邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた   作:邪眼帝

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魔に落ちた精霊の身体に渦巻く後悔は、怒りに代わり、すべての生命を死へと追いやる。


その21

「急に呼び出して悪いな、アザゼル」

「いんや、気にするな。会議って名目で堂々とサボれるからな。で、そこのボウズが噂の″兵士″か?」

「ああ、アザゼルにコンタクトを取ってほしいと頼まれてね。確認したいことがあるそうだ」

「ほーん……?」

 

 アザゼルと呼ばれた男は興味深そうに頷き、品定めするような視線をぶつける。かつて初代四大魔王や聖書の神と渡り合った強者の圧力に、テーブルを挟んで対峙するリアスは思わず気圧されたが、一誠が震える右手を握り締めたことで冷静さを取り戻した。そのやり取りから二人の間に築かれた信頼と、一誠の度量の深さを垣間見たアザゼルは、グレモリー家が総出となって彼を囲い込もうとしている理由に納得した。

 成る程、サーゼクスのみならずルネアスまでもが動くわけだ。わざわざ夕方の駒王学園に乗り込んだ価値はある。

 

「はじめまして。グレモリー眷属の″兵士″を一任されております、兵藤一誠と申します。本日はよろしくお願いいたします」

「アザゼルだ。堕天使総督を務めてる。ま、堅苦しい挨拶は抜きにしようや。長い付き合いになりそうだしよ。それより、俺に確認したいことってのがあるんだろ?」

「ええ、そちらのコカビエル氏について、少しお訊ねしたいのです」

「……そうかい」

 

 ここでアザゼルは、敢えて大袈裟に室内を見渡してみせた。案内されたオカルト研究部の部室──グレモリー眷属の本拠地にしては、明らかに人の気配が少ない。

「先輩方は仕事です」一誠は、事前に人払いを済ませている旨を暗に伝えた。通常であれば、″女王″を差し置いて″兵士″が同席することはあり得ないのだが、その常識を逆手に取ることで一誠の有用性を前面に押し出し、アザゼルの注目を引く作戦だった。

 とはいえ、サーゼクスが既に紹介していたことで空振りに終わったが、スムーズに会談を進めるという点では充分に目的を果たしたと言えるだろう。

 

 事実、彼がコカビエルの名を出した瞬間、アザゼルはリアス達が今回の脱獄事件の真相に辿り着きかけていることを察知した。

 

「お前さん、どこまで知ってる?」

「……今からお話しすることは全て推測ですが」

 

 そう念を押してから、一誠は語り始める。

 

「前提として、レイナーレとコカビエル氏には日頃から交流があった」

 

 それが単なる上下関係なのか、それともレイナーレが密かに恋慕の情を募らせていたのかは不明だが、両者に繋がりがあったのは確実だろう。命令違反を犯してまでアーシアの所有する神器を強奪しようと企んだのだから、少なくとも知り合い程度ではない。

 レイナーレは、配下のドーナシーク達を率いて暗躍するも失敗し、最終的には討伐された。

 ここで重要となるのが、″神の子を見張る者″は悪魔側からの責任追及を逃れるべく彼女達の存在そのものを組織から抹消し、はぐれ堕天使の一派の暴走として処理した点だ。

 組織全体の利益と個人の感情は、往々にして反発するものである。

 

「ましてや、コカビエル氏は生粋の武闘派として多方面に武勇を轟かせておられる。それが、苦楽を共にしてきた部下達を殺害されたとなれば、復讐を誓ってもおかしくはありません。私に対しても、組織に対しても」

「……知った風なことを」

「ええ、私は何も知りません。ただ、私にとってはリアス様の脅威となるやもしれない存在でしかありません。なので教えていただきたいのです。コカビエル氏が、今どこで何をしているのか」

 

 一誠の声音は、いつになく真剣だ。コカビエルが脱獄事件の首謀者だとすれば、相手は聖書にも名前を刻んだ猛者だ。仮に衝突した場合、その二次被害は計り知れない。

 アザゼルは、瞑目する。一誠を納得させるだけの反論材料を突きつけようと試行錯誤しているのではない。その逆に、ここ最近のコカビエルの雰囲気の急変など、心当たりだけが浮かび上がった。否、アザゼルは既に悟っていたのだ。

 少しの沈黙の末、アザゼルは決意する。

 

「……これから話すことは、他言無用で頼む。最低限の情報共有──コカビエルのバカタレがクロだってのは伝えてもいいが、それ以上は決して話してくれるな。そして、隠すつもりは無かったと、サーゼクスに言っておく。折を見て話す予定だった。そこのグレモリーの秘密兵器がパーにしてくれたがな」

「分かっているよ、アザゼル。情に厚いきみが思い悩むんだ。余程の事情を背負っているのだろう。秘密を漏らさないことをきみに誓おう。一誠くんもリアスも、それで構わないね?」

「「サーゼクス様に誓います」」

「見せつけやがって、バカップルが。別に、お前らがそんなバカじゃねえってことは知ってるよ。他ならぬサーゼクスの紹介だからな。話し合いにオカルト研究部の部室を選んだのも、盗聴対策に専門の術式を構築してるからだろ。さーて、どこから説明すっかな」

 

 その推測は正解だ、とアザゼルは言った。

 

 レイナーレ、ドーナシーク、カラワーナ、ミッテルトの四名は、三つ巴の大戦時代からコカビエルに従ってきた直属の配下だった。コカビエルも、自身が率いた部隊では最後の生き残りとあって特別に可愛がっており、副官として会議の場に連れてきていたことをよく覚えている。

 しかし四人は、実力的には末端でしかない。堕天使幹部が直属の部下とするには、あまりに釣り合わない。そのため、謂れのない陰口を叩かれることも少なからずあったかもしれない。その点は、総督たるアザゼルも監督責任が問われるだろう。

 

 コカビエル自身は、レイナーレ達に戦闘力を求めてなどいなかった。生きてさえいてくれれば、それだけでよかった。

 

「だが、レイナーレにとっては……尊敬する上官の足手まといになることが我慢ならなかったのさ。汚名返上の機会を虎視眈々と狙っていた筈だ。そんなとき、アーシア・アルジェントが教会を追放されたという情報を掴んだ。後の顛末は、お前さん達が知っている通りだ」

「……事件について、コカビエル氏はどのような反応をされていましたか?」

「そうか、と一言だけ。その翌日に病気と称して姿を見せなくなりやがってな。嫌な予感がして私室に押し入ってみたら、もぬけの殻だった。現在進行形で無断欠勤中だよ、アイツは……っと、そろそろ本題に入ろうか」

 

 ここまでが、前提だ。

 

 本題は、ここからだ。

 

「ウチには、サタナエルってもう一人のバカ幹部が所属していた。これがまた、堕天使こそが最強だと豪語する過激派でな。三大勢力が休戦条約を結ぶ際にも大反対した挙げ句に、コソコソと裏で暗躍してやがった」

「本人はどうしている? 地獄の最下層(コキュートス)にでも放り込んだのか?」

「そうしたかったが……ま、これも総督の責務ってやつだわな。ところが困ったことに、アイツはとんでもない爆弾を残していたのさ」

「爆弾、ですか」

「世界が幾つあっても足りねえ規模の大物だ」

 

 サタナエルの計画は、単独ではなかった。各勢力のはぐれ者達が、彼の下に続々と集っていた。そうして一大勢力にまで成り上がった彼らは、盟主のサタナエルを失った今も止まることを知らない。

 

 その脅威の名を、

 

「──″禍の団(カオス・ブリゲード)″」

 

 偶然にも、アザゼルがそう口にしたのとほぼ同じタイミングで、その男は自分に協力する組織の名を伝えた。生前の親友の誘いを蹴っておきながら、今更になって手を組む羽目になる皮肉さに、ひねくれ者のアイツらしい、と男は苦笑した。

 彼単独でも戦争を引き起こすことは可能だが、現魔王を相手取るに今の衰えた自分では足りないことも、彼は自覚している。そのため、組織からの勧誘に乗ったのだ。そして、力の差を補う手段についても、かつて一戦を交えた聖剣の使い手からヒントを得ている。

 

「……始めよう、最後の弔砲を」

 

 この直後、男はエクスカリバーを輸送していた部隊を強襲し、それをもって復讐の狼煙としたのだった。




魔聖デス・アルカディア
VR 闇文明 (6)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/グランド・デビル
6000

ブロッカー
スレイヤー
相手のクリーチャーが自分のシールドをブレイクする時、そのシールドを手札に加えるかわりに墓地に置いてもよい。そうした場合、そのシールドをブレイクしたクリーチャーを破壊する。
このクリーチャーは攻撃することができない。
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