邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた 作:邪眼帝
「巡回に行きます」
そう言って部室を後にした祐斗の背を指し、リアスは小猫に付き添いを指示した。
「単独行動は禁止よ」
祐斗の様子がおかしいことは、知り合って日の浅い一誠やアーシアですら何となく気付けるものだ。彼の過去を知るリアスや付き合いの長い朱乃、小猫、ギャスパーはとっくに見抜いており、それとなくチーム行動を促すことで彼が暴走しないように配慮してきた。
「妙に、張り切っていますね」
小猫が、心配そうに口にした。隣を歩く祐斗の蒼い眼は薄暗く、深い憎悪に取り憑かれてしまっている。このままでは暴走しかねない危うさを宿していた。
「……やはり、エクスカリバーですか」
やや迷った末に、小猫は敢えて祐斗のトラウマに触れた。彼はかつて教会の戦士養成機関に所属していたが、聖剣の適性が不足していたために廃棄処分されかけた、と本人から打ち明けられていた。自分を施設から逃がすために仲間達は全滅し、しかし逃走後に力尽きかけていたところをリアスに拾われたらしい。
「当たり前だ。僕は復讐のために生きてきた。仲間のためじゃない、僕自身が納得するために」
きみも同じだろう、と普段の温厚な振る舞いからは想像もつかない低い声で、祐斗は言った。トラウマに言及されたことへの意趣返しのつもりだった。
小猫は肩を竦め、「お姉様はどこで何をしているのやら」と呟いた。妹の身を守るために主君を殺害したSS級はぐれ悪魔の消息は、今も掴めていない。
いつの間にか、周囲の景色は駒王学園近辺から駅前の大通りに移り変わっていた。会話をしながら進んでいる間に、無意識にここまで流れてきたのだ。
「……静かだね。まるで僕達だけがこの世界に取り残されたみたいだ」
ビジネスマンが群れを成して歩いている時間帯にも拘わらず、住民の避難が完了した今はビジネスマンどころか人っ子一人いない。各家庭に極秘に刻まれた転移術式が無事に作動したことを悟り、一先ず胸を撫で下ろす。
「できれば、作動するような事態が発生してほしくなかったですけどね」
やけに大きく聞こえる信号機の無機質な音が、駒王町全区域が厳戒体勢に突入していることを示している。
「……ごめん、さっきは言い過ぎたよ」
祐斗が謝罪すると、小猫は頭を横に振った。
「いえ、私も無神経でし……た……」
言葉が尻すぼみになっていく。夜行性動物である猫の妖怪──猫魈の特性は、悪魔に転生してからも失われていない。彼女の瞳が、闇夜を駆ける人影を捉えた。
フリード・セルゼンだ。しかも、小脇には翼紗と桃を抱えている。
「祐斗先輩、あれ……!」
「もうこの町に侵入していたのか!」
祐斗と小猫は、二人を奪還するべくフリードの追跡を開始した。
肝心のフリードは、雑居ビルの生い茂る不衛生な裏路地を駆けていく。
「……おっとお、まさかの行き止まりではあーりませんか」
やがてフリードは、群れの中でぽっかりと口を開けているビルのワンフロア分のスペースで立ち止まった。わざとらしく呟きながら振り返ると、その眼前に祐斗の創造した魔剣が突きつけられる。
ここで、小猫からの連絡を受けた他のシトリー眷属が合流する。背後には鉄筋コンクリートの壁、前面には怒気を漲らせるソーナ達となれば、さしものフリードも降伏するしかない。
お返しするザマス、と気絶している翼紗と桃を投げ渡し、交戦の意志が無いことをアピールした。
この殊勝な態度に、以前の彼を知る祐斗と小猫は驚かされた。それから罠や奇襲の可能性を考慮し、受け止めた二人に術式が仕掛けられていないかの確認と周辺の警戒をソーナに進言したのも当然のことだった。
「あなたはレイナーレと組んでいた、とリアスから聞いています。次の雇い主はコカビエルですか」
「救出された恩があるわけでしてー。ま、あんた達を殺すつもりはないから安心してチョンマゲ」
はいそうですか、と信じる者がこの場にいるわけがなかった。
「待ってくださいよお。マジで暴れるんなら、お仲間さんはとっくにお陀仏してますぜ。俺ちゃんを信じられねえって気持ちも分かるけどよー、そこんところは兵藤一誠きゅんにもよーく伝えてほしいわけでして。いや、マージのマジのマジーロで」
土下座する勢いで懇願するフリードに、ソーナ達は困惑した。
「どうやら、トラウマを刻まれたようですね」
「部室に連行していって、一誠くんに尋問してもらいましょう。この様子だと大人しく情報を吐いてくれそうですから」
祐斗の意見は、あまりに素直で一周回って気色悪い彼を一誠に押し付けたい、という魂胆が透けていた。とはいえ、反対する者もいない。
「一誠先輩に丸投げしましょう」
ゴキブリを直視したかのような渋い顔で、小猫はフリードを拘束しようと近付いた。
一歩を踏み出そうとした刹那、小猫の視線が真後ろにずらされる。
高速の刃が、彼女の眼前に振り下ろされた。
勢いそのままに仰向けに転倒した小猫の視界を、もう一振りのエクスカリバーの切っ先が覆う。
「危ない!!」小猫の裾を掴んでいた祐斗が、咄嗟に空き手に魔剣を滑らせ、刃を刃で絡め取り、力ずくで軌道を逸らした。更に、祐斗と同じタイミングで飛び出したフリードが体勢を崩していた小猫を庇い、二人して転がりながら距離を離す。
教会流の剣術には、同じ教会流をもって制す。
体系化されているからこそ、かつて教会戦士であった彼らには対応が容易だった。
「バカな、防ぐだと!?」
上からの強襲が失敗したバルパーは驚愕したが、何のことはない。前線を退いて久しい彼が、グレモリー眷属の期待の若手として知られる″騎士″と、狂犬として恐れられる元神童を相手取るには、エクスカリバーの脅威に頼っても尚、足りない──それだけのことなのだ。
「裏切るのか、フリード!!」
「いんや、実は俺ちゃん、オカルト研究部から放たれたスパイだったりして! 自分の力は信じねえ癖に他人の俺なんかを信じるから──ぐえっ」
「……離れてください」
命を救われたとはいえ、思いがけず押し倒される形になった小猫は、背筋を走る生理的嫌悪感を振り払うべく本能的に蹴り飛ばす。命の恩人に対して雑な扱いだが、当の本人は平然と立ち上がったばかりか、「セクハラー」と身体をクネクネさせており、まるで効いていない。
「趣味が悪いと思うよ、小猫ちゃん」
「祐斗先輩!? これは違うんです!!」
「へいへーい、そんなことより、早いところあのジジイをぶち殺しましょうぜー?」
「あなたが仕切らないでもらえますか?」
ソーナのジト目は、当然の反応だ。フリードは敵でもないが味方でもない。
しかしフリードは直前までのふざけた態度を改めると、珍しく真剣な眼差しでバルパーを指した。
「それはそうだけどよ、バルパーのジジイは始末しとかねえとマズいぞ。お前らと一緒に俺までボカンなんてお断りだ」
小猫を襲撃した男の名前が出た途端、祐斗の眼が危うさを増した。
「……バルパー? 聖剣計画の首謀者か!」
「いかにも」
「お前の、お前のせいで仲間はっ!!」
「待ってください、祐斗先輩!」
長年に渡って追い続けてきた仇を前に、祐斗は冷静さをかなぐり捨てて、怒号を放ちながら駆け出そうとした。だが、「落ち着けっての」とフリードが足を引っ掛けたことで盛大にバランスを崩し、前のめりに転倒する。
悪魔の天敵を相手に感情任せに突っ込んだところで、返り討ちにされるだけだ。
それに、彼には聞きたいこともある。
「お前、リントって名前を知ってるか? 俺みたいな白髪に黒髪が混じったチビガキなんすけど。もしかしなくても聖剣計画の生き残りだろ? もしかしたら施設で会ってるかもしれねえ」
「……いや、分からないな。それより、きみも被験者だったのかい?」
「オールイエス! ウルトラスーパーデラックスな英雄を人工的に作り出しちゃおう、なんて愉快で素敵なクソ計画の実験台でごさんした♡ 仲良くしてね!」
「ははは、お断りだ」
教会が非合法に行っていた実験は、祐斗が参加させられていた聖剣計画だけではない。信仰の名の下に数多の狂気的な実験が立案されては、被験者や関連施設もろともに消えていく。
フリードもまた、戦士養成機関とは名ばかりの実験施設の出身者であり、英雄シグルドのクローンとして調整を施された試験管ベビーだ。
厳密には、誕生直前に機関の最高傑作が完成したことで用済みとされ、経歴を詐称した上で別の養成機関に払い下げられた失敗作──偽りの神童に過ぎない。
祐斗は直前までの怒りを霧散させ、差し伸べられた手を取って立ち上がる。
「仲良くするのは嫌だけど」
手にした魔剣は、まだ折れていない。
「取引だ。僕の手伝いをしてくれたなら、命だけは見逃してもらえるよう、僕からリアス様に頼んであげるよ。主君の命令なら、一誠くんもきっと了承する筈だ──」
「オーケーオーケー、再就職だ! ジジイにさよならバイバイ、俺はクソイケメンと旅に出る!」
「ふざけるな!」
顔を真っ赤にして喚くが、バルパーからすれば、二人の結託は死刑宣告に等しい。そして、彼らの背後にシトリー眷属も控えている以上は、この場で戦うのは得策ではない。
バシュン、と目眩ましの閃光弾を作動させる。
「お、覚えていろ!」
「くそっ! 追うぞフリード!」
「はいなボス!」
「私達も追いますよ!」
かくして、駒王学園の聳える方角に逃走していったバルパーと、彼を追う祐斗とフリード、更にその後に続くソーナ達。ここにきての予想外の展開に、夜の駒王町を駆け抜けながら小猫は思う。
「趣味が悪いです、祐斗先輩……」
魔光王機デ・バウラ伯
R 光文明 (4)
クリーチャー:グレートメカオー/ナイト
4000
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーが出た時、呪文を1枚、自分の墓地から手札に戻してもよい。