邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた 作:邪眼帝
一日中、風邪で寝込んでました。
今も完全復活とはいかず、これまでのような毎日投稿は厳しいです。すいません。
「──誰だ」
コカビエルは、動きを止める。眼前に突き立てられた魔剣が恐ろしいのではない。水を差した第三者に怒りを抱いたのだ。
「グレモリー眷属の″騎士″、木場祐斗」
「同じくイケメン神父、フリード・セルゼン!」
二人の背後で小猫達が凄まじく複雑そうな表情をしているのは、気のせいではないだろう。
「裏切ったか」最初から予測していたコカビエルに驚いた様子はない。
祐斗のみならず、フリードの登場に一誠もリアスも首を傾げたが、すぐに視線をコカビエルへと戻した。この際、彼が敵なのか味方なのかは一旦置いておく。考えたところで無意味なことだ。
「た、助けてくれ!!」
ここで、追われていたバルパーがコカビエルに合流した。息が荒いのは傷を負ったのではなく、加齢故の体力的な問題だ。ここは寧ろ、年齢と種族のアドバンテージのある祐斗達から逃げ切ったことを評価するべきだろう。悲願を叶えたい一心の全力疾走だった。
役者は揃った。へばっているバルパーに対して、コカビエルは計画の発動を指示する。強奪した四振りのエクスカリバーを統合するのだ。指示を受けたバルパーは大喜びで統合術式を起動させる。
意図に気付いた一誠が攻撃を仕掛けようとするも、リアスに向かって掌を翳すことでコカビエルが牽制する。
やがて銀色の術式の中で、四振りのエクスカリバーが一つに重なっていく。
バルパーは高笑いしながら、一つとなったエクスカリバーの柄を鷲掴みにした。自身の長年の研究にゲオルクの改良案を組み合わせることで、統合完了までに要する時間の大幅な短縮に成功していた。
神々しくも禍々しい、一振りの長剣が出現するまでに数分と掛からない。
「アレは、不味い」
一誠の呟きが、新生エクスカリバーの危険性を如実に表していた。言われるまでもなく、全員が警戒を最大に引き上げる。一太刀でも受ければ致命傷になりかねないと全員が直感した。
しかしコカビエルの真の目的は、エクスカリバーを統合させることではない。その際に発生する余剰エネルギーを蓄え、増幅させ、一気に解き放つことで、駒王町を崩壊させることが本命の計画だ。
「十分だ」
人差し指を立て、コカビエルは崩壊までのタイムリミットを宣告した。そして、阻止したければ俺を倒してみせろ、と挑発する。
対して、一誠の判断は早い。動じることなく、コカビエルとバルパーを二つの戦線に引き離す作戦を編み出すと、各戦線に最適なメンバーを脳内でリストアップしていく。だが、それには少なくないリスクが伴う。
迷うことなく、一誠はリスクを取った。
「復讐のチャンスを与えてやる、コカビエル。私と一騎討ちしろ」
「……お前の案に乗れ、と? 俺としてはこのまま攻めた方が効率的だ」
「私が怖いのか? いやはや、伝説の堕天使ともあろう者が随分と老いたものだ。まさか、そんな棒切れに頼らなければ部下の仇も討てないまでに耄碌したとは思わなかったぞ」
「なに?」
「事実だろう」一誠の口調には、多分に憐憫が含まれていた。事実、全盛期のコカビエルであれば、エクスカリバーを強奪したりと回りくどい策を練るより先に駒王町へと乗り込んだ筈だ。復讐のためとはいえ、無意識にそれを避けてしまったのは、心身の衰えの影響も否めない。
「ぶち殺すぞ、戦争を知らんガキが」
「そのガキを殺せないでいる老害の分際で」
ブチン、と血管の切れる音がした。図星を突かれたのがどうしようもなく苛立ったのだ。
「どうやら死にたいらしいな。いいだろう、望み通りにしてやる……!!」
十の黒翼を全開にするコカビエルを前に、まんまと釣れたな、と一誠はせせら笑う。
そして、リアスにハンドサインで指示を送る。先ずはゼノヴィアとイリナを指し、次にフリードを、その次にリアスら悪魔を指し、最後にバルパーに向かって中指を立てた。その陣形でバルパーを攻撃しろ、という意味だ。
エクスカリバーに対して悪魔であるリアス達をぶつけるのは危険だが、どうせ止めたところで彼女の性格的に突撃するだろうし、ならば具体的な策を与えておいた方が無難といえる。そのために、ゼノヴィアとイリナを前衛に立てたのだから。
それに、そう簡単に遅れを取るような弱卒でもないのだ。彼が選んだ女は。
指示を終えた一誠は、コカビエルに向き直った。
「戦わなければ分かり合えない、だったか。三大勢力の宿命とやらは」
「……そうだ」
「同意するよ」強く頷いたコカビエルに、意外にも一誠も頷き返した。
「かつての私も同じだったからな」一誠は元の世界での日常を思い浮かべながら、苦笑した。戦場を揺り篭にして眠り、怒号の子守唄を聞き、血飛沫を飲んで育った。戦いこそが生き甲斐であった。
「私は、戦争を知る世代なのだよ」
「……何者だ、貴様は」
コカビエルの眼差しに、疑念の色が増した。彼の言葉が虚勢ではないと直感した。
戦場でしか自身の価値を見出だせなかった戦争中毒者だからこそ、目の前の少年が嘘を吐いていないことを感じ取る。
昔の話だ、と一誠は肩を竦める。これまで知らなかった平穏を知り、守りたいものが生まれた今となっては、以前のような所業に手を染めるつもりもなければ、できもしないだろう。一度手に入れた暖かさは、捨てるには惜しいものだ。
しかし手に入れた暖かさを守るためならば、捨てることも惜しくない。
「我が名は──邪眼皇ロマノフI世。闇の騎士団を率いていた者だ」
この堕天使を引き留めるためならば、正体を明かすこともしよう。それが、一誠の覚悟である。
「聞かぬ名だ。どこの勢力だ」
「だろうな」一誠は苦笑したのも束の間、次には全魔力を放出する。「貴様も聖書に名を刻んだ堕天使なら、全力で挑んでみせろ」
「死に場所を馳走してやる」
コカビエルの返答は、一つだ。
「──応じよう」