真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
呑み屋が無いならば諦めるしかない。
気持ちを切り替えて。
2人は食べ物屋を探していた。
この街の食べ物屋は屋台である。
そしてそれは、新宿のような旧店舗を流用したものではなく
本物の屋台である。
空の下、鍋をかきまわしている人。
コンロみたいなもので肉串を焼いている人。
様々な人たちがいる。
聞き込みにはどこが相応しいんだろうか?
どこに行けば、非メシア系住民に会えるのか?
彼ら2人は迷った。
何か決定打が欲しかった。
そんなとき。
旧世界の炊き出しのようなものを見つけた。
他よりも規模が大きい。
運動会や夏祭りでよく見る、組み立て式の白い屋根のようなテントまで設置されていて。
その屋根には、青地に白の十字架の紋章……メシア教の聖印が描かれている。
メシア教の炊き出しである。
そこで提供している食事のレベルは明らかに高い。
おにぎりがあった。
パンがあった。
なので必然的に人が集まっていた。
「皆さん! まだまだパンもおにぎりも数あります! 慌てないで落ち着いて整然と並んでくださーい!」
メシア教徒の少女が叫んでいる。
メシア教徒たちが働いている。
利用者に対して整列を促し整理する者。
食事を提供する者。
調理をする者。
彼らは各々の作業に夢中である。
何らかの理由で真月の情報を知っている者が居たとしても、気づきにくいだろう。
とはいえ
(メシア教の炊き出しに並ぶ……)
それには少し抵抗がある。
彼らは明確にメシア教に敵対しているわけである。
そんな集団がやっている炊き出しに並ぶのは、筋が通らない気がした。
だが
「ここにしよう。忍」
真月が促す。
条件が一番いいのはここだろう。
人が多いのだ。
……情報収集を確実に行い、任務を成功させる。
確かにこれに勝る理由は存在しないだろう。
なので
「分かった」
そうして2人は炊き出しの列の最後尾に加わった。
「品川に行く場合はやはり六本木に行くしかないんですね」
「ああ、六本木の地下道を通らないと行けないんだ。今はね」
そして
真月が前に並んでいる男に話し掛け。
話を聞いていた。
それを隣で見ている忍。
内心、彼は面白くなかった。
真月は美女に分類される女である。
そんな女が男に「教えて欲しい」と話しかけたなら。
別にロマンス的な動機が無くても、可能な限り教えてやろうという気になりやすい。
人はどうも本能として、容貌の良い人間を「善」と捉える傾向があるらしい。
これは即断即決が生存に有利に働きやすいから身に着いた本能らしい。
パッと見良く見えたら、他も良いだろう。
そういう判断を本能的にしやすいということだ。
そんな人間に親切にするのだ。
まるで人格者に親切にしたような。
そんな気分になる。
ノーコストでハイリターンが見込めるやり方だ。
よって構造的に有利で、やらない理由は無いのだが……
「六本木への行き方分かるかい?」
「地図があれば欲しいところですね」
真月と男の会話を聞かされていると。
嫁を寝取られたような気分になる。
口には出さないが、イライラが募って来る。
(真月は頑張ってくれているのに)
嫉妬に振り回される自分が彼は嫌になった。
だがそのとき
「それじゃあ……」
そう言って真月と話している男が彼女の肩に手を伸ばそうとした。
そこで彼は動いた。
見逃さない。
彼は自分の妻の肩を抱き寄せる。
そして
「地図、お持ちでしたら売っていただけますか?」
突然乱入して来た忍に、ギョッとする男。
逆ナンよろしく話し掛けて来た美女が、いきなり他の男に抱き寄せられた。
騙し討ちのようなものである。
真月が先ほどまで話し掛けていた男は
ふたりを交互に見比べて。
そして
「……なんだ男つきかよ。馬鹿にしてんのか畜生」
舌打ちまじりで吐き捨てるようにそう言った。
そしてそれきり、男は喋らなくなった。
……少しだけ罪悪感が湧く。
彼にしてみれば、半分美人局にあったようなものかもしれない。
新宿では自分たちの朝食を探すついでに聞き込んだので、夫婦2人で話せたが。
この「列に並ぶ」という環境下でそれをすると異様な気がしたから。
だから真月1人に任せることを選んだのだが。
こういうことになるのなら、無理にでも話に早々に入るべきだったのかもしれない。
「忍」
そこに。
真月が話し掛けてくる。
そして
「ごめんね。ありがとう」
彼女はそう彼に一言言い。
言われた忍は
「俺の方もゴメン」
それ以上何も言えず
ただ黙って、彼女を抱き寄せた。
真月の方もそれ以上、何も言えないようだった。
(聞き込むのは炊き出しの食糧を受け取ってからか)
そう頭の片隅で考えて。
2人は沈黙していた。
列はスムーズに進んでいく。
そしてついに彼らの番が回って来た。
「はい、神の御恵みです!」
炊き出しの食糧を配っているのは少女の信者で。
その姿は……
前髪をぱっつん切った黒髪ロングヘアー。
目がくりくりした、清楚に見える少女。
見覚えのある容貌。
忍は記憶を探り。
瞬時にそれを探り当てた。
(あっ!)
あのときの。
この街での呑み屋の有無を訊ねたときに話し掛けた少女だ!
忍の様子に向こうもこちらに気づいたらしい。
ハッとした表情で彼女は忍を見つめ。
続いて。
隣に立つ彼の妻……真月を見つめた。