邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた 作:邪眼帝
「派手な演出だな」
焔の輪から出現した一誠への軽口が、そのまま自分にも当てはまることに気付き、ライザーは苦笑した。
だからこそ、このゲームに敗北するわけにはいかない、とライザーは炎を噴出させた。キザな女誑しを自負する身ではあるが、結局、その心の奥底には戦士の顔が眠っていたのだ。
対峙する一誠も、助太刀無用の意向をリアスに懇願してから、手元に愛用の魔銃を滑らせる。非合理的だが、理屈や計算だけでは乗り越えられない戦場が、男には確かに存在する。
「ライザー・フェニックスだ。まずは、俺に戦いを思い出させてくれたことに感謝する」
「兵藤一誠です。願いを取り戻しに来ました」
「だろうな」
ライザーは、納得したように頷いた。やや猪突猛進な欠点も含めて、リアスが良い女に該当することに異論はない。一誠が惚れ込んだのも、本来なら秘匿すべき力を解放してまで救援に駆けつけたであろうことも、理解できる。
ただ、そんなことは最早どうでもいい。
「リアスが欲しければ、俺に勝て。この程度の条件も満たせないような相手に彼女は任せられない。幸せになれないだろうからな」
「でしょうな」
このとき、存外に頭に血が上っていた一誠は、遠回しに自分が何を言ったのかに気付かず、背後に避難していたリアスが酷く赤面していたことも知らなかった。
今はただ、たった一つの願いを叶えることしか眼中にない。これ以上の野暮は無用と、ライザーも臨戦態勢に移る。
そして、魔弾と爆炎が激突した。
これが目眩ましにもならないことは、互いに百も承知だ。ただの挨拶で旧校舎全体が揺れている間も、二人は脳内で次の最善手を模索し、掌の中に実行する。オブジェクトの破壊行為を欠片も制限されていないからこそ実現した一騎討ちが、加速していく。
「火の鳥! 鳳凰! 不死鳥と讃えられた我が一族の業火!! その身に受けて燃え尽きろ!!」
ガウン、とライザーの周囲が陽炎に揺れる。そして誕生した自己最高温度の火球は、彼の歓喜に後押しされる形で、さながら隕石と化して放たれる。
これを対処できなければ、リタイアとなる。
即座にそう判断した一誠は、既に迎撃の構えを見せていた。
世界に破滅の饗宴を。
横一閃に薙ぎ払うようにしながら魔銃のトリガーを引き続け、黒い弾幕を展開する。放たれた魔弾の群れが殺到し、ライザーもろとも火球を食い散らかす。ボッボッと彼の身体に灯る赤い炎は、高速再生を施している合図だ。
「──魔弾ロマノフ・ストライク」
自身の名を冠した一撃すらも、奥の手ではない。
魔弾の影に身を隠して間合いを詰めた一誠は、再生中のライザーの額に狙いを定め、ゼロ距離で連射する。油断していたわけではなかったが、防御の間に合わなかったライザーは衝撃で吹き飛ばされ、自分自身が壁に抉じ開けた大穴から旧校舎の外へと放り出された。
しかし迂闊な追撃には移らず、倒れ伏すライザーには決して近付かず、あくまで遠距離からの銃撃に留める。これで倒される男ではないからだ。
一誠の読みは、的確であった。
ライザーは飛び起きると、炎翼を扇のように揺らめかせることで、眼前にまで迫っていた魔弾の全てを受け止めることに成功した。無論、可能なら回避したかった場面だが、まだ再生には余力が残っている、と自身を納得させてのゴリ押しだ。このゲームが終わったら改善するか、と悪癖の矯正を決意しながら、彼は旧校舎を見上げる。
警戒しているのだろう、一誠は注意深く観察するのみに留め、しかしどのような策にも対応できるように、銃口と視線を向けたままでいる。魔王を彷彿とさせる眼光に、ライザーは思わず身震いしてしまった。そして、この瞬間に精神が屈してしまった事実を認めつつ、問いかける。
「分かっているのか。この婚約は、フェニックス家とグレモリー家のみならず様々な利権も含んだ、必要で大事なものなんだ。それを覆すということは今後、必ずや面倒に巻き込まれるだろう。お前は……リアス・グレモリーを守り抜くと誓えるのか」
「邪魔する者は叩き潰します。懐柔し、脅迫し、徹底的に利用した上で擂り潰します。それが闇の美学で、それこそが私の流儀なもので。それから、一つだけ訂正しておきましょう──私が守るのは、ただのリアスだ」
一誠の宣言に、絶句するライザー。しかしそれこそが自分の聞きたかった言葉だと納得し、笑みを浮かべた。
結局、悪魔は悪い意味での純血貴族主義から抜け出そうとしない、古い価値観の塊だ。実力主義など建前でしかない。そして、ライザーは遂にその渦から抜け出すことが叶わなかった。そもそも、リアスとの結婚が政治的なものでしかないと認めた上で、それを破談させるという発想に思い至らなかった。
だが、リアスは選択した。一誠も、貴族主義など知ったことかと言わんばかりに縦横無尽に奮戦し、あまつさえライザーに啖呵を切ってみせた。
認めよう。アイツと俺では器が違う──。
肩を竦めるも、だからといって諦めたのではレイヴェル達に申し訳が立たない。男の戦いに求められるのは、リタイアではなく決着だ。
「お前は、絶対に諦めるな」
右手に火球を練り上げながら、先駆者として最後のアドバイスを授けた。これからどのような苦難に襲われようと、一誠とリアスのコンビであれば乗り越えていくと信じて。
一誠は無言で頷き、詠唱を魔弾に込める。
そうして発生した激突の結果は、
『ライザー様のリタイアを確認。よって、リアス様の勝利となります』
ほんの僅かに嬉しそうなアナウンスは、VIP席にてレーティングゲームを観戦していたサーゼクスの心の声でもあった。それから、新たに降ってきた諸問題について頭を抱える。
情報操作も絶対ではない。大王派に嗅ぎ付けられる可能性も高い以上は、早急な対処が求められた。
「おーおー、魔王様は随分と悩んでおるのう」
場の雰囲気にそぐわない、年若い少女の声が唐突に響いた。本来であれば聞こえる筈のない声音に、サーゼクスだけでなく、フェニックス卿と談笑していた父のジオティクスもビクリと身体を震わせた。
「事を急いたな、ジオ坊。いや、結果的に彼の価値を見定めたとすれば成功かもしれんがのう」
「初代様、お目覚めになられたのですか」
「いかんいかん、魔王ともあろう者が古い悪魔なんぞに頭を下げるでないわ。サー坊がそんな真似をしたら、まるで私がゼクラムのボケナスみたいに思われてしまうではないか」
「……その口調は」
「乗るしかないじゃろ、流行りに」
ツーサイドアップにした紅髪と、古風な口調が特徴的なこの少女は、初代グレモリー家当主のルネアスだ。精神的な老いを嫌い、グレモリー城の最深部で眠りについていたのだが、いつの間にか抜け出してきたらしい。
ルネアスが目覚めた理由は、同じく隠居していた先代当主のキシスからある情報を送られたためだ。
「見ておったぞ見ておったぞ! かーなーり! 面白そうな眷属と出会いおったものよ! あの魔銃も魔弾も正体が掴めやしない! まさに未知の技術ときた! ああ、起きてきた甲斐があった!」
「初代様にも、分からない力ですか」
「んっんー、理解不明という点しか理解できん。人の形をしてるだけのバケモンってことぐらいか。飼い慣らせてるのが不思議で仕方ないレベルよ。リアちはどうやって交渉を成功させたんじゃ。あれなら一国一城の主にもなれる器であろうに。ダーリンみたいに変わり者なのかのう?」
「惚気はまた別の機会に」
「えー?」
文句を言うルネアスだが、彼女の自由奔放な性格は一族間で知らない者はいない。
新しいものや面白いものが大好きで、悪魔特有の古い価値観を蛇蝎のように嫌っている。戦いは好まないが、怒らせれば手に負えない。草創期から生きる大悪魔の一角だ。
そんな異端児の視線は、モニター術式に映し出される一誠を捉えて離さない。
邪悪極まりない魔銃を操り、戦いに際しては権謀術数の心得もある。そして、リアスとの仲も良好となれば、次なる一手は自ずと限られてくる。
「すまんのう、フェニックス卿。申し訳ないが」
「いえ、構いませんよ。逆に倅の甘ったれを叩き直してくださったことに感謝します。あの少年にも礼をしなければなりませんね」
「そう言っておいて、娘を眷属候補に売り込むつもりであろう。抜け目のなさは初代譲りじゃな」
「投資ですよ。まあ、早い段階で繋がりを持てたことは幸運でした。グレモリー家の慧眼には敵いませんがね。どうせ、一家総出で彼を囲い込むおつもりでしょう。魔王派も磐石となる」
「……しかし初代様、情報の流出は避けられないかと考えています。それに、一誠くんが見せた翡翠の光についても」
「分かっておる」
一誠が宿しているであろう神器についても心当たりのあるルネアスは、敵対する大王派の暗躍が激化することを予測し、溜め息を吐いた。
本来なら、とっくに引退した身が政界に関わるべきではないのだが、可愛い子孫のためであればそうも言っていられない。
「魔弾、赤い龍、……。前途多難……いや、これも時代の移り変わりというやつじゃな。或いはこの波乱もお前の影響かね、聖書の神よ」
モニター術式の向こう側、自由を勝ち取ったことを互いに抱き締めあって喜ぶ一誠とリアスに新しい時代の到来を感じながら、ルネアスは興味深そうに瞳を煌めかせた。
スパイク・スピーゲル
P 水/火文明 (3)
クリーチャー:ヒューマノイド/アウトレイジ/ハンター
3000+
スーパーレアのクリーチャーとバトル中、このクリーチャーのパワーを+9000する。
このクリーチャーがどこからでも自分の墓地に置かれる時、かわりに山札に加えてシャッフルする。
このクリーチャーが、自分の手札以外のどこからでもバトルゾーンに出た時、カードを2枚引く。