モルガン陛下が最初のバーサーカーになったマスターの末路 作:湿度100モルパーセント
青い炎が体を包む。おかしいとわかっても、体に纏わりついたソレが離れていくことはない。特異点のこと。自分が本来どんな人間であるか。
その全ての記憶が頭の中へと流れ込む。
ふわふわとした泥のような気持ち悪い心地の中、眼の前には知らない誰かが立っていた。
「おい。不可思議な点も多いのはわかるがこっちを見ろ。……その平和ボケした顔、殴りてぇな」
誰なのか、なんて到底わかることはない。見たこともない黒い布にどこか覚悟を灯した青い炎の残り火が彼の周りでチロチロとさまよう。
「あー、当然だが俺はお前の敵だ。特異点の黒幕─もっと正しい名前もあるが、ここではあえて普通の偽名で名乗ろう」
どこか芝居めいた─必死に自分の本心を隠すように─目の前にいた俺へと指揮を振るかのごとく両腕を広げた。
カラスのような、その狡猾さはどこか知っているような気がして。
やっぱり、黒幕にしては妙に優しいような気持ち悪い生乾きのような感覚がして。
彼は、その様子をどこも怪しむ様子はないまま名乗りを上げた。
「嘘つきのサーヴァント、
大笑いしながらこちらに錆びついた鉈を向けてくる彼に、躊躇なく槍の穂先を合わせる。殺さなきゃいけない─が、どうにも目的がよくわからない。
「あぁ、顔にその感情がでてるぜ。わざわざバーヴァンシーもモルガン陛下も巻き込んだこの特異点の目的がわからないってツラ」
(こいつ、思考を…!?)
バーヴァンシーとモルガン。この二人をわざわざ名指しした、その理由を知ることはできない。
「やめとけって。そのネタで仮に俺がお前の首を刎ねるなんてこと、やりたかないんだから」
笑いながら槍の先端を少しだけ除ける─たったそれだけで、槍が地面に落ちた。凄まじい力ではなく単なる夢の中の出来事としてなのだろうか。
そのままカランと音を立てて転がった槍を足で器用に持ち上げ、彼は手に持って振り回し始めた。
「ロンゴミニアド……ふぅん、いい武装してんな。争いに身を投じたってのなら当然なんだろうが」
(…何が、目的だ?)
「おっ、喋らないなんて器用なことできたんだな。目的は…まあ、今は言わなくていいだろ。あっちの異聞帯のウーサーともまた違うんだから」
なぜそれを。
口に出す前に知られているという恐怖が体を駆け巡り、今この瞬間も相手が考えた策略に動かされているだけなのではないかと思い始めてくる。
「そんな大層な理由じゃないって。タネさえわかれば俺以外の誰だってできるし、やり方が間違っていても最悪は奥の手があるから俺はそんなに気にしていない─なんて、言ってしまえば嘘になるかな?」
(どうしたいんだよ)
「あ、それが聞きたかったのか。…そりゃそうか、この時代に読心術なんていらないもんな」
一人で納得するように大きく頷くと、体を少しだけ引いて鉈をこちらに向けてくる。
「ほら出せよサーヴァント。ネガサモンなんざ使わねぇしその権限もないんだから」
自嘲するように喋った彼が、何を思ったのかはわかるはずもない。
ただ、何か違うような気がして。
サーヴァントを使うことを少しだけ躊躇してしまう。
「あぁ?俺一人に対してはお前一人で充分だと思ってんのか?」
相手があからさまに強大でも、どこかおかしな矛盾を孕んでいるとわかっていても─俺はサーヴァントを出そうとは思えなかった。
「……まあいいや。それならそれで動きが変わるだけだ」
たった一つ、残念そうに呟いて。
雨上がりの霧のように、一瞬で消え去った。
俺─藤丸立香は、転生者だ。というよりは、死に損なったのが正しいのかもしれない。
とある理由で、ここにいた。今度こそと手を伸ばして、一緒に死んでしまった。
『バカよ。ほんっ…とゔに…ばかぁ!わだし…なんて…見捨て…てよっ!』
黒い世界に閉じ込められそうになった瞬間、彼女が手を離そうとした。わかっていたけれど、助けられるわけがなかった。
気がつけば、別の─雪に閉ざされた世界で俺は旅をしていた。
『私と同じにならないようにね。君には何の力もない、ただの一般人なんだから』
思い出した『 』の言葉も吹雪の音にかき消され、眼の前に残ったのは愚かしい白銀の世界。
「…そうか。そういうことか」
ならばきっと、俺は贖罪をしなければならないのだ。
特異点を修復し続けた者として。
他の世界を侵略して破壊した者として。
…大切な人の願いを、踏みにじった罪人として。
それから、いくつもの世界で旅をした。
トリネコの危機を自らの命で救った。
晩鐘が指し示した死を乗り切った。
オリュンポスで武器を手にした。
大好きだった人と半生を過ごした。
(…なんで、俺はこうなった?)
気がつけば自分の肉体の老化が止まっていた。人ではなくなっていた証であり、旅の記憶が風化していくのではないかと不安になった。
「…ったく、どうなってんだか」
どんなことを考えていてもやることは一つだけである以上、迷うことはどこにもなかった。晩鐘を加工したその重たい鉈もさほど気にはならない。
人格が分けられた。贖罪の旅に支障はない。日常が冷たくなった。贖罪の旅に支障はない。生死の判断が自分の中で壊れた。贖罪の旅に支障はない。
『あなた、人間らしくいられないの?ジークフリートを助けてもらった身で言うのもなんだけど、もう少し人になったほうがいいわよ』
復讐を未然に防ぎ、英雄の天寿を全うさせた。
自らの記憶がおぼろげになった。贖罪の旅に支障はない。引き金を引く理由が酷く軽くなっていた。贖罪の旅に支障はない。他人を助けることに躊躇うようになった。贖罪の旅に支障はない。
『なるほど、君は全てを知ったあとか。なるほど、確かに謎を解く快感も世界を救う代償もないのは当然のことだろう』
人類史を無理矢理繋いだ。人とは思えない存在がすれ違っていたと思えば自分だった。
『え?あー、うん、ハッピーエンドとかなんとか言ってる場合じゃなさそうだね。君もしかして既にアラヤとかそこらへんの影響を受けてない?』
花の魔術師が話しかけてきた。贖罪をする旅の行く宛もなかったので、彼についていくことにした。
『……いや、もうダメだねこりゃ。人を助けすぎたせいで反転させる願いも何もあったもんじゃない─というか、サーヴァントじゃないと殺せなくなってる』
『だから汚染されていない大聖杯を渡すよ。え?そんなもの渡しちゃダメ?これは救世主に対する正当な報酬だとも!』
『ただ、その聖杯が壊れる前に君は死んでほしい。そうしなければハッピーエンドにはなれないからね』
渡されたその金色は、自身の妻といって憚らない美女を思い浮かばせた。
在りし日の自分が、文字通り身を焦がしながらも執着した少女。
取り戻したかった、のではない。
殺されたかった、という願い。
祈れば─ささやかな祈りを捧げれば彼女に会えた。
「今更どのツラ下げて会うつもりって話だよな」
わかっている。今、自分が呼び出してもサーヴァントはあの頃の彼ら彼女らではない。
「……あぁ、そうだ」
浮かび上がった、たった一つの
他でもない、自分自身に殺してもらえれば納得するに違いない。
彼女と始めて会った草原。─今はもう、青く茂っていた。
彼女が飛び込んだ液体。─すでに冷え切っていて、飛び込むなんてことはできない。
思い出をどうにかして浮かび上がらせながら、特異点を歪ませて作った。
星空も、そこに住む生命体も、何もかも空っぽな世界。しかしこれだけではカルデアがやってくる可能性は低い。
確実に呼び出すために、サーヴァントを自動的に召喚するシステムを作成した。
あちらが補足できるよう、できる限り見立てに拘った。
─その結果として、俺が死ぬとしてもだ。
生きようとする誠意なんてものは自らの中であるはずもなく、まだ目の前にいるマスターに少しだけ心のなかで愚痴る。
(まあ、少なくとも俺みたいな末路は辿らないだろう)
きっと恨まれているだろうが、ここまでたどり着けばもはや全てがどうでもいい。
自分のできることはやれた。聖杯も恐らく終われば泥の汚染もない綺麗な状態で渡るのだろう。
(あぁくそ、眠いな…)
昔のことを思い出す。本当ならここにいてはいけない自分が忘れてはならない旅路。
確か、確か─
─まだ、死ねなかったっけ。
明日くらいからぼちぼち投稿が再開されますよって話。
合同で出す作品のジャンル間違えていたせいで死ぬほど修正する羽目になったアホがいるってマ?
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