モルガン陛下が最初のバーサーカーになったマスターの末路 作:湿度100モルパーセント
「…その件は帰ってきたら話します。まずはキャメロットを攻略してください」
逃げられた。少なくとも話したくない内容らしい。
(バーサーカーの行動そのものが珍しいといえば珍しいからね)
自分ではわかっているつもりだけど、やっぱり気持ちの整理はついていない。彼女から捨てられることは当分ないだろうし、味方だとわかればそれだけて充分だ。
「なんだ?誰かと話してるのか?」
軽い口調でこちらを覗き込んで来たのは妖精騎士トリスタン。彼女もとりあえずは警戒してくれたりマスターとして最低限慕ってくれているありがたい存在だ。
『…!切りなさい、マスター!』
だから、ちょっとバーサーカーの剣幕に驚いてしまった。彼女が慌てる姿というのは新鮮だったから。
驚いた隙に、ディスプレイにトリスタンの顔が映る。バーサーカーの顔に少しだけ赤く照って、慌てて切ろうとしているのがわかる。
「母、様…」
『では失礼します』
その声が耳に届いた瞬間、ブツッと物理的なエラーで通信が途切れた音がする。バーサーカーならやってそう。
(それよりも気になることができたなぁ…)
どう聞けばいいだろうか、と目の前の少女を見る。母親にしては髪の色も似ていないし、養子かナニカなのだろうか。
それか…
「うぅ…脳が…」
「あぁん!?」
もう一つの可能性を考えた瞬間に頭の中の神経が途切れる感覚がした。この前の槍とはまた違った痛さに顔をしかめつつ、トリスタンに尋ねる。
「それで、母様ってことは…」
「いや、私の勘違いかもしれない。そもそも妖精には親という概念がないはずだ」
彼女に対しての謎もあと少しでわかるかもしれない。
そんな不安と期待の中、俺は夜空の満月を見ていた。
彼女─モルガンは受肉をまだしていない。少なくとも計画の最後になれば実行をしていたかもしれないが、モルガンはあともう一つの特異点があることを知っていた。
故に、取った方法は全く異なる。
「汎人類史の知恵をお借りしましょう。なに、あちらより私のほうが魔術に関しては制御できますから」
単身でキャメロットに乗り込んだ彼女がまず探したのは、この世界のモルガンだった。円卓に連なるような存在がいたとするなら、という仮定のもとに踏み込んできたのだ。
(いないか…あの愚昧は騎士だけを召喚して自らの守りを固めさせたな)
しかしいないものはどうしようもない。予め定めておいたサブプランの実行のために、彼女は召喚陣を形づくる。
もしここにダ・ヴィンチがいれば「成立していない」と断言する魔術陣。
ソロモン王ならば首を傾げる─目的に反して脆弱な魔術陣だと。
モルガンにとっては─最愛の娘と忠義の騎士を呼ぶための第一手段。
「満たず。満たす。満たず。満たず。
汝の命運は我が救い、
我が心は汝が救う。
救世主の終わりの旅路、
女王の杖に集いて吼えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
在りし日の世界より来たれ。
妖精騎士─!」
風ではない穏やかな魔力が頰を撫でる。漆黒の夜に召喚の金色の光はさぞ美麗に映っただろう。
召喚に使用したリソースが全て尽きたとき、残っていたものはたった二つの狙った妖精だった。
「…よかった。これで後は後処理だけですね」
妖精は小さく─それこそ、バーサーカーが魔力を生産すれば事足りる程度のスケールだ。愛おしそうに眠る姿を眺め、彼女は自らの槍が軋むほど強く握りしめる。
「…我が名はガヴェイン。あなたを殺させていただきます」
隣から厳かな雰囲気を纏った騎士の一団が現れ、周囲を先程の光景を再現するかのように太陽が光を当てる。
「ガヴェイン。ちょうどいい養分ですね」
計画の大詰めともなる段階において、円卓の騎士という成分はこれ以上なく切望していたものだった。
最低でも捕縛。最高で昏倒。
最優の騎士一人を殺すことを許されない戦闘を前にして、最果ての魔女は微笑みを浮かべる。
「お前は─!」
「気づいても遅い。戦場での心がけを忘れているほど愚かなのですか?」
母親という事実に一瞬躊躇したのなら、それはサーヴァント同士の戦闘において致命傷になり得る。
正にその言葉通り、彼は彼女に殺されるだけの隙と共に騎士団の連携を崩す。一瞬にして天空から槍が降り注ぎ、弓を持った一団を飲み込む。
「次」
魔女でありながら救世主であるモルガンにとって、近距離戦も余裕である。驕り高ぶる騎士が流水の如き滑らかな動きに翻弄され、一人一人と膝を折っていく。
「魔女め…!」
「あら、感情だけを出しても何も変わりません。まあしかし、先にあなたが来たのは都合がいい」
昔では考えられない歪な笑みをカヴェインへと向け、小さく魔術を唱える。
(驕りであっても高らかに─)
杖の妖しい光を周囲へとまき散らす。収束していく先にいる彼は避けるような体勢でもなく、ただそれを受け入れるばかり。
「…何をした」
不思議なことに、彼は自分がどこも問題ない状態であると感覚で理解した。その上で彼はモルガンという魔女のおぞましさを知っているのだ。
「言う必要もありません。バーゲスト、餌ですよ」
右肩に乗った小さな妖精を一撫で。警戒してとった距離の中に更なるイレギュラーの出現。余裕をもって殺さずに転移させるには充分な時間だった。
「…では、陛下。私はどうすればよろしいてしょうか」
跪こうとしたバーゲストへと手を掲げて制止させ、伝えるべき事象を伝える。
「まずその形を取らなくて良い。そして私のことはバーサーカーと呼ぶように」
「わかりました。バーサーカー様」
「…たまには羽目を少しだけ外してもよいのですよ?」
召喚しても変わらぬ彼女に柔らかく笑う。普段ならばあり得ないような死後の再開に頰が緩むのも仕方がないことだろう。
(しかしモルガン陛下とは思えないほど雰囲気がお優しくなられたな)
不思議なことだ、とバーゲストは感じる。仕える兵士としても、女王の感情が噴出したところは殆ど見たことがない。
「…とりあえず、話をしましょう。バーヴァンシーとバーゲストをこちらに呼び、襲名するためのテクスチャをあちらから奪いました」
「…なるほど。英霊としての格を奪ったと」
真名。宝具を開放する、自身の真名を看破される。どこまでもサーヴァントとして持っていなくてはならぬもの。
「奪うくらいはしませんと。円卓なぞその程度しか使い道がないのですから」
涼しい顔でその絶技を言ってのける魔女。しかしこれも賭けではあった。
(アラヤ…は、動かないようですね。英霊グラフにも彼女の名前が登録されていない)
バーゲストにしろこれから襲名するバーヴァンシーにしろ、異聞帯の存在としてのみ成立している存在だ。故に霊基の変質や人理の敵と見なされる恐れもあった。
不安視していたことが解消されてほっと一息つき、油断せずに周囲を警戒する。
「バーゲスト。あなたに与えておく使命は露払いです」
「露払い、ですか?」
不可思議そうに彼女は問いかける。モルガンが露払いのみを命じるのもそうだが、何よりも表情が不自然だったのだ。
「ええ。あなたの正体を含めて考えれば、カルデアと接触する前に退去してもらったほうが話が丸い」
嫉妬、だろうか。それとも単に娘との再会を邪魔されたくないだけなのだろうか。
(いずれにせよ、私は死ぬことが決まっているというだけだ)
捨て駒にされることを喜んでいる自分もいる。生前の裏切りがあって尚も「忠義の騎士」と思いを馳せてくれている─その信頼に、答えないのは愚かしい。
太陽を食らう獣としての側面を引き出し、彼女は正門へと目指す。
「トリスタン卿にも会いたかったですね。…陛下、ご武運を」
「任せておきなさい。あなたの働きは無駄にはしません」
去っていった彼女を見送ったあと、モルガンはもう一つの騎士の名前を奪うための術式を構築する。
(あぁ、生前と変わらない城に騎士団。イゾルラとやらもいない時点で彼に未練もないか)
トリスタンの位置を特定した彼女は、緩やかな吸収陣を起動する。先程のように光も音もない、秘匿された神秘が散りばめられた静寂な発動。
「さて、バーヴァンシー。私のことがわかりますか?」
己が常に待ち望んでいた、受肉する目的であった彼女。眼の前にしたところで女王であるときの癖は抜けずとも、心配する声は確かに彼女の耳朶を打った。
「…おかぁ、さま…?」
「ええ、そうです。まずは記憶の共有といきましょう」
記憶の共有。自分のことは隠し、カルデアに協力することや味方が誰であるかを明白にした。
(本当は一緒に冒険したかったですが…仕方ありません)
自分の記憶を処理し彼女はカルデアへと戻る。この仕込みはバレてはいけないと理解しているのだ。
…自身の行動の矛盾には、気づかずに。
彼女は、彼等を見送ったのだ。
大鏡
藤原道長の栄華について書かれた作品。
権力者に対する批判が含まれている内容である。
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