邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた 作:邪眼帝
駒王町を防衛するべく構築された結界術式は、親友の頼みで監修したアジュカの下、他神話勢力の本拠地と比較しても遜色ない堅牢さを有している。
しかし展開されていく術式を町の外から眺めていたコカビエルは、狼狽えることなく、協力者に自分達の転移を要請した。力業で突破するのも不可能ではないが、無駄な時間を要してしまう。彼の判断は、迅速だった。
隣に控えていた眼鏡の青年──ゲオルクが頷き、手を翳して黒い霧を放つ。霧は瞬く間にコカビエルとその仲間の周囲を覆い、術式を越えさせる準備を整えた。
「英雄派の協力はここまでだ。大サービスで駒王町を霧で覆っておくが、それも時間制限がある。その間に目的を果たすことだ」
「エクスカリバーを持つ二人には町に逃げられちゃったから、自分で対応よろしくね」
「……感謝しておく。あの忌々しい魔王の末裔共にも伝えておけ」
本格的に復讐に巻き込むつもりはなく、コカビエルは青年達に離脱を促した。
「悪いが、もう少しだけ俺の個人的な我が儘に付き合ってもらうぞ。フリード、バルパー」
「ま、救出された恩返しはするっすわ」
「私の悲願、エクスカリバーの統合が目前にまで迫っておるのだ。断られても同行するぞ」
「……武運を祈っておくよ」
ゲオルクは戦場に消えていく三人の背を見送ると、同様に彼らを見つめていた少女──ジャンヌへと視線を移した。英雄派の勧誘に乗り、一連の事件のお膳立てを手土産に教会から寝返ってきた新入りだ。
ジャンヌの瞳には、怒りが揺らいでいた。
身も心も捧げて構わないと断言する程に熱心な信者だった彼女は、英雄派から神の死を聞かされたことで絶望し、自分を騙していた教会と天界を憎悪した。それこそ、立場を利用して仲間や情報を売り渡すことに何の躊躇も持たないぐらいに。
ゼノヴィアとイリナを敢えて生かしたまま箱に詰め込んでやったのも、可愛い後輩を殺したくないという情ではなく、駒王町もろとも地獄を味わってしまえ、というまだ神の死を知らない後輩達への八つ当たりに近い。
「ご苦労だったな、ジャンヌ。これでお前も正式に仲間入りだ」
「……曹操、あなたも介入するの?」
「データ収集は堕天使様に一任するさ」
漢服を纏った青年──曹操はそれも面白そうだと思ったが、今はまだ槍を交えるべきではない。
名の知れた悪魔祓いであるフリードをしてバケモノと言わしめる″兵士″だ。ここは情報収集に徹し、プランを完成させてから挑んでも遅くはない。どうせ、コカビエルの襲撃も乗り越えるのだから。
アジトへ帰還してからも、いずれ戦う日を楽しみにしよう、と曹操は黒い笑みを浮かべた。
一方、コカビエル達は不自然なまでに静かな夜の駒王町を、裏路地を通り抜けるのではなく、駒王学園に続く表の街道を敢えて堂々と進んでいた。
侵入者を知らせる警報は、鳴り響かない。ゲオルクの所持する″絶霧″に塗り替えられ、防衛術式は沈黙を貫いている。神滅具の一角に数えられるだけあって、術式の無効化は朝飯前だ。
そして、ゲオルクが三人に付与した霧には気配遮断の効果も含まれている。誤魔化しの類だが、簡単には探知されないだろう。
だが、ほどなくして学園近くの公園に到着したコカビエル達は、ここで巡回中だった生徒会メンバーの由良翼紗と花戒桃に鉢合わせた。
敵襲。
その瞬間、二人では敵わないと判断した翼紗と桃は足止めや連絡ではなく、即時撤退を選択する。殺されたのでは元も子もないという冷静な対応だ。
「バルパー、貴様の研究成果が役に立つときだ。エクスカリバーの力を振るってみろ」
コカビエルは、冷徹に指示する。
「あの小娘共の死体を手土産にしてやれ」
「おお!」
初老の男バルパーは、自分の理論を実戦で証明できることに歓喜の声を漏らしながら、飛び出した。
バルパーは、フリード同様に元悪魔祓いである。
ただし、才能は低かった。努力ではどうにもならない壁を目の当たりにし、その壁を平然と飛び越えていく天才達の姿に心を折られ、前線を退いて研究の道に進んだ。意外なことに研究分野での才能には恵まれていたらしく、エクスカリバーを扱う適性因子の発見など、功績を挙げることもできた。
それでも、彼の心は満たされなかった。
彼は華々しく活躍したかったのだ。神童と目される後輩達のように、自分もエクスカリバーを勇ましく振るいたかったのだ。バルパーの歪んだ願望は肥大化し、遂には非合法な実験に手を染めさせる。
翼紗と桃を追い詰めるバルパー自身が、教会を追放され″禍の団″に流れてからも続けてきた因子研究の集大成だ。つまり、自分の身体にエクスカリバーの適性因子を埋め込んだのである。
バルパーが強く念じると、右手に滑らせた″天閃の聖剣″も呼応して輝きを放つ。最速の一撃が背を向けて逃げる翼紗と桃の脚を貫き、そのまま彼女達を砂利道に叩きつけた。
分割されて弱体化したとはいえ、腐っても最強の聖剣と名高いエクスカリバーに貫かれたのだ。炎に焼かれるかのような激痛に全身を襲われ、翼紗も桃も悲鳴と共にのたうち回る。
トドメを差そうとするバルパーを、「待てよ」とフリードが制止した。
「勿体ないだろ」フリードはなるべく下卑た笑いを浮かべながら、二人を拘束した。「まだまだ遊べるドンよ」
それは、本心ではない。一誠への恐怖心が、彼に二人の殺害を躊躇わせたのだ。
「……好きにしろ。ついでだ、そのまま遊んできても構わんぞ」
「へーい」
翼紗と桃を小脇に担ぎ、フリードは大喜びで路地裏へと消えていく。勿論、適当なところで解放してやるつもりだ。恩は返したいが敵対もしたくないが故の措置である。
だが、「尾行しろ」とコカビエルはバルパーに命令した。悪魔となれば問答無用で殺戮を繰り返す狂犬らしからぬ振る舞いに違和感を抱き、もしや寝返るつもりかと疑っていた。
「これでまた一人か……」
バルパーが追跡に出向き、再び元の静けさを取り戻した公園内を、コカビエルは煙草の紫煙を燻らせながら歩く。健康に悪いからとレイナーレに諌められて以来、吸わなくなって久しい。
しかし今は、諌め役もいない。「こんなに不味いものだったかな」久々の煙草は、すぐに捨てた。
テロ組織と手を組むまでに落ちぶれた自分を彼女が見たなら、また説教をするだろうか。
「煙草よりも乳を吸え、とか意味の分からんことをほざいてたな」
カラワーナ達に焚き付けられたレイナーレがボンデージで部屋に訪ねてきた際には、飲んでいたコーヒーを思わず噴き出したこともあった。その後、四人纏めて拳骨を落としたものだ。
「不出来な部下を持つと、上司も苦労する」
三つ巴の戦争を生き残れるよう相応に鍛えてきたつもりだが、まさか今になって殺害されるとは思ってもいなかった。しかもその理由が独断専行なのだから笑えない。
しかしそれでも、コカビエルにとっては四人共に大切な部下だった。
ケジメをつけるのは、上司の役目だろう。
「また取りに戻る」
噴水の側に煙草の箱を置き、コカビエルは歩みを再開する。
「俺の戦いを見ていろ」
驚愕の化身
R 自然文明 (5)
クリーチャー:ミステリー・トーテム
4000
このクリーチャーが攻撃する時、バトルゾーンにある相手のタップされているクリーチャーを1体選ぶ。相手は次の自分自身のターンのはじめに、そのクリーチャーをアンタップできない。