モルガン陛下が最初のバーサーカーになったマスターの末路 作:湿度100モルパーセント
神聖円卓領域キャメロット。藤丸立香にとって始めてのモルガンのいない特異点攻略。
『貴方ならできますよ、我が夫。一度死ぬ寸前から這い上がった人間は強いですから』
最愛の妻が渡してきたのは服は質素とはいいがたい制服のようなスーツ。あからさまに砂漠や荒野を行くのには向かないものだが、不思議なことに快適に過ごせた。周囲を確認した彼らは砂漠の砂を踏み分けて進む先にある荒野を見据えて歩き出す。
「本当にバーサーカーって誰なんだろうね?」
レイシフト後の環境が安定した状況からか、彼女の名前に対する疑問が立香には浮かんだ。
「さぁ…先輩がわからないのであればどうしようもありません。バーサーカーとしての先例を全て
マシュの返事は状況の説明しかなかった。確かに彼女に助けてもらうことはあれども、生前の逸話の欠片さえも聞いたことがない。
「そうとも。藤丸くんが会っていないだけで、バーサーカーとは本来なら話が通じないサーヴァントなんだよ?」
「…彼女も会話が成立していない気がするけどね…」
のっけから臣下になるか夫になるかを強要してきたのがバーサーカーが見せた唯一の狂化の影響といえば影響だろう。
「他のバーサーカーとも会ってみたいんだけど…縁がないのかなぁ」
「アステリオスさんなら来てもおかしくないですが…」
思い浮かべるのは大海でヘラクレスから身を挺して守ってくれた純朴な少年。彼もまたバーサーカーだが話は通じる珍しい分類だった。
「とはいえ来ないものはしょうがない。今回が終わった後にまた召喚すれば来てもらえるかもしれないし、ね?」
「そうなるといいな。…マシュ、ダ・ヴィンチちゃん」
弾んだ会話に夢中になっていても気付けるほどの殺気。それに動じるまでもなく臨戦体制に構え、砂漠の下から襲いかかる大型ワームを狩っていく。
自身も彼の指示で攻撃を使い分けつつ、ダ・ヴィンチは内心別のことを考える。
(今回、あのバーサーカーが来なかった本当の理由はなんだろう?)
確かに第五特異点で見せた呪詛返しは令呪のバックアップなしには使用できないだろう。わざわざ真名を隠してまで宝具を使ったのもそれを裏付けている。
しかし、言い換えれば
(ましてやその後の魔術のほうが説明がつかないしね。明らかに人体蘇生とか蘇りとかの概念を付与した次元だった)
今回のダ・ヴィンチがついてきた理由は二つ。
露骨にこの特異点を嫌がったバーサーカーの真名に関する手がかりを得るため。
マスターの経過観察を行うため。
程なくしてスフィンクスが地に倒れ伏し、砂嵐が吹いて死体を覆い尽くす。もう一度そちらを瞬きした頃には、もうすでに見つからなかった。
「行こうか!」
自分の疑問に栓はしないが、かといってダ・ヴィンチのせいで人理修復が
万能の天才と言えど、イレギュラーが重なれば正答は出せないのだ。
─そして、その一瞬の逡巡は。
サーヴァント同士の戦闘において致命傷になりうる。
「おやおや、人を殺したついでにこんな成果が出るとは…」
ポロロンと悲壮な音が鳴り響くと共に不可視の刃が砂塵を切り裂きながら彼らを殺しに襲いかかる。
咄嗟の回避も本来ならば不可避。仮に避けたとしても打開の一手を思いつく前に切り刻んでしまえばいい。
「先輩!」
マシュ・キリエライトの声より先に届いたその死を招く曲線を体捌きのみで避ける。同時にバーサーカーの作った服へと魔力を回す。
『エルサレムならば聖地としてこれらも使えましょう─ですが、神秘もその分強力ですし気をつけてください』
自分の体とは別のところから虫が這う感覚がする。肉体のどこかが盛り上がる気色悪さが込み上がる。
「
それがどうした。
ただ一度の慢心もなく、さりとて勝利への渇望は絶えずこぼれ落ちる。
「真名開放─
心地よい琴の音ではない、聞き馴染みのあるギターやロックの音楽が辺りへと撒き散らされる。先程の研ぎ澄まされた鋭い斬れ味ではない荒々しさは、体捌きだけでは反応しきれない。
(この隙に逃げるしか…!)
自分の成果の有無に頓着せず最適手を選ぶのは、モルガンが行った訓練による賜物だろう。仮に彼は円卓の騎士以外であれば、最低限の時間を稼げていたのかもしれない。
「あぁ、私は悲しい」
ガヴェインであれば数秒の隙を作れただろう。
ランスロットならば全てを剣で防いだだろう。
しかしトリスタンという騎士には─それよりも手数を増やすことができてしまった。
「私以外であれば逃げれたでしょう。ですがこの程度の嵐であればまだモードレッドのほうが強い」
砂塵はとうに戻っている。先程よりも鋭さと精密さが増した真空の刃が首を刎ねんと迫る。辛うじて致命傷を避けれるように作られている逃げ道には、数多くの傷を作る道であった。
「…だから?」
洗練された音を無理矢理壊す。かき鳴らした演奏が僅かな隙間をこじ開け、死中に活を見出していく。
「ハァッ!」
黙って見ているような可愛らしさとは無縁の、盾を持った少女の突貫。柔肌とは思えないその硬質な肌を傷つけることも出来ずに幻奏は力ない音となって消えていく。
「私は悲しい…このような少年少女に敗北をしてしまうことが…」
姿の見えないまま、トリスタンは静かに退却をしていく。仮に戦闘を続行するのは危険であると判断できる以上、確かに妥当な行いである。
気配がようやく遠ざかり、安全だと判断してからマシュは声をかける。
「…なんとか乗り越えられたようですね、マスター」
「…怖かったあ」
ギターをかき鳴らすような奇妙な体験だが、逆に慣れていないことが功を奏した。下手に演奏をすると相手の動きには対応しきれていなかっただろう。
周囲はクレーターが地面を抉った痕跡が残るのみでひとまずの安全は確保されている。
「さてロマニ。一応さっきの敵対サーヴァントの真名はわかっているんだよね?」
『ああ。円卓であそこまで琴を使いこなすとなれば、間違いなくトリスタンが浮上する。名乗りはしていないけれど…』
さもありなん、とばかりに彼に対する対策が立てられる。他の円卓の騎士とは異なる暗殺の方面で殺しにかかられれば勝てる見込みなどない。
『戦闘パターンから魔力の波長を読み取ったことだしこちらのマップに入れておく。全く、バーサーカーが後方支援でも強いとは驚くよ…』
『さほどおかしなことではないでしょう。寧ろこちらのほうが本業ですよ』
薄く笑いを浮かべているバーサーカーに呆れつつも、ロマニはマップ上にピンを立てる。本来ならばマップを作れなかったことを踏まえると進歩しすぎだろう。
それで安心できるかどうかは別として、だが。
『え、マジで!?ちょっ、皆臨戦体制!すぐそばにもういる!』
「えっ、忠告すんの遅すぎ。そんなので
先程とは異なる琴の音が壮麗に響き渡る。場の空気を切り裂くソレは、彼等の薄皮1枚横を掠めて地面を深々と断層を形づくる。
声のする方向を見ると真っ先に見えたのは血と見間違うほどの真紅のドレスを身に纏う少女。裾が余らないようにハイヒールをつけているのさえ絵になっている。
本来ならばその美しさに見惚れていたとしても不自然ではない麗しさ。故に凶器があったとしても普通ならば令嬢の戯れとして片付けてもおかしくはない。
あぁ、あぁ。汝の真名、その名は─
「─妖精騎士トリスタン。正義の味方、だろ?」
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