邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた   作:邪眼帝

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お前の勇気が、僕にも勇気をくれたから。

──レッピ・アイニー


その19

 眼を覚ますと、そこは乳だった。

 起床した一誠は、毎度のように自分を抱き枕にしているリアスを叩き起こす──ではなく、睡魔に任せて二度寝することにした。

 昨日のレーティングゲームで疲労が蓄積していたのだろう。

 そうでなくとも、実に幸せそうな寝顔を見れば、起こすのも無粋というものだ。

 とはいえ、一旦目覚めてしまうと妙に頭が冴え渡って眠れない。しかし抱き締められて動けない。仕方なく、一誠はゲーム後に行われたサーゼクスとの会話について、脳内で回想することにした。

 

「──という経緯で、リアスとライザーくんの婚約は破談になった。ただ、フェニックス卿が直接に会って礼を述べたいと言っている。都合の良い日を教えてくれたまえ。こちらで場を整えよう」

「了解しました、サーゼクス様。しかし随分と破格の対応ですな。ここだけの話、反故にされる場合のことも考えていたのですが。さては、両家の婚姻に代わる新たな利権を見付けましたか」

「正解だよ。フェニックス家は、長女レイヴェルをきみの眷属候補に宛がう算段だ。そして正直に打ち明けておくと、グレモリー家も同様の準備を進めている」

「……それ程に、私が恐ろしく見えますかな」

 

 功績を挙げたとはいえ、一介の下級悪魔に対する報酬としては異例の提示に、一誠は肩を竦めてみせた。

 レーティングゲームに勝利した直後、傷の治療という名目で一誠はリアスと引き離され、別室に案内された。やはり危険視されたか、と身構えたのも束の間、サーゼクスが両手を挙げて敵意のないことを強調しながら現れたことで、室内に張り巡らされた警戒が霧散する。

 説明を受けた一誠は単刀直入に切り出したが、対するサーゼクスは「そうじゃないよ」と頭を横に振って否定した。

 

「相応の厚待遇を提示しないと、優秀な若手を他に取られてしまうからね。あんな力を見せられては、飼い主としても甘ったるい飴玉を用意したくなるのさ。一誠くんも、レーティングゲームではそのつもりでアピールしたんだろう?」

「……ええ、まあ」

「正直者は好きだよ、義兄(あに)として」

 

 一誠は辛うじて頷いたが、待遇や報酬など欠片も考えておらず、ただリアスのために動いていたのは誰の眼から見ても明らかであった。だからこそ、サーゼクスのみならずジオティクスやルネアスも好感を抱いているのだが。

 正体不明の禍々しい力や今代の赤龍帝の所有者である点を差し引いても、彼を見逃す手はなかった。そしてフェニックス家とも連携し、どのようにして彼に実績を挙げさせるかについて協議する。一誠を下級のままにしておくことは、却って面倒事を招きかねない。

 政争の気配を感じ取った一誠は、昇格条件についてサーゼクスに訊ねてみた。合宿中にはぐれ悪魔を差し向けてきた黒幕も不明である以上は、早急に地位を築く必要がある。

 

「やはり、厳しい条件が?」

「いや、毎年行われている実技試験と筆記試験に合格すればいい。ただ、受験するには仕えている主君からの推薦が必須となる」

 

 下級から中級への昇格率は九割に近く、余程の愚者でもなければ普通にパス可能な試験である一方、眷属の所有が許可される上級悪魔への昇格率はすこぶる低い。これは人材不足というよりも、求められているハードルが単に高いだけである。

 

「きみの実力なら、合格できるよ。そして、()()()リアスを守ってあげてくれ」

「命に代えても」

 

 そのつもりであった一誠は、両家の思惑すらも飲み干してやる覚悟で頷き、サーゼクスと固い握手を交わした。魔王からの激励であり、将来の義兄からのエールでもあった。

「気を付けたまえ、一誠くん」その瞬間、サーゼクスが呟く。

 

「──えいやっ!」

 

 突如、顔面に柔らかな衝撃が走った。乳だ。

 

「随分な挨拶だな」

「いひゃい、いひゃいわ。同居姫の可愛い悪戯じゃないのよ」

「……同居?」

「ええ、今日からホームステイするわ。ご両親にも話は通してあるから、よろしくね」

「……」

「いひゃい、いひゃいわ」

 

 回想を打ち切り、改めて周囲を見渡せば自室の至るところに段ボール箱が積まれている。リアスの実行力に一誠は溜め息を吐いた。

 そこも含めて、惚れたのだ。

 内に宿るドライグは複雑な心境だろう、と再び沈黙を貫いている左手を見つめる。願いには応じたが、それはそれとして素直に力を貸すような真似もしたくないようだ。しかし一瞬とはいえ、発動できたのは収穫だ。今後も鍛練を続けていけば、いつかは完全に覚醒する筈だ。

 まあ、焦ることはない。

 結論を出した一誠はリアスを抱き枕にしようとして、ふと今日が月曜であることを思い出した。アラームをセットしておいた筈の目覚まし時計は不自然に沈黙し、朝の七時を指したまま床に転がっているではないか。このままでは間に合わない。

 

 一誠は容疑者を見た。

 容疑者はそっぽを向いた。

 

「だって、眠たかったから……」

「いいから支度しろ、全力で走るぞ」

「はーい♡」

「……」

「いひゃひゃひゃ」

 

 かくして取り戻した賑やかな日常は、家から二人で出てくる瞬間を村山と片瀬に目撃されたことで更なる騒動を招く羽目になるのだが、楽しそうな少年少女にとってはどうでもいいことなのだ。

 

 気を付けたまえ、一誠くん──。

 

 フリード・セルゼンが脱獄したらしい──。

 

 何者かの手引きでね──。

 

 仮にその平穏が、一時的なものだとしても。




レッピ・アイニー
P(C) 火文明 (3)
クリーチャー:ファイアー・バード
1000

このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から2枚をすべてのプレイヤーに見せてもよい。その中から名前に《超次元》とある呪文を1枚選んで自分の手札に加え、残りを墓地に置く。
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