TS転生お姉さんは悩めるバンド少女たちを導きたい   作:ヒナまつり

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響く音、押された背中

 

 あの日全てから逃げて、私は閉じ籠った。だって皆の前で醜い私を出してしまったから。

 

 きっと、嫌われた…もう皆とバンドは組めないんだ。

 

 そう思うと楽しかった思い出だけが私の頭に溢れて、それを無視するためになにも写らない真っ暗な部屋で、歌を奏でる。

 

 それしか、今の私にはないから…。

 

 でも、孤独に彩られた音は何処にも飛び立てなくてノイズのように辺りに散ることしか出来ない。

 

 これじゃ、月乃さんに見てもらえない。あの、きらめく瞳は私以外の別のものに行っちゃう。

 

 嫌なのに、それだけは絶対に嫌なのに…どうしてもうまく歌えない。

 

 リズムが分からない、メロディが見つけられない…そのせいで気持ちも乗らない。

 

 …つまらない、歌うことはあんなに楽しかった筈なのに─。

 

 涙だけが溢れて…歌うのを辞めて布団に潜った。

 

 もう、いいんじゃない?このまま夢の中に消えちゃえば楽になれんじゃない?痛いのも、苦しいのも忘れてさ…それでいいじゃん。

 

 …そもそもあの人に見てもらえないなら生きてる意味なんてないんだから。

 

 なのに、なのに…なんで私はまだ抗いたいって歌っていたいってそう思っているの?

 

 分からない。自分も、この気持ちも。何をすればいいのかも…なにも分からない!

 

 助けてよ、月乃さん…またあの時みたいに私を信じて引っ張って欲しいの。

 

 きっと、それだけで皆はまた集まって一緒に歌えるの…また貴方に感動を与えれるの…その瞳を私だけのものに出来るの…!だから、だから─。

 

 『結局、人だよりなんだね。だから、皆に見捨てられるんだよ。月乃さんにも、NO NAMEの皆にも。自分なんてあんたには無いんだから』

 

 影は独りでに嗤って、私の心をつつく。それは、痛いほど本当のことで私は聞かないように耳を塞いだ。

 

 でも、頭の中に響く声は鳴り止まなくて私の心を傷つける。

 

 ─あぁ、変わりたいそう思って始めたのに…結局、私は変わらなかった。自分ではなにも出来なくて…ただ誰かの背中を追っているだけなんだ。

 

 そのせいで、その我が儘で皆を集めて…そして皆を傷つけた。最低だ、本当に…私なんか居なくなれば…あの時私が死んでいれば、良かったのに…。

 

 そう思って、ゆっくりと自分の首を絞めた。

 

 段々と酸素が足りなくなって苦しくて痛くて遠くに離れていく意識、それが救いのような気がして、でも死にたくなくて私はその手を放した。

 

 「ゴホッ、ゴホッ…私、何してるんだろ。バカみたい…」

 

 「あら…随分病んでいるみたいだね?」

 

 突然差し掛かった光と共に、私が待っていた声が暗闇に溺れていた私の肩に触れた。

 

 また、幻聴…?そう思って、でももしかしたらって思って振り返った私を見つめていたのは、あの時のように輝いている瞳ではない優しさが溢れた月乃さんの瞳だった。

 

 「な、なんで…?月乃さんが、ここに…!?見ないで、下さい。こんな、私なんか」

 

 「いや、君の友達に頼まれてね。ま、来て良かったみたいだけど…ね。跡、残ってるよ…首絞めてたんだ」

 

 布団にくるまって隠れたのに、遠慮無く月乃さんは私の元まで来て、優しく私の首を撫でる。

 

 ─なんで?私は、酷い子なのに…貴方は私を見てくれるの?失望したんじゃないの?私以外の歌を聴いてたくせに。

 

 なんで、そんな目で見るの…。

 

 「いや~、私もそんな時あったんだよね。あの時は辛かったなぁ。いやね俺はさ、天才らしいからね…バンドを組んでも長続きしなかったんだ」

 

 ポツリ、ポツリと月乃さんは私の側に座って思い出すように天を仰ぎながら後悔を溢す。

 

 その横顔は後悔に満ち溢れていて、完璧に見えていた月乃さんの仮面が外れた気がして少しだけ、心が晴れた気がした。

 

 「だって、あんたが弾いた方が上手いじゃないって言われてね。確かに、そうだよ。私の方が何もかも上手かったさ…でもね、あの子の音にはあの子にしかない魅力があったんだ。だからやりたかった…一緒に居たかった。でも、その言葉を溢すことは出来なかったんだ。幼稚だったんだ…俺が。そして、私はたった一人でバンドを組んだ。あの子なんか居なくてもプロになれるってそう証明したかったんだろうね」

 

 「でも、プロになれたじゃないですか。だから、月乃さんが正解なんじゃ」

 

 「いや…確かにプロになれたけどね。欲しかったものは手に入らなかったんだ。俺はさ、あの子の音の中で歌っていたかっただけなんだよ。それが気持ち良くて…それが幸せだったんだ。でも、離れていくあの子の手に手を伸ばせなかったせいで、もうその幸せは消えてしまったんだ。だから、私は他の誰かにこんな痛みを知って欲しくなくて背中を押すことにしたんだ。今もね、君の背中を押しに来たんだ」

 

 私を覗き込んだ後悔に彩られた月乃さんの瞳は美しくて、でも何かが欠けていた。

 

 それは、きっと月乃さんの大切なものでもう無くしてしまったものなんだろう。

 

 ずっと後悔、しているんだ。まだ、きっと痛いんだろう。

 

 それなのに、この人は自分の痛みを背負いながら私の痛みも背負おうとしている。

 

 そんなの、ダメだ。いつの日か、壊れちゃう。

 

 そう思うのに、どうしても綺麗なその光に私は手を伸ばしてしまって…月乃さんは優しくその手を取った。

 

 「良かった、まだ諦めれないって顔だ。なら、自分の本当の心を素直に吐き出せる魔法とその醜さを皆に打ち明ける勇気を出す呪文を授けよう。今日の夜、私のライブハウスへ来て?君にだけのワンマンライブだ…楽しみにしててね?」

 

 満月のような瞳を輝かせて、月野さんはそう言う。

 

 その明るさが私の醜さを余計照らして、グツグツと痛みは増すのに目を離せない。

 

 あぁきっと、好きって言うのはこういうものなんだろう。

 

 どれだけ、傷つけられても…それが無いと生きていけないと思うぐらい恋い焦がれて、思わず手を伸ばしちゃう。

 

 届かなくても、届かせるって叶うことのない夢を見て…諦めれないものなんだ。

 

 だから…その好きの一つである皆とのバンドも諦めれない。

 

 ずっと、支えていてくれた音羽ちゃんも…私と同じなのにバンドではメロディを楽しそうに奏でる心乃音ちゃんも、誰よりも自由で音に踊っている由莉ちゃんも…誰よりも強くて誰よりも熱く熱心な杏ちゃんも、全部…全部本当は大好きだから。

 

 ─もう、自分に嘘なんかつかない。私は、月野さんに私だけを見て欲しいし、皆と一緒にバンドがしたい。それが、私の我が儘だとしても後悔なんかもうしたくないから…。

 

 そう、心に刻んで私は月が輝く夜を駆け出した。

 

 まだ震える身体を、あの人の光に癒してもらうために。

 

 …それが、嘘つきな大人の罠だって知らずに。

 

 


 

 輝くライブハウスに着いて、私は痛む心を抱えながらその時を待った。

 

 そして、カーテンが上がった時、ゆっくりと何時もと違う仮面を被って月乃さんはなにも持たずに幾つもの楽器が置いてあるステージへ現れた。

 

 「やぁ、お待たせ。今日はスペシャルゲストを添えて君に歌を贈るよ。皆、来て?」

 

 何時もと雰囲気の違う月乃さんはそう呼び掛けて、裏から仮面を被った三人が現れた。

 

 その子達はキーボード、ベース…そしてギターを手に持っていて月野さんは、ゆっくりとあの日のドラムへ座った。

 

 その光景を眺めていた私の口からは息を吸い込む音だけが溢れて、ドンと響くスネアの音でやっと意識が戻った。

 

 「じゃ、歌うね…輝く月」

 

 ─あぁ…それは私の、私達の作った歌だ。月乃さん、なんで…なんでそんなことをするの─?

 

 そう問おうとする声は、輝き続ける月乃さんの笑顔に掻き消される。

 

 でも…違う、私達の歌はこんな音じゃない。こんな想いじゃない…!貴方に、何処までも遠くで光続ける貴方に手を伸ばし続けた私達の惨めな歌なの!

 

 それなのに…これでもいいんじゃないかって思う私も居た。

 

 だって私なんかよりも綺麗な歌声で、楽しく暴力的に身体の芯へ響くドラムが全てを飲み込んでいたから。

 

 あぁきっと、月乃さんの好きな人もこんな想いだったんだろう。私なんかじゃなくていい、あの人は上手すぎるから。

 

 でも、ここで諦めていいの?…いや、ダメだよ!私だってあんな風に輝きたいの!一人じゃなくて、皆で!

 

 それに、月乃さんの諦めた欠片なんかになりたくない…私は、その隙間を埋めてあげたい。

 

 だから…だから!

 

 「もう、やめてよ!これは、私の…私達の歌だ!こんな音じゃない…!私のドラムはそんな自己満足でリズムを刻んでないんだよ!」

 

 叫ぼうとした私の声は遠く離れた入り口から叫んだ…涙ながらの音羽ちゃんの声に掻き消された。

 

 その瞬間、音はパッと消えた。あんなに輝いていたのに…何事もなかったかのように。

 

 そして、仮面を捨てて月乃さんは立ち上がった。

 

 「ふふっ、そっか。じゃあ…私の代わりにやってみる?君達の、君達だけの歌を奏でてみてよ。俺の音を越えれるか試してあげる。あ、奏ちゃんもね?あぁ…それともまだ泣いているのかい?」

 

 胡散臭く、偽物の笑顔を浮かべながら月乃さんは皆の仮面を外して私達を煽る。分かりやすいその挑発は、私の胸に宿った炎を滾らせるのには充分で、きっと音羽ちゃんも同じだったから。

 

 だから、二人とも同じ言葉を叫んだ。

 

 「「泣いてなんかない!泣くのは貴方(あんた)だ!」」

 

 「ふふっ!気合いは充分みたいだね?じゃ、ここにおいで。俺を越えてみなよ…!」

 

 楽しそうに、本当の笑顔を見せた月乃さんは私達の手を取ってスタジオに上げる。

 

 震えていた身体は怒りの熱によって暖められて、私はズレていた瞳をちゃんと皆に合わせて見た。

 

 その瞬間、私達はあの音を越えれるって通じ合った気がしてカンカンと鳴らされた音羽ちゃんの合図で私達の歌が始まった。

 

 きっと、一人じゃこの歌は月乃さんを越えれない。けど…私達は一人じゃない。音羽ちゃんも、心乃音ちゃんも、由莉ちゃんも、杏ちゃんも…私も、全員がいて同じ想いを抱いている。

 

 だから…だから!

 

 あの日みたいに…貴方に、届け!

 

 そう叫んだ歌は、意味もって意地悪い月乃さんへ飛び立った。

 

 それが、きっとどんな結果になったなんか関係なく私達は心のままに交じり合って…やがて燃え上がるような熱になって、最後には燃え尽きるようにドラムの音で崩れた。

 

 でも、この言葉だけはどれだけ限界でも月野さんへ投げたくて、掠れた声で叫んだ。

 

 「どうですか、私達の歌は...!貴方に、勝てましたか...?」

 

 それに、月乃さんはあの日の…いや、あの日よりも輝いた瞳で溢れた涙を隠さず答えた。

 

 「それは、君達が一番分かってるんじゃない?…当然、君の、君達の勝ちさ。おめでとう、NO NAME。君達は確かに今、私を越えたよ」

 

 その瞬間、私の心に溢れたのはどうしようもない喜びで…もう限界の身体を私達は動かして皆で、手を繋いだ。

 

 そして、嘘つきの自分を砕いて心の底に隠れていた声を叫んだ。

 

 「ごめん…ごめんなさい!私は嘘をついてた、自分に。本当は私、これからも皆とバンドがしたいよ!一人じゃ歌えないから、皆と一緒に居たいからっ!だから、また一緒に…バンド、してっ!そして、月乃さんへ届けよう…?私達の歌を!」

 

 「…私も、ごめん!バンドなんかって…言ったけど、本当はここが奏と同じぐらい大切だった!自分に、嘘をついてたんだ!奏さえ居ればそれでいいって!でもっ、でもっ…私も、皆と居たい!どれだけ傷ついて、傷つき合っても…月乃さんに、皆で届きたい!」

 

 私の叫びに共鳴して音羽ちゃんも叫んで、皆も心を叫びあった。でも、あの時と違って私達は弱みを隠さず私達をしっかり見て独りよがりに叫ばなかった。

 

 だから、固く固く…繋がり合えた。もう、離れることなんか知らないぐらいに。

 

 これも、全部月乃さんのせいで、お陰だって気がついた時…恋い焦がれた私の心は溢れて溶けてしまいそうになった。

 

 でも、私達の叫びを聞いた月乃さんは寂しそうに、儚くでも私達に届くように呟いた。

 

 「届くだけでいいのかい?…俺は到達点ではないんだよ」

 

 それは、再び見た月乃さんの嘘で隠していた弱みで…その弱々しい瞳が過去の私のように一人悲しく泣いているように見えて、私はステージから飛び降りて月野さんへ抱き付いた。

 

 「いいえ…それだけでいいわけないじゃないですかっ!…越えてみせます。今日みたいに…!そして、叫んでやるんですっ!月乃さんは、最強なんかじゃないって!一人だけのバンドなんか、くそ食らえって!だから、その時まで…待っててください!約束ですよっ?」

 

 そう叫んで見つめ合った月乃さんの瞳は、震えていて欠けていた輝きを取り戻すように、雫が溢れた。

 

 ─この瞬間、私には月乃さんが憧れじゃなくてたった一人の人間に見えた。

 

 だから、触れた唇と甘い味に後悔なんかなくて。

 

 赤く染まる月乃さんの顔を眺めて、近くに見えた月を抱き締めて無理やり動き続けた代償に、私は意識を失った。

 

 だから、可愛らしく小さく呟く月乃さんの声に気がつけなかった。

 

 「…ありがと、奏。初めて、だったよ?」

 




ヒント、月乃の一人称には意味があるかも?

後、お気に入り50人突破感謝します。ついでに感想もくれれば嬉しいです…本当にっ…!
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