モルガン陛下が最初のバーサーカーになったマスターの末路   作:湿度100モルパーセント

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絆レベル4/10

哀れな救世主─あるいは冬の女王。

 

全てが終わった後の世界とは存外につまらないもの。汎人類史のモルガンからの願いは果たし、死に方に怒りはあれど納得はする。

 

(それだけで終わってしまうのは退屈ですが…しょうがありませんね)

 

そして異聞帯のモルガンにおいて死んでしまったのは「割り切れること」であり、娘の安否以外にさして気にすることもない。

 

「でもさ、それだけで君が死ぬのはもったいないと思うんだよね」

 

死んだ魂に対しての図々しい物言い。生前からの関わりというのもあってどれだけ苛立ちを覚えたのかは語るまでもないだろう。心からの嫌悪を隠そうともしないでその声へと魔術で返答する。

 

花の魔術師(マーリン)─全てが終わったというのに、なぜ私に声をかけたのでしょうか」

 

「うわっ、酷い言葉を使うな。とはいえ君をサーヴァントとして送り出した方が互いのためになるってことはわかるだろう?」

 

ふむ、と魂だけで彼女は思考を進める。好悪の感情を抜きにして考えれば、新しい生を迎えられるのはよいことと思えはする。

 

(どうせこの男なら落とし穴を用意しているでしょうけれどね)

 

仮に魔術的な制約を結んだとしても、制約の穴をつくような存在がグランドロクデナシと呼ばれる所以である。最も、彼にはもう既にどこかの首輪がつけられているが。

 

「…条件をつけましょう。呑まなければ私は英霊として召喚されません」

 

立場があからさまに下であっても、要求は通させてもらう。大して第二の生への執着がないからこそ許される暴挙であることは自覚していた。

 

「呼ぶ人間は魔術の素人であること。魔女に憧れのある男性であって私をしらないこと。女性との恋愛関係が成立していない人間であること。危機的な状況に直面してから呼ばれること」

 

彼女の考えは相手を支配することに多く意識を割いていた。相手が自発的に裏切ろうとしないように『愛』という鎖で縛る。

 

(最も、よほどのことがない限りこの条件をそのまま飲むことはしないでしょう。ここから譲歩をどれだけ引き出せるかの勝負です)

 

冬の女王に相応しい手腕とも言えるが、しかしその思惑は当初からは大きく外れた。

 

「もちろん。その代わり特異点を全て修復するまでは彼の味方でいてくれ」

 

─無論、良い方向に。

 

(そんなバカな…!?)

 

自分からいいだした条件に今更ケチをつけてしまうのは揚げ足を取られることに繋がるし、少なくとも悪い方向に転がることはない。

 

けれども()には落ちない。あくまで蘇るというたった一つの事象を起こす上で使い潰す一つの駒でしかないことを心に刻め。あくまで表面上だけで彼を使え。

 

「では、速く送りなさい。時の移動程度は雑作もないだろう」

 

自らの訴える声を全て聞かないふりをして。

彼女は意識を途切れさせた。

 


 

 

「…ふむ、よいでしょう」

 

体が馴染まないことだけが心配だったが、なるほど最近の技術というものはよくできている。モルガンは生前となんら変わりもしない肉体をもって冬木の地へと現界していた。

 

(少年一人程度、どんな気性であろうとも魅了できますからね)

 

霊体化してまで彼が死ぬかもしれない恐怖へとさらす。吊り橋効果を狙うのもそうだが、一番は他の有象無象とは違う寵愛を向けさせるような特別な出会いが欲しかったからだ。

 

(あの忌まわしき円卓の気配もすることですし…いや、これは愚妹もか…)

 

ともあれ己の目的のためにも彼を助けなければならない。シールダーの小娘─最も、名前や才能については既に見聞きしているが─に先を越されるわけにはいかないのだ。

 

「…私は他のものとは違いマスターとは呼びません。家臣としての働きを期待するか、それとも『他の形の支配』を望むだけです─どちらがいいのかはお任せしますが」

 

呼ばれたことも自らのことも隠した。無論カルデアに接触されてしまえば『英霊はマスターなしでは生きられない』と知られるだろうが、お人好しである彼が英霊に対して高慢な態度は取らないと確信していた。

 

(…ファーストコンタクトは上々)

 

あくまで演出は演出。作った本人が自分すら熱に浮かされてしまうようでは到底『魔女』と呼ばれる存在にはなれない。

 

故に彼女はマスターへある意味二者択一という突きつけた。家臣になるか、それとも『妻』として自分を迎え入れるか。

 

彼が選んだのは後者だった。当然のようにその支配の形を受け入れ、あろうことか返礼にキスまでしてきたのだ。

 

(はしたない…いえ、極限状態で頼れるものが来たから(たが)が外れたのでしょうか)

 

いい傾向だ─なぞ、口に出せるはずもなく。

彼に触れた口と指先の小さな温かさの正体も、理解できるはずもない。

 

命令をしても本心からついてくる彼に対してどう話せばいいのかわからないのだ。妖精との関わりはあっても純粋な人間は汎人類史でも関わらなかった弊害だ。

 

「では、励みなさい…殺し合いは私が請け負いましょう」

 

モルガンはマスターが求めている言葉はわからない。あくまで殺人に類するものを彼から肩代わりする、と宣告するだけ。

 

(目的のためにも名前は隠したほうがいいですしね…)

 

目の前の青年がモルガンについて知らないのは確実だ。しかし仮にもあのカルデアだ。ダ・ヴィンチがいる以上どれだけヒントを少なくしても看破してくるだろう。

 

(少しばかり細工をしておきましょう)

 

自分以外のバーサーカーを呼ばれてしまえば努力は無に帰す。召喚陣の改竄は「己の消滅まで」とすればバレることはないだろう。元より何度も見せられてきたものを改造できないはずがない。

 

「マスター!マシュ・キリエライト、ただいま戻りまし…た…」

 

「…すみませんね、マシュ。少々危険が迫っていたものですから、こちらの方で露払いさせてもらいました」

 

一度見たことのある少女。異聞帯において自らが敵対すると知りながら助言した盾の騎士。グランドのロクデナシがわざわざ送ったのも彼女に関しての運命が混ざってしまったからだろうか。

 

(いずれにせよ、()()()()()()

 

割り切って彼女へと向き直る。きょとんと困惑した様子の彼女だったが、強く吹き飛ばした骨の山を確認して盾を少しだけ下げた。

 

「あなたのお名前を伺えますか」

 

「ではバーサーカーと。真名に関してはオルガマリー所長とDr.ロマニにしか明かすつもりはありません」

 

あくまで示す人物は少なく。最低限の信用を得るために自発的に彼と接触する理由が必要だろう。実際に魔術王と邂逅することで肉体の顕現への理解を深めておきたいという考えもあった。

 

「…ミス・バーサーカー。なぜここに来たのですか?」

 

「理由…ですか…」

 

人理の危機というのもしっくり来ない。自分の私利私欲と答えれば警戒される危険性が高い。そもそもマシュに関して言及してしまえば自分の真名まで飛ぶ恐れがある。

 

「…語るまでもありません」

 

悩んだ末にモルガンが選んだのは誤魔化すことだった。彼を撫でながら横に並び立てば別の方向に推量してくれるだろう。

 

「何かサーヴァントとしての資質がないのだと思うのならば今から示しましょうか?」

 

「いえ、その判断は所長やドクターがすることです。私はあくまで先輩を守ることのみ考えます」

 

(…あぁ、この時点ではまだ無垢なのか)

 

彼女が旅の中でどれだけ色彩(かんじょう)を貰ったのかを失念していた後悔。旅をしていた頃とのズレに悩むものの、口に出すことまではしなかった。

 

「では断片情報だけで申し訳ありませんが、これで大丈夫ですか?」

 

『う、うん。それにしてもバーサーカーとは思えない魔術の行使だね』

 

「…かの魔術王にも見てもらいましたからね」

 

あくまでお世辞にならないよう、付け加える。バーサーカーであることは最もなカモフラージュなのだから、具体的な単語を出せば更に選択肢は狭まる。

 

「さて、この特異点の攻略は─別に、一瞬で終わらせても構わないのでしょう?」

 

オルガマリーを救うことやレフ/ライノールを殺すことは禁忌だとわかっているからの暴挙。妹に対して軽く霊基だけ整うように魔術を打ち、聖杯を手まで持ってくる。

 

(まあ、このくらいなら雑作もない)

 

日常で言えば『コンビニに売ってたものを買ってきた』程度の気安さ。マシュ・キリエライトの成長という観点からしてみれば絶対に禁止するべき行動。

 

「終わりました。この手段は何度も使えるものではありませんが、実力の証明には充分でしょう?」

 

あっけない。最初のグランドオーダーである特異点解決は彼女がいたからこその失敗をした。

 


 

ソロモンとの戦闘を終えてマイルームへと戻った私は一つの聖杯を取り出します。

 

これはオケアノスの聖杯。フランシスによりポセイドンから奪われたその聖杯は『特異点解決に必要なし』─つまり、カルデアの管理が甘くなったものです。

 

「さて、ここまで工作すればよいでしょう」

 

私は期せずして受肉用の受け皿と魔力を入手しました。汚染されていないので使えるように改造するだけ改造して倉庫へと戻しましょう。

 

「…なにしてるの?」

 

「我が夫のために…と言っておきましょう」

 

便利な言い訳のように使う我が夫。シミュレーターや特異点解決のために毎日顔を合わせることが多いですが、私は殆ど動けません。

 

なぜなら特異点に対して『成長させるために最後の選択肢』というスタンスを守ることをロマニの前で誓ったから。戦力上最も優れているからと言って行動を縛らないといけないのは承知していますから、特に文句をつけることもないです。

 

「…なんだか新婚旅行みたいだね」

 

「みたい、ではないですよ。少しばかり生き急ぐだけです」

 

仮にも新婚ではあるのです。色におぼれることなど私のほうが嫌なのでしませんけれど。

 

「…はあ。バーサーカーが勝手に聖杯を使ったことに関しては言っておくよ」

 

「…ありがとうございます」

 

彼がやってくれたほうが私が説明するよりも問題が起きにくい。それに自らのことを愛してくれている夫を無下に扱うようなこともしないほうが得策でしょう。

 

「近づきなさい。褒美を与えましょう」

 

「え?」

 

きょとんとした顔で寄ってきた彼を抱きしめます。胸まで当たりますが役得として更に強くしてもいいでしょう。

 

「…私がやりたいからこうしたのです。文句は受け取りません」

 

次の特異点のやり方を知っている以上、強く変えるのは避けたかった。彼と付き合っていると救世主の日々を思い出す。

 

(あぁ、でも)

 

裏切られることはないのだろう。従順というより臨機応変な男だろう。信頼すれば答えてくれるだろう。

 

そんな事実が、少しだけ私の心を重くした。

 

「…ねぇ、さ」

 

「はい。なんでしょう?」

 

彼が提案してきたのは、自分をサーヴァントと同じ土俵に立つということ。私と隣に立とうとするための旅路がどれだけ茨なのかは想像に(かた)くありません。

 

(愚かな…いや…できてしまうのか…?)

 

あくまで、の想定です。少なくともカルデアとしてはたった一撃でも防げるのなら万が一の立て直しもききますので悪いことではない。

 

「いいでしょう。無理はしないように見守らせてもらいます」

 

どこまで彼が近づけるのか。修行をするための力はどれほどあるのか。

 

聖杯の加工も終えた時点で私の目標は殆ど完遂されました。残りは彼の味方である期間だけです。

 

「…ありがとね、バーサーカー」

 

「…別に、構いません」

 

感謝の言葉に喜びを覚えましたが、彼に手心を加えることはありません。

 

この程度耐えられなければ、生き残れないのですから。

 

 

…ただ、私は軽く請け負った代償をすぐに知ることになりました。あんな目に遭ってしまった原因は、私なのですから。

 




陛下のメンタルにゲイボルグが刺さる。負けないで、陛下。ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、人理終局特異点はすぐよ。
次回、『マスター死す!地に堕ちる魔女の怒り!』デュエルスタンバイ!
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