邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた   作:邪眼帝

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翼や蹄では超えられない何かが、この世界には確かに存在する。


その26

「来たな」不自然な空白を察知した一誠は部室の窓から飛び降りると、淡い月光に照らされる校庭に降り立つ。「用件を聞こう」

 

 闇の中に、月よりも明るい輝きを放つ槍と、その光に正体を暴かれるようにして、十の黒翼を広げるコカビエルの姿が浮かび上がった。まさか、道を訊ねに来たのではないだろう。質問した一誠の手には魔銃が握られ、既に迎撃体勢は整えられている。

 

「部下の復讐だ」

「……下手人は見付かったか?」

「ああ」

「……復讐は果たせそうに見えるか?」

「ああ」

「……そうか」

 

 コカビエルの宿す憎悪に、一誠はそれ以上の言葉を返さない。生憎と一誠には、部下を殺害されて憤る彼の気持ちが理解できない。蘇生させれば済むからだ。

 インフェルノ・サイン、戒王の封、有象夢造、ブレイン・スラッシュ、……。リアニメイトを可能とする手段は腐る程にある。百の兵が殺害されれば千の将を甦らせればいいだけの話だ。

 故に、不死の軍勢を率いていたロマノフI世としてであれば、四人の部下を失った程度で復讐を志すコカビエルの心境など一生理解できないだろう。

 

 だが、オカルト研究部の兵藤一誠としては別だ。

 

 リアスが他の男と結婚する、と朱乃から耳にしただけで焦燥し、レーティングゲームでは挟撃を受けた同僚達の危機を救うために敢えて愚策を選択し、ライザーとの一騎討ちでは無意識に告白染みた台詞を吐いてしまうような男だ。

 仮にリアス達が害されたなら、と考えただけでも腸が煮えくり返る。殺害されようものなら、どうなるかは自分でも分からない。ただ、憎悪に狂った末に復讐の道に走るのだろう、とは彼自身も結論を出していた。

 だからといって大人しく復讐されることはしないが、少なくとも挑戦を受ける義務はある、と一誠はコカビエルと対峙する。

 

「自己紹介しておこう。私は兵藤一誠。不法侵入の咎でレイナーレ達を処刑した者だ」

「コカビエルだ。四人の上司だった」

 

 ところで先程から気になっていたんだが、とコカビエルは周囲を見渡した。

 

「お前にも紅髪の上司がいるだろう。グレモリーともあろう女が、まさか眷属を置いて逃げたわけではあるまい。どこに隠した?」

「聞いてどうする?」

「……殺す他にあるのか?」

「そうか──遺言はそれでいいか?」

 

 一誠は、躊躇わずに発砲した。

 

 狙撃に並んで彼が得意としている早撃ちは、全力を出せば予備動作を敵に悟らせないことも可能だ。狙われた相手からすれば、魔銃を構えていない静の状態から、標的を狙うまでの一切の動作がスキップされて、眉間目掛けていきなり弾丸が飛び出してきたようなものである。

 事実、部室の窓から顔だけを出して見守っていたリアスもアーシアも朱乃もギャスパーもゼノヴィアもイリナも、誰一人として一誠の全力を捉えられなかった。

 しかしコカビエルを討つには、足りない。

 衰えて尚も健在の反射神経が彼の右手を強引に動かし、光の槍での迎撃を可能とした。

 正面から受け止め、鬩ぎ合い、そして魔弾を両断したときには、一誠の空き手にはもう一挺の魔銃が召喚されていた。

 

「──魔弾バレット・バイス」

 

 雷が、轟いた。

 

 地面からスパークを纏った鎖が放たれ、コカビエルを焦がさんと迫る。天と地のいずれにも逃げ場を与えない、完全無欠の鳥籠だ。堕天使を捉えるにはうってつけである。

「甘いな」

 だが、コカビエルは雷の中に自ら飛び込み、全ての鎖を一刀の下に斬り伏せてみせた。タイミングを合わせてトドメの一撃を放とうとしていた一誠はこの予想外の対応に驚愕し、叩き込まれるであろう反撃から距離を離そうと試みた。

 コカビエルは、光の槍を投擲する。闇を貫く閃光は一誠が着地を図った地点に直撃し、隕石の墜落と見紛うサイズの大穴を穿った。衝撃で土砂の雨が降り注ぐ中、一誠の眼は、間髪いれずに投げられた第二波を捉えていた。回避は間に合わない。

 避けられない筈の致命的な輝きは、しかし衝突の直前に割り込んだデュランダルの刃によって僅かに減速し、更に飛来した紅蓮の魔力弾が包み込み、そして消滅させた。

 

 リアス達が、コカビエルの前に立ち塞がった。

 

「……何をしている。部室に隠れていろと言った筈であろう。レーティングゲームとは違うのだ。私とて守れるかどうか分からんのだぞ!!」

 

 一誠の怒号に、リアスは反論する。

 

「あのね、私のことを守られてばかりのお嬢様だと思ったら大間違いよ? だって私は、駒王町の領主でグレモリー家の次期当主で、お転婆なサムライガールだもの!」

「ま、コソコソ隠れるのが性に合わないのは同意しておこう。やるんなら正面から、ド派手に徹底的にぶっ潰す。これも神の教えってものさ」

「みんなで戦えば怖くなーい!」

「私は応援に徹しますけど」

 

 更に、時間停止を解除された特大の落雷がコカビエルに直撃する。

 

「駒王町の雷使いは、グレモリー眷属の姫島朱乃ですわ」

「僕だって頑張ります!」

 

 そうか、と一誠は短く言った。

 説教は後だ。今は言い争う時間すら惜しい。

 

 コカビエルに、傷は見当たらない。

 

 一誠が数多の戦場を駆け抜けてきたように、彼もまた三つ巴の大戦を生き残った猛者だ。戦争を知らない若手悪魔の攻撃など痛くも痒くもない。逆に、決して油断ならない相手だと気を引き締めさせる結果になってしまった。

 サシの戦いも大部隊との混戦も、ありとあらゆる戦闘をコカビエルは制し続けてきた。ならばこそ、初見の相手であっても攻略法は自ずと思い浮かぶ。敵が大人数である場合、弱者から削っていくのが鉄則である。

「仲間なら守ってみせろ!」

 光の礫を目眩ましに乱射した直後、真っ直ぐに突撃すると見せかけて、彼らの視界が奪われている隙に天高くへと飛翔する。校舎の屋上よりも高い位置から見下ろしてやれば、リアス達がまともな陣形を組めていないことが丸分かりだ。礫の群れに対して咄嗟に結界術式で受け止めたのは評価するが、それだけでは不足だ。コカビエルは大きく息を吐き、右腕に意識を集中させる。

 やがて顕現した極大の光の槍は今の衰えた彼に形成できる最大の規模だが、そんなものが頭上で輝いていれば誰でも気付ける。

 一誠は顔を上げ、コカビエルの手にしている槍が駒王学園どころか周辺区域を壊滅させかねない代物であると判断すると否や、「逃げろ!」とリアス達に離脱を指示した。それから、躊躇うことなく奥の手の一つを切る。

 

 二挺の魔銃を前後に連結させ、完成したのは一挺の強大なマグナム銃だ。

 

「──煉獄魔弾エターナル・ソード」

 

 光と闇が、衝突した。否、光が闇を打ち消そうと焼き尽くしている。上空からの落下エネルギーまでも味方に付けた光の槍を押し返すのに、魔弾の出力が不足していたのだ。このままでは、魔弾が消滅するまで時間はかからない。だが、マグナム形態は負担が大きく、無理して連射しようものなら本体が崩壊してしまう。

 その魔弾に向かって、リアスが銃を撃つ真似をする。

 

「引き金が一度だけなんて、どこの誰が決めたのかしらね」

 

 解き放たれた紅蓮の魔力は、今まさに消滅しようとしていた魔弾を覆い、強固なコーティングを施すと同時に、加速度的に光の槍を侵食していく。

 一誠とリアス。二人の合技が、炸裂した。

 二人分の魔力がコカビエルの光を瞬く間に蝕み、まるで最初から存在しなかったかのように完全に消滅させ、そのままの速度で飛来していく。その一部始終を見ていたコカビエルの判断は早く、防御ではなく回避に専念する。翼を折り畳み、自由落下しながら一誠との間合いを詰めていく。

 仕掛けられた罠──時間停止させられ、密かに上空に留まっていた落雷も、仲間を盾にされれば落とせない。コカビエルは、勝利を確信した。

 

「復讐だ! お前達の首を、アイツらの墓に供えてやる! そうだ! そうだとも! 戦いを失った俺にはアイツらしか残らなかった! 俺は戦場でしか生きられなくてな。平時において武闘派などクソの役にも立たん。そんな俺でも慕ってくれた部下達だったが……死ぬときは呆気ないものだ!!」

 

 それもまた、彼の本音だ。

 アザゼルもシェムハザも他勢力との和平の道を模索している現状、戦争で武功を挙げただけのコカビエルの居場所はどこにもない。かといって、他のメンバーのように割り切ることもできない。

 

 何故、悪魔と手を結ばなければならない。

 彼らに家族を奪われたのだ。

 何故、天使と肩を組まなければならない。

 彼らに部下を殺されたのだ。

 

 三大勢力は──戦うことでしか分かり合えない宿命ではないのか。

 

「いや、それは違うな」

 

 不意に、魔剣が地面に突き刺さった。




タイフーン・クロウラー 
R 水文明 (6)
クリーチャー:アースイーター 
5000

このクリーチャーは、火または自然のクリーチャーに攻撃されない。
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