邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた 作:邪眼帝
その20
「おい、イッセー。購買に行こうぜ」
「弁当忘れちまってよー」
「松田と元浜か」
金曜の昼のこと、次の授業に向けての予習に取り組んでいた一誠は、クラスメイト達の声に反応して手を止める。爽やかなスポーツ少年の松田と、博識な優等生の元浜だ。
以前は一誠と組んで変態行為で悪名を轟かせていた二人だが、彼の説得で改心してからは同じように謝罪して回り、今では得意の運動や勉強を活かしてクラスの人気者となっていた。
気の置けない悪友の誘いに、悪いが、と一誠は教室の入口を指した。紅髪を翻し、リアスが颯爽と現れる。
「アーシア、一誠、供をしなさい」
「は、はい!」
「そういうわけだ。また誘ってくれ」
「「この裏切りもんが!!」」
リアスとアーシア。駒王学園どころか世界有数の美少女を両隣に侍らせて去っていく親友の背に、松田と元浜は中指を立てた。事情通を自称する桐生藍華が、「邪魔してやるなよん」と煽り立てた。当初こそリアスの登場に大騒ぎしていた村山や片瀬も、今や慣れた対応だ。
兵藤一誠とリアス・グレモリーの熱愛は、学園内で知らない者はいない。
キッカケは不明、経緯も不明。オカルト研究部に所属している二人は交際に至り、卒業後には挙式する予定であるらしい。一誠が言動を改めたのも、リアスに説得されたからだ。
真実ではないが嘘でもない噂に信憑性を与えたのは、リアスの親友にして″二大お姉様″と並び称されているHさんだった。彼女は新聞部の取材に応じ、一誠がグレモリー家の決めた婚約者と対決したエピソードをかなり脚色して語った。
──この私が捨てなかった願い!! それは……リアスと歩む未来だ!! 我らは、不滅だ!!
──私が守るのは、ただのリアスだ。
結婚式のリハーサルを行っていた式場に単身で乗り込み、集まっていた関係者の前で啖呵を切り、最後には婚約者とのゲームに勝利し、不本意な結婚を白紙に戻した──という、童話の中の姫と王子のような物語だ。
無論、松田達も鵜呑みにしたわけではないが、自分達の知らない世界で一誠が負けられない戦いに挑んでいたのだろう、とは直感した。
ちなみに、スキャンダルをすっぱ抜かれたRとインタビューに応じたHさんはグルである。
「ただのリアス、か。グレモリー先輩の実家は大きいらしいし、やっぱ家同士のややこしいアレコレってのがあるのかね」
「それって相当なプレッシャーだよな。しかも学園でも持て囃されて、部活も勉強も頑張るとか、気の休まる暇がありゃしねえよ。俺には無理だな」
「ま、猫も杓子も勝手な理想を押し付けちゃったのよね。けれど、アイツだけは等身大のグレモリーさんを見ていたんじゃない? だからさ、迎えに来たときのグレモリーさんの表情、すっごく明るかったもん」
「……まさかと思うけど、卒業式に子連れで出席とかしないよな」
「お祝いでも見繕っておくか」
「それ狙ってるのは生徒会の匙よ。アイツは会長に惚れてるっぽいから」
「「マジかー!」」
新校舎で、二つのくしゃみが響いた。一つは生徒会室で、もう一つは屋上だ。
言わずもがな、後者は兵藤一誠である。
レーティングゲームを経てから、昼休みは屋上に集まって食事を取ることがオカルト研究部内でのブームとなっている。
普段は雑談に留まるのだが、今回は最初から雰囲気が違った。全員が昼食を終えたタイミングを見計らい、リアスが真剣な表情で口を開く。
「お兄様から緊急の連絡よ。フリード・セルゼンが脱獄したらしいわ」
「……フリードといえば、レイナーレ達と組んでいた悪魔祓いですよね」
祐斗が、真っ先に反応した。
「この一件は、不審な点が多いの」
リアスは、サーゼクスから与えられた情報を簡潔に纏める。
教会に引き渡されたフリードは、形だけの裁判を経て、極刑が確定した。事ここに至っては遂に観念したのか彼も抵抗はせず、獄中で執行を待つだけの退屈な日々を過ごしていた。それでなくとも、武器を没収された挙げ句に魔力を封じる枷で拘束されたのでは、自力での脱獄は不可能な筈だった。
事態が急変したのは、日曜の早朝だ。
監視術式に生じた異変──全モニターのブラックアウトという異常事態の対処を図った第三十四警備隊は、モニター室もろとも押し潰されたことで壊滅した。試みられた緊急通信は繋がらず、生き残った隊員が侵入者に応戦するも敵わず、次々と始末されていった。
そうして、救出されたフリードは侵入者と共に行方を眩ましたまま、現在も消息を掴めていない。
それが、連絡の一切が遮断されたことを不審に思った近隣の警備隊の調査で判明した、脱獄事件の全容である。
調査とは銘打ったが、報告書には状況からの推測が多分に含まれている。なにせ、建物そのものが全壊しているのだ。居住区も収容区も警備隊も囚人も区別なく、フリードを探すついでに、暴風雨が通過するかのように片っ端から破壊ないし殺害を繰り返したようだ。
とはいえ、侵入者の目的がフリードの身柄の奪還にあったというのも、彼が収監されていた牢だけが一切の血痕が飛び散っていなかった点を踏まえた推測に過ぎない。そう思わせておいて、真の目的はまた別に隠している可能性も考えられる。リスクとメリットが釣り合っていないからだ。
「……お兄様曰く、教会上層部はデコイの説を支持しているらしいけど、私はそう思わない」
「私もリアス様に同意見です。もし囮なら、別にフリードさんに拘らなくてもいいですから」
アーシアが同調し、みんなもそれに頷いた。そもそも、本当にデコイであれば、侵入者はフリードの奪還を図ったが失敗した──と思わせるだけで効力としては充分である。一誠の手口を傍らで見せられてきた影響か、一同もこの程度の策は嗅ぎ分けられるようになっていた。
ここでリアスから視線を向けられた一誠は、脳をフル回転させて現状を整理する。
フリードには協力者がいる。しかし先の堕天使討伐作戦の際には不自然なまでに動きを見せなかったことから、恐らくは脱獄を餌に侵入者側が協力を要請した。
侵入者の目的は不明だが、わざわざフリードを選んだからには、彼が何らかの鍵を握っている。
そして、フリードはレイナーレ達の計画に協力していた。
真っ先に一誠が思い付いたのは、侵入者がレイナーレの敵討ちを狙っているケースだ。リアスによれば、レイナーレは敗北直前にある堕天使の名を叫んでいた。関係性は定かではないが、その堕天使が復讐に動き始めたとすれば、事情を知るフリードの身柄を奪還した点も辻褄は合う。激情に駆られているのであれば、リスクを度外視したのも理解できる。
だが、あまりにも勝算が低い。
駒王町は、現魔王の妹達が治める土地だ。そこに攻めるとなれば、サーゼクスやセラフォルーが出てくるのは明確だからだ。戦力差を覆す手段は、自ずと限られてくる。
術式の遮断……それでは足りない。魔王と一戦を交えるに相応しい切り札を用意してくる筈だ──。
ここまで考えた一誠は、リアスに告げる。策を編むには、まだ情報が必要だ。
「……サーゼクス様に通信を。コンタクトを取っていただきたい人物がいます」
アクア・スナイパー
SR 水文明 (8)
クリーチャー:リキッド・ピープル
5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにあるクリーチャーを2体まで選び、持ち主の手札に戻す。