしか知らない、そんな人形。

 

 きっと、今何言っても聞こえない。なら、いいや…帰ろう。私にはなにも出来ないから。

 

 「ちょっ、由莉…待って。皆も、一回休憩しよ。焦ってるんだ、だから少し落ち着こ」

 

 「…でも、休憩したって治らない。それに、今の奏の歌嫌い。じゃ」

 

 「…嫌い?私の、歌。ダメ、駄目、それじゃ駄目なの。うまく歌わないと─」

 

 ぶつぶつ、奏は呟く。そのうつむいた顔に光は当たらなくて、辛気臭い。

 

 ─傷つけた?なんで…?分からない、やっぱり言葉は難しい…音だったら伝わるのに。あぁ、でも今の奏にはどっちも聞こえない。

 

 そう思ったらズンと響く音が私の中で響いて、嫌になって引き留める声を無視してそのまま外へ出た。

 

 そして宛もなく、歩き続けて。沈んでいく綺麗な夕日に照らされて私はまた、あの人に出会った。

 

 今までで一番綺麗な音を、歌を奏でれて言葉が得意な─月乃に。

 

 そして、一つの星みたいに輝いて繋がりあってるバンドに。

 

 だから、私は嫌いな言葉を必死に動かして聞いた。

 

 「月乃、星さん達。バンド、バラバラになって壊れそう…。どうやったら一緒になれる?どうしたら、ちゃんと伝えられる?」

 

 きっと、それはぐちゃぐちゃな言葉で…ちゃんと伝えられてないのに、月乃は相変わらず綺麗な笑顔で答えてくれた。

 

 「由莉ちゃん、聞いてくれてありがとう。じゃあ、一緒に考えよう。きっとその答えは君の…君達の中にしかないからね。Lost Starの皆も、暇なら一緒に考えてみて?その答えはきっと皆を育てれるから」

 

 


 

 …いやぁ、こんな勢いで問題って起こるもんなんだねぇ?まぁ、うれしいよ?でも、多くない?ボロボロ過ぎない?

 

 ふぅ、愚痴はこれぐらいにしておいて─悩む少女へ目を向けよう。

 

 由莉ちゃん。言葉が苦手な子…ふむ、考えながら喋っちゃって必要なところを抜けちゃう感じかな?

 

 なら、あの方法を試してみよう。

 

 「由莉ちゃん、まずはゆっくり落ち着いてこのノートに今の自分に浮かぶ言葉を書き出して?なんでもいいからね」

 

 「ん。分かった…」

 

 紅茶と一緒に渡したノートに由莉ちゃんは真剣に向き合って、言葉ではない単語を書いていく。

 

 その中には、痛いのかな…悲しそうや人形、バラバラな音、好きな歌歪な歌…見えない心、傷つける言葉といった彼女の感情と現状が溢れていて何となく俺にも悩みが見透かせれるぐらいには自己整理が出来たみたいだった。

 

 「よし、そこまで。じゃあそれを読んでみて?それが今の君の心だから、それを言葉にしてみよう。…そうだ琴梨ちゃんも一緒に見て考えてあげて?」

 

 「…なんで私?言葉が苦手なの、月乃姉さん知ってる」

 

 「うん、だからだよ。二人は何処か似ている…だから進んだ先輩として考えてみて…いつか琴梨も使うかもしれないからね」

 

 「む…はぁ、しょうがない。由莉?見せて」

 

 「ん、これ。まだ…繋がらない」

 

 言葉が苦手な二人してノートに齧り付きながら、あぁでもないこうでもないと話し合う。

 

 それを眺めながら、俺は俺で考えを整理していく。

 

 きっと、No Nameは今喧嘩をしているか病んでいる子がいて壊れそうなんだろう。そのせいで音が合わなくなって…音を好きな由莉ちゃんはそれに対して何かを言って傷つけてしまった。

 

 それで、自分を責めて長い時間歩いてここに来たんだろう。

 

 だから、必要なのは由莉ちゃんの心からの言葉。それを伝えることで皆の心にしまった声も聞き出して話し合うしかない。

 

 それか─。

 

 「月乃様、月乃様?私は何をすれば?」

 

 熟考していた思考は突然寄ってきた雪乃ちゃんの声に遮られた。まぁ、寂しがりやだもんね。仕事がないと不安になったんだね?

 

 「雪、迷惑だからしー!ごめんなさい月乃さん」

 

 「あぁ、いや大丈夫。─そうだ、ねぇ雪乃ちゃん、美琴ちゃん。二人でセッションしてくれないかな。歌は、そうだね…私の雪乃空で。出来る?」

 

 「えぇ!月乃様の歌は全部弾けますわ!美琴、やりましょ?」

 

 「出来ますけど…って雪、無理矢理連れてこうとしなくても行くから…!」

 

 そう叫ぶ美琴ちゃんの様子を気にせず雪乃ちゃんは自信満々にベースを持って弾き始める。美琴ちゃんは、ちゃんと雪乃ちゃんのことを見て、それに合わせて弾く。

 

 ─この歌は雪に染まった空に、失恋をした物語を題材にしたもの。だから、響く音は悲しいもので…きっと今の由莉ちゃんの心と共鳴するだろう。

 

 そして、歌がないお陰で由莉ちゃんの言葉をこの音に合わした歌として表せれる。

 

 だからこそ、言葉が苦手な二人でも歌詞として紡げる筈。

 

 ─うん、出来たみたいだね。可愛らしい笑顔じゃないか。

 

 「月乃、星さん達。ありがとう、言葉…出来た」

 

 「大変だった、月乃姉さん…紅茶お代わり。あ、由莉もいる?」

 

 「…ううん、要らない。これ、早く伝えたいから─」

 

 そう言いながら立ち上がろうとする由莉ちゃんを俺は引き止めた。

 

 そして、凄い視線を向けてくる優衣香と心配そうに優衣香を見つめる夕輝の手を取って、由莉ちゃんのノートの中を見せた。

 

 「どう?…君達はこれを見てどう思ったかな」

 

 「先輩…何を、なるほど…そう言うことですか。夕輝、どう?」

 

 「うん、これは…あの頃の私みたい。自分と、その視界に写ったことしか書けてない。だから、すれ違っちゃう。でも月乃さん、それは他の子と話さない限りこれ以上はやりようがないんじゃ…」

 

 「うん、その通りだね。だから、由莉ちゃん…ここからは君の、君だけの力が必要なんだ。君の言葉と音を皆に伝えて、皆の音を引き出さないといけない。まだ、終わってないんだ。頑張れるかな、由莉ちゃん」

 

 振り返って俺は由莉ちゃんの翡翠のような瞳を見つめる。

 

 そこには、確かな意思と少しだけ不安を宿していて…でも息を吸い覚悟を決めて俺の瞳を見つめ返して、彼女は嫌いな言葉を自らの意思で紡いだ。

 

 「うん、皆の歌が好きだから。例え、これで届かなくてもまた考える。…でも、その時はまた手伝ってくれる?」

 

 「うん、少しだけならね。それに、この子達にもいい刺激になるだろうし。…頑張れ、応援してるよ」

 

 「…ん。行ってくる、ありがとう」

 

 浮いていた彼女の足はちゃんと地面を踏みしめて、足跡を残していった。

 

 きっと、他の子達にもその足跡は残せるだろう。そう、信じよう。

 

 「で、なんで優衣香はこんなに機嫌悪いの?」

 

 「何でもありません。ただ、先輩は相変わらずだなと。皆、私達も帰るよ?」

 

 ふむ…?相変わらず?一体何の話だろうか…もしかして俺なんか間違えた…?

 

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