真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
第1話 大破壊を地方で迎えたある大学生カプの話
『私は戒厳司令官のゴトウである!
世界の文明は腐りきっている
それは大地ガイアからの搾取の上に成り立つ文明だからである
差別 貧困 戦いが世界を覆う今
我々は悪魔と呼ばれる古の神々を目覚めさせた
それは真の危機に備えるためである
日本抹殺計画!
この恐怖の陰謀を阻止せんがため我々は古の神々の力を借りた
神々と人類が共存するユートピアを築き上げるために!』
テレビの中で1人の男が演説をしている。
その男の名前は
元々は自衛隊の一等陸佐だった男らしい。
「……イカれてんのかこいつは」
その演説を見て彼は絶句せざるを得なかった。
これが「決められない政治」だとか「国賊で満ちた国会」だとか。
政治批判であれば、賛同するかしないかは別にして納得は出来た。
ああ、こいつは社会に不満があってクーデターを起こしたのかと。
だがそうじゃない。
こいつが自衛隊を巻き込んで行動を起こしたのは、宗教的な理由だったのだ。
それも、カルト的な常軌を逸した宗教の。
こんな異常な人間が、自衛隊で権力を握り、クーデターを実行したのか……
信じられない。
「どうなるんだこの国……?」
そう、彼は……
彼は20才の男で。
現役大学生。
かつ、相当な空手の使い手だった。
髪は短めに刈り込んでいて、とても鋭い目つきをしている。
体型は格闘技の使い手らしく、スラリとしていて。
彼のその強さが伝わるようだった。
そんな彼は、明らかに狼狽えていた。
クーデターなんてものが起きた以上、これからどうなるか分からないからだ。
報道によると、すでに総理大臣がこの男五島に暗殺されたらしい。
国会占拠時に、議員も相当数殺されたようだ。
スマホを操作するとエッキスに
『日本の歴史上、初めて天皇の承認を得ないで国を統治しようとしてる奴が出るかもしれない』
『こんなこと許してはいけない』
そんな書き込みがあった。
勇気ある書き込みかもしれない。
今後、この書き込みが処罰される可能性もあるというのに。
これからどうなるのか。
通っていた大学はもう、今までどおりにはいかないだろう。
そして……
彼は思った。
(真月……)
中学のときからずっと付き合っている恋人のことを。
中学高校とずっと付き合い続けて、今は同じ大学に通っている大切な恋人。
彼女は下宿住まいの彼と違い、駅前にあるマンションに住んでいた。
彼女の実家は裕福で、親にマンションを1部屋買って貰えたのだ。
所謂タワマンでは無いけれど、それなりにセキュリティ性の高いワンルームのマンション部屋を。
(真月のところに行こう)
彼は迷わなかった。
速攻で外出用の服……ジーパンと黒シャツに着替え、その他荷物をまとめ、下宿を出る準備を整える。
出る前にメールで恋人に「そっちに行く」とだけ打ち込んで、返事も待たずに家を出た。
戒厳令という言葉が脳裏をちらついたが、無視した。
これは決定事項だったから。
これからきっととんでもないことになるのは確定しているのに、このタイミングで動かないのはあり得ない。
今動かずにいつ動くんだ?
その思いがあったから。
彼は下宿の部屋を出て、速やかに駅前の彼女のマンションに向かった。
愛用のバイクに跨って。
幸い、戒厳令関係の不都合には遭遇せず。
彼は無事に駅前マンションに辿り着いた。
マンションの入り口で、恋人の部屋の番号を押す。
すると部屋の住人との通信が繋がる。
『忍』
女の声だ。
彼は少しホッとしつつ、言った。
「俺だ。ロックを解除してくれ」
その言葉を発すると同時に。
マンションエントランス前の自動ドアのロックが外れる音がした。
部屋について、部屋のインターホンを押すと。
玄関ドアの鍵が回る音がして
彼の恋人が姿を見せた。
それが彼女の名。
彼女は彼と同じく20才の女で。
黒髪が長くて、清楚な印象を受ける。
髪型のイメージは日本人形。
綺麗に切りそろえている。
知的でクールな印象を受ける、スレンダー体型の女性。
戦国時代の姫を思わせる美人だった。
彼女は恋人である彼に抱き着いて言う。
「来てくれてありがとう。戒厳令出てるのに」
それに彼はこう返した。
「こういうときに傍にいないと駄目だろ」
玄関先で抱き合った後。
彼女の部屋に案内され。
持って来た荷物を部屋の隅に置き、ワンルームの床に腰を下ろすと。
彼女が2人分のクッションを持って来て、寄り添うように傍に腰を下ろした。
そして話し合う。
「これからどうなってしまうんだろう?」
「……自衛隊も、全部が寝返ったわけないと思うから、鎮圧されるんじゃないのかな? ひょっとしたら、米軍が手助けしてくれるかも……?」
これはクーデターであり、外国からの侵略ではない。
これで米軍が動いたりするのか?
そもそも、これは本当に自衛隊の反乱なのか?
どこか外国勢力が裏で糸を引いていたりしないか?
そんなことを2人で色々と話し合う。
結論が出ない、仮定ばかりの話し合いを。
それは不安を抑え込むためだけに行った話し合い。
そこで2人は色々予想した。
だが現実でこの後起きたことは……
2人の予想を超えていた。
五島のクーデターから数日が経過した。
その間、忍は真月の部屋で生活をしていた。
片時も離れていたくなかったからだ。
それに戒厳令が出ている以上、出歩くのは不安がある。
ワンルームの部屋で2人で、ただ一緒に居るだけの毎日。
そんな彼が、情報収集の一環でSNSをチェックしていたとき。
忍はとんでもない言葉を発見した。
『東京に核ミサイルが落ちた』
えっ、と思った。
彼はさすがに嘘だと思ったが。
『どうしよう』
『あの国が攻めて来るのか?』
『日本終了なのかよ』
……誰も
悪質な冗談はやめろ。
最低だぞこんなときに。
そんな「否定する書き込み」をしなかったのだ。
SNSの良いところは、嘘を書いても真実を知ってる人間が訂正を入れてくることだ。
無論、絶対じゃ無いけれど
だけど「東京に核ミサイルが落とされた」
そんな規模の大きな情報、東京在住民なら真偽が分かるはずだ。
ならばデマであるなら、当然膨大な数の否定コメントが書き込まれないとおかしいはずなのに。
それが無いばかりか。
書き込みの内容を肯定するような書き込みしか存在しないのだ。
(嘘に決まってる)
彼は震える手でテレビのスイッチを入れた。
最後の望みだった。
書き込まれていることが嘘であることを示す、最後の望み――
だが。
五島のクーデター以後、東京の局でしか放送を許されなくなった国営放送のチャンネルが、何も画面に映していなかった。
ということは
(本当に東京に核ミサイルが落ちたのか)
そう、信じざるを得ないという結論になる。
「真月! ちょっと来てくれ!」
忍は動揺のあまり、かなりの大声で昼の食事の準備をしていた恋人真月を呼んだ。
「どうしたの?」
キッチンスペースから緑色のエプロン姿の彼女が顔を出して来たので
「これ、どう思う? ……俺には本当だとしか思えないんだ」
スマホを彼女に突きつけ、何も映さないテレビを指差して自分の判断を伝えた。
「……私もあなたと同意見。どうしよう……」
彼女は恋人の示す情報を自分の目で確かめ。
結果、恋人が出した結論と同じ答えを出した。
反証できるものが無いと思ったのだ。
真月は真っ青になっていた。
「核で吹っ飛んだのは東京だから、俺たちの故郷は関係無いけど……」
先に動揺から回復した忍は、冷静に今後を予想する。
核ミサイルが飛んで来たということは、撃った国があるということだ。
ということは、その国がこれから日本を制圧しにこの国に攻め込んでくるはず。
だけど……
現在の日本は、クーデターが起きて混乱している。
まともに自衛隊が機能していない。
そんな状況で国を守れるだろうか……?
それは大いに疑問だろう。
日本の同盟国のアメリカも、まともに動いてくれるかどうかは未知数だ。
前例が無いから。
侵略行為に間に合わない、もしくは手に負えないと判断して手を引く可能性も十分考えられる。
彼は想像する。
日本を制圧するために乗り込んでくる異国の軍隊。
異国の兵士たちは手当たり次第に日本人を殺戮していく。
そして真月がそいつらに捕まって。
散々玩具にされた挙句、無惨に命を奪われる……!
戦争に負けた国で、歴史上何度も繰り返されて来た当たり前の光景……!
(それだけは絶対に避けないと)
ならばどうするか?
彼は必死で考えた。
そして考えた末に彼から出た結論は
クーデターに加わっていない自衛隊があるはずだから、そこに加わって一緒に戦う。
もしくは山奥に逃げて、本格的な侵略をやり過ごす。
……これくらいだった。
今の状況で、ここにとどまるのは良くない。
おそらく良くない。
異国の軍隊が乗り込んで来たら、それで終わりなのだから。
「真月」
ここは恋人の意見も聞かなければ。
真月は出来る女なのだから。
……真神真月は所謂才女であった。
高校時代まで定期テストでは不動の学年1位。
運動能力も高く、体育祭でも上位の成績を残していた。
外見の美しさと、優れた能力。
そんな地元の顔と言われる旧家で生まれた遺伝子エリート。
それが真月という女である。
彼は彼女を信用していた。
おそらく自分よりも。
「キミの意見を聞きたい」
その言葉で
彼女は
「忍……とりあえず、自衛隊の駐屯地まで行ってみない?」
そう提案してきた。
その提案を、もう1度彼は考える……
他に挙げられる候補としては……
警察……筋違いだ。
お役所……お役所に対処できる問題ではない。
ならば
……やはり自衛隊だろう。
自分でも出した結論だが、やはりそれしかないと思う。
突然出向いても邪魔にされるかもしれない。
しかし、恋人の保護と引き換えに、自分は何でもすると言えば要求を聞いてくれるかもしれない。
ならばそれが現実的に考えて、一番いい選択ではないだろうか?
なので
「そうだな。俺もそれに賛成だ」
幸い、ネットはまだ生きている。
彼らは速やかに自衛隊の情報を検索して駐屯地の場所を調べた。
そして、色々準備する。
移動手段は忍の愛車であるバイク。それの2人乗りだ。
その間、ホテルは取れない。
平時では無いからだ。
やってるか怪しい。
つまりおそらく野宿するしかなく、食事は災害時に備えて備蓄していた缶詰や乾パンになる。
(とんでもないことになった……)
しかし、これも真月を守るためには仕方ないこと。
彼らはリュックに荷物を纏め、出発した。
地図の上では一番近い自衛隊の駐屯地に。
(前にデートでツーリングに行ったの、楽しかったな)
あのときはとても楽しかった。
いい景色を2人で楽しんで、一緒に観光名所を回る。
真月は神社が好きだったから、神社を回るのも面白かった。
真月の語る、神社に祭られている神様の話が本当に楽しくて。
最高だったな……
そんなことを考えつつバイクを走らせる。
街には人がいなかった。
さすがにクーデターが起きた上、首都に核ミサイルが落ちた状況。
出歩く人は居ない。
皆、途方に暮れているか怯えているのか。
……ひょっとしたら、警察が機能していないと判断し、早々に無法者が動き出しているかもしれない。
彼はそう頭の片隅で考え、後ろで自分にしがみ付いている大切な恋人を守らないといけないという思いを強くした。
誰かが歩いていても、関わるべきでは無いな……。
その無法者かもしれないから。
走るバイクと流れていく街の景色。
その景色を、警戒とともに見ていた。
そうして。
彼らのバイクが、市街地を出て。
しばらく経った後のことだった。
「おにーさん、おねーさん、デート? たのしそうだねー」
……突然、傍にわけのわからない存在が出現した。
いや、だいぶ前から追いかけてきてて、今追い付いてきたのかもしれない。
それは体色青色の人形で。
顔に思える部分に、3つ穴が開いている。
そして腕はあるが、足は無い。
足の部分は、子供の絵本に登場するお化けよろしく、尻尾みたいになっていた。
そんな異形の存在が、宙に浮いた状態で、4つも居た。
(えっ?)
……なんだこれは?
俺、夢を見てるのか!?
彼は驚きのあまり、自分の正気を疑った。