邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた 作:邪眼帝
土曜日、時刻は十九時丁度。
巡回を担当している祐斗と小猫のチームから飛び込んできた緊急通信が、兵藤家の食卓を一時中断させた。「仕事の連絡です」と両親に断りを入れてから、一誠とリアスは通信術式を起動する。程なくして、珍しく困惑した表情の祐斗と小猫が画面に表示される。
『不審者を拘束しました』
「でかしたわ、祐斗。その座標に朱乃チームを応援として向かわせるから、すぐに部室に連行してちょうだい。私達も向かうわ。逃走の兆候が見られるなら速やかに排除しなさい」
『承知しました。それと……逃走される危険性は皆無だと思います』
「気絶でもさせたの?」
『いえ、それが』
祐斗は小猫と顔を合わせ、どのように伝えたものか悩んでいるようだった。そして、意を決したように口を開く。
『捨てられていたのです。段ボール箱の中で、それも二人も、毛布にくるまって寝ています』
『……青髪と、もう一人は栗色の髪の、悪魔祓いらしき服装の若い女性です』
「???」
わけの分からない説明に、リアスは首を傾げた。それから隣の一誠に視線を移してみたが、彼も肩を竦めるばかりであった。座標は駒王町郊外──はぐれ悪魔のバイサーが潜伏していた廃工場よりも更に向こう側の、隣町との境界線を越えた辺りを指している。
事態も経緯もさっぱり飲み込めないまま、しかし放置するわけにもいかず、リアスは巡回中の朱乃に祐斗達との合流を指示した。
通信を受けた朱乃とギャスパーは、主君からの意味不明な説明に困惑しながらも、無事に指定された座標に到着した。
案内された段ボール箱の中では、青髪に一房の緑のメッシュを入れた少女と、栗色の髪をツインテールに結んだ少女が、まるで捨て犬のように熟睡しており、呼び掛けても一向に目覚める気配がない。仕方なくそのまま運ばれた二人が起床すると、そこはオカルト研究部の部室だった。
瞬間、少女達は離脱を選択する。
視線のみを動かし、自分達が悪魔の集団に囲まれていると認識した直後、悪魔祓いとしての本能が二人を強制的に叩き起こした。窓を割り、武器の取り回しの利く屋外に逃れることで仕切り直しを図ろうと即断した。
しかし身体を強引に跳ね起こした刹那、二人の首筋に冷たいものが触れた。
祐斗が突きつけた、魔剣の刃だ。
更に目の前に立つリアスが滅びの魔力を、傍らに控える朱乃がサディスティックな笑みと共に雷を滾らせたことで、二人の逃走は失敗に終わる。生殺与奪の権利を掌握されたことを悟った二人は、潔く両手を挙げて投降の意思を示した。与えられた使命を果たすまでは、泥水を啜ってでも生き延びる覚悟だった。
対して、「お利口ね」とリアスは言った。もしほんの数秒でも降伏が遅れていたなら、貴重な情報源を自らの手で潰さなければならなかったところだ。
ここでアーシアが、やはりゼノヴィアさんではありませんか、と口にした。
「知っているのか、アーシア」
「ええ、シスター時代に怪我の治療をしたことがあります。そこのツインテールの人も、付き添いで来ていましたね」
「……アーシア・アルジェントか。追放されたと聞いていたが、まさか悪魔に転生しているとは思わなかったぞ。だが、よく私のことを覚えていたな。はぐれ吸血鬼の討伐任務は数年前の話だぞ」
「そんな派手な髪色の人は忘れませんよ」
ゼノヴィアと呼ばれた青髪の少女は、顔見知りの登場に安堵したのか、僅かに頬を緩めた。そして、彼女を眷属に加えているリアスに対しても、もしかすれば話の通じる相手かもしれない、と認識を改める。少なくとも、アーシアがごく自然に振る舞っている点から、はぐれ悪魔が主君殺害に手を染めた背景に多い、詐欺のような契約を結んだわけではなさそうだ。
リアスも、右手を翳して警戒体勢を解くように命じる。
「はじめまして。私はリアス・グレモリー。この駒王町の領主を任されているわ」
「どーも、紫藤イリナです」
「……ゼノヴィアだ」
互いに自己紹介を済ませたところで、いよいよ本題に入る。段ボール箱の中に詰められていた理由を一誠が訊ねると、イリナもゼノヴィアも一瞬だけ渋い表情を浮かべた後、頭を横に振った。
自分達を段ボール箱に詰めた犯人も、そうなった背景にも思い当たる節があるのだ。
二人の表情の変化は敢えて置いておき、一誠は質問を続ける。
「ではもう一つ、教会を揺るがしている大事件について聞かされているか? 脱獄と強奪だ」
「耳も話も早いな」
ゼノヴィアは、リアス側が教会の事情を把握していることを悟った。
「……断っておくが、私達はエクスカリバー強奪の首謀者と目されるコカビエルの討伐に派遣されたのではない。寧ろ、その逆だ。我々の使命は、強奪を免れた三振りを日本支部へと輸送することだった。討伐部隊の動きに乗じてな」
「ちょ、ちょっと、ゼノヴィア!? そんなに機密を話しちゃって大丈夫なの!?」
「今更だろう。既に情報は流出している。裏切り者が出たんだぞ」
「裏切りとは聞き捨てならんな。もしや心当たりでもあるのかね。二人して顔を歪めたのも、それが理由なのだろう?」
「……まあ、ものの見事に上役が罠に嵌められたという間抜けな話だ」
呆れを隠そうともしない溜め息と共に、ゼノヴィアはそう推測した経緯を語り始める。
そもそも、今回の輸送任務は三人一組のチームで行われていた。ゼノヴィアとイリナともう一人、ジャンヌという彼女達の先輩の教会戦士だ。そしてこのジャンヌはデュリオやグリゼルダと並んで教会内でも高い権限を有しており、輸送経路のみならずフリードが収監されている監獄についても容易に調べられる立場にあった。
タイミングの都合の良さから直感的に彼女を怪しんだイリナはゼノヴィアにも相談し、容疑者としてジャンヌを調査するよう上役に進言した。
「けどけど、肝心の教会上層部がまるで使い物にならなくてね。事件の対応で忙しいってんで進言を握り潰した挙げ句、デュリオさんもグリゼルダさんも討伐任務に送っちゃったのよ。あんなの、どう考えたって陽動に決まってるじゃない。お陰でウチは人手不足よ」
「オマケに、私達が進言したことをジャンヌに悟られたようでね。急に輸送任務に志願してきたのさ。立場そのものは向こうが上位だから断ることもできやしない。それで目が覚めたら、この町に捨てられてしまっていたというわけだ」
「……頭が痛くなってきたぞ」
教会側の対応に、一誠は思わず額を抑える。
フリードの脱獄を許したのは仕方ない。エクスカリバーを強奪されたのも納得できる。人員という土台を削り取られてしまったのだから、そこは理解しよう。
部下からの進言を握り潰したばかりか、重要参考人を機密任務に就かせたというのは、擁護できない致命的なミスである。
いっそ、天界ではなく″禍の団″の傘下組織だと言われた方が信じられる。
頼むから外れてくれ、と祈りながら、一誠は核心であるエクスカリバーについて触れる。
「念のために確認したいのだが、そのエクスカリバーは手元に残っているのだろうな? 寝ている間に奪われたりはしていないか?」
「そこは安心しろ。格納術式が抉じ開けられた形跡は無い。問題があるとすれば、奪われたエクスカリバーが増えた点だな。ジャンヌも″祝福の聖剣″も行方を眩ましたままだ」
「いよいよ、本腰を入れて攻めてくるわね。よろしい、駒王町領主リアス・グレモリーの名で、現時刻をもってコールレッドを発令するわ。以降、解除が宣言されるまでグレモリー眷属及びシトリー眷属は臨戦態勢を維持すること」
『同じく、ソーナ・シトリーの名で、コールレッドの発令を認証します』
リアスの宣言したコールレッドは、領主着任時にソーナと共に作成した緊急マニュアルの内、最もレベルの高いものであり、その発令時には駒王町の全住民の速やかな避難が行われると同時に、町全域を覆うように張り巡らされた防衛結界術式が最大警戒体勢にまで自動で引き上げられる。
戦いにおいては慎重さや冷静さを欠かしてはならないが、機を逃してもならない。生粋の武闘派として知られるコカビエルがそれを知らない筈がない。
四振りのエクスカリバーを手にした今、迎撃体勢を整えられるよりも前に必ず強襲を仕掛けてくるだろう、と読んでのコールレッドだ。
「……城壁は築いたわ。だけど、アジュカ様のお墨付きとはいえ、相手は聖書に名を刻んだ堕天使。突破されても不思議ではない。魔王様の応援も期待できない現状、私達のみで戦うことになる。こうなれば呉越同舟よ、ゼノヴィアさんとイリナさんにも手伝ってもらう予定だから、そのつもりで待機しておいてちょうだい」
「まるで戦争だな。勿論、私とイリナも参加させてもらおう。上役の尻拭いぐらいはするさ」
「大切な故郷を守るためだもん! ここは日頃の敵対関係を水に流して、全力で助太刀するから!」
「……」
「どうしたの、一誠?」
「いや、妙な胸騒ぎがしてな」
分からんことが多い、と彼は言った。
「悪魔を巻き込んだのは本当に四大魔王様の足止めが理由なのか。グラシャラボラス領で爆発事件を起こした理由も掴めていない。それに、コカビエルがエクスカリバーに拘ったのも謎なのだ。七振りに分割されて弱体化しているのだぞ。他にマシな武器もあるだろう」
「それは……」
「ドミノ倒しのように、フリード脱獄事件とエクスカリバー強奪事件は連鎖していた。何故、悪魔はそうしなかったのか。何かがあるんだ。別の何かが」
「……」
「そして二人の捨てられていた場所が──」
その瞬間、駒王町に戦争が侵入した。
サブマリン・プロジェクト
UC 水文明 (3)
呪文
S・トリガー
自分の山札の上から4枚を見る。その中から1枚選んで自分の手札に加え、他の3枚を好きな順で自分の山札の一番下に戻す。