真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「ええと、呑み屋を探していた方ですよね?」
そのメシア教徒の少女は真月を見つめた後。
何か思うところがあったのか、真月にそう話し掛けて来た。
一体何の用なのか?
一般信者は真月のことを知らないのではないかと踏んだが、実は違ったのか?
そう少し怪しんだが
「ええ、そうですけど。何か?」
……嘘を吐くのはやめておいた。
藪蛇になりかねない。
嘘を吐くと嘘を補強するための嘘を吐かないといけなくなる。
現実とは違い作り話は本当には起きなかったこと。
考えなくてはならない。
吐かないで済む嘘は吐くべきではない。
余計な負担と隙になる。
メシア教徒の少女はその言葉に
「少しよろしいでしょうか? 紅茶をご馳走しますよ?」
そんなことを言ってきた。
突然のお茶のお誘い。
(どうしよう……?)
少し考える。
普通に考えて、この少女は自分の正体に気づいているとは思えない。
だとするなら、何かしら別の要件で誘っていることになる。
ならば安全な選択かといえば、そうではない。
けれども……
(この子たちは品川への正しい道筋を知っているはず)
そう思った。
情報を取る相手としては最適解かもしれない。
ならば……
「ええ、いいですよ。いいよねあなた?」
真月はその申し出を受けることにし。
忍は
「ああ、うん」
少しだけ不安げな様子を見せ。彼女の言葉を追認した。
メシア教徒の少女は
彼女は大破壊が起きる前からメシア教徒であり、彼女は救いを求める人々に真理を広めることを己の使命にしているらしい。
その隣には、高身長で黒髪ショートの同年代の眼鏡少年がついている。
タオが呼んだのだ。
そのときタオが「ユヅルくん」と呼んだので、名前はユヅルだろう。
そしてついでに言えば、彼女らは彼氏彼女では無く夫婦の関係のはずだ。
その理由はメシア教では婚前男女交際を禁止しているからだ。
だから夫婦以外あり得ない。
その2人に、近くの奇跡的に倒壊せずに生き残っている喫茶店の建物に案内された。
爆風の影響か、かなりボロボロになっているが、まだ建物の機能を維持していて。
その中を覗くと、ボックス席が十分使えるレベルで残っている。
「どうぞ」
そう言って、メシア教徒の少年少女2人は先に入って行った。
一応、用心として忍は警戒の網を広げつつ建物の中に入る。
そして真月はその背中に隠れるように後に続く。
自分たちは侵入者、いつ何時も油断など出来る立場ではない。
案内された先は、使用する人が他にもいるのか。
思ったほど埃が積もっておらず、軽く汚れを払うだけで普通に座れた。
革張りのボックス席のシート。
奥にそれぞれ女性を座らせ、2組の男女は向き合って席に着く。
そしてその瞬間。
タオから
「おふたり、恋人関係ですか?」
そう、いきなりそんな質問が飛んで来た。
(いきなり不躾な質問をしてくるわね)
真月はそう思ったが
「一応夫婦を名乗ってますが、そうですね」
とりあえず事実を返した。
別に知られてまずい情報でもないわけであるし。
しかし
何故そんな質問をしてきたのかが読めない。
一体何が目的なのだろう……?
タオの質問の裏の意図が読めなかった。
自分たちが夫婦や恋人だったらどうだというのだ?
その疑問は
そんな真月の言葉を聞き。
タオが眉を顰めたことによって。
「……だったら何故、旅をしているんですか? ひょっとして行くところが無いんでしょうか?」
徐々に、あきらかになってきた。
「夫婦になったなら、即座に子供をつくらないといけません。なのにフラフラと旅をするなんて! 神の意図に反します!」
「あなたたちはまだお若いでしょう! 行くところが無いのであれば、私たちと一緒にここで渋谷の街を再建しましょう!」
タオは2人に向けて真剣な顔で喋っている。
……どうも……忍と真月の顔に共通点が無いので、これは姉弟ではないとタオは判断したらしい。
そしてまだ若い男女が定住せずに家庭を築こうとしないことを「見過ごせない」と思ったんだそうだ。
なので、説得と勧誘を行うためにここに連れて来たらしい。
……一応、タオの持参した褐色のプラスチックコップに、同じくタオが水筒で持参したぬるい紅茶が注がれて前に出されているが。
真月は手をつけなかった。
それは毒を入れられていることを危惧してではない。
単純にイライラしたからだ。
(……あんたたちのせいで、私は子供を簡単に決断できないんだけど?)
メシア教徒だけには言われたくない。
心底そう思う。
だが、そんな気持ちを口にするわけにはいかない。
なので
「お言葉ごもっともですが、私たちにも計画があるんです」
イライラを噛み殺しながら、そう返す。
だがタオは
「計画!? 何が計画ですか! 妊娠適齢期は待ってはくれないんですよ!? 旧世界でそれで大失敗した愚かな女性が大量に居たことを理解していないんですか!?」
これは説教してやらねば。
そんな表情でさらに噛みついてくる。
「あなたの未来が見えますよ! わがまま放題で若い時間を通り過ぎ、気が付いたときには子供が産めなくなってて後悔している惨めな姿が!」
そしてその言葉は
「あのさ」
さすがに我慢の限界を超えていた。
彼女はキッとタオに視線を向け
「……勝手に決めないでいただけます? 私だって事情があって、それに夫ともちゃんと愛し合っています!」
キッパリとそう言い切った。
その視線と言葉にタオは一瞬怯んだが。
すぐに奥歯をギリッと噛み締め
「そういうのが良くないんですよ!」
声を張り上げた。
……真月とメシア教徒の少女。
言い合いの開幕であった。