群雄割拠する乱世をまさに統一せんとする覇王がいた。
もとより彼は全てを手に入れたいと望む程の強欲な野心家であった。
だが、強欲ではあるがケチではなかった。
大小の差こそあれ、誰にだって欲はあるのは知っていたから。
己が与えたものであれば、それは己の物であるのと同じだから。
だから、彼は気前よく己の配下に与えた。
彼は壊したり燃やしたり殺したりするのが好きではなかった。
壊したり燃やしたりすれば、己の手に入らないし、殺してしまえば、己に益をもたらしてくれない。
だから、なるべく、敵味方ともに被害が少ない方法を選んだ。
敵国に攻め込むに際し、
「降伏し、我が軍門に下るなら、今の地位を保証するし、無益な殺害や略奪は好む所ではない。
だが、抗うなら容赦はしない」
と告知してから、戦いを挑んだ。
実際、降伏し、軍門に下った者にはそのままの地位を与えたし、抗った者は皆殺しにした。
抗うより下ったほうが良い。
そう思わせた方が戦は楽だったし、より多くの物を手に入れられたから。
さて、その王が次に支配しようとしている小国があった。
その小国は貧しく、さして覇王の欲望を刺激しない国であったが、
ただ、一つ…何より勝る秘宝があった。
いや、ただ一人いた。
それは、誰もが見惚れるほど、世の誰よりも美しく聡明な女王だった。
そして、女王の絵姿を見た覇王もまた例外ではなかった。
一目見て気に入って、己の物にしたいと思った。
だから、降伏する為の条件に、女王は覇王の後宮に入るようにと付け加えた。
貧しい小国とまさに世を統一しようかという大国とでは結果は見えていた。
どうあがいても勝ち目は無いのだ。
だから、早々に降伏してくるだろう。
誰もがそう思った。
だが、返答は
「女王陛下に後宮へ入れなどという無礼千万な要求には応じられない」
というものだった。
女王は
「降伏して、私が後宮に入る事で、血を流す事もなく、皆が今の暮らしを続けられるのであれば、私としては異存はない」
と言ったが、配下の者達は、
「女王陛下を正式に正室として迎え入れたいというのなら、ともかく、後宮に入れとは何事か!」
と誰一人納得しなかった。
誰もが女王の事が好きだった、己の妻に…というのは、無理だとしても、女王を敬愛し、従う事が喜びだった。
故に女王に後宮に入って后の一人になれなどと言うのは許されざる事であったのだ。
「徹底抗戦やむなし、国民のすべてが死んでも抗う」
という事になってしまったので、もはや、女王としても国民や臣下の意思には逆らえなかった。
困ったのは覇王である。
貧しい小国といえど、国民すべてが死兵として抗うなら、自軍の被害も少なくはないだろうし、女王を五体無事に手に入れられるかはわからない。
元より、女王以外には欲しいと思うほどの魅力なんて無い国なのだ。
果たして、そこまでして攻め滅ぼしてまで手に入れるべき国なのか。
だが、これほどまでの絶世の美女に出会った事は無かった。
いくつもの国を手に入れ、美女を狩り尽くし、後宮には何千人と美姫を揃えたが、それでも、この女王に匹敵するほどの物は居なかった。
女王に傷一つつけずに我が物にしたかった。