邪眼皇ロマノフ一誠は″兵士″になっていた 作:邪眼帝
「やはり、ダメか?」
『連絡も転移も繋がりません。ただ、駒王町が黒い霧で覆われている、と近隣に派遣した使い魔から報告がありましたので、恐らく何者かの妨害を受けているかと』
『霧、か。そりゃ″絶霧″で違いない。見付からねえと思ってたが、テロ組織の手に渡ってやがったか』
グラシャラボラス領での爆発事件の調査を行っていたサーゼクスは、グレイフィアからの一報に苦虫を噛み潰す。同時に、アザゼルが駒王町を襲っている怪奇現象に関連しているであろう神器の名を挙げた。
″絶霧″は、極めれば神をも滅ぼすとされる神滅具の中でも上位に数えられる凶悪な神器だ。使い方次第で、一国を容易に滅ぼせてしまうのだから。
しかし同じく事情を聞いたルネアスは、婿殿に任せておくべきじゃろ、と動じることなく言った。
コカビエルの性質は、幾度となく交戦したルネアスもよく把握している。
好戦的でそれに見合った実力を持つ武人であり、自ら前線に出撃する猛将だ。全盛期をとうに過ぎた今は性格も多少なり変化しているかもしれないが、根本的な部分は変わっていないだろう。
「婿殿の試練に良かろう。それに、何らかの刺激になるやもしれぬ」
昔を懐かしみながら言うルネアスに、アザゼルは苦笑した。堕天使随一の武闘派の肩書きも、グレモリー家期待の新星の前には形無しらしい。
『妹が心配だっていうお前の気持ちは分かるが、次世代の成長の機会を完全に摘み取っちまうのもどうかと思うぜ。ま、付近に人員を待機させておくぐらいの支援はしてやってもいいだろうがな』
「いや、そもそもアザゼルの責任だからな」
『わーってるよ。だから、なんだかんだとプランを進めてるだろうが。今回の件はお前らにとっても悪い話じゃない筈だ。三つ巴でドンパチなんて時代は終わった。これからは手を結ぶべきなのさ』
「誤魔化しに必死じゃな、独身総督よ」
『しばくぞ紅色ババア』
「『あ?』」
『それより、どうにかして駒王町に入る手段はないのかな~? ソーナちゃんが心配だよ~!!』
「『黙れコスプレ独身ババア』」
『あ?』
「『は?』」
互いに痛いところを突かれたルネアスとアザゼルとセラフォルーが火花を散らしている頃、渦中の次世代達はといえば、バルパーを袋叩きにしていた。ゼノヴィアとイリナが前衛として一撃離脱戦法を繰り返し、生じる隙はフリードの嫌がらせでカバー、残るメンバーは遠距離から魔力弾を雨霰と降らせての支援だ。
その結果、バルパーは呆気なく降伏した。さしものエクスカリバーも数の暴力の前では意味を成さなかった上、デュランダルとの鍔迫り合いでへし折られてしまったのではどうしようもない。そして、命乞いの対価として翡翠の結晶を差し出した。かつての聖剣計画の被験者達から摘出した、エクスカリバーの適性因子である。
「僕は……割り切れたわけじゃない。割り切ろうとしていたんだ。ずっと悩んでいた。どうして、僕だけが生き残ってしまったのか。僕よりも生きたい子がいて、僕よりも大きな夢を持った子がいた。それなのに、僕が生きていて本当にいいのか、幸せになっていいのか、分からなかった」
祐斗の独白に、彼の手に握り締められた結晶が呼応する。そうしておぼろ気に浮かび上がったのは、彼のかつての仲間達だ。
『……悩まないで』
『私達は、あの選択を後悔していない』
『イザイヤに生きてもらいたかったのさ』
最後に、隣に立つ少女が微笑む。祐斗が姉のように慕っていた少女は、彼の背を力強く押した。まるで、祐斗が抱えてきた不安や後悔を消し飛ばすかのように。
『迷うことはないわ。だって、あなたはもう孤独じゃないもの。新たな仲間がいて、新たな世界があって、そして隣では私達が見守っている。だから、後悔しないように全力で生きなさい。全力で幸せを掴みなさい。反故にしたら承知しないんだから。この私との約束よ』
「姉さん……」
『それから、そこの白髪ファッキンクソ野郎には気を付けなさい。女子寮に不法侵入してパンツを盗みまくったゴミクズなの』
「姉さん?」
浮かべていたサムズアップを笑顔で逆にひっくり返してフリードにぶつけた後、淡い光は祐斗の胸に溶けて消えた。良い雰囲気を台無しにしたまま昇天していったことには驚かされたが、これもまた僕達らしい、と祐斗は笑った。被害者の代わりに女性陣に成敗されているフリードは放置だ。どうせ生きている。
身体の底から溢れる熱さを感じながら、祐斗は前を向いた。その眼差しは、もう泣いていない。
「分かったよ、姉さん。僕は全力で生きて、全力で幸せを掴んでみせる。けど、その前にほんの少しだけ寄り道させてもらう。僕はもう、誰かの涙を見たくない。みんなに笑顔でいてほしいんだ。だから見ていてくれ」
僕の新たな力──。
仲間の声が、覚醒の鍵となる。
生み出した魔剣の黒い刀身の隅々に至るまで光のラインが迸り、相反する筈の両者が共鳴し、歪な波動を放つ。歴代の所有者達の中で、木場祐斗のみが至ったイレギュラーな禁手。その名は、
「″
「ま、待ってくれ! 降伏したんだから捕虜扱いになるだろ! 捕虜を虐殺していいのか!?」
懸命に自己弁護するバルパーだが、生憎と生殺与奪の権を握っているのは彼ではない。
「あら、残念ね。領地への不法侵入者に対する処罰内容は領主に一任されているの。独断で処刑しても文句は言われないわ。それに……あなた、実験台にしてきた子供達の命乞いを聞き届けたこと、一度だってないでしょ? どうして自分だけは助けてもらえると信じているの?」
「それは……そうか、聖と魔の融合、本来ならあり得ない事象も世界のバランスが崩壊しているとすれば説明できる。つまり、魔王だけでなく──」
「この期に及んで……講釈はもう結構よ。顔すらも見たくない。主君として、我が眷属の木場祐斗に命じる。そこの不法侵入者を処刑しなさい。そしてそれをもって仲間への弔いとしなさい」
「……承知しました。また、多大なるご配慮に感謝いたします」
「待て待て! その聖魔剣を一振りでいいから研究させてくれ──」
途切れた声が、一つの戦いに終止符が打たれたことを示していた。
「さて、一誠の加勢に行くわよ」
リアスは彼らが激しい攻防を繰り広げているであろう上空を見上げ、そして驚愕に眼を見開いた。撃墜され、真っ逆さまに墜落してくる一誠を捉えるや否や、「一誠!!」と駆け寄る。
「ダイビングキャーッチ!」
「ぐえっ」
「生きてる!?」
「窒息寸前であることを除けば」
B99、驚異のJカップの面目躍如である。
そしてリアスは、二人で力を合わせて戦えば勝てるわ、と言った。
当然、コカビエルとしては面白くない。一騎討ちに水を差された挙げ句、自分が加われば勝てると彼女に断言されたのだから。そして一誠もリアスを参戦させるつもりはなく、やや強引に押し退けてまで離脱させようとする。
コカビエルの脅威を正しく理解しているからこそ彼女を危険に巻き込みたくなかったのだが、本質的に血の気の多いリアスは、一誠の気遣いに感謝しながらも問いかける。
「どうして、一人で戦おうとするの?」
率直な問いだ。
何故、誰かに頼ることを嫌うのか。
それに対する答えを、一誠は既に持っていた。
「巻き込みたくない」
「仲間を? それとも私を? けど、私だって相応に戦えるわ。守られるだけの姫じゃないの」
「それでも、傷付いてほしくない」
「私も同じ気持ちよ。一誠だけに傷を背負わせるようなことはしたくないわ」
ああ言えばこう言う。一誠は、「いいから安全なところに待避しておけ」と苛立ちを隠せずに告げた。術式のタイムリミットまで余裕がなく、その焦燥もあった。
ここで口論している暇はない。
判断した一誠は、本音を打ち明ける。
「私にとってリアスは、忠節を捧げるべき主君であり、居場所を作ってくれた恩人であり、そして……心底から惚れた女だ。愛する女が前線に出ることを嫌って、何が悪い」
一誠は、それだけ言って翼を広げる。胸の内を全て口にした以上、後悔はないと言いたげに。
コカビエルの視線が、煌めく。
「青いなあ小僧!! 戦場で恋人や女房の名前を呼ぶときというのはなあ、瀕死の兵隊が甘ったれて言うセリフなんだよ!! その紅髪が、そんなに好きかああああああああ!!」
一誠は、叫ぶ。
「好きに決まってるだろうが!!」
ストレートな告白をぶつけられたリアスは、頬を髪と同じ色に染めたまま、何も言わない。嬉しいやら恥ずかしいやらで林檎になってしまっている。
だが、彼女をこんなにした本人は、それどころではない。
こうまで高らかに宣言しておいて有言実行できなかったのでは、ナイトの名折れだ。
「あの日の誓いを果たしてみせるぞ。どのような代償を支払おうとも」
一誠は左手の甲に、語りかける。
「言葉を返さずとも構わん」
これは契約だ。
「──力を貸せ、ドライグ」
トット・ピピッチ
C 火文明 (3)
クリーチャー:ファイアー・バード
1000
バトルゾーンにあるドラゴンはすべて、「スピードアタッカー」を得る。