邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた   作:邪眼帝

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どんな犠牲も勝利よりは軽い。


その16

 部室に集まっていたリアス達は、深夜零時のグレイフィアの合図と共に、ゲームフィールドに転移する。一誠の配慮で、敢えて直前まで休憩時間を過ごしていた一同は、自分達を包み込んだ巨大な転移術式にも動じることはない。

 

 舞台に選ばれたのは、彼らが見慣れた駒王学園の敷地内である。

 

 真新しい白い新校舎の隣に体育館とグラウンドが我が物顔で堂々と居座り、部室のある寂れた旧校舎は忘れ去られたかのように片隅で佇んでいる。リアスの本陣は部室に設定されており、これが占拠された場合も敗北となる。

 駒王学園をゲームフィールドにするように進言したのは、他ならぬライザーだ。彼女を侮ったわけではなく、既に幾つもの勝利を挙げている競技者としての矜持と、一人の男としての誇りが、ライザーにゲームの公平性を追及させたのだ。その拘りは、地理の分からない新校舎に本陣を設定したことからも窺える。

 

 リアスは、勝負事への正々堂々とした姿勢に深く感心すると同時に、その姿を早く見せてくれていれば或いは、と思わなくもなかった。

 

 ルール説明を受ける彼女の瞳に、迷いはない。今回のレーティングゲームが、相手の″王″を撃破するか相手陣地の占拠で勝利となる、最もオーソドックスなタイプであることを確認しながら、予め構築しておいたプランの取捨選択を脳内で進める。

 変則的なルールを強いられるかと警戒していただけに、やや拍子抜けだ。とはいえ、ここはライザーの配慮に感謝すべきだろう。

 

 だからこそ、油断はしない。

 全力で、徹底的に、敬意をもって粉砕する。

 ゲームである以上に、これは自由を勝ち取るための戦争なのだ。

 

『──これより、ゲームを開始します』

 

 頭上からの宣言に合わせて、グレモリー眷属が起動する。

 

「朱乃と小猫は速やかに体育館の制圧を。祐斗とギャスパーはその援護を。ただし、実際に制圧しなくていいわ。相手にそう思わせるだけで構わない。各戦線での細かな判断は朱乃と祐斗に一任。指揮の優先権は朱乃にあるから、何かあれば無理せず即座に帰還するのよ」

「了解よ、リアス様。釣れるだけ釣って、体育館もろとも焦がせばいいのよね?」

「こちらも了解しました」

「深追いは禁物よ。単独行動も禁止。各自は二人一組での行動を厳守し、絶対に包囲されないように立ち回りなさい」

「「「「了解」」」」

 

 命令を受けた四人は窓から降下するや否や、体育館までの道程を最短且つ直線距離で飛翔する。階段など使ってはいられない。主君の命令は全てに優先する、たったそれだけのことだ。

 

「第一段階は成功かしらね」

「でしょうな。雑な陽動ですが、無視することはできません。あれの占拠を許してしまえば、本陣の側面を突かれる形で前線基地が出現してしまうからです。ちなみに、この場合の対応としては、釣られたと見せて罠へと誘導するのがベターですな」

「その罠は、″兵士″の束ですか?」

「いや、全員だ」

 

 同じく居残り組であるアーシアの問いに、一誠は断言した。陽動とは銘打ったが、先頭で暴れるのはリアスと一誠に次ぐ戦力の″女王″である。攻撃の届かぬ高所から落雷をばらまける爆撃機が相手では、大量の″兵士″を差し向けたところで蹂躙されるのがオチだろう。三人もの護衛がいるのでは尚更だ。

 

「だから撒き餌にするんだ」

 

 即ち、消耗前提で″兵士″達を出撃させ、撃破した朱乃達の油断を、″女王″・″僧侶″・″騎士″・″戦車″による包囲殲滅で擂り潰す。もしくは、戦力を足止めと本命の二隊に分散させ、もう一方がリアスの本陣を奇襲する。

 

「そうなると、リアス様には″兵士″と″僧侶″が一人ずつしか残らない。対して、あちらは被害も知れており、いざとなればフェニックスの不死で強引に押し通せる──と、そう考える知恵者気取りがいることだろう」

 

 しかし青いな、と一誠は切り捨てた。

 

「そのために特殊な指揮系統を構築し、そのために前線での判断を委ね、そのために二人一組のチームを構成し、そのために即時撤退の許可を全員に与えたのだ。大人しく包囲されてやる趣味はない」

 

 そう説明した直後に、遠くから雷鳴が轟いた。体育館のある方角だ。

『ライザー様の″兵士″八名、リタイアです』グレイフィアのアナウンスに、リアスは「よくやったわ」と朱乃達を労った後、テーブルの上に並べられた黒いチェスの駒の内、八つの″兵士″を倒した。

 途端、響く崩壊と爆発音──事前のシミュレーション通りに、炎魔法を得意とする″女王″ユーベルーナが仕掛けてきたのだろう。大方、油断していると踏んだに違いない。

 

「身の程知らずにも困ったものね」

 

 リアスの呟きに、紅の通信術式が呼応した。朱乃からの緊急連絡である。どうやら、ユーベルーナの判断は甘かったらしい。

 

『敵は三人。イザベラ、カーラマイン、ユーベルーナです』

「足止めは無視して帰還しなさい。別動隊が潜伏している可能性も考慮して、包囲されないようにだけ注意すること。いいわね?」

『直ちに』

 

 朱乃の声は、普段よりも気力に満ちている。これは一誠の気配りが功を奏し緊張せずに戦えていることと、チームメンバーが誰一人として欠けていないことによる精神的な安定、そして何よりも一誠の存在が大きかった。あの赤龍帝が本陣に控えているとなれば、これ程に心強いことも他にない。

 

 彼女の号令の下、四人は即時撤退を図る。

 

 しかしライザー側も逃すような真似はせず、本命として密かにリアス本陣に進ませていたレイヴェルの別動隊を呼び戻し、前後からの挟撃を指示した。朱乃達が本陣に帰還する直前の、気を抜いてしまった一瞬の隙を突いた鮮やかな反撃であり、経験者の意地を見せた形だ。

 

「快進撃はここまでですわ。合流される前に、あなた方を倒させてもらいます」

「あらあら、随分と初心者に優しくないゲームなことで」

「……ご冗談を。その立ち回りは、ゲームに慣れた中堅者の行うものです。もっと言えば、私達の動きを徹底的に研究している。性格の悪い参謀さんがいらっしゃるようで、少し……いえ、正直に感想を申し上げると、かなり悔しいですわね」

 

 レイヴェルの独白に、嘘はない。一応の警戒はすれど苦戦はしないと考えていたからだ。

 それが、体育館の争奪戦では陽動と理解していながら戦力を消耗させられ、ならばと進言したユーベルーナの奇襲も通じず、結局は人数差を活かした包囲作戦に頼る羽目になってしまった。これまでレーティングゲームに参加したことのない未経験者を相手にこの有り様では、ライザー眷属の面目も丸潰れである。

 リアスの性格を加味して、グレモリー眷属の作戦立案を担ったのは彼女ではない、とレイヴェルは推測した。このレーティングゲームを、チェスのように支配している者がいるのだ。

 ならば、その者こそが、リアスが迎えたという新たな″兵士″なのだろう。

 

「私は未熟だったと気付かされました。これまでの戦いは遊びだったと思い知らされました。私は参謀足り得ないと突きつけられました。私は……勝ちたいと心の底から願いました」

 

 どんな形であれ、とレイヴェルは告げた。

 

「その者に通信を入れて、この場に姿を現すように言ってください。そうでなければ、あなた方はここでリタイアとなります。健闘は讃えますが、初のレーティングゲームとあって疲労も蓄積されているでしょうし、休養させて差し上げますわ」

 

 当然だが、従う者はいない。朱乃も祐斗も小猫もギャスパーも、怒気を滾らせながら拒絶する。

 

「生憎と、仲間を売るような輩はグレモリー眷属に一人もおりませんわ」

「二度も自分だけ助かるくらいなら、死んだ方がマシですね」

「……徹底的に抗います」

「僕だって男ですから」

 

 四人全員が迎撃態勢に移り、交渉決裂と見たユーベルーナ達も即座に殲滅の構えを取る。ただ、今のやり取りを経て、レイヴェルのみが策の成功を確信していた。

 

「確かに、立ち回りは中堅層にも匹敵します。けれども惜しいのは、やはり初心者の域に収まってしまっている点。ゲームに感情はご法度。犠牲も戦術の内。その代わりに恨みっこなし。それこそがレーティングゲームの醍醐味ですわ。あなた方は、プレイヤーとしての意識が欠けてしまっている」

 

 見捨てるか、救うか。

 選択肢は二つに一つ。

 

 特殊な事情──追い詰められたのが″王″でもない限り、中堅以上のプレイヤーは味方を見捨てる。その選択を躊躇なく取れるし、見捨てられる側もできるだけ相手に被害を与えてからリタイアする。同じ立場であれば、一誠もそうしただろう。

 

 だが、リアスは学生だ。一誠以外の全員が、一般人ではなくとも学生の感性ではあるのだ。レーティングゲームとプライベートを区別して考えられる程に育ってはいない。この日の行動が、少年少女の精神に悪影響を与えないとも限らない。

 

 そして、これまで朱乃達の精神面にも細心の注意を払ってきた一誠だからこそ、レイヴェルからの挑発は──実際には演技だったとしても──無視できないものとなる。

 

 四人の未帰還と、流れないアナウンス。二つの点から状況を悟った一誠に、この盤面を返す手段はない。

 

「一誠、これは……」

「上手く返されたらしい。経験の差を埋めるまでは届かなかったか。悪いが、ここから先を捲れるかどうかは博打だ」

「そうね、愛しい眷属を見捨てるわけに……いかないものね」

 

 遅れて、自身がチェックメイトを宣言されていることに気付いたリアスが、顔を蒼白にしながら言った。項垂れる彼女の左手に、一誠はそっと触れる。

 

「……私からの、おまじないだ。どうか留守を守っていてくれ」

「……うん、待ってるから」

 

 そして、ゲームは終盤に移り変わる。不死鳥の思惑に彩られながら。

 

「リアス、悪いが俺は……お前との結婚よりも叶えたい目的ができちまった。だから、全力でお前に挑ませてもらうぞ」

「このような盤外戦術を駆使して、本当に申し訳ありません。ですが、私にも目的があるのです。なので、あなた方を人質にさせてもらいました」

「「──勝つために」」




黒神龍ゼキラ
UC 闇文明 (3)
クリーチャー:ドラゴン・ゾンビ
5000

このクリーチャーが出た時、自分のクリーチャーを1体破壊する。
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