世界が終わる日が決まったのは、ある平日の午前9時だった。
青空はいつもより澄んでいて、風も優しかった。
鳥のさえずりが聞こえる、そんな朝だった。
私は姉といつものように朝食をとっていた。
テレビのアナウンサーは、妙に落ち着いた声で言った。
「臨時ニュ―スです。本日より3日後、地球に未知の病原菌を持った隕石が衝突します。以上です。」
それだけだった。
妙に簡潔で、妙にあっさりしていた。
両親は慌ただしく地下シェルターへの避難を始めた。
なんだか、夢を見ているようだった。
私は姉の袖をつかんだ。
「ねぇ、地下なんて嫌。暗いし、退屈だし。」
姉は少しだけ考えて、いつもの調子で笑った。
「じゃあ、私も残るよ。青空の終わり、見てみたいし」
母は私たちを説得しようとしたが、途中で諦めたように、肩を落とした。
「好きにしなさい」
言い方が妙に事務的で、少し怖かった。
家族が地下に消えてからも、世界は変わらなかった。
三日間、私と姉はのんびり過ごした。散歩して、アイスを食べて、昼寝して。
「終末って、案外暇だね。」
「うん。もっとこう映画みたなのを想像してた。」
そんな会話をして、二人で笑った。
三日目の朝、姉は言った。
「ちょっと散歩してくるね。すぐ戻るよ。」
その「すぐ」は結局、戻ってはこなかった..
突然、世界が白く光った。
音はなく白い透明が広がる世界。
気づくと私は瓦礫の中にいた。
片足に穴が空いていたけど、不思議と痛みは感じなかった。
風が通り抜ける、その感覚だけがあった。
姉を見つけた時、姉の体にも大きな穴が空いていた。
それでも姉は、いつもの調子で手をふった。
「やっほ― アリス。今日の晩御飯何がいい?」
私は笑って答えた。
ぎゅっと痛む胸の奥に気づかないふりをして。
姉は少しづつ空気に溶けていった。
輪郭が薄くなり風と混ざっていく。
「ごめんね、アリス。でも楽しかったよ。」
最後にそう言って、姉は消えた。
私の体も透けていく。
指先から..体から..どんどん色が抜けていく。
世界の終わりは、思ったより静かで、思ったよりも丁寧だった。
最後に私は一言呟いた。
「お姉ちゃん、大好きで.....大嫌い」
その瞬間、青空から声が降ってきた。
「終末観察プログラムを終了します。ご協力ありがとうございました。」
青空に、「困った子ね」と笑う姉の笑顔がふわりと浮かんで消えた。そんな気がした..
消えていく..
そして世界は、何事もなかったかのように静かになった..
ただ青空だけがそこにあった。